第17話 再開
日間24位です。皆さん、ありがとうございます。
午後7時。
『選別』の第一のゲーム『黒い人物』が終了して、歩いて自宅に戻っている。
倒れた場所を見た時にすぐコンビニが見えたので、『選別』が開始されたときに居た場所に帰還したと思われた。
歩き始めて数分で自宅の前に着いた。
「……直しとけよ」
黒達に破壊された部屋はそのままになっており、扉は無くなり、窓は破壊されたままだ。
散らかった部屋の中に入りまずは明かりを点けようとしたが、点かない。
怪訝に思ったが、喉も乾いたので蛇口をひねっても水も出ない。
しょうがないので、リュックに入っていた水を取り出して口の中に含んでいった。
かっぱらった非常食を胃に詰め込んで、布団の上に突っ伏して眠りこけた。
午前5時。
夏の朝は早く、吹きっ晒しになっている部屋の中に朝日が差し込んできた。
光線は目に直撃し、強制覚醒を実行させていく。
目をうっすらと開けていき、異変に気付いた。
「……くせぇ」
昨日はそれ所では無かったが、部屋がかなりくさい。強烈な腐臭が流れ込んできている。3日前に両隣の住人が黒に殺されそのままである事を思い出し、どうするべきかと思うが義理も無く、死後三日を過ぎた遺体に触る勇気も無く、とりあえず食料の調達に出た。
もはやずっと靴を履くのが癖になっていて、形骸化した玄関を通り過ぎて外に出た。
コンビニで何か買おうと思い、100円玉2枚持ってコンビニへと向かう。
いつもより静かな住宅街を抜けて、コンビニが見えてきた。
「……信号点いてねぇ」
信号は完全に役割を放棄して、金属の塊としてそこに居るだけになっている。
放置されていた車たちも回収されておらず、そこで持ち主が帰ってくるのを待っていた。
とりあえず無視して反対方向にあるコンビニに向かった。
「……自動ドアもね」
開ききった自動ドアは、もうどこも自動ではない。
中に入りお菓子を二つ手に取って、レジへ向かった。
「すいませーん」
レジには誰もおらず身を乗り出して声をかけてみたが反応が無い。
他に客もいないが、俺が居るぞ。バイトはどうした。
「すいませーん」
再三の声掛けにも拘らず誰も出てこなかった。
100円玉2枚だけカウンターに置いて、飲み物と食べたいお菓子を持てるだけ持って家に帰還した。
日本は、いや世界は終わっていた。
『黒い人物』で国民の半分近くが減った国など、もはや国と呼べる集団では無かった。今まで1億人が居てようやく維持していたシステムが、半分の人間で保てるはずがない。特に電気・ガス・水道は致命的だ。専門的な人間が多数いて初めて動いていた物が、途端に人が居なくなり動かなくなってしまった。それ以前にこの状況で働こうとする奴など居ない。
まだある。
貨幣価値が無くなった。
諭吉の描かれた紙ですら、唯の紙となり価値が無くなってしまった。国としての機能が無くなった今、信用の塊である貨幣の価値は文字通り無くなってしまったのだ。
文明はどこまで退化するのか。今まで積み上げて来たものは崩壊し、再現する方法を誰か知っているのか。俺は知らない。電気を起こす方法すら知らない。発電所はどうやって作る?浄水所は?ガスは?
何も知らない。
「どうすんだか……」
ボロい木造平屋の駐車場のような、そうじゃないような、とにかく砂利が詰まったところでぼやいている。
目の前にはキャンプでよく使う炭で火を起こすやつでこう、火をおこしている。電気もガスも通っていないので、残っていた炭で火を起こすしかなかった。いや、別に菓子しかないから火なんて要らないのだが、気分だ。一人でもやっているとそれなりに楽しい。周りもとても静かで気分も良い。というより、ここ現実世界なのか、鏡面世界なのか分からないくらい静かだ。文字が逆転していないから、現実なのはわかるのだが、車も何も動いていないので犬が喚いていたり、スズメが鳴く位でかなり静かである。鏡面世界は動物が居ないから、スズメのさえずりでさえとても貴重なモノのように思える。超リラックス。
「そろそろいいかな……」
パクってきた、もとい貰ってきたカントリーマ○ムとマシュマロを網に置いて、炙っていく。
なんか焼くとおいしいみたいな話を聞いて、一回やってみたいなと思っていたのだ。パチパチと炭がはじける音を聞きながら、ひっくり返したり突いたりしていたら後ろから声がかかった。
「……柊さん、……何してんの?」
「……お前も食う?」
振り返ると昨日とは違う格好のメイさんが居た。
ボウガンは標準装備である。
「ヤッバイ!美味しいねこれ!」
メイが焼いたカントリーマ○ムを頬張った感想である。
普通だったらチョコを噛んでいる感じだが、トロッとしたチョコと熱い生地が割とおいしい。マシュマロも食べてみたが、こっちの方が甘く感じるし食べた事の無い感じだからおいしく感じる。
「けど喉渇くな……」
コンビニからありがたく頂戴したミネラルウォーターを流し込んでのどを潤していく。
冷蔵庫などという良い物はもう動かない。ジュースも飲んで大丈夫なのか判断がつかなかったので、唯の水を貰ってきた。
そうしながら目の前の少女はどんどんお菓子を焼いていく。
網中お菓子で溢れかえって、所狭しと並んでいる状態だ。そこから焼けている物をどんどんその小さな体の中に収納して行って、エネルギーに変えていらっしゃる。
「太んねーの?」
「気を付けた方が良いのだぜ?口は災いの元なのだ」
メイは手に持っていたトングを突きつけて、口はもぐもぐ動かしながら忠告してきた。
目は笑っておらず、眼光は鋭い。目の彩度が一段落ちてしまい、危ない所に踏み込んでいる事が一目で分かる状態だ。
「……気が済むまで食え」
俺もトングの代わりの箸で一つ掴んで口に持っていく。甘い味が口いっぱいに広がって、顔が緩んでしまう。
メイもポンポンお菓子を詰め込んでいって、すぐに無くなってしまった。
「ごちそうさま」
「ようござんす」
炭をどうすうるかと思ったが、熱いうちは何もできないので放っておく事にした。
時刻は午前6時。
次回の『選別』まであと13時間。すぐに始まる。
「そう言えばよくここが分かったな」
「だいたいの場所は教えて貰ってたし。あと甘い匂いに誘われただけ」
虫か。
「それより柊さんから来ても良かったんじゃない?女の子一人にしてよかったの?」
「……そう言えばそうだな」
「良いんだけどね。二人のお墓の前にずっと居るだけだったから、柊さん暇するだけだったよ」
現実世界に帰還したら、鏡面世界で起きた事がこっちにも反映されていた。壊された物は壊れたまま。死んだ者は死んだまま。埋めればその中に黒沢夫妻だって眠っている。
「……そうか。最悪、鏡面世界に置いて行かれると思っていた」
「その点だけは良かったよ」
メイは母の野球帽を弄りながら、思い出に浸っている。俺もあれからずっと黒沢父の帽子を被りっぱなしだ。暑いからただの帽子としても使えるので、重宝させて貰っている。
「……堂本さんと新藤さん、大丈夫かな?」
2人は『服』を持った黒の攻撃を食らって昏倒していた。その後、『黒い人物』が終了して二人がどうなったかは分からない。ゲーム開始時に居た場所に戻されるはずだから、どこに居るかは本人にしかわからないだろう。
「……大丈夫だ。『耳』で確認したが、心臓が止まった様子は無かった」
「器用な事するね」
メイはあからさまに安心したようで、ホッと息をついた。
死んでいないのは確かだが、いま目が覚めるかはさすがに分からない。あの後脳の血管が破裂していても特別驚く事では無い。
まぁ、大丈夫だろ。二人とも頑丈そうだ。
「それで柊さん、これからどうする?」
「……秘密兵器でも作るか」
「……カッコイイ」
部屋から器具なんてものでもないが、必要なものを取り出して次回『選別』に向けて使える物を作るのだった。
「「暇だ」」
やる事もやってしまい、特に思いつく事も無い。
ボウガンの矢はネットの通販で買ったので、どこに売ってるか知らない。銃砲店?どこにあるんだろ?
「柊さん、ここ臭うから家行こうよ」
「……そうだな」
気にしないようにしていたが、それなりに匂いが漂っている。遺体からガスが発生しているのか、空気から凄い匂いがする。海に死体を沈めてもガスで浮かんでくるとか言うから、えらい事になっているんだろう。
部屋から一本サバイバルナイフを取って、メイの家に向かった。
歩いている間、たまに人を見たり家から声が聞こえてたりした。
全滅しているのかとも思ったが、それなりに生き残りが居た。どこに居たのかと思ったが、全力で隠れていたり家で徹底抗戦をした人もいただろう。生き残り方は人それぞれだ。『黒い人物』を切り抜けただけでも、驚嘆するべき事柄だ。良く考えれば既に自分たちは上位50%の人類だ。そう思うと何か気分良い。
少し前に見た道を通り過ぎていくと、黒沢家が目に入った。
門を通り、庭を見ると土の色が他とは違う場所がある。
そこへと歩み寄って、野球帽を取り黙祷する。
約束で生き残るとは言ったが、まだ『黒い人物』を攻略しただけ。
次回『選別』はどうなるか……。
墓の手前お二人には成功を誓うが、『選別』開始直後にメイと同じ場所に居れるのだろうか?そう考えると一緒に居るのもあながち無駄ではない。少しでも行動を共にして、ゲームを共同で攻略するべきだ。欲を言えば堂本や新藤も欲しい。無事に生きている事を祈る。
時刻は正午ちょうど。
流石に太陽がてっぺんに上ってくると、気温も天井知らずで上がっていく。
家の中に入り、メイがおにぎりを作ってくれた。塩の効いたおいしい物だ。朝飯はお菓子だったのでちょうど塩っ気が欲しかったのだ。
「だんだん食うものが無くなってきたな」
「こればっかりはね。乾パン食べる?」
「……大して変わらないな」
それでも乾パンもきっちり胃の中に詰め込むと、眠気が襲ってきた。あれだろ。副交感神経が優位になって、眠くなるんだろ。言い訳はこれでいいわ。腹いっぱいで眠い。
「寝る」
「仮にも女の子と二人きりでそれはどうなのさ?もっとドキマギして」
ソファーで横になると、メイが台所で不満そうに言い始めた。水道は出ないので洗い物をしている訳じゃない。ただ持って行っただけ。
「いや、普通に寝た方が良いだろ。次の『選別』7時からだろ?始まったらすぐに夜だぞ」
「……そう言えばそうだわ」
約7時間後にはデスゲームが再開される。
始まって即効で眠くなって、夜襲を掛けられたら死んでしまう。行動時間が逆転する可能性もあるが、生き残らない事には始まらない。
「じゃあ、私の布団も持ってこよーと」
メイはどこかの部屋に入って布団を持ってきた。客人用の布団だろうか。
メイはソファーの隣に敷いて、そこに寝転がってしまった。
「俺の分は?」
「柊さんはそこね」
「……別に良いけどさ」
柔らかいソファーに身を沈めて瞼を閉じた。
今日は10時間位は寝たと思ったが、寝られるときには寝ようと必死に目を閉じていると、メイはさっさと夢の世界に行ってしまったようだ。
穏やかな寝息を子守唄にして、俺も眠ってしまった。
体が揺さぶられて何事かとゆっくり目を覚ました。
日はすでに傾いて、部屋の中が赤い夕焼けで染まっている。
「柊さん、そろそろ7時だよ。体ほぐしといたら?」
「もうそんな時間かよ……」
時計を見ると6時40分程度。
5時間は寝ていた事になる。今日は15時間睡眠か。惰眠をむさぼらせて貰った。
しっかし準備体操をしていると、メイがおにぎりと水を差し出してきた。
「これは?」
「今日の晩御飯。いつ食べれるか知らないけど」
お昼の時点でおにぎりをたくさん作って、晩御飯にするつもりだったらしい。
ちゃっかりしている。
そのまま体をほぐしたり、装備を点検しているとそれは起きた。
「皆さん、お久しぶりです!おはようございます、こんにちは、そしてこんばんは。この映像及び音声は全世界同時に流れています」
すでに電気は流れていないので、電池式のラジオとスマホから音声が流れ出た。
最初と同じく性別不詳、音声はボイスチェンジャーで変えられた人物が画面に出てきた。
「私は各国首脳の同意の元、この放送を行っています。不法行為で無い事はあらかじめ明言しておきます」
ここまでは定型文のようだ。全開も同じような事を言っていた。
ゴホンとが目の人物は一つ咳払いをして、喋り始めた。
「皆さん、おめでとうございます。『黒い人物』を生き残るなんて凄い事です。こちらも作戦通り行った事を嬉しく思います」
メイもこの人物の作戦と言う言葉に疑問を感じたようだ。
「気になっちゃいます?しょうがないですね。……ゴホン!……えっと、なんだっけ?……ちょっと~、紙頂戴!」
そう言うと画面の端から手が伸びて、一枚の紙を差し出していった。
「ああ、そうそう!最初にですね、各国の軍・警察・テロリスト又はそれに準ずる組織に大量の『黒い人物』を送り込みました。これで国は国民を守る事が出来ずに、効率よく『選別』出来ました」
だから非番だった新藤は学校に来て、それ以外の警察や自衛隊は音沙汰が無かったのか。
「それでも皆さん凄いですよ。当初は2日で終わると思っていたのですが、3日もかかってしまいました。最後には『服』まで持ち出す羽目になりましたよ。人類舐めてたんですかね?」
『服』は俺達だけに出た訳じゃなかったのか。おそらく同時に出して、虐殺が始まったんだな。ほぼ弱点の無い殺戮兵器だ。誰も抵抗できず死んでいき、ちょうどメイが殺した時に人口が半分になった。そこでゲーム終了と。
「でも今回はそうはいきませんよ。次は24時間で終わると思っています。良くて36時間ですね。このルール考えた人とは友達になれそうにありません」
てめーが考えたんだろうが。
画面の人物は咳払いをして、切り替えた。
「気を取り直して、次の『選別』に行きましょうか。……ルール説明に移ります」
声の高さが一段落ちて、緊張感が辺りに漂う。
コイツの説明が俺達の命を分ける。
「ゲーム名、『巨人』。皆さんはこいつから身を守ってください。ルール満了条件は人口が半分になるか『巨人』が全滅するかです」
対応に困るような単語に呆けた顔をしてしまう。言葉は分かりやすいが、デカい人間が相手だろう。
「ヤバいよ、柊さん。立体起○装置持ってないよ」
「あれは無理だから。使えないだろ」
別にうなじが弱点何て言ってないから。
「この他にもルールがありますが、ご自身でお確かめください」
「ふざけんな」
文句を言うがとりあえず、自分の荷物を持って待機する。メイも同様にボウガンを持ち、いつでも行ける状態だ。
「まずは鏡面世界に行きましょう。その後は自動応答さんの指示に従ってください」
スマホに映っていた人物が手を振ると目の前の景色が一変した。
「あ?どこだ?」
「家の前に居るよ」
どうやらメイの家の道路に移動したらしく、道のど真ん中に立っていた。
「あれ?兄貴と姐さん」
「あなた達もですか」
後ろを振り向くと、頭を包帯で巻いてある堂本と暑っ苦しい制服を着た新藤が居た。
「生きてたのか」
「あんなんじゃ死なないっすよ!」
「そんな鍛え方はしていません」
メイは口こそ開かなかったが、安堵の表情を浮かべて安心していた。
堂本と新藤はいがみ合って、そっぽ向いてしまった。ガキか。
「皆さん、左腕に注目してください」
突然自分の腕から声がしたと思えば、左腕に黒い腕時計のような物が取り付けられていた。
ディスプレイは00:00と表示されており、何に使うのかは分からない。
「この腕時計は外す事が出来ません。無理に取ろうとすれば死にますので注意してください」
恐ろしい事をさらっと言って、腕時計を弄るのを辞めた。
「それでは60秒後に『選別』を開始します。準備してください」
説明これだけかよ、というのは思わなくも無かったがルールには従わないといけない。腕時計を見ると変化していて、00:60からどんどん数字が減っている。まんまの機能だ。
新藤に目を向けるとなにやら大柄なものを持っていた。
「何それ?」
「暴徒鎮圧用の盾です。警察署から持ってきました。頑丈ですよ」
「『巨人』とやらが相手でも行けるのか?」
「……さぁ」
対人を想定している筈で、対『巨人』など知る由もないか。
堂本もちゃんと日本刀とリュックを持って準備万端のようだ。
それから少し喋っていたが、ゲームは始まる。
腕時計からの宣告が世界に流れた。
「それでは『選別』開始!」
第二のゲーム、『巨人』が始まる。
感想や評価を下さい。
やる気出ます。




