第15話 純白
日間48位です。
もう少し欲しいですね。
移動から3時間の午後6時。
大通りに面するビル2階の一室に入った。どこかの会社の一室だったようで、パソコンが所狭しと並んでいる。
ついでに腐臭がする死体もちらほらあるので、換気をしつつ反対側にそびえ立つホームセンターに目を向ける。
「くさっ」
死体を見てもこんな反応をしてしまうのは、我らがメイさんである。
思い返せばメイを襲った豚を俺が殺した時も騒いだりしていないので、耐性が有るのかもしれない。
グロいゲームでもやってたのかな?ダメだぞ!
「あんまそういう事言うなよ」
「……ごめんなさい」
一応は意志があったご遺体である。
それを貶める必要はない。人を殺した俺が言うのもあれだが。
ブラインドから覗く先の駐車場を見やる。
「割といますね」
新藤も様子を見て同じ感想をを持ったみたいだ。
「ああ、何でだ?」
駐車場のスペースはかなりある。チャチなスーパーの駐車場なんか目ではない。
100台単位で止めれるようなものだ。
土地だけは有り余る田舎特有の無駄な広さだ。
「広いからじゃないっすか?」
「や、そうなんだが……」
駐車場には3割程度の車が放置されており、その間を簡単に視認できるほどの黒が徘徊している。
20程度だろうか?かなり多い。あそこまでの黒を一気に見たのは初めてだ。
「あの中に人が居るんじゃないの?それで入ろうとしているけど、扉が頑丈だから破れない。どうかな?」
ホームセンターの扉はそこらの住宅の扉とは耐久度が一線を画しているように見える。
材質は金属だし、扉も大型のものを搬入するため大きくなっている。
それを体術のみで破るのは難しいか?
そこで新たな疑問が発生した。
「待て、仮にそうだとしても裏口があるだろ?なぜそこから入れない?」
新藤が案を出した。
「中の物資を使ってバリケードを作ったのでは?日本の扉は外開きですが、鍵がかかっている状態で引っ張って開けるのは黒でも難しいでしょう。それなら破壊すれば良いとなりますが、内側から補強すればいい。そのための物なら幾らでもあるでしょう」
「……そうか。重い物を置いとくだけでもかなり開けにくい」
「ちょっと待って。それだと私達は入れなくない?」
「「「あ……」」」
致命的な気づきである。
黒から身を守ろうとするなら確かにそうする。
「……いや待てよ。全部塞ぐか?もし中で黒が湧いたら逃げれないだろ」
「全部ぶっ殺すつもりでいるんじゃないっすか?」
逃げ道を断って、背水の陣で自らを追い込む。あり得なくは無いだろうが。
「そんな事をしますかね?生きる方法を自ら潰す必要は無いと思いますが?」
かなり難しい所だ。中に居るリーダー的存在が居れば、そいつの考え一つで実態が変貌する。
議会制を築いていたとしても、多数決でどうなるか。
「待ってよ。外部から入れて欲しいっていう声はあったはずだよ。それを無視できるかな?」
頼まれれば断りにくい日本人である。
命が懸ったお願いを無碍にできるだろうか?俺だって黒沢夫妻の願いを聞いている。
メイはかなり強いからこっちとしても助かっているから、お願いを聞いているかは微妙だ。
「……仲に居る奴次第だな。どんな奴かで変わる」
「アニキ。変な事思いついたんすけど……」
「何だ?」
「ちょっと姐さんには……」
メイはムッとするが堂本が平謝りして、新藤と3人で話し合う事になった。
メイから何メートルか離れたのを確認して、ひそひそ話す。
「で?何だよ?」
「中に姐さんが入って大丈夫っすか?『選別』中は何でもアリなんすよね?今、中で乱交していてもおかしくないっすよ」
言葉が詰まって俺も新藤も反対できない。
隙を見て新藤にもメイに起こった事を話している。
確かに、中で力を手に入れた人間が性交渉を強要していてもおかしくないか?
それを命を守る事の条件とする。命が懸っている状況だ。しかも理性が緩んでいる。
何でもありのルール。いかんな。考えていなかった。
「……待ってください。メイさんの事情は把握していますが、日本人全員がそうだとは思いたくありません。実際、柊君は手を出していません。……ただのチキンかもしれませんが」
「……最後は余計だ」
一斉にメイに振り向くが、本人は何かと首をかしげている。
愛らしいしぐさを確認して、またむさい男三人で顔を合わせてしまった。最悪。顔面どうにかしろ。俺もか。
「……解決方法はある。『耳』を使えばいい。接近しないといけないが、壁に耳を着ければたぶん聞こえる。喘ぎ声でも何でも聞こえれば、知った事じゃない。理性ある人間である事を祈れ」
「……そうですね」
これで会話は終わりと言う風に新藤はメイの元へと戻った。
堂本と相談する事も無いので、俺達も今後を相談するため元居た場所へと移動した。
1時間もすればどんどん闇が支配しようとする。
ここからは時間勝負だという事を確認していく。
「侵入は真正面からだな」
「そうですね。左右に行った場合、遮蔽物が無いので見つかる可能性が高くなります」
「入ったらすぐに車の陰ね。堂本さんも頑張って覚えて」
「う、ウッス」
堂本も必死の形相で作戦を頭に叩き込んでいく。
そんな難しい事言ってないよ。見つからないようにするだけ。
「移動は速やかに。できるだけ戦闘は避けるが、どうしても無理な場合は俺が仕留める。突破できたらホームセンターの裏手に回って裏口でもないか探す」
夕暮れも間近の室内で3人とも頷く。
「隊列は俺、堂本、メイ、新藤だ。俺が動き出したら全員同じスピードで着いて来い」
確認が終わり、野球帽をかぶり直して外に出た。
むわっとする日本独特の空気が俺達を迎え入れた。
ビルの正面から出る訳も無く、側面に設置されていた非常口のようなものから外に出た。
大通りを見て左右を確認。
何体か居るが視界から消えた瞬間に後ろに合図出して一番近い車の陰に隠れる。
車のボンネットに手を当て、フロントガラスからばれないように周りを確認。
『耳』を併用しても黒がこちらに来ている様子はない。
次は反対車線の車をめざし、静かに素早く移動を開始。
同じ手順で周囲の安全を確認。
「……ここからだな」
ホームセンターの周囲は柵に囲まれている。強引に乗り越えようとすれば、大きな音が鳴って黒が寄ってくる。
真正面の入り口から堂々と入る他ない。
フェンスを支える土台の陰で待機してから、隙を窺い突入するという案もあったがこれは却下された。見通しの良い歩行路では黒に発見される。幾ら隙をついて移動するとはいえ、どれだけ待機しているかは分からない。そんな時間をうつ伏せで待っていて、前や後ろから黒が来たら目も当てられない。最後は俺の合図で突入というかなり適当なものになってしまった。
周りを確認、『耳』を使用。駐車場内の黒にそれ以外の黒の現在位置。移動状況。目視範囲で居るか居ないか。
「……今だ」
姿勢を低く走り始める。後ろを確認する余裕は無く、ついてきている事を信じるしかない。目的地は一番近くにある車。ほぼ滑り込みに近い姿勢で背中から車に張り付いた。
後ろからも続々と突っ込んでくる。全員器用に滑り込み何とか敷地内に入る事が出来た。
「……よし。見つかってないな」
いつも通り『耳』で確認しても慌ただしい動きをしている奴はいない。それを目的に移動していた訳だが、失敗の可能性もあったのでほっとする。
「……まさか上手く行くとは」
隊列で3番目に居るメイから不穏な言葉が聞こえ、やはりそれなりの不確定要素があったのは否めない。
次の行動に移るべく、ガラス窓から顔を覗かせ視覚でも黒を見ていく。
敷地内は縦50m、横50m程度になっているか。駐車場でこれなので、ホームセンターを入れるともっとあるだろう。2500㎡の範囲に約20体の黒。100㎡あたりに約一体。確率的に考えると10m歩くと、黒と会う事になってしまう。
「……やっぱ多いな」
車の陰でそこまで黒は確認できなかったが、『耳』を全開で使えば水の音があちこちから聞こえてくる。黒は万遍なく駐車場に散らばっている。右か左に行くだけで10体を無視できる。
やはり安心するのは左だ。行動学的にそうなるとどこかで聞いた。
横を向いて指で行先を示す。方向は左。
行く先には10体の黒。虎穴に入らずんば虎児を得ず。リスクに見合ったリターンを得られる事を祈る。
戦闘は避ける。どうしても無理なら暗殺する。腰にあるナイフを抜いていつでも殺せるように準備してから移動を開始。
駐車場にはある程度車があるため遮蔽物には困らない。
走り始めもう少しで車の陰に着く寸前、目の前に黒が新たに出現。
「―――シッッ」
手は自然に動き一撃目に心臓を刺し、すぐさま引き抜いて首を切り飛ばした。
瞬殺し水が地面に落ちる音が耳にずっと残る。
脚を止めずそのまま目的の車までたどり着いた。
「……どうだ!?」
全員が祈るような気持ちで、気づかれない事を祈った。
人が居ない鏡面世界で音を出せるのは、人か黒のみ。耳を澄まし全神経を耳に集中。
誰も来ない事を確認すると同時に安堵のため息が漏れた。
「……今のはヤバかった」
「俺達運悪すぎじゃないっすか?」
まったくもって同感である。
行く先に新たに黒が出現とか止めて。
状況は刻一刻と変化している。黒は移動を続け、現在進行形で位置が変わっている。
今は柵に沿って移動を続けているので、ホームセンターまでは約50m程度離れている。
ここからはそっちに向けて進行をしなくてはならない。
そそくさと移動を開始し車から車へと場所を変えていく。
だが限られた範囲内に10体もの黒が居る状況で、何もしないで移動は難しかった。
しゃがみ込んだまま全員に現状を知らせる。
「……全く動かない黒が居る。コイツを排除しないとこれ以上先へ行けない」
移動の甲斐があって今は左の柵まで移動に成功し、それに沿って移動している。
ど真ん中を縫って行くより、警戒する範囲を少なくできるのでそうした行動をとった。
しかし前述のとおり、動く気配のない黒が突っ立てるせいで、このまま移動すれば100%視界に入ってしまう。
「俺が単独であいつを殺る。ここで待ってろ」
作戦通り俺が暗殺に向かう。
メイももしもの時に備え、ボウガンを持つ手に力が入る。
右へ迂回し、黒の後ろ側から襲い掛かれるように移動をしていく。
目で『耳』で周りを確認し、ナイフを抜き接近。
「――死ね」
万が一を想定し黒の口部分を塞いで声を出せなくし、ナイフを顎下に突き込んだ。
そのまま流れるように首を裂き、裂傷部分から水があふれ出る。
倒れ行く黒の体を支え、倒れた音を出さないようにし、止めに心臓にナイフを刺し一丁上がり。
勝利した事を確認し、そのまま移動予定の方向へと身を屈めて歩を進めた。
柵に体を付け、安全を確認、大きく息を吐いた。
手は汗ばみ、心臓が今にも弾け飛びそうなほどだ。
「フ~~……」
深呼吸で何とか自分を落ち着け、首を横に動かし待機している仲間たちを見る。
3人ともホッとした顔でこっちを見ていた。
留まればどんな事態になるかもわからず、次の行動へと移した。
『耳』で周りを確認した後、手で3人を呼び寄せ危な気なくこっちに来た。
「やったね、柊さん」
「何とかな」
交わす言葉も少なめにホームセンターへと向かう。
敷地の端に居る黒の数は極端に少ない事に気付いた。ほぼ全てが中央付近で徘徊している。
それでも車の陰からこちらを発見する可能性は否めない。
だが。
「……ここまでか」
ホームセンターの側面を移動して裏口を見つける予定だったが、そこへ至る道までの間にもう車が無い。
今までは障害物が無くても最高で5m程度しか動いていない。
側面まで移動するのに、10~15mはありそうだ。
車の陰に隠れたまま作戦会議となる。
「どうする?強行突破するか?」
「それは早計です。考えましょう」
全員で考えてはみるが、ここから元来た道を戻り違う道を模索するのは流石に勿体ない。
何の案も出ないと思ったが、堂本が口を開いた。
「……車を動かしましょうぜ」
「……?車も電気製品で制御されているだろ。無理じゃないか?」
「サイドブレーキだけを解除して押して行ったらどうっすか?ゆっくり動けば何とかなるんじゃ?」
隠れている車を見上げれば、夏のおかげか窓が全開になったまま放置されていた。
他に案も無く、強行突破よりはマシだという結論になった。
「メイ、窓から入れるか?」
「……悲しいかな。……私の体は小さいのだ」
メイは悲しそうな顔をして、ボウガンを俺に押し付けた。
頭から窓に突っ込んで、脚をバタバタさせて中に入り込んだ。
サイドブレーキを解除して、中から這い出てきた。
「オッケ、できたよ」
メイにボウガンを引渡し、俺・堂本・新藤の3人で車に手を掛け力を入れる。
「気合入れろよ」
「ウッス」
「当然です」
裂帛の気合で渾身の力を全身に引き起こす。
3人の力は余すことなく車に伝わり、ゆっくりと車輪が回転し始めた。
『耳』を使用しながら、亀のようなスピードで歩いていく。
「ひ、柊君、大丈夫なのか!?」
「て、手ぇ動かせ」
動いているのは脚だが。
腕に足腰、腹筋から背筋まで全て使って自動車を動かしていく。
「みんな、ファイト」
メイは車の移動するのに合わせて一緒に動いている。
言葉は軽いが顔は真剣そのものだ。すでに矢を装填し終え、いつでも射撃できる状態にある。
半分程度進んだ所で止まった。
「……ここから一気に動こう」
車はかなり中途半端な位置に放置されてしまうが、ここまで何の反応もないならこのままでも良い筈だ。
約7~8mを走り抜けて黒達の死角に入る。これで行く。車を動かすのは疲れるし、やっぱり緊張感が半端ではない。
黒の動向を確認してラストスパート。
合図を出してみんな一斉に走り出した。声こそ出さないが、必死さが伝わってくる。
時間にして2,3秒で黒の視界から消える事に成功して、ホームセンターの側面に入り込めた。
「……行けたか」
『耳』で確認しても何も起こっている様子はない。
こういう時はやはり『耳』の効果は絶大だ。
数人で行動する場合、絶対に五感系統の力か『地図』が必要だな。
「さっそく、裏口を探しましょうか」
新藤が気持ちを切り替え、さっさと奥に進むがすぐそこに扉があった。
新藤が俺を見つめ、隣にいる堂本も同様だ。
中で何が起きているか確認しないと、メイを伴ってはいけない。
小走りで扉の前まで行き、耳を着ける。
中からの空気振動が扉を揺らし、俺の鼓膜を揺らす。
中から嬌声など、性行為をしているような音はしていない。
むしろかなり音が聞き取り辛い。扉の前に何か置いてある。だが中に人が居るなら理性ある人たちのようだ。……今はな。
「……いいぞ、新藤」
新藤が俺をどけて、軽くノックをする。
始めは何の反応もないが、根気よく、相手を驚かせないようにノックを繰り返していく。
するとくぐもった声ではあったが、ようやく反応があった。
「……人間なのか?」
「私は新藤。警察です。中に入れて欲しいのですが」
「け、警察!?本当ですか!?」
なかでどやどやと騒がしい音がする。『耳』を使っているので、俺以外には聞こえていないだろう。
何人かいるな。
「ここを開けて欲しいのですが」
「……すいません。ここは無理です」
さっきまで喋っていた男の声が返ってきた。
声は残念そうな声が含まれる。
「何故ですか?」
「ここから侵入されないように、ガチガチに固めてしまって。……正面からでないと」
正面だと!?
駐車場に居る20体の黒の間を切り抜けたのに、またあそこに戻れと言うのか。
「何とかなりませんか?」
「……残念ですが、皆怯えておりこれが最後の砦なのです。……お願いします」
「分かりました」
「おい!何勝手に言ってるんだ!あそこに戻るのか!?」
新藤が振り向き説得とも言えないような言い訳をする。
「仕方ないでしょう。市民が怯えているのに、それを強要できません」
「……ならメイの事は良いのかよ?」
「メイさんはさっきから怯えたような様子がありません」
まったく、いや本当に。どうなってんの?
「はい、そこで怯えた表情をどうぞ!」
「し、新藤さん。……わ、私、怖いよ……」
体をしならせ、くねくねしながらちょっとかわいいポーズをとる。
小ささと相まって、庇護欲を掻き立てるはずだ。
「余裕ですね」
本当にね。
覚悟重すぎでしょ。どんだけの意気込みだよ。
メイに向き直って文句を言ってやる。
「お前もうちょっとあれだよ。頑張って怯えとけよ。どうなってんの?」
「……何なの?これ。私が悪いの?」
「いや、大丈夫っすよ。姐さんが最強なだけですって」
「……それもどうなの?」
馬鹿な事をやっていると、新藤がいつの間にか話をまとめて作戦が出来上がっていた。
「折り畳み式の大扉の前まで移動して、扉をノックします。それを合図に中に入れてくれるそうです」
「……マジかよ。中の連中、俺達が死んでもいいのか」
「……こんなか弱い女の子にそんな修羅場を歩けと言うのか」
自分で言うな。
しかし言う事はあっている。ふざけやがって。何でこんな事してるんだ?
「大丈夫です。また車を陰に移動しましょう」
「……チッ。……やるしかないのか」
「……はぁ!?」
堂本もガチギレ寸前だ。
何とかメイがなだめているが、中に入ればどうなるか分からん。
ホームセンターの陰まで戻ってそっと顔をのぞかせる。
この短時間で黒の数が減る訳も無く、そこら辺をうろちょろしている。
「……今だ」
再度車に張り付いて、黒の視界から外れる。
ここから車を曲げて操らなければならない。
「メイ、中に入ってハンドルを動かせ」
「……運転経験無いんだけどなぁ」
ぶつぶつ言いながら、中に入り体勢を低くしながらハンドルを動かした。
車輪が進路を変更し、移動方向が変わった事を確認して腕に力を入れ押し始めた。
中に居るメイも移動状況が変わりつつあるので、ハンドルの位置を微調整して進行方向を扉の前まで導いていく。
扉の一番端まで移動して、メイが扉から出てきた。
代表して新藤がノックするが、音が大きい。
何とかなっているが、非常にもどかしい。
新藤がこちらを振り返り、意思疎通が完了した事を示した。
すると致命的な音が金属の扉から鳴り響き始めた。
ギギギッと声あげ、中央から折り畳み式の扉が少しずつ動き始めた。
一番端からいる状況で、ど真ん中まで移動。約20m。
「おいおいおい!どうすんだよ!もう黒に気付かれてるぞ!!」
「行くしかないでしょう!」
新藤が走る始めるが、黒達も開き始めた扉に殺到しようとしている。
俺も含め4人が走るが、扉の開きが悪すぎる。
というより、閉め始めた。
「ふざけんじゃねーぞぉ!!開けろぉ!!」
堂本が閉められ行く扉を睨んで、猛烈に怒鳴り始めた。
マズイマズイマズイ!!
このままじゃ死ぬ。
「メイ!!悲壮感たっぷりに助けを求めろ!」
「こんなのばっか!!」
メイは最高速度で移動し始め、中の人物たちを呼び止めている。
「堂本、新藤!時間稼ぎだ!!」
全員武器を抜いて、迫りくる20体の黒に立ち向かっていく。
一人頭6,7体。
無謀。
「新藤!引き付けろよ!!」
「了解!!」
圧倒的な防御力を持つ新藤に全ての黒が押しかかる。
それでも散発的に来る黒では新藤の『服』は突破できない。
横合いから堂本の『刃』が襲い掛かり、必殺の一撃をどんどん繰り出していく。
前面を堂本と新藤のコンビがやっているが、俺は後ろで取りこぼしを狩る。
両手にナイフを持って、『耳』を全開。
襲い掛かってくる黒達を完璧なカウンターが黒の顔・心臓を貫いていく。
しかし数が多すぎ、対処が徐々に難しくなっている。
すると後ろからメイの説得に応じたのか、扉が再度開き始めた。
「堂本!新藤!下がれ!」
2人も音が聞こえたか、素直に下がり始める。
メイの射撃も行われ、何とか間が持ち撤退できる猶予が出来た。
「メイももういいぞ!中に入れ!」
ようやく通り抜けれるような隙間ができて、そこからメイが通り過ぎる。
間髪入れず俺も入り、堂本、新藤と続き急いで扉を閉めて黒の侵入を阻んだ。
それでも扉は叩き続けられているが、そんなに簡単に壊れる物ではないようだ。
後ろには8名の男女が居た。思ったより少ない。
いや、腐臭がする。すでにこの中でも激闘があり、何人も死んでいるんだ。
こいつらはその生き残り。
すると代表者が新藤に話しかけているが、俺も堂本もそんな気分ではない。
ツカツカとそいつに歩み寄って、同時に殴り飛ばした。
「ガハッ!」
新藤は目の前で話していた人物が突然殴り飛ばされ、驚いているが何とか両腕で俺達を抑えている。
殴られた眼鏡をかけた優男っぽい奴が睨みつけてくるが、俺と堂本の顔を見れば反論の余地などない。
堂本の顔など、メイには見せたくはない。
「お前!ふざけんじゃねーぞ!!もう少しで死ぬとこだっただろうが!!あぁ!!?言い訳あるなら言ってみろや!!」
堂本の言葉である。
同様の思いを抱え、堂本が代弁した。
「そ、それは……」
「それはじゃねーだろ!!何であんな―――!?」
俺が堂本を押して、体勢が崩れたため発言が中断された。
しかしそれ所じゃない。
すぐそこに居たメイも腕に抱え、そこらに居た人間共より後ろに下がる。
堂本も俺の行動に文句を言うのではなく、現状の把握に努めている。
俺の隣までくれば、周りが見えてきた。
新藤は扉の方向を見ており、何者かを睨みつけている。
俺が突然変な行動をしたのはあいつのせいだ。
「な、何あれ?」
「な、何だありゃ!??」
抱えられたメイや堂本がこんな反応をするのは無理もない。
出てきたのは黒だ。
「純白の燕尾服?」
その黒は白かった。変な物言いだが、端的に言えば白い服を着ている。
顔や手、足は黒いがほぼ全てを白が覆っている。
ほぼ白。しかしベースは黒。
まさかとは思うが。
「『服』を持っているのか」




