第14話 行動
「クソ、やっぱり多いな」
太陽の勢いは留まるところを知らず、殺人光線を浴びせかけている。
肌からは汗が噴出して、持参したタオルは早くも吸水していない。
学校から歩き始めて幾ばくか経過しているが、やや面倒な状況に陥っている。
「どうですか?」
新藤がアホみたいに長袖長ズボンの警察の制服を着ながら現状を聞いてくる。
半袖じゃないのかと最初から思っていたが、「心頭滅却すれば火もまた涼し」と意味不明な供述をしており、考える事を辞めている。
『服』の効果を考えれば、肌を大きく覆う長袖の方が良い。
「大通りに行くほど黒の数が多いな。隠れながら行けば問題は無い」
「そうですか。慌てる必要はないでしょう。まだ先の話です」
「そうだな。まだ300mはある」
時刻は午後3時。
移動から約3時間程度たち、目を向ければ真正面にホームセンターが見える。
見えるのはいいが、ホームセンターは大通りの反対側にある事だ。
道路を突っ切って敷地内に入る必要がある。
しかし道路には多数車が放置されていたのは自分で確認しているので、上手く使えば行く事は難しくはない。
違う問題もある。
広大な駐車場スペースにどれだけ黒が居るかはさすがに分からない。
目視をする必要がある。
正面から行く必要もないが、それでもリスクはある。
入り口は正面と左右2か所の計3か所。
あとでどこから入るか相談が居るな。
隠れていた家の敷地からゆっくり顔を出して、視認でも安全を確認して道路に出ていく。
ハンドサインで後ろに合図を送り、全員で移動していく。
縦一列でゆっくりでも大胆に移動していく。
十字路に差し掛かり、左右確認を怠らず安全を確認して移動しようとした時にそれは起きた。
「な……!」
突如と言っていいのか、それが黒の特性だが行先に黒が現れた。
それなら排除するまでだが、1体だけじゃない。
十字路の道4か所に1体ずつ。完璧に挟まれた。
『耳』!
この4体が一番近くにいる。
他はあまり居やしないが、安心はできない。
このまま挟まれて戦うのは得策じゃない。
まっすぐ行くのはだめだ。数の多い方向に逃げたら対処ができなくなる。
背に腹は変えられない。
「下がれ。後ろの奴を倒して突破する」
一番黒の数が少ない後ろに下がって、後からまたやればいい。
一点突破なら4対1でこっちが有利。
言うが早いか堂本が抜刀して、黒に対して攻撃を仕掛けていく。
堂本の行動に従い、後を追っていく。
後ろを見れば他の黒も追いかけようとしている。
「走れ、止まるな!」
指示を出しながら走り続ける。
堂本は黒と接敵し、刀を振り上げ渾身の力で振りぬくがあっさりと回避。
「あらぁ!?」
そのまま抜かれてしまい、新藤の前に躍り出ていく。
新藤は腰に差していた特殊警棒を手に取って、走りながら構える。
「使えないヤクザです!」
リーチで勝る黒に対し、警棒を横に振って撃滅を狙うがこれも体を沈められ空を切る結果になってしまった。
「しまった!!」
新藤の攻撃も不発に終わり、メイが攻撃対象になっている。
それはマズイ。
「メイ、俺が行く」
「頼んだよ!」
『靴』での移動速度を下げたメイを抜き去り、乾坤一擲の跳び蹴りを放つ。
左脚の踏切により、黒に必殺の右足裏が胸を砕かと思われた。
「―――!」
「ヤベッ!」
黒は俺の脚に手を添えて、蹴りをそのまま受け流しメイに標的を向けていく。
黒の走る速度も上がり、そのままメイに突撃していく。
「メイ!」
着地ざま振り返り、危険を知らせる。
堂本も新藤もその場で固まり、行く末を見守るほかない。
「3人とも何やってんの!?」
メイが悪態をついてさらに速度を上げて走る。
メイに攻撃を加える瞬間、メイの体が若干沈み、膝が曲がる。
「―――!」
「おりゃ!!」
走りながら勢いを上げていたメイは、そのまま地面を踏み切り黒の頭を越えていく大ジャンプを見せた。
拳を繰り出しながら、それを躱された黒は体勢を崩して勢いが死んでいる。
メイは空中で後ろを振り返りながら着地。
そのまま膝射での態勢に入り、ボウガンを射撃。
ほぼ足が止まっていた黒の心臓部分に直撃して、崩壊。
メイは足を止めずそのまま馬鹿3人を追い抜かして逃げていく。
3人とも慌てて追いかけて行くが、メイに軽く怒られてしまった。
「ちょっと、何やってんのさ」
メイは走りながら器用に振り返り、目線で俺たちを攻めてくる。
男の全員が軽く攻撃をかわされてしまい、面目が無い。
元自衛隊・ヤクザ・警官の全員が素直に謝った。
「悪い」
「すんません」
「申し訳ない」
そうしながらも後ろからは黒3体が走り迫ってくる。
足並みは一定で、あまり焦っている様子がない。
あっちは追いかけているだけで、俺たちは黒の包囲網にかかる可能性がある。
どこかで撃滅しないと逃げた意味がない。
一瞬だけ立ち止まり、『耳』を使用。
前の三人は何事かと振り返るが、俺の様子を見て力を使っている事が分かった。
耳を使えば周りの黒は反応はしていないが、走り回って視界に入れば絶対視が待っている。
トレインだけはない。誰にも押し付ける相手はいないが、体力がなくなって死ぬのは俺たちだ。
再度走り始め、前を行く3人に指示を出した。
「次を右に曲がれ。堂本は曲がり角で俺と待機。黒を殺す。新藤はメイの護衛だ」
無言の返答が帰り、全員素直に指示に従う。
現状を把握しているのは俺だけとあり、素直に従うほかはないが。
3人が曲がり角を曲がり、俺も曲がったところで振り返りナイフを抜く。
すでに堂本も待機しており、日本刀をむき出しに獲物を今か今かと待っている。
手短に指示を出す。
「一撃で決めろ。一体ずつだ。できなければ退避」
「ウッス」
静かだが確実に黒が迫る足音が耳に届き始める。
『耳』で聞けば上手い事順番に並んで走っている。
音を聞きながらタイミングを計りその時が来た。
「行け!」
曲がり角から黒が現れた瞬間堂本がその場で突きを放ち、土手腹は貫きそのまま刀を振りおろし黒が崩壊。
すぐさま2体目が現れ、ナイフを腰だめにしながら体当たり気味に黒に突撃。
「チッ!」
黒にナイフを握る手を止められ少し浅い。
それでも刃渡り15cmの半分が埋まり、黒は呻いている。
しかし3体目もすぐに表れ、腕を引き戻し傷つけた黒を蹴り飛ばして、走り寄ってきた黒とぶつかり地面にもんどりうった。
予想の展開とは異なったが2体が地面に倒れた事もあり、堂本が突撃。
そのまま2体とも串刺しにして黒が消滅。
「よし、いいぞ―――!?」
止まったら『耳』と使う癖のおかげで、黒がいることが分かった。
目の前の十字路の左右に新たに2体発生。
「堂本、すぐそこに居る!走れ!」
「マジっすか!?」
俺が問答無用で走ったことで、堂本は危機的状況である事を察知した。
進む先に居るメイと新藤も走り始めている。
「走れ!止まるなよ!」
前を爆走して行くメイがこっちのスピードに合わせて返事をする。
手にはボウガンを持ち少し走り難そうにしているが、『靴』はそれを補って余りある。
「はい!」
後ろで必死に走る堂本はあまり足が速くなく早くも泣き言を言い始めた。
「勘弁してくれ~」
堂本のひ弱な言葉を聞いて、新藤も軽く苛立ち暴言を吐く。
それだけ新藤も切羽詰っているという事だ。
今はかなり追いつめられている。
「情けない声を出さないでくれないか!?」
ここまで慌ただしく逃げていても人は顔を出さず、誰ともすれ違わない。
これが『選別』3日目の日本の現状。そして世界の現状でもある。
日本人は弱すぎた。
他者を排除しても生き残るという絶対的意志に掛けた民族に成り下がっていた。
それ以前に敵を倒すという武器すらなく、黒に殺されたのだろう。
適切な武器が有れば初期の黒なら頑張れば倒せた。
それすらできない。
他者と協調し、自分の意見を引きとどめ流れに任せる。
大を生かし小を殺す。
聞こえだけは良い。
「そんなものに意味はない!!」
急制動をかけて来た道を振り返り、後ろに黒に向かって駆け出す。
堂本とすれ違い、異変に気づいたメイと新藤も足を止め俺の行動に驚いている。
3人とも何かを言うが、それに気を取られていれば死ぬのは俺だ。
「俺が殺る!心配するな!」
道の先に居る黒2体は横二列に並んで、一定の速度で走っている。
俺が突撃してきても何も変化させず、嫌悪感すら覚える。
あと一歩の所で脚力を爆発させ、黒との間合いを詰めて俺のペースに引き込んだ。
【柊流古武術『波風』】!!
一体の黒の脇腹を捉えたと思えば、そのまま吹っ飛ぶ。
勢いを殺さず横にいるもう一体にも蹴りを叩き込めば、同じように飛んで行って2体とも水へと変わった。
気持ちを切り替え3人の元へ向かい、この場を離れる事を提案しすぐに近くの家に中に逃げ込んだ。
ようやく物語冒頭へ戻り、4人は何とか危機から脱出を果たした。
「も~~~!運が悪すぎだよ!」
メイがソファーに座って文句を垂れている。
客間のような部屋に入り、全員寛いでいる。
机の上に最初から煎餅などの菓子が置いてあり、メイがそれをつまんでいる。
ぱりぱりと音を立てていると、男3人も釣られるように煎餅を手に取って食べ始めた。
「しゃーないだろ。そういうゲームだからな」
「いや、そーだけど。何回囲まれたら気が済むの?四方を囲まれたときはもうね。あれだよ。怒っちゃうぜ?」
訳の分からない語尾になるほどさっきのは堪えたみたいだ。
せんべいを食べる手が止まっておらず、メイの目の前には煎餅が入っていた袋が山積みになっていく。
「それでどうしますか?危機は去りましたが、このままここに居ても良い事はありませんよ?」
煎餅を食べ終わった新藤が茶を沸かしながら質問をする。
「……行くしかないだろうな。さっきので分かったが新たに湧くからと言って全部が全部強いわけじゃない。その辺にうろついてる奴だって、強い奴の方が少ないだろう」
「囲まれなきゃ何とかなるんじゃないっすか?」
「それはどうなの?それこそさっきのが偶々かもしれないよ?」
俺の案はメイの案によって否定され、たしかにその可能性もあるという事になる。
しかし新藤は生き残りが居るならば場所を移動するべきだという姿勢を崩さない。
「いや新藤さん。別に反対してるわけじゃないよ?最悪を考えてやるべきだと思うんだ」
「そうですね。頭を冷やしましょう」
茶が居れ終わり、全員に配ったところで一休憩となる。
結構な運動量をこなしたことで、全員腹が減っており客間を捜索して菓子を発見。
貪るように食べ尽くした。
午後4時前。
日は傾き始めてはいるが、気温はまだまだ高い。
結局、移動はするが危険はできるだけ回避する事になった。
ただし積極的に動いていく。
黒が居ればメイの射撃でやるか、俺が暗殺する事になった。
あまり矢は損失したくないので、俺が行く事が多いだろう。
メイを矢面に立たせる訳にもいかない。
それ以前に『耳』でできるだけ戦闘は回避する。問題はない。
1時間程度の休憩を挟んで、全員の体調も中々いい。
確認だけ行い、家を後にした。
今度こそホームセンターに向かう事になる。
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