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人類よ、貴様らは増えすぎた  作者: tempester08
第一のゲーム『黒い人物』
13/32

第13話 新藤輝元

 警官が寝泊まりしていたという宿直室に案内された。

 校内に入り、一階の一番奥にその場所はあった。

 畳が敷かれたボロッチィ部屋だ。俺の家と変わらない。


 午前11時。

 たくさんあるうちのカップめんのうちの一つを食べる事になり食欲を満たした。

 その後中央の小さなちゃぶ台を中心にして、自己紹介をして最後に警官の番になった。


 「初めまして、新藤輝元(シンドウテルモト)です。21歳。あなた達と同い年です」


 そう言うと堂本をガン見して、堂本も睨み返す。

 堂本の今の顔なんてその辺に放ったら、即刻通報されるレベル。

 

 「……二人とも何やってる」


 目線を俺に替えて、新藤が理由を話した。


 「いえね、柊君。このゴツイ男とは職務上何回か辛酸を舐めさせられましてね。因縁浅からぬ関係です」


 「チッ!やっぱり新藤だったか。もしかしたらと思ったが最悪だぜ」


 「……二人とも面倒なんで、喧嘩しないでくださいね」


 メイがそう言うと二人とも渋々従った。

 さっきの事もあり、新藤もメイのいう事を聞く方針になっている。

 堂本は最初からいう事を聞いている。


 「……他の生き残りは居ないのか?」


 狭い室内をどんなに見ても他に人はいない。

 この部屋にはたった4人。


 「残念ですが居ません。あなた達が一番乗りです」


 「いつからここに居る?」


 「『選別』が始まったらすぐに着替えて、学校に来ました。制服カッコいいでしょ?」


 両手を広げて警察独特の青い制服をアピールしてきた。


 「そうだね。で?ずっと一人で待ってたのか?」


 棒読みで適当に返して続きを促す。

 若干しょんぼりして、気を取り直して話し始めた。


 「今日で3日ですか?ずっと待ってました。ここから家が近くて、非番だったのですぐです。見落としてませんよ。正真正銘生き残りはあなた達だけです」


 「……周りを助けに行かなかったのか?」


 ガクッと頭が落ちて、暗い声になってしまった。


 「……後から気づいたんです。なんか変な事が起きてるから、取り敢えず避難場所に指定されているこの学校に来たは良いんですが、誰も来ない。その後、皆やられてしまった事に気付いて……」


 「新藤さんアホだね」


 メイさんの止め。

 新藤は机に突っ伏して、ぶつぶつと何か言っている。


 「やっぱり警察はアホだ」


 堂本の言葉に反応し、新藤はすぐに姿勢を直した。


 「ふんっ。ヤクザに言われたくありませんね。警察は最強の組織です。ヤクザは私たちに怯えて日陰で暮らしていなさい」


 「あぁん!?てっめ!何言ってやがる!ヤクザが最強だろうが!!」


 両手でちゃぶ台を叩いて身を乗り出し、反論している。

 そこに反応するのかよ。日陰云々じゃないのか。


 「やはり脳味噌が足りません。国の機関である警察が最強です。この服を見るだけで全国民が畏怖します。それが証拠です」

 

 まぁ、確かに見たらビビる。


 「ヤクザの方がビビるだろうが!」


 確かにビビる。


 「私達は秩序を維持するためしょうがなく嫌われ者をしているにすぎません。対してあなた達の恐怖は世間に対する暴力行為。方向性が全く違うんですよ。分かりますか?」


 「……訳わかんねーこと言ってんじゃねーよ。もっとわかりやすく言え!」


 「つまり最強は警察です」


 「ヤクザだ!」


 「二人ともうるさいです。黒が来たらどうするんですか?」


 「「……すいません」」


 メイのお叱りが入りこうべを垂れ素直に謝る。

 こいつら仲良いのか悪いのか分からん。


 「……で?新藤は力をもってるな?」


 「ええ、皆さんと同じく持っています。やはり私はこの服に誇りを持っていますので、『服』を選びました」


 「効果は?」


 「殴られても痛くありません。顔はダメですけど。肌が露出している場所は効果の範囲外のようです」

 

 「全然痛くないのか?」


 「語弊がありましたね。かなり衝撃が減ると言うだけです。まったく痛くないというのはありません。

 黒い奴だったらある程度殴られても耐える自信があります」


 「……良いな」


 羨ましいぃぃぃ!!

 『耳』は糞!だめだこりゃ。ミスったわ。いや、悪くないけど。俺個人としての戦闘力がほとんど変わらないじゃん。カウンターだけは使えるけどさ。皆あれができる訳じゃないでしょ?

 経験で反撃してるもんだし。 

 やっぱり基本は戦闘の未然回避。『耳』の本来の使い方はこっちだ。戦いは『刃』とかに任せるようにできてるな。

 ミスったわー。『耳』はいるんだけど。男としては圧倒的な力が欲しいみたいな?

 『耳』は地味だわ。耳澄ましてるだけ。なんだそれ。カッコ悪い。


 「そっか。私達だけなんだ……。柊さん、これからどうする?またどっか行く?」


 「人が居そうな所ってどこだ?」


 「ふふふ……。私に考えがあるのだ」


 手を顎に当てて、それなりの雰囲気を醸し出そうとしているが、小っこいので可愛いだけだ。

 もう20cm大きくなって出直せ。 


 「流石姐さん!」


 すかさず堂本がよいしょする。

 

 「どこなんだ?」


 「こういう展開は結構マンガであるんだよ。だいたい皆ホームセンター行くね。私が知ってるのはゾンビだけど」


 「ああ、なるほどね」


 銃火器が無くなったらそれっぽい物が必要になる。

 鉈とかあればかなり良いと思う。

 それでなくてもシャベル一つあれば良い。シャベルは最強。いろんな事が出来る。俺も一つくらい持っておけばよかった。邪魔になると思ってメイの家におきっぱだ。


 「……近くにホームセンターあるのか?」


 新藤が道案内の出番とばかりに出張ってくる。

 交番の警官に道を聞いてみよう。


 「じゃ、新藤君。ホームセンターはどこですか?」


 「近くですよ。この学校から大通りに出ればすぐにあります」


 普段あまり家の周りを散策していないから、この辺りの地理には疎い。

 第一高校の場所もかなりうろ覚えで困っていた。


 「んじゃ、行くか」


 「え?行くんですか?僕はどうしたら……」


 新藤が困ったような声を出して、今後の対応に苦慮している。

 新藤的には俺達(堂本を除く)にここに残ってもらい、自分が保護したいだろう。


 「そう言われてもな。……お前はどうしたいんだ」


 「それはここに残って避難してくる人達を保護したいですよ」


 「そんな奴いるのか?」

 

 間髪入れずに現実を突きつけた。

 反論できずに新藤は言葉に詰まっている。


 「お前が多くの人を助けたいのは分かる。警察という職業に誇りを持ってるみたいだしな」


 新藤は首肯して、誇らしげにする。


 「だが未来の誰かを助けるより、目の前を見た方が良い。誰も俺や堂本を守れとは言っていない。メイを守れ。警察ならその義務があるはずだ。……それにやる事は生き残りを探す事だ。お前に損はない」


 新藤は随分悩んで言葉を発しなかったが、遂に折れたようで了承した。


 「……そうですね。そこのヤクザがどうなろうと知った事ではありませんが、メイさんは別です。

 市民を守る事が警官の役目。今こそ、その本分を発揮する時です!やりましょう!」


 「新藤さん、うるさい」


 「……ごめんなさい」


 大声を出した新藤をメイが叱る。

 堂本は新藤が同行する事をあまり良く思ってはいない顔をしている。


 「そんな顔するな堂本。メイを守るためだ。どんな手でも使う」


 「……そうっすね。いざとなったらそいつを黒の囮にして、その間に逃げましょう」


 「……私のためとは言え、物騒な事言わないでよ」


 囮発言に反応してメイが堂本に口をきいた。

 しかし堂本の言葉は新藤も反応し、反論を開始する。


 「そこのヤクザは一回格の差を教えた方が良さそうですね。囮にするのはあなたです」


 超喧嘩腰で堂本を睨みながら言い捨てた。

 堂本も黙っておらずおもむろに立ち上がり、新藤も立ち上がった。


 「表出ろや」


 「いいでしょう」


 堂本は刀を持ち新藤も警棒を携えてドアへ向かうが、メイに阻まれた。

 顔は笑顔いっぱいでとっても怖いです。


 「……3回目はありませんよ?」


 『靴』を履いてトントンとつま先で床を叩く。

 その衝撃で畳がどんどん崩壊していく。なんだそれ。怖っ!!

 

 後ろからで二人の顔は見えないが、絶対顔が引きつっている。

 二人同時に肩を組んで仲が良いアピールをメイに行ってこの場は収まった。


 肩に回していた手で、お互いつねっていたのは内緒だ。



 時刻は正午。太陽も真上に上り、気温もそろそろピークに達しようとしている。

 アスファルトからの照り返しも厳しく、帽子だけでは暑さ対策は完璧とは言えなかった。

 新たに新藤も加えて次なる目的地のホームセンターを目指す。


 「具体的にどれくらいだ?」


 「およそ500m位ですかね。何とかなるのでは?」


 日が落ちるまであと7時間程度。

 1時間で60~70mも進めば、普通に着く。

 『耳』があればそこまできつくないと思う。

 それでも細心の注意を払いつつ行く事にかわりはない。


 「それじゃ行くぞ」


 帽子を被り直し、校門から外へ出た。

 道の先を見れば陽炎が出来ていて、目的地は果てしなく遠くに見えた。

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