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人類よ、貴様らは増えすぎた  作者: tempester08
第一のゲーム『黒い人物』
11/32

第11話 本領

第10話でメイが強引に堂本の力を決定するのを修正しました。

不快に思った方は申し訳ありませんでした。

 時刻は午前0時前。

 月は真ん丸で薄い雲がかかり、幻想的と言ってもよい雰囲気だ。

 日本庭園のように手入れの行き届いたこの屋敷内が、やや騒然としている。


 後ろではメイと堂本が共闘して黒を一体追い込んでいる。

 堂本の『刃』は切れ味が上がっているのは確認済みである。

 剣道の様な技術が勝手に身に付くような事は無かった。

 堂本が刃物を持つ限り、その刃物は果てしない切れ味を誇るようになった。

 完璧に攻撃に特化している。 

 この分なら『棒』も同じ可能性が高い。


 その辺はどうでも良いか。

 俺の事に集中させてもらう。


 さて、さっきの蹴りの衝撃で一本ナイフを手落してしまった。

 手持ちはあと1本だけ。

 室内には居たが、万が一を想定して靴は履いていたから外でも中でも戦闘はできる。


 「行くぜ」


 「―――!」


 黒が縁側から飛び降りながら蹴りを撃つ。

 横に軽く移動して、距離を取り回避。

 結果、同じ高さに並ぶ。距離3m。


 右手のナイフを握りしめて、黒に近づく。

 小さく、表面を撫でるような感覚でナイフを捌いていくが、黒の腕に阻まれるか体を動かされ回避される。


 キリが無いと判断して、フェイントを加えていく。

 今までと打って変わって、強く速い攻撃を繰り出す。


 「シッ!」

 

 「―――!」


 突き込みをかけ、当たる瞬間にナイフを引き留め体を前進させる。


 【柊流古武術『波風』】!


 止めた右手を引いて、左脚を振り回す。

 攻撃されることを予期していた黒は一瞬硬直してしまい、脚が黒の体を捉える。


 しかし右肘のガードが体への打撃を拒み、ダメージが小さい。

 器用に右手に持っていたナイフを左へと放り投げ、持ち変える。


 突く!!


 「―――!」

 「なっ!?」


 ガードした腕もすぐさま引き返され、両掌に挟み込まれた。

 白刃取り。マジか。


 黒は両手を捻りナイフをもぎ取った。

 ナイフは地面に落ちてしまい、回収できない。

 一度失った武器は使おうとはしていけない。


 古武術で行くしかない……!

 逆に考えろ。むしろ古武術しか無くなり、そっちに集中できる。

 オッケ。これで良い。狙い通り。長年やってきた古武術の方が得意だ。


 敵は目の前。もう拳がモノをいう世界だ。俺が有利。

 さらにもう一歩近づいて、拳を連続で繰り出していく。

 

 「―――!―――!―――!」


 しかしこの黒の身体能力がずば抜けている。

 全て反応し、フェイントにも引っかからず、ほぼ完璧な対応を見せている。


 やばい。かなり強い。ここまでの奴が来るのか。

 こんなの銃火器が無ければ、一般人は即死だ。


 反撃が来る。


 「―――!」


 コンパクトに撃ってくる拳を両腕で受け止めていく。

 このままではジリ貧だ。時間が経てばメイと堂本が来るかもしれないが、かもしれないだ。

 積極的に攻める必要がある。


 拳を潜り抜け、黒の懐に入った。

 

 【柊流古武術『貫閃』】!


 貫手へと変わった右手が黒の首に襲い掛かる。

 黒の防御力だったら、これで抉れる。


 「シッ!!」

 「―――!」


 黒は首を動かし、小指が掠っただけで直撃はしなかった。

 しかし収穫だ。初めてのダメージ。勝てない相手じゃない。

 まだ終わらせん。


 右脚を踏みしめ、左拳を引いていく。

 全身の力を集約して、黒の顎を打ち抜く。


 【柊流古武術『昇華』】!!


 アッパーカットが顎を打ち抜く前に、黒の両腕が邪魔してくるがそんなの関係ない。

 そのまま腕を振りぬいて、黒を空中に浮きあがらせた。


 「―――!」


 勝機!!


 空中ならよけれない。防がれるかもしれんが、大ダメージが狙える。

 空中で追撃を掛ける。

 左脚から跳びあがり、右足での打ち下ろし。


 【柊流古武術『大崩』】!!

 

 落下し始めている黒の腹に叩き込もうとするが、これも腕でガード。

 こいつホントに強い。


 それでも完璧に捉えた。

 黒は地面に叩きつけられ、俺はまだ空中。

 まだ終わらせん。

 これで決める!!


 空中で体を縦回転。

 脚に遠心力による運動エネルギーを集約していく。

 喰らえ!!


 【柊流古武術『輪廻』】!!


 地面に横たわる黒に縦回転した踵落としが直撃した。

 が、これも腕でガードされている。

 それでも3度の【柊流古武術】を叩き込まれて両腕がもげたようだ。

 

 その怪我をしても黒は俺から迅速に離れ、様子を見てくる。

 肘から先が無くなり、断面から黒い液体が湯水の如く流れ出している。


 そこで終わりだった。

 あふれ出る水が腕を形成し始め、完全に腕が治った。


 「なっ……!!」


 馬鹿な、無敵?

 待て、落ち着け。良く見ろ。

 体が一回り小さくなっている。

 おそらく声が出せる奴と同じようなもんだ。

 自分の体の体積分を腕に回したんだ。それで流れ出てしまった分と腕を直した分で体が小さくなった。


 「なにこいつ!?」


 「な、なんだぁ!?」


 後ろも同じような状況になっている。

 なんて面倒な奴が来たんだ。

 大声で叫ぶ。


 「メイ、堂本!一撃死を狙え!」


 「オッケー!堂本っち!!」


 「ウッス!」


 後ろは大丈夫だ。『刃』がある限り、攻撃力には困らない。

 問題は俺。

 徒手空拳でコイツを倒すのか。かなりきつい。

 頭を吹き飛ばすしかない。だがそれを突破できる貫通力が無い。

 最低でも『靴』があれば、話は変わっていた。


 クソ。こんな事なら『耳』なんて取るんじゃなかった。


 もしこのゲームに運営がいるとしたら、もう『黒い人物』を終わらせようとラストスパートをかけているのでは?

 それ程強い。強すぎる。

 まだ俺だから抵抗できているが、『目』『耳』『鼻』『地図』ではコイツを倒せない。

 はずれだったのか?素直に『刃』や『靴』を取れば良かった?

 弱すぎないか?耳が良くなるだけ?なんだそれ。逃げるしかできないだろ。

 助かってはきたが、この状況では力が無い人間と同じだ。

 意味が無い。戦わない事が本分と言われたら反論できないが、それだったら『靴』で良いだろ。

 全力で走ればいい。絶対追いつけない。


 ……あるぞ。違う使い方が。それがこの状況を切り抜けられるか知らないが、やって損は無い筈だ。


『耳』!!!



 小さな音すら爆音と化して耳に飛び込んでくる。

 メイが走り回り、堂本の刀が空気を切り裂く。

 黒が拳を撃ち、堂本が喰らう。

 堂本は呻くが、懸命に反撃。

 メイが射撃を敢行しても、矢は空を切るだけで、壁に突き立つ。

 舌打ちが聞こえ、残り少ない矢をリロードする。


 ……足りない。もっと。


 「―――!」


 「チッ!」


 もっと耳を使いたいが、目の前の黒はそれを許さない。

 跳び蹴りを体を動かし懸命に回避する。


 「くっそ!速ぇ!!」


 体が軽くなったおかげか、リーチは小さくなったがさっきより断然に速い。

 通り過ぎた黒を振り返り見れば、再度の突撃。

 というより既に懐。


 「くっ!」


 「―――!」


 右膝を上げ密着状態からでも攻撃を試みるが、黒は左肘を落としこれを防ぐ。

 そして流れるように右肘によって鳩尾を強かに撃ち込まれた。


 「がっは……!」


 「―――!」


 人体の弱点をモロに突かれ、口から涎が垂れ、体が腹を助けようと背中が曲がる。

 目の前の黒を見れば手を組んで頭上に振り上げて―――!


 「がっ!!」

 「―――!―――!」


 鉄塊のような組まれた二つの拳が俺の後頭部を捉え、顔面から地面に突っ込む。

 口や鼻から血が出ているのが分かる。

 ヤバい。死ぬ。強すぎる。

 腕を壊したのは失敗だった。速い。捉えきれない。

 しかも攻撃力があまり落ちていない。

 

 「ぐっ……!」


 地面に手をついて体を押し上げる。

 顔から血が垂れ、視界はグラついている。

 頭を振って必死に立て直す。


 「―――!」


 黒沢夫妻を襲ったような蹴りが俺の顔面に叩き込まれる。

 視界が黒一色に染まり、防御の余地なく喰らい、地面をぼろ屑のように転げまわりようやく停止した。


 「……ア……グ……!」


 黒から離れて立ち上がる余裕ができ、地面を踏みしめしっかりと立ち上がった。

 しかし、ホントにヤバい。

 まだ体に力は入る。まだだ。俺はやれる。

 約束は違えるつもりはない。

 それでも……!


 「ひ、柊さん!」

 「兄貴!」


 後ろで獅子奮迅する二人の声が聞こえる。

 まだ何とかなってるな。

 『耳』で聞けば堂本の呼吸や駆動がおかしい。

 怪我をしたか。


 後ろを見ずに告げる。


 「……メイ、逃げる準備だけはしておけ」


 「そ、そんな……!ど、堂本っち!!」

 「でも姐さん、こいつめっちゃ強くて……!」

 

 堂本も『刃』があってもかなり苦戦しているようだ。 

 メイの援護が有ってようやく持っている。


 「……堂本、もしもの時は頼んだ」


 「……ウッス」


 「な、何言ってんのさ二人とも……!冗談でしょ?」


 無言で返す。


 「……うう」


 くぐもった声がメイの口から漏れた。

 それを合図に堂本が動き出して黒を切りつけようとしている。


 俺の相手である黒はその場から動いていない。


 『耳』!!!!!!


 流れ込む。

 音が。

 もはや何も聞こえない。

 一周通り過ぎた。

 感覚としては白い。

 無。

 何も……?


 「……何だこれは?」


 しかし自分の呟きも聞こえない。

 だが確実に水のような音が聞こえる。

 俺の世界は今やこの音だけ。


 水。


 後ろから?

 ちゃぷちゃぷ。

 ぱちゃぱちゃ。

 今も、次も、その次の瞬間も。

 じゃぶじゃぶ。

 微妙に位置が変わる。

 上だったり、下だったり、右や左。


 何だこれ?


 佇む黒が動き出し、俺に突撃してきた。

 じゃぶじゃぶ。


 黒?黒の音なのか?


 待ち構える。

 右腕。


 首を動かし黒の右拳が俺の頬を掠り通り過ぎた。


 ……左脚。


 そのまま黒が左脚を繰り出すが、身を屈めて回避。


 ……また。


 通り過ぎた左脚が戻り、踵落としが襲い掛かる。

 一歩下がり、回避に成功した。


 そのまま数歩下がり、結論を付けた。


 「音で黒の動きが分かる……!!」


 各パーツで微妙に音が違うし、『耳』のおかげでどこから音が鳴っているか鮮明にわかる。

 他の部分より音が大きいとそこから攻撃が予測できる。

 分かるだけでどんな攻撃かは、やられるまで分からないが、俺には経験がある。


 「これが有れば……!!」


 ただし待ち構えのみ。

 激しく動けば『耳』が使えない。

 カウンター。

 後の先を取る。

 これが『耳』の使い方。

 未来予測に近い形で反撃する。


 黒は俺の動きが突然よくなって、警戒して近づいてこない。

 しかし俺も動けない。

 『耳』を常に使用し続ける。

 勝つにはこれしかない。

 俺からは仕掛けられない。


 どっしりと構え不動を示す。

 俺から動かない事を黒が感づくが、動かない事には始まらない。


 「―――!」


 体制を低くしながら走り始め、あっという間に迫ってくる。

 だが『耳』はそれを見越す。

 地面を踏みしめ跳躍するのを感知し、そこから来るであろう攻撃に備える。


 黒は地面を蹴りそのまま脚を突き出し、胸骨を粉砕せしめんと飛び掛かってきた。

 ゆっくりだが体を捌きつつ、古武術を繰り出す。


 【柊流古武術『断風』】!!


 攻撃面積の大きい右手刀が、蹴りを躱しつつ黒に襲い掛かる。

 上体を立てて跳んでいた黒は、空中で体勢を入れ替え地面と水平にし、『断風』を躱す。

 どちらも攻撃が失敗に終わり、次の手に入る。


 2人とも背を向け、振り返りながら技を出す。

 『断風』の勢いを利用し、左脚を軸に背後に居る黒に蹴りを撃つ。


 【柊流古武術『波風』】!!


 頭に一直線の蹴りは黒の腕で阻まれるが、高威力の蹴りは腕を破壊しもぎ取った。


 「―――!」


 再度腕が破壊され、黒は後ろに下がりながら無くなった腕を直していく。

 さらに小さくなり、ほとんどメイと変わらないようなサイズになった。


 「……破壊し続けても勝てるか」


 一撃死の他の撃滅方法を見つけ、カウンターを中心に戦闘を続けることを決意。

 

 さらに小さくなった黒はスピードを活かしジグザグに走ってくる。

 『耳』が無かったらかなり厄介な動きだ。


 かなりの勢いで走りながら正拳を繰り出す。

 右にダッキングして拳を回避し、そのまま黒の腹に拳をめり込ませた。


 「ラァ!!」

 「―――!」


 軽くなった黒は易々と浮かび上がり、地に足がつかない。

 さらに両手で撃ち込み、黒の体を浮かび上がらせた所でその場で一回転。


 【柊流古武術『旋刃』】!!


 回避する方法が無い黒に右回し蹴りがヒットし、屋敷に吹き飛び家具に突っ込んでいった。

 脇腹を直撃し、かなり抉った感触がある。 

 これでまた小さくなる。


 「……そろそろダメージが飽和するか?」


 その可能性があった事にも気づき、次で決めるつもりで構える。

 『耳』の使用は止めない。

 後ろの二人も何とか頑張っている。

 堂本はかなり攻撃を食らっているな。

 俺が介入できれば流れは変わる。


 家具を吹き飛ばしながら、家の中から黒が現れる。

 体長はもう1m程度。小学生より小さい。

 それにやや動きに精彩が欠け始めている。


 「これで終わりだ」

 

 「―――!!!!!!」


 今まで聞いた事の無いような怒鳴り声を上げながら突撃。

 過去最高の速度だ。

 あいつも決めに来ている。


 『耳』!!


 走りながら、脚方面と腕に強い音が発生している。

 脚と腕を使った攻撃。

 いや、跳びあがって攻撃だ。

 拳がもう俺の顔面に届かず、跳ぶしかないんだ。

 分かれば早い、これで行く。


 【柊流古武術『穿突』(せんとつ)】!!


 「ダラァア!!」

 「―――!!!」


 体を捻りつつ俺の命を奪いに来ている拳を躱し、握り固められた右拳が黒の顔面を穿つ。

 拳は黒の顔面を貫通し、頭から俺の腕にぶら下がり痙攣して液体に変わった。


 「……次だ」


 勝利の余韻に浸る間もなく、二人の援護に向かう。

 走りながら適当なサイズの石を拾い、堂本と戦っている黒に投擲。


 「―――!」


 俺の行動を感知したか、堂本から離れて石を回避。

 俺に視線を寄越し、突撃してきた。


 「す、すげぇ!一人で勝ったんすか!?」


 堂本が何か言っているが今は無視だ。

 こっちに来てくれるなら、好都合。

 すぐさま立ち止まって、『耳』を全開にする。


 水の音しか聞こえなくなり、世界が澄んでいく。


 「―――!」

 

 黒は直前でフェイントを入れて、真っ直ぐ来ると思わせ横移動で左斜めから突っ込んでくる。

 分かってんだよ。


 捻り出される拳を見切り、ゆっくり掴む。

 さらに脚をかけて黒は空中に浮いてしまう。


 【柊流古武術『打叩』(だこう)】!!


 黒の腕を両腕で持ち、地面に叩きつける。

 

 「―――!」


 黒の全身にひびが入り、液体が漏れ出る。

 良い働きだ堂本。かなり傷つけたな。


 仰向けになった黒の跨り、両腕を掌底にしながら防御無視の攻撃を撃つ。


 【柊流古武術『天雷』】!!


 腹にぶち込まれた両の手は衝撃を余さず黒に伝え、黒のひびから液体が大量に飛び出し消えて無くなった。


 そのまま尻から地面に座り、『耳』を解除した。

 水の音しか聞こえなかったが、二人の声も聞こえるようになった。

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