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プロローグ

 世界史に残る大震災から四十三年が経過した。

 復興暦〇〇四三年四月十二日。

 震源地となった街は復興を果たしたが、震災前と較べて犯罪発生率が激増した。犯罪が犯罪を生み、負のスパイラルに陥る日々。

 慢性的な人手不足と組織力の低下に喘ぐ警察をサポートするため、国や一部の民間団体が犯罪者に高額の賞金をかけた。その結果、街には多くの賞金稼ぎが集まった。

 この街の名はネオジップ。どん底から這い上がったばかりで治安も悪いが、活気のある街だ。


     *     *     *


 耳をつんざく轟音に続き、めくれ上がった板張りの床から大量の埃と硝煙が立ち上る。頭部にヘッドセットを装着し、いつでも外に飛び出せる位置に陣取って光線銃を構えている男は賞金稼ぎである。開放された扉から吹き込む風に長めの黒髪をなびかせており、年格好は二十代半ば。

 戦闘中だから当然と言えるのだが、彼はやや目付きが悪い。鋭いというより悪いという表現がしっくりくる。彼はヘッドセットに装着されたマイクに噛みつきそうな勢いで叫んだ。

「聞いてねえぞ! こいつらフルメタルジャケット弾使っていやがる」

 この国において、昔ながらの火薬式の銃は、軍と警察の一部以外の者は所有も携行も違法である。賞金稼ぎが持つハンターライセンスにより携行が許されるのは麻痺光線銃パラライザなのだ。光線銃には麻痺モードの他に致死モードがあるが、対象を破壊する威力に関しては火薬式の銃に遠く及ばない。

「装備も人数も違いすぎる。これじゃ賞金額と見合わないぜ」

『泣き言いわないの、スレッジ。プロなんだからきっちり結果出してよね!』

 ヘッドセット内蔵のイヤホンを通して、少女の声が無責任な返事を寄越す。

「あのなあ、俺は初心者――、げ、きやがった」

 銃撃により見るも無惨な状態となっているが、ここは宿泊用の部屋を持つ飲み屋だった。二階の宿泊部屋へと続く階段の手すりに隠れるようにして、何人かの敵が降りてくる。

「拳銃が三人、自動小銃が二人。だが、これで全部じゃない」

 スレッジは声量を囁くほどにまで抑えたものの、若干ながら緊張感よりも冷静さが勝っている印象だ。

『うんうん。がんばってねー』

 対する少女の返事には緊張感が全くない。

 店内の瓦礫を避け、大胆に転がり込んだスレッジは致死モードにセットした光線銃を迷い無く撃ちまくる。

「おし! 自動小銃の奴、二人とも小銃持ったまま階段から転げ落ちたぜ」

『あっ、スレッジ上、上!』

 暗転。

 そして、画面には“ゲームオーバー”の文字。


「……面白くねえ」

 ヘッドセットを取り外し、ドアを開けて出て来たスレッジに向かって、少女が手を振っている。彼女に微笑み返し、スレッジは大股で歩いていく。彼の身長は百八十四センチだがスリムな体格をしており、あまり賞金稼ぎらしくは見えない。

 すぐそばまで行くと、少女は意地の悪そうな笑顔を向けてきた。どうやらシミュレーションゲーム機の外に設置されたモニターでスレッジの“戦闘”を観察していたようだ。

「スレッジ、へったくそー。仮にもプロでしょ?」

 肩までの長さの赤毛を持ち、鳶色の大きな瞳が印象的だ。身長百五十七センチ、細身で小柄な十七歳の少女だ。

「だーかーら。俺は初心者だっての、ミリィ。ゲームのプロなんかじゃねえ」

 歯を見せて苦笑した後、スレッジは彼女——ミリィをまじまじと見る。

「な、なんだよお」

「いや、ミリィって女の子だったんだなあ、と」

「ぼ、僕だってスカートの一着くらい持ってるんだからねっ」

 デートだから着てきた、という言葉は声に出さずつぶやく。すらりと伸びた白い脚を腿のかなり上まで露出している。稀にショートパンツを穿くこともあるにはあるが、一年のほとんどを長丈ジーンズで過ごすミリィとしては“冒険”と表現しても構わないほど珍しい服装なのだ。

 また、透かし編みのニットプルオーバーの下にはタンクトップが透けて見える。いつものだぶだぶTシャツだと目立たない双丘が今日はやけに存在を主張しており、スレッジはそれとなく視線を逸らす。

(見て欲しいからこそのコーディネートなんだけどなぁ。やっぱ、僕には似合わないのかな)

 そんな彼女の気分を知ってか知らずか、スレッジはさっさとゲームセンターの出口を目指す。

「さ、そろそろメシにしようぜ」

「うん……、あ」

 あわててついていくミリィは、下を向いて小声でつぶやく。

「あのさ、ごめんね」

「あん? なにが」

「スレッジにとって僕が子供だから、もう半年も経つのにこんな色気のない場所でしかデートできなくて」

 立ち止まったスレッジの背にぶつかり、ミリィは鼻を押さえた。

「ふわ! なにいきなり止まってんだよう」

「そっか。子供扱いは嫌か。じゃ、大人の付き合いをするか?」

 ミリィの頬が赤く染まる。すぐに声を出せないのはスレッジの背にぶつかったからではなさそうだ。

「……あわてるなよ、ミリィ。今のままでしばらくいようぜ。無理に俺に合わせようとすることはない。無理や背伸びはすぐに息切れして楽しくないぜ」

 決して笑ったりせず、諭すように言うスレッジに、ミリィはやや悲しげな顔で応じた。

「それってやっぱり、僕には魅力がないってこと?」

「もしかして自覚がないのか? くそ、やっぱり言葉にしないとまずいか」

 彼はそう言って深呼吸した。

「ミリィがあんまり可愛いんで、直視するのが恥ずかしいんだよ。……あれ、これって褒め言葉にはならないか」

 ミリィはさらに顔を赤らめ、ふるふると首を横に振る。

「あともうひとつ。お前、男は魅力的な女の子には必ず襲いかかるって思ってるんじゃないだろうな。偏見だぜ、それは」

 ミリィは俯いたが、次に顔を上げた時にはもう笑っていた。

「ま、いっか。スレッジがいいのなら、しばらくこのままでも」

 溜息をつき、スレッジの左腕に自分の腕を絡ませたミリィは小声で「本当はこのままだなんて不満なんだけどさ」と呟く。

 スレッジは真面目くさって目を閉じ、右手の人差し指を立てて言った。

「本当の満足が何か想像もつかないうちに不満を解消しようとしても、失敗するもんなんだぜ。人生って奴は」

「ぷっ」

 噴き出すミリィに後頭部を掻いて見せ、スレッジは「見抜かれてるとは思うが、俺も偉そうに言うほど人生経験なんて積んでねえもんな」と言って笑った。

「正直な話、俺はまだあわてなきゃいけねえほどの歳でもないし、今さらがっつくような歳でもない。ミリィなんてまだまだこれからじゃねえか」

「んー」

 返事なのか唸っているのか不明な声を発したミリィはどこか思い詰めた表情で目を閉じた。

「僕はスレッジの妹みたいな立ち位置じゃ不満だよ」

 耳まで真っ赤に染まるのも構わず、目を閉じたまま抑えめの声ながらも一気にまくしたてる。

「前にも似たようなこと言ってたよね、大事だから簡単に手を出さないって。その気持ちは嬉しいよ。でも、この先ずっと妹のままだなんて……嫌」

 目を開き、上目遣いにスレッジを見上げた彼女は——。

「……っふぁ!」

 口に手を当てたが、遅い。呑み込んだ息が音を立てるのを止められなかった。

 スレッジの瞳は、いつもの三白眼ではない。伏し目がちの穏やかな視線をたっぷりと浴び、彼女の思考は停止した。

 束の間の凍結を経て、なんとか意識を再起動させる。

 いつまでも視線を絡めていることに耐えられず、視線を左右に泳がせた。

 両肩に優しく手を乗せられ、再びスレッジと視線を絡めることになってしまう。もはや彼女は自分の口が半開きになっていることにも気付かない。

 おでこに柔らかい感触。

「……今日のところはこれで勘弁な。とにかく今は楽しむことを優先しようぜ」

 わずかに瞳を揺らした後、閉じるほどに目を細めたミリィは元気に返事をした。

「うん!」

「そうそう、その顔だよ」

「もう。なんだよそれ……」

 そう言いつつも破顔するミリィの肩を抱くと、スレッジはファーストフード店へと歩いていった。

 一瞬だけ、ミリィとは逆側に顔を向けたスレッジの視線が後方をちらりと睨む。

 すぐに彼女へ視線を戻すと、何事もなかったように時折大笑いしつつ他愛もない会話を交わす。その日はもう、後方に視線を走らせることはなかった。

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