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悪役令嬢の処刑を見届けた七人が、一人ずつ壊れていく話  作者: 秋月 もみじ


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第10話 七つの仕事


 贖罪、という言葉は嫌いだ。——罪が贖えるなら、あの人は死ななくてよかった。


 手紙が開封されてから一ヶ月。七人はそれぞれ動き始めた。

 償いと呼ぶのも違う。返せないものを返そうとしている。フローラが一人でやっていたことを、七人がかりで引き継ごうとしている。一人の令嬢が背負っていた荷物を、七人の大人が分け合って、それでもまだ重い。


 殿下は、父王に王位継承権の返上を申し出た。

 却下された。「王家の恥を増やすな」と。殿下は黙って退室したらしい。バルドゥールが後で教えてくれた。「殿下は黙って頭を下げていたよ。二度。あの方が人に頭を下げるのを、老生は三十年で初めて見た」と。宰相の声が、少し震えていた。

 殿下はその後、薬草茶がなくなった後の体調悪化について侍医に正式に報告した。呪い病の進行を抑える処方がフローラの調合だったと認め、代替治療の研究を命じた。自分の弱みを晒すことが、殿下にとってどれほどの決断だったか、俺にはわかる。


 リリアーナは薬草園に通い始めた。毎朝五時に。フローラ様と同じ時間に。治癒魔法は精霊なしでは満足に使えないが、水やりに魔法はいらない。土をいじったことのない白い手で、不器用に鉢を並べ替え、枯れた株を抜き、新しい土を入れている。爪の間に土が入ると、あの人を思い出すと言っていた。「フローラ様の爪はいつも少し黒かった。あたしはそれを——汚いと思っていた」。今は自分の爪が同じ色になっている。


 バルドゥールは北方ヴィンテル王国との同盟修復に、個人の名前で書簡を送った。宰相の肩書きではなく、「バルドゥール」個人として。「フローラ嬢を処刑した判断に関与した者として、弁明ではなく事実をお伝えします」。三十年間の外交で、弁明なしの書簡を書いたのは初めてだろう。返答はまだない。


 マリーはフローラ様の手帳を手に、薬草茶の再現を試みている。調合の手順は暗記している。だが精霊の加護なしで育った薬草では、同じ効果は出ない。毎日少しずつ配合を変えて、侍医に確認してもらっている。先週、鍋を焦がした。「フローラ様、こんなの目をつぶっても作れるって言ってたのに——あたし目をつぶったら鍋焦がしました」。泣き笑いの顔だった。マリーの手帳には、失敗した配合がびっしり書き込まれている。フローラの字の横に、マリーの丸っこい字が並んでいる。


 クラウス公爵は、フローラの精霊研究を公爵家の書庫から発掘し、公開に踏み切った。五十年間秘匿されてきたローゼンベルク家の精霊資料。代々の当主が「家の恥」として封印してきたものだ。家臣たちは反対したが、公爵が一言「私の判断だ。それだけだ」と言って黙らせた。あの人は、娘を切った時と同じ口調で、娘の遺産を守る判断を下した。


 オスカー神官長は、精霊研究の解禁を王に進言した。禁書庫の閲覧手続きを三ヶ月から一週間に短縮する改革案も同時に提出した。若い神官エミルと二人で、夜通し提案書を書いたらしい。「三十五年遅い」と本人が言った。「だが、遅いからやらないとは二度と言わない」とも。


 そして俺は北方に向かう準備をしている。


 ◇


 庭の東側を掘り返したのは、手紙を開封した翌日だった。


 マリーとリリアーナが見守る中、俺がスコップを入れた。土は固かったが、三十センチほど掘ると、小さな木箱が出てきた。フローラの字で「シルヴァへ」と蓋に書いてある。


 中身は二つ。


 一つは、月下草の種。麻の小袋に入っていた。袋の口を開けると、かすかに本当にかすかに——甘い匂いがした。枯れた薬草の腐敗臭ではない。生きている匂い。フローラが育てた種は、土の中で眠ったまま生きていた。


 もう一つは、折り畳まれた紙片。精霊シルヴァへの最後の頼み事だった。


「シルヴァ。春になったら、この種を温室の真ん中に植えてほしい。私の代わりに水をやってくれる人がいるはずだから。たぶん、不器用だけど、きっと大丈夫。あなたは人見知りだけど、少しだけ辛抱して」


 リリアーナが泣いた。声を上げて。

 マリーは泣かなかった。代わりに月下草の種を両手で包んで、何か呟いていた。祈りではない。フローラへの約束だったのだと思う。


 ◇


 種を温室の真ん中に植えた。

 フローラの指跡が残る土の上に、小さな穴を掘って、種を一粒。手帳に書かれていた通り、日向に半日置いてぬるくなった水を注ぐ。フローラの字はここでも丁寧だった。水の温度、土の深さ、種の向き。あの人はこんな小さなものにまで、手順書を残していた。

 誰かが引き継ぐことを、信じていたのだろうか。それとも誰も引き継がなくても、書かずにはいられなかったのか。


 芽は出ない。翌日も、その翌日も。一週間経っても、土の表面は静かなままだ。


 精霊の加護がなければ月下草は育たない。オスカーが見つけた文献にもそう書いてあった。種を植えたところで、精霊がいなければ。ただの種だ。土の中で腐って終わる。


 でもフローラは「植えてほしい」と書いた。あの人は無駄なことはしない。方向音痴で、自分の価値に気づかなくて、護衛を断るくせに一人では薬草園にも行けない人だったけど——無駄なことだけは、しない人だった。

 あの人が「植えてほしい」と書いたなら、植える意味がある。俺にはわからなくても。


 だから待つ。


 ◇


 俺は北方に発つ前に、リリアーナに水やりを頼んだ。温室の入口で、朝の光が差し込む中。


「朝と晩。冷たい水じゃなくて、日向に置いたぬるま湯。——フローラが書いた通りに」


「……ええ。わかっています」


「頼む」


 リリアーナが頷いた。その目に、三ヶ月前の嫉妬の色はなかった。代わりにあったのは何だろう。覚悟、に近いものだった。フローラの代わりにはなれない。でも、フローラが残したものを枯らさないことはできる。


 俺は温室を出て、北の門に向かった。馬に荷を括りつけ、鐙に足をかける。

 振り返ると、温室のガラスの向こうで、リリアーナが月下草の前にしゃがんでいた。フローラがいつもそうしていたように。膝をつき、手を土について。


 フローラが守ろうとした同盟を、俺が修復しに行く。フローラの通訳がいなくなった穴を、俺の片言の北方語で埋められるとは思わない。でも行く。行かなければ、「何もしなかった」がもう一つ増える。


 芽は、まだ出ない。

 でも、種はまだ死んでいない。

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