4 巨体躍動
補給を終えたモルフォに乗り込み、再び砂海へと飛び出す。俺が離脱している間にも戦場は動き、狙いやすい位置のイボはだいぶ破壊されたようだ。見ている間にもいくつもの砲撃が撃ち込まれ、途切れることのない爆炎の華が敵を次々と焼いていく。砲弾の直撃を受けたイボが吹き飛び、砂漠轟虫が苦しそうに身じろぎする。
「パターンが変わった?」
俺がそれに気づいたのは、敵と距離があったからにほかならない。つまり、タイミングがよかった。近くにいるプレイヤーはすぐには気づけなかっただろう。これまでただ動きながらワームを生み出し続けるだけだった砂漠轟虫が、明確な狙いをもって首を傾ける。おぞましいその口が広がり、中で大量の砂がうごめき、放たれる。
轟っ! と、極太の砂のラインが、砂漠の空を切り裂く。狙われたのは、正面から砂漠轟虫に挑んでいた主力艦隊。直撃を受けた一隻が船首から船尾までをまっすぐに貫かれ、なすすべなく砂の海に巨体を倒していく。
「おいおい。スーパーヘビー級が一撃かよ……」
しかもあの速度だ。予備動作があるとはいえ初見殺し性能が過ぎる。いや、やられたのはNPCの艦だから、これは演出の一環と見るべきか。
防ぎようがないあたったらやばい系の攻撃。動きから弾道予測は可能だし、さすがに連発はしてこないと思うが。などと思っていると、砂漠轟虫の口内に再び砂が集まり、今度は無数の小さな、とはいえ俺たちからすれば十分すぎる大きさの砲弾となって吐き出される。
「完全に第2フェーズ入ったな」
トリガーは、イボの破壊数だろう。攻撃を開始した砂漠轟虫の砲弾は単体で取り巻きの攻撃全部を上回るほどの物量を誇り、これまでがお遊びだったと言わんばかり圧倒的な暴力で艦隊を襲う。
幸いは、口から吐き出される都合攻撃が1方向に限定されていることだろうか。砂漠轟虫の向いた方向への攻撃は苛烈極まりないが、それ以外の艦はこれまで同様に攻撃ができて、狙われたときだけ防御に専念すればいい。
ただ、大問題として防御に優れたサンドシップの絶対数が少ない。
点ではなく面で迎撃できるプラズマウォールや、即着弾の性質ゆえに飛来物を高確率で撃ち落とせるレーザーなど、防御に向いた装備はエネルギー兵器に偏っている。ただ、実弾兵器の場合は火砲本体や弾薬庫に、エネルギー兵器はエネルギー生成設備に、それぞれ多くのスペースを要求されるため、大型艦だろうとどちらか一方をメインに据えるのが主流だ。そして艦が大型化するほど、攻撃面では実弾兵器がエネルギー兵器を圧倒する。実弾兵器が持つ弾薬重量の問題は大型艦ほど気にならなくなるし、なにより距離減衰の激しいエネルギー兵器は砲撃戦の間合いでは使い物にならない。単独運用するならエネルギー、艦載機運用なら実弾とわけられることの多いライト級と異なり、ミドル級以上は攻撃用か防御用かで兵器の種類が変わるわけだ。
ただここで問題になるのが費用と収入の問題である。防御艦は別名被害担当艦。RPGでいうところのタンクのように、もっとも攻撃を受けやすい位置に配置される。しかしこのゲームのバランスでは、どれだけがちがちに防御を固めようと同格以上を相手に無傷で勝つなんてことは不可能だ。どうやったって防御艦は被害が増えて修理費用が嵩む。そのうえ敵を倒した時の報酬は撃破した艦のインベントリに入れられるため、収入面も見込めない。攻撃型の艦と違って単騎での運用も厳しい。そう言った理由から、一つのギルドでヘビー級以上を複数運用するか、俺たちみたいにギルド同士で同盟を結んで固定の艦隊を造るでもない限り、防御艦が使われることはない。それでいてちょうど今みたいな状況では、あるか、ないかで艦隊の受ける被害は劇的に変わる。
「早く決着つけねえと艦隊が壊滅するぞ……」
なんて危機感を覚えても、できることは変わらないわけで。ついでに言えば砂漠轟虫の攻撃は遠距離砲撃を仕掛ける大型艦に向いていて、下でちまちま取り巻きを削っている俺たちに向けられることはない。やるべきはさっきまでと同様である。とにかく目についた端から雑魚の頭に機関砲を撃ち込むだけだ。
そうしているうち、大型艦の砲撃でイボがいくつか壊されたらしい。砂漠轟虫がわかりやすく大きくのけぞり、これ見よがしにみじろぎする。
体力減少による特殊行動。俺と同じ結論に達したか、ふと見たチャットには待避の文字が連打されている。攻撃から、回避へと。意識と動きを切り替える。
直後、砂の嵐が襲ってきた。
「弾幕ゲーかよっ!」
正体は、砂漠轟虫の岩のような表皮の隙間から放たれる砂の弾丸だ。近くに、遠くに。ふざけた量の砂弾が撒き散らされ、敵味方問わず戦場の全てを襲う。
幸い1発1発の威力は低い。数発の被弾は許容範囲と割り切り、極力攻撃の密度の低いところへと。
視界が悪い。被弾もなるべく避けるべきだが、最悪なのは接触事故。他の船とは常に距離を保ちつつ、砂弾の動きを見極め船の軌道を微調整していく。
嵐が過ぎ去るまでの時間は、1分もなかった。しかし、苛烈な攻撃に被害は大きい。周りを行き交う味方サンドシップの数はごっそり減っていて、半数以上が落ちたようだ。俺のモルフォも無傷とはいかない。3割くらい削れた。
だが今度はこっちのターンだ。広範囲に砂弾をまき散らすという特殊行動を終えた砂漠轟虫は動きが止まり、隙だらけ。砂弾に巻き込まれたのか取り巻きのワームも一気に数が減っており、今なら近づくこともできるだろう。
「やってやるよ」
ブーストを焚く。急加速する視界の中、右に左にワームを避け、砂漠轟虫の体の下に突っ込んでいく。砂漠轟虫の体の下部にあるイボは、放物線を描く遠距離からの砲撃では破壊のしようがない。壊すのはライト級の役目だ。
特殊ダウンが終わったのか、砂漠轟虫の体が動き出す。それもこれまでみたいに単純な前進じゃない。行動パターンの変化。ギチギチと巨大な体を鳴り響かせ、全身でうねるように躍動する。
だけど。そう、だけど。もう潜り込んでいる。
「ここだ」
砂漠轟虫の動きは想像以上に早い。だがそこに機敏さは皆無だ。でかい船がそうであるように、急な制動や方向転換はできないのだろう。
動きを読み、偏差をつけトリガーを引く。徹甲榴弾ではなく、近接砂上魚雷。
それは、砂の海をはねる魚雷だ。砂にあたるたびに跳弾するという性質のこの魚雷は、跳ねるたび加速度的に悪くなる精度と、そもそも射程が短いという欠点を抱えているものの、一撃の破壊力では戦艦の主砲に勝るとも劣らないものを持つ。近距離から大火力を見舞う、ライト級サンドシップのまさに切り札である。
2発の砂上魚雷が砂の海に尾を引き、砂漠轟虫の巨体に突っ込む。強烈な衝撃が機体を駆け抜け、赤と黒で彩られた爆発のエフェクトが散る。
戦艦の主砲に匹敵する破壊力に直撃したイボが砕ける。あまりに巨大な砂漠轟虫が、無視できないダメージに悶える。
「これまでか」
意図したものかはわからない。ダメージを負った砂漠轟虫が落ちてくる。視界のすべてを埋めるかのほどのそれは、天が落ちてくるかのごとき圧であり、攻撃範囲だ。面攻撃なんて次元じゃない。
モルフォの素の速度はリムルスより下。ブースターの急加速は残燃料的に厳しい。それでもどうにか逃げきろうとしてみたものの、速さが足りず、俺はサンドシップごと砂の海に砕け散った。
次回投稿予定は明日12時です。
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