3 前哨戦
見つけた端からワームに砲撃を浴びせつつ、本丸へと近づく。機動力では大型艦を圧倒的に上回るライト級だ。艦隊から飛び出し小規模な群れを処理しながら接近。もちろんいきなり本体を狙えるとは思っていないし、下手に近づくと味方の砲撃に巻き込まれる恐れもあるが、接近し情報を得ることがまずは重要だ。何しろまだ遠くから姿を確認しただけで、詳しいことはほとんどわかっていないのだから。
そうして、距離を詰めるほどによりはっきりしてくるのは、敵のあまりの巨大さだ。砂漠轟虫は言わずもがな。周りに百近く存在する取り巻きのワームさえ、一般には大型と分類されるサイズである。
接近した俺の存在に気づいたらしく、大ワームが2匹、こちらに顔を向ける。おぞましい歯の並んだ口が開かれ、奥から砂の塊が吐き出された。
余裕を持って回避。お返しに25mm機関砲を撃ち込む。実弾兵器は弾薬で重量が嵩み、積載量の余裕がないライト級では弾切れを起こしやすいが、瞬間火力ではエネルギー兵器を大きく上回る。特に今回使っているのは対生物用として最大の破壊力を発揮する徹甲榴弾だ。
突き刺さった砲弾が爆発し、前にいたほうの大ワームが派手にのけぞる。さすがにそれだけで殺すまではいかないが、かなりのダメージは与えられただろう。
攻撃した大ワームの側面を抜け、さらに次のターゲットを狙う。サンドシップは揚力と推力を同時に発生させる性質上、常に前に進み続けなければならない。動きを止めて砂に船底を着ければ、再び動き出すのにも時間がかかり、ただの的になってしまう。ゆえにこうやって敵が複数いる場合、一体を倒しきるまで攻撃し続けるのは非効率の極み。とにもかくにも狙い目の敵を見つけては辻斬りのごとく攻撃を仕掛けて総ダメージを稼ぐ方が結果的に貢献できる。今回の場合は、とにかく弱点の頭を狙えるワームを大きさにかかわらず撃ち抜いていくべきだ。見たところ砂漠轟虫が出しているのは小さい通常のワームだけだから、大ワームは倒せば倒しただけ数を減らすし、通常ワームも数が際限なく増えていくのを防げる。
俺と同じ考えに至ったから、というよりシンプルに本体まで弾が届かないためだろう。俺たち以外にもライト級に乗ったプレイヤーが次々とワームの群れを攻撃し、それに遠距離からの砲撃が混じる。
敵だってただやられるだけではない。ワームの攻撃手段は砂の塊による砲撃と飛びかかり。大ワームもこの辺りは共通で、体格の分だけ範囲も威力もあるが予備動作も大きい。ちゃんと見ていれば避けるのはそう難しくない。
ただし、数の多さが尋常でない。こっちがそうであるように、敵だってお行儀よく1対1を守るはずもなし。前から、横から、後ろから。敵の攻撃も味方の攻撃も入り乱れ、絶え間なく轟音の鳴り響くさまはまさに戦争のようだ。いつどこから飛んでくるかわからない攻撃に当たれば脆いライト級などあっさりと破壊される。
そうならぬよう視野を広く保ち、飛んでくる攻撃は余裕を持ってかわす。ぎりぎりを狙おうとすると予想外の事態に対処できないからだ。
と、弾切れ。
モルフォの容量100発だけじゃやはり最後まで持たない。まだ序盤だが、弾がなければ戦えないので、一度母艦へと帰投する。
◆
黄昏の乙女号の中は、こちらもこちらで戦場だった。暁を中心とした後方支援チームが走り回り、声が飛び交う。俺みたいに弾切れで、あるいは撃破されて戻ってきたパイロットの船への補給、修理。やるべき処理自体は艦の設備があるので簡単だが、今回イベントに参加したギルドメンバー88人中、支援チームはわずか6人。物量が処理能力を超過している。
俺たちももちろん手伝いはするが、それより前にやらないといけないことがある。
情報交換だ。ライト級に乗っての戦闘中は、チャットを確認する余裕なんてない。特に今回みたいな乱戦では。だから必要な指示は母艦に戻ったときに受けるのが基本だし、同時に俺が得た情報を伝えるタイミングでもある。指揮系統を確立させ情報の取りまとめをスムーズに行うことは、上位のギルドたりうる必要条件だ。
俺は急ぎ足で作戦指揮室に向かう。そこにはほかにも一時帰投したプレイヤーが集まっていて、指揮チームを中心に手早くやり取りが行われていた。
「おっ! ソルト。戻ったか」
「弾切れでな」
ギルドマスターのトワに短く返し、得た情報を手短に伝える。
「ふむ。やはり周りのワームはでかくてもそう特徴はないんだな。通常個体と同じく弱点は頭で間違いなさそうだし。あえて特徴を言えば、長射程の砂弾がこの位置でも飛んでくることくらいか」
「それ結構厄介じゃないか?」
「この艦隊にはサンダーソニア号がある。あれのプラズマウォールで大部分は迎撃してくれる。もっとも、フリゲート艦のないほかの艦隊だとかなり被害が出ているようだが」
「あいかわらずライトニングたちは仕事をするな」
「それがうちの役目ですから」
「ああ。感謝している。それで、取り巻きはまあいいとして、問題はやはり本体だ。とりあえず、表皮がとんでもなく硬い。イボ以外は46センチの徹甲弾でも弾かれる」
「なるほど。じゃあフジツボ破壊が攻略法と見て間違いねえか」
「フジツボ言うなし」
「問題は、イボを破壊するほど残ったイボからのワームの出現数が目に見えて増えていることですね。後半ほど難易度が上がるというのはわかるのですが……だからこそ、できれば破壊しにくい位置のイボを早く壊しておきたい」
「それはまあわかるが、俺らの艦隊が狙いやすいやつを無視してもほかが狙うだろ? フジツボ破壊が目標なら達成報酬が出るのはまず間違いないし」
「わかってるさ。ただ、このままだと最後に残るのはおそらく体の下にあるイボだ。遠距離砲撃は弧を描くから、アーチになってる敵の体の下側には弾があたらない。ライト級で近づいて狙うべき場所だ。もちろん、周りが邪魔でろくに近寄れないことは理解しているが」
「覚悟しておけってことか」
トワが頷く。
「とにかく、今は引き続き取り巻きの処理を頼む。特の大型のやつ。あれらがいなくなれば遠距離砲撃組はかなり楽になる。砲撃支援でほかの雑魚も一掃できるはずさ」
「了解した。なら、俺はそろそろ行かせてもらうぞ」
「ああ」




