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砂漠轟虫討伐戦 砂海を往くものたちのMMO戦記  作者: すばる


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1 クレストムーンの異変

 砂の海を、体長数メートルのワームが群れて泳ぐ。広く、美しい砂海に潜り込んでは顔を出し、上下に激しく動く彼らの通った後には群れの数だけ轍が残り、しかしそれはすぐ、砂に呑まれて消えていく。

 俺はワームの集団を追いかけるようにサンドシップの舵を切った。船、と名付けられているが、サンドシップは砂をかき分け進むものではない。リポーションスラスターが生み出す揚力と推力を頼りに、砂地から数十センチの高さを飛ぶのである。ゆえに動きはとても素直。特にひとり乗りのライト級サンドシップは、自転車よりも小回りが利く。その機動力を存分に活かし、泳ぐワームの背後へ。

 旋回砲塔は当たらないというのが俺の持論だ。高速で動き回りながら横に射撃したところで、慣性の働きで思ったところへ飛ばすことすら難しい。だから俺のサンドシップはどれも前方にしか砲を積んでおらず、今乗っているリムルスも装備は固定のレーザー砲が2門だけだ。

 機体ごと照準を合わせ、射撃。二条の緑の線が空中を走り、ワームの一匹の頭部を貫く。一撃で死んだワームは一度大きくのたうつと砂の海に身を沈め、さらさらと風化するように消えていく。同時に、サンドシップのインベントリにドロップアイテムの送られた通知。戦果の詳細はあとで確認すればいいと視界の端を流し、次々とワームを仕留めていく。

 無論、ワームとて一方的に狩られるだけではない。反転し口から砂の砲弾を撃ち出してくるもの。砂に潜り近距離から飛びかからんとするもの。主たる二種類の攻撃方法を軸に、それぞれが反撃に転じてくる。とはいえ砂弾は眼で見て避けられる程度の速さしかないし、飛びかかりも直前に砂が盛り上がる。対処可能な攻撃しかしてこないなら、あとは如何に失敗せず、効率よく処理していくかだ。攻撃を避けつつ、狙いやすい敵から撃ち抜き確実に数を減らす。5分もすれば、敵の姿は砂の上から消え去った。



 はじまりの街ティルウガイ。別名白の街。巨大なオアシスをたたえるティルウガイは物語の舞台となる砂漠国、クレストムーンの王都であり、デザートライダーというMMO世界の、文字通り中心地だ。多くの人(PC)と人(NPC)が行きかう街並みを歩いて、俺は一等地に立つ三階建ての建物に入る。

 ティルウガイが白の街と呼ばれているのは、石灰岩をふんだんに用いて作られた美しい街並みによるものだ。強い日差しから身を守るため、クレストムーンの街や村では白色がよく使われるが、清掃の行き届いたティルウガイの街並みは一層美しい。

 だけどそれはある意味過去形だ。デザートライダーの世界に降り立ったプレイヤーたちが、統一された街並みなどお構いなしとばかり、それぞれの個性を主張した家を建て始めたからである。ゲームで無駄に不快指数を上げる意味もないと、プレイヤーは砂漠でも暑さ、寒さを感じることはない。デザートライダーには空腹値や環境ダメージの概念もないので、断熱や風通しを気にする必要もない。もちろん中には景観を意識して白ベースの拠点を建てるプレイヤーもいるが、全体の半数以下だろう。

 俺の所属するギルド、サンセットも特に景観を意識はしていない。白い建物が並ぶ中で明らかに浮いたオレンジの壁。軒先には夕日をイメージしたギルドの旗が掲げられ、自分たちの存在をこれでもかと主張する。もっとも、いろいろとネタに走ったプレイヤーホームと比べれば、これでもおとなしい方だ。少なくとも俺たちは建物の壁に美少女の絵を描いてはいないし、全部をガラス張りで造ったりもしていない。

「あっ! ソルト帰ってきた。おかえりー」

「ああ。今戻った」

 ちょうどギルドハウスの玄関にいた少年、バイバインに片手をあげて挨拶をする。

「なんかいいもんあった?」

「いや。だがやっぱ外はワームだらけだ。この辺じゃ普段はまず見ねえのに。ワーム素材集めるんなら今が狙い目だな」

「もう市場にあふれかえってるよ」

「だよな」

 イベントの告知、というかNPCの口にその話題が上がったのは5日前のことだ。いわく、成長しきったワームの最終形態、砂漠轟虫は定期的に住処を移動し、その進路上にティルウガイが位置していると。

 砂漠轟虫の移動は、一種の災害だ。普段俺たちが狩っている3メートルクラスのワームは砂漠轟虫の幼体であり、大量に生み出されてはそのほとんどが駆逐されながらごく一部がより大きく成長していく。その最終形態である砂漠轟虫は王城ほどに巨大で、さらに周囲には多数のワームの幼生体、成長体を伴うという。

 通常、砂漠轟虫のルート上に存在する村は、ルートが確定した時点で集落を捨て置いて避難する。どうあっても防げない災害。ならば人間にできることなど逃げるよりほかにないというのが、共通認識なのだ。だが今回ルート上におかれたのは王都ティルウガイ。ティルウガイを砂漠轟虫が横切った場合、はたしてどれほどの被害が発生し、復興にどれだけの時間がかかるか。またティルウガイは、クレストムーン最大の都市であると同時に、最大のオアシスだ。街の近郊には農耕地帯が広がっていて、潰されれば食料生産が必要量を割る。災害のごとき強大な魔物に立ち向かわねばならない窮地に国は一大決戦に臨む決意を固め、プレイヤーに対して広く協力を要請した。

 これが、イベントの概要だ。砂漠轟虫討伐作戦の決行は2日後。万全の態勢で決戦に臨むべくできる限り砂漠轟虫を引きつけ、かつ最悪の事態に住民が避難できるぎりぎりのタイミングが2日後なのだそうだ。たぶん、2日後が日曜日だからそれに合わせたというのがメタな考察。

 決戦はおそらく、レイドを超えたレギオン規模の戦闘になるだろう。イベントに向けて各地に散っていた多くのプレイヤーがティルウガイに集結しつつあり、俺たち以外にも有名どころのギルドやプレイヤーがちらほらと目につく。現在は決戦までの間、少しでも砂漠轟虫の戦力を削るべく周囲のワームの討伐が推奨されていて、決戦へ向けて徐々に空気が緊迫しつつある状態だ。俺たちもワームの間引きをこなしつつ、並行して弾薬や燃料の調達、装備の更新など決戦の準備を着々と進めていた。

「ソルト。戻ったか。暁から伝言だ。要望通り、徹甲榴弾は500発は確保した。ただ上級弾薬の取引価格が高騰してる。これ以上徹甲榴弾を増やすのはきつい。だそうだ」

 談話室で、ギルドマスターのトワが教えてくれる。

「わかった」

 500発もあれば、通常のレイド戦なら十分だ。今回の砂漠轟虫戦はそれでも足りる保証はないが、財布担当がここまでと言った以上用意された分でやりくりするしかない。

「通常弾はあるんだよな?」

「それは問題ない。自己生産できるし、ストックも十分だ」

「なら、弾切れで戦えなくなる心配は不要か」

「ああ。だが今回のではうちもかなり出費してる。その分成果を出さないと大赤字だそうだ。頼むぞエースパイロット」

 そう言って、トワが肩をバシバシ叩いてくる。

「……わかった。なら、期待された分だけこたえるよ」

 あまりプレッシャーかけるのはやめてほしいのだが。


次回投稿予定は明日12時です。

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