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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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学院の頂点へ


 生徒会長に就任したアリシアは、すぐに改革を始めた。

 まず、平民生徒への支援制度を拡充した。

 奨学金の増額、教材の無償提供、寮費の減免。

 それらすべては、アリシアの私財から出されていた。

 故に――それを知った多くの平民生徒が、アリシアに感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます、アリシア会長!」

「これで、勉強に専念できます!」


 彼らの笑顔を見て、アリシアも嬉しそうに微笑んでいた。

 僕は、その光景を遠くから見ていた。


「これは……違う」


 小さく呟く。

 原作ゲームでは、アリシアは平民を見下す悪役だった。

 でも今のアリシアは、平民を助けている。

 完全に、逆だ。


「結城様」


 アリシアが、僕を呼んだ。


「はい」

「どう思いますか? この改革」

「……素晴らしいと思います」


 嘘じゃない。本当に素晴らしい。

 でも、僕が求めていたものとは違う。


「でも、貴族たちからは反発が出るでしょうね」

「ええ、既に何人かから批判を受けましたわ」


 アリシアは、少し寂しそうに笑った。


「でも、構いません」

「正しいことをしているのですから」


 その姿は――聖女のようだった。


 次に、アリシアはいじめ対策委員会を設置した。

 学院内のいじめを撲滅するため、専門の委員会を作る。

 被害者の相談窓口を設け、加害者には厳正な処分を下す。


「いじめは、絶対に許しません」


 生徒総会で、アリシアは宣言した。


「弱い者を虐げることは、卑劣な行為です」

「この学院から、そのような行為を根絶します」


 会場から、大きな拍手が起こった。

 特に、下級生たちが熱狂的に支持していた。


 僕は、また遠くから見ていた。

 アリシアは、完璧だ。

 でも――完璧な悪役じゃない。

 完璧な聖女だ。


「これでは……」


 計画が、完全に崩れている。

 アリシアを悪役に育てるはずが、逆に聖女にしてしまった。


 ある日、僕は中庭でアリシアと話していた。


「アリシア様、最近の評判を聞きましたか?」

「ええ。多くの生徒が、私を支持してくれているそうですわね」


 アリシアは、嬉しそうに微笑んだ。


「でも、それは本当に望んだ形ですか?」

「どういう意味ですか?」


「アリシア様は、権力を握りました」

「でも、その権力は『恐怖』ではなく『尊敬』に基づいている」

「それで……いいのですか?」


 アリシアは、不思議そうに僕を見た。


「なぜ、恐怖で支配しなければならないのですか?」

「それは……」


 言葉に詰まる。

 なぜ? 確かに、なぜだろう。

 僕が求めていたのは、悪役令嬢だ。

 でも、なぜ悪役である必要があるのか。


「結城様、あなたは本当に何を求めているのですか?」


 アリシアが、真っ直ぐに問いかけた。


「前にも聞きましたが、あなたはまだ答えてくれません」

「あなたは、私を何にしたいのですか?」


 僕は――答えられなかった。

 本当のことは、言えない。

 「あなたを悪役に育てて、最後に断罪されたい」なんて。


「僕は……ただ、アリシア様の力になりたいだけです」

「本当に?」


 アリシアの目が、僕を見透かそうとしている。


「時々、あなたの目は空っぽに見えますわ」

「まるで、何も感じていないような」

「でも、時々――とても悲しそうに見えるのです」


 図星だった。

 アリシアは、気づいている。

 僕の心の空虚さに。


「結城様、あなたは何か辛いことを抱えているのでは?」

「いえ、そんなことは――」

「嘘ですわね」


 アリシアは、優しく微笑んだ。


「私に、話してくれませんか?」

「あなたが本当に求めているものを」


 その優しさが――怖かった。

 心に触れられるのが、怖かった。

 本心を見透かされるのが、怖かった。


「……すみません。今は、話せません」


 僕は、逃げるように立ち去った。


 その夜、僕は寮の部屋で日記を書いていた。


『計画は完全に崩壊した。

アリシアは悪役にならない。

むしろ、聖女として崇められている。

これでは、僕を断罪することはできない。


どうすればいい?

計画を変更すべきか?

それとも――諦めるべきか?


でも、諦めたら――

僕の人生に、また意味がなくなる。

前世と同じ、無意味な日々に戻ってしまう。』


 ペンを置く。

 答えが出ない。


 翌日、僕は学院の廊下を歩いていた。

 すると、二人の生徒が話しているのが聞こえた。


「アリシア会長、本当に素晴らしい方よね」

「ええ、まるで聖女様みたい」

「平民の私たちにも、優しくしてくれる」

「彼女がいてくれて、本当に良かった」


 その会話を聞いて――

 僕は、ふと思った。


「これで、いいのかもしれない」


 アリシアは、多くの人を幸せにしている。

 それは、素晴らしいことだ。

 僕の計画なんて、どうでもいい。

 彼女が幸せなら、それでいいのかもしれない。


 でも――

 そう思うと、また虚無が襲ってくる。

 目的を失った人生。

 前世と同じ、意味のない日々。


「僕は、どうすれば……」


 答えは、出なかった。


 その日の放課後、アリシアが生徒会室で仕事をしていた。

 僕は、補佐役として彼女の隣にいた。


「結城様、この書類を確認していただけますか?」

「はい」


 書類を受け取る。新しい委員会の設立案だった。

 「学業支援委員会」。成績不振の生徒を支援する組織。


「また、新しい改革ですか」

「ええ。誰もが、学びの機会を得られるべきですから」


 アリシアは、真剣な表情で言った。

 その目には、強い意志がある。


「アリシア様は、本当に優しいですね」

「優しい? いいえ、これは当然のことですわ」


 アリシアは、首を横に振った。


「力ある者は、弱い者を助けるべきです」

「それが、責任というものですわ」


 その言葉を聞いて――

 僕は、思った。


「この人は、僕とは違う」


 アリシアは、生きる意味を持っている。

 人を助けること。正しいことをすること。

 それが、彼女の生きる意味だ。


 でも僕には、それがない。

 生きる意味が、見つからない。

 だから、死ぬ意味を作ろうとしている。


「僕とは、まったく違う……」


 小さく呟く。

 アリシアが、振り返った。


「何か言いましたか?」

「いえ、何でも」


 僕は、微笑んで誤魔化した。

 空っぽな笑顔。感情のない笑顔。


 アリシアは、少し悲しそうな目で僕を見た。

 でも、何も言わなかった。


 数週間後、学院の評価が発表された。

 アリシアの改革により、学院の満足度は過去最高を記録した。

 平民生徒の退学率は激減し、いじめの報告件数もゼロになった。


 教師たちも、アリシアを称賛した。


「素晴らしい生徒会長だ」

「彼女がいれば、学院は安泰だ」


 アリシアは、完全に学院の頂点に立った。

 恐怖ではなく、尊敬によって。

 権力ではなく、人格によって。


 原作ゲームとは、まったく違う形で。


 僕は、生徒会室の窓から外を見ていた。

 中庭で、アリシアが下級生たちと話している。

 彼女は笑顔で、生徒たちも嬉しそうだ。


「これが、本当のアリシアなんだ」


 優しくて、正義感が強くて、人を思いやる。

 そんな人が、悪役になれるわけがなかった。


「僕の計画は――終わりだ」


 小さく呟く。

 でも、不思議と悲しくなかった。

 むしろ――少しだけ、ほっとしていた。


 アリシアは、幸せそうだ。

 多くの人に慕われて、必要とされて。

 それでいいのかもしれない。


「僕の願いなんて、どうでもいい」


 そう思おうとした。

 初めて――自分の願いを、諦めてもいいと思いかけた。


 アリシアが、幸せなら。

 それで、いいのかもしれない。


 でも――


「いや、違う」


 小さく呟く。

 諦めたら、また前世と同じだ。

 目的のない、意味のない人生に戻ってしまう。


「僕には、やはり必要なんだ――美しく終わる、という目的が」


 でも、アリシアは悪役にならなかった。

 ならば――どうすればいい?


 答えは、まだ見つからない。

 ただ一つ、分かったことがある。


「アリシアを、巻き込むわけにはいかない」


 彼女は、善人だ。

 多くの人を幸せにする、聖女のような人だ。

 そんな彼女を、僕の歪んだ願望に付き合わせるわけにはいかない。


「なら、僕は――」


 別の方法を、考えなければならない。

 アリシアを傷つけずに、美しく終わる方法を。


 その夜、僕は創造神のことを思い出していた。

 九年間の修行。氷の宮殿での日々。

 あの時、創造神は言った。


『お前は矛盾している。美しく終わりたいということは、自分の存在に意味を求めているということだ』


 その言葉の意味が、今ならわかる気がする。

 僕は、本当は――生きたかったのかもしれない。

 ただ、その方法が分からなかっただけで。


「でも、もう遅い」


 小さく呟く。

 計画は崩壊した。アリシアは悪役にならなかった。

 僕を断罪することは、もうできない。

 ならば、僕の存在意義は――


 コンコン。


 ドアをノックする音がした。

 こんな夜遅くに、誰だろう。


「はい」


 ドアを開けると――アリシアが立っていた。


「アリシア様? こんな時間に」

「少し、お話したいことがありまして」


 アリシアは、いつもの完璧な令嬢の表情ではなく、少し不安そうな顔をしていた。


「どうぞ、お入りください」


 部屋に招き入れる。

 アリシアは、椅子に座った。僕はベッドの端に腰を下ろす。


「結城様、あなたは最近、元気がありませんわね」

「そんなことは――」

「嘘を言わないでください」


 アリシアは、真剣な目で僕を見た。


「あなたは、私が生徒会長になって喜んでくれると思っていました」

「でも、あなたの目は――悲しそうです」

「なぜですか?」


 僕は、答えに窮した。

 本当のことは言えない。でも、嘘もつきたくない。


「……僕は、アリシア様が幸せそうで、嬉しいです」

「でも?」

「でも、僕自身は――何をすればいいのか、分からなくなってしまいました」


 アリシアは、優しく微笑んだ。


「結城様、あなたは私のために、たくさんのことをしてくれました」

「知恵を貸してくれて、支えてくれて」

「私が今ここにいるのは、あなたのおかげですわ」


「いえ、それは――」

「だから、今度は私が、あなたを支えたいのです」


 アリシアが、一歩近づいた。


「あなたは、何か深い悩みを抱えている」

「それが何なのか、私にはまだ分かりません」

「でも――一緒に、答えを探しませんか?」


 その言葉に、僕の心が揺れた。

 一緒に、答えを探す。

 誰かと一緒に、生きる意味を探す。

 それは――前世では、考えたこともなかった。


「アリシア様……」

「私は、あなたを一人にしたくありません」


 アリシアの目には、真剣な光があった。


「あなたの目は、時々とても孤独そうに見えます」

「まるで、世界に一人きりのような」

「でも、そんなことはありません」

「あなたには――私がいます」


 その言葉が、胸に突き刺さった。

 温かくて、でも痛くて。

 誰かに必要とされている。

 それが、こんなにも――嬉しいものだとは。


「ありがとうございます」


 僕は、小さく笑った。

 今度は、空っぽじゃない笑顔。

 少しだけ――本当の笑顔。


「でも、まだ話せません」

「僕の抱えているものを、まだ言葉にできません」

「もう少し、時間をください」


 アリシアは、頷いた。


「分かりましたわ。でも、約束してください」

「一人で抱え込まないと」

「いつか、必ず私に話すと」


「……約束します」


 アリシアは、満足そうに微笑んだ。


「では、今夜はこれで失礼しますわ」

「おやすみなさい、結城様」

「おやすみなさい、アリシア様」


 アリシアが部屋を出ていった後。

 僕は、一人ベッドに座っていた。


「変わってしまった」


 小さく呟く。

 計画は崩壊した。

 アリシアは、悪役にならなかった。


「でも――諦めるわけにはいかない」


 アリシアを使った計画は失敗した。

 ならば、別の方法を考えなければならない。

 彼女を巻き込まずに、美しく終わる方法を。


「アリシアには、幸せになってほしい」


 それは本心だった。

 彼女は善人だ。多くの人を幸せにする、聖女のような人だ。

 そんな彼女を、僕の歪んだ願望に付き合わせてはいけない。


「なら、僕一人で――」


 どうすればいい?

 創造神の力を暴走させる?

 自ら悪役となって、誰かに倒される?


 いや、それではアリシアが悲しむ。

 彼女は、僕を救おうとするだろう。

 それでは、意味がない。


「もっと、別の方法を」


 考えなければならない。

 アリシアを傷つけず、でも美しく終われる方法を。


 その答えは――まだ見つからない。

 でも、探し続けなければならない。

 それが、僕の生きる唯一の意味だから。


「これが、本当の物語なのかもしれない」


 原作ゲームとは違う。

 僕が最初に望んだ展開とも違う。

 でも――これが、僕の辿る道なのかもしれない。


「生きる意味、か」


 アリシアの言葉を思い出す。

 一緒に、答えを探す。

 その優しさは、嬉しかった。

 でも――僕の答えは、彼女とは違う場所にある。


「ごめんね、アリシア」


 心の中で謝る。

 君の優しさに、応えることはできない。

 君が望む「一緒に生きる」という未来は――

 僕には、選べない。


 怖い。

 誰かと繋がることが、怖い。

 幸せになることが、怖い。

 そして何より――

 生きることそのものが、怖い。


 だから――

 僕は、やはり終わりを選ぶ。

 ただし、今度は別の方法で。

 アリシアを傷つけない方法で。


「もう少しだけ、時間をください」


 アリシアに約束した言葉を、心の中で繰り返す。

 でも、その時僕が話すのは――

 彼女が望む答えではないだろう。


 美しく終わるという願い。

 それだけは、手放せない。

 それが、僕の存在意義だから。


 窓の外には、星が瞬いていた。

 前世で見た星よりも、今夜の星は――少しだけ、温かく見えた。


 でも、その温かさすらも――

 僕は、受け入れることができない。


 結城蒼は、まだ終わりを見ていた。

 アリシアの優しさに触れても。

 新しい可能性を感じても。

 それでも――終わりへの道を、探し続けていた。


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