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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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策略と権力闘争


 学院内の政治が、動き始めた。

 きっかけは、生徒会長選挙の告知だった。


「今年度の生徒会長選挙を、一ヶ月後に実施します」


 朝礼で、現生徒会長が発表した。

 会場がざわめく。

 生徒会長は、学院の実質的な支配者だ。

 その座を巡って、派閥間の争いが激化することは確実だった。


「アリシア様は、出馬されるのですか?」


 放課後、僕はアリシアに尋ねた。

 彼女は少し考えてから、頷いた。


「ええ。父からも、出馬するよう言われていますわ」

「ヴァンクレール家の令嬢として、当然の責務だと」


「では、全力でサポートします」

「ありがとうございますわ、結城様」


 アリシアは微笑んだ。

 でも、その目には少し不安の色があった。


「他の派閥も、動くでしょうね」

「はい。グレイヴス派は、ダミアン様が出馬するはずです」

「ローゼンバーグ派は……シルヴィア様でしょうか」


「おそらく。三つ巴の戦いになりますわね」


 アリシアは、窓の外を見た。


「結城様、私に勝算はありますか?」

「あります」


 僕は即答した。


「アリシア様には、すでに確固たる支持基盤がある」

「エドワード様とルシアン様を通じて、グレイヴス派の一部も取り込んでいます」

「あとは――」


「あとは?」

「少し、策略を用いる必要があります」


 アリシアの表情が、曇った。


「策略、ですか」

「はい。他の候補者の弱点を突くんです」


 僕は、用意していた計画を説明し始めた。


「ダミアン様は、武闘派として人気がありますが、学問は苦手です」

「討論会で、政策について議論すれば、アリシア様が有利になります」

「シルヴィア様は、中立的な立場ゆえに、強力な支持基盤がない」

「派閥の結束力で、こちらが圧倒できます」


 アリシアは、黙って聞いていた。


「そして――」


 僕は、さらに踏み込んだ。


「ダミアン様の過去に、少し問題があります」

「一年前、彼は訓練中に下級生を怪我させたことがある」

「この情報を、適切なタイミングで流せば――」


「やめてください」


 アリシアが、強い口調で言った。


「そんなこと、したくありません」

「ダミアン様は、確かに粗暴なところがありますが、悪い人ではありません」

「過去の失敗を暴いて、彼を貶めるなんて――」


「でも、これは選挙です。勝たなければ意味がない」

「結城様」


 アリシアは、真っ直ぐに僕を見た。


「私は、卑怯な手段で勝ちたくありません」

「正々堂々と、政策で勝負したいのです」


 またか。

 また、彼女の優しさが邪魔をする。


「……承知しました」


 僕は引き下がった。

 でも、心の中では思う。

 このままでは、勝てないかもしれない。


 選挙戦が始まった。

 アリシア、ダミアン、シルヴィアの三人が立候補した。

 それぞれの派閥が、全力で支持を呼びかける。


 僕は裏で動いた。

 情報収集、支持者の確保、対立候補の分析。

 アリシアには見せない部分で、あらゆる手を尽くした。


 ダミアンの支持者の中に、金銭トラブルを抱えている者がいる。

 その情報を、さりげなく周囲に流す。

 ダミアン本人には問題ないが、支持者の信頼性に疑問が生じる。


 シルヴィアの派閥は、実は内部で意見が割れている。

 その対立を煽る。匿名の手紙を送り、疑心暗鬼を生み出す。


 汚い手段だ。

 自分でも分かっている。

 でも、アリシアを勝たせるためには、必要なことだ。


「結城様、少しよろしいですか」


 ある日、エドワードが僕に近づいてきた。


「はい、何でしょう」

「最近、ダミアンの派閥が内部で揉めてるらしいんだ」

「そして、シルヴィア様の派閥も何かおかしい」

「まさか、君が何か――」


「僕は何もしていませんよ」


 嘘をついた。

 エドワードは、疑いの目で僕を見た。


「アリシア様は、そういう手段を嫌う方だ」

「もし君が勝手にやってるなら、やめた方がいい」


「忠告、ありがとうございます」


 僕は微笑んで、話を切り上げた。

 でも、手は緩めない。

 アリシアのためだ。彼女が生徒会長になれば、学院の頂点に立てる。

 それが、僕の目的だ。


 討論会の日。

 大講堂に、全校生徒が集まった。

 三人の候補者が、壇上に並ぶ。


 アリシアは、堂々としていた。

 金髪が光を反射して輝いている。完璧な令嬢の姿。


 討論が始まった。

 それぞれが、自分の政策を語る。


「私は、学院の秩序を守りたい」


 ダミアンが、力強く言った。


「規律を重んじ、不正を許さない。強い学院を作りたい」


「私は、学問の自由を尊重したい」


 シルヴィアが、穏やかに語った。


「多様な意見を受け入れ、開かれた学院を作りたい」


 そして、アリシアの番が来た。


「私は、すべての生徒が安心して学べる学院を作りたい」


 アリシアの声が、会場に響く。


「強い者も、弱い者も。貴族も、平民も」

「誰もが平等に、機会を得られる場所」

「それが、私の理想ですわ」


 会場が、静まり返った。

 アリシアの言葉に、多くの生徒が心を打たれている。


 僕は、客席から見ていた。

 アリシアは、輝いている。

 誠実に、真っ直ぐに、自分の信念を語っている。


「素晴らしい」


 小さく呟く。

 僕の策略なんて、必要なかったのかもしれない。

 彼女は、自分の力だけで、人の心を掴んでいる。


 討論会が終わった後、僕はアリシアのもとに向かった。


「アリシア様、素晴らしいスピーチでした」

「ありがとうございます」


 アリシアは微笑んだ。

 でも、次の瞬間――


「結城様、あなたは何かしましたか?」


 鋭い視線が、僕を捉えた。


「……何のことでしょうか」

「他の候補者の派閥が、内部で揉めているそうですわ」

「それに、ダミアン様の支持者に、不審な噂が流れている」


 アリシアは、一歩近づいた。


「まさか、あなたが――」

「僕は、アリシア様のために最善を尽くしているだけです」


「最善?」


 アリシアの声が、少し震えた。


「卑怯な手段を使うことが、最善なのですか?」

「僕は――」

「答えてください」


 アリシアの碧眼が、真っ直ぐに僕を見る。

 嘘をつけない。この人には、嘘をつけない。


「……はい。僕がやりました」


 アリシアは、目を閉じた。

 深く、息を吐く。


「結城様、私は何度も言いましたわね」

「誰も傷つけたくないと」

「正々堂々と戦いたいと」


「でも、それでは勝てないかもしれない」

「勝てなくても構いません」


 アリシアは、はっきりと言った。


「卑怯な手段で勝つくらいなら、負けた方がマシですわ」

「私は、そんな生徒会長にはなりたくありません」


 その言葉に、僕は何も言えなかった。

 アリシアは、本気だ。

 勝つことよりも、誇りを大切にしている。


「今すぐ、あなたのした工作をすべて取り消してください」

「でも――」

「お願いします」


 アリシアの声が、懇願するように響いた。


「私は、あなたを信頼しています」

「だから、お願い。私の信念を、尊重してください」


 僕は――

 長い沈黙の後、頷いた。


「……分かりました」


 その夜、僕はすべての工作を取り消した。

 ダミアンの派閥に流した情報を否定する噂を流し、シルヴィアの派閥の対立を鎮める。

 すべてを、元に戻した。


 そして――選挙の結果。


 アリシアが、圧倒的多数で当選した。


 僕の工作がなくても、彼女は勝った。

 誠実さと、正義感と、人を思いやる心で。

 多くの生徒が、彼女を支持した。


「結城様」


 当選の夜、アリシアが僕を呼んだ。


「はい」

「ありがとうございますわ。工作を取り消してくださって」


 アリシアは、優しく微笑んだ。


「あなたは、私のために動いてくれた」

「その気持ちは、嬉しいです」

「でも、私は正しい方法で勝ちたかった」

「そして――勝てました」


 彼女の笑顔は、本物だった。

 心からの、喜びの笑顔。


「おめでとうございます、生徒会長」


 僕は、深く頭を下げた。

 心の中では――混乱していた。


 アリシアは、悪役にならない。

 善人として、正しく、学院の頂点に立った。

 僕の計画は、完全に狂っている。


 それなのに――

 彼女の笑顔を見ると、嬉しかった。

 彼女が正しい方法で勝てたことが、心から嬉しかった。


「僕は、どうすればいいんだ……」


 小さく呟く。

 答えは、まだ見つからなかった。


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