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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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補佐役として 前編


 翌日、授業が終わった後。

 アリシアから呼び出しを受けた。

 場所は、学院の中庭にある東屋。人目につきにくい場所だ。


「お待たせしました、アリシア様」


 僕が近づくと、アリシアは本を閉じて立ち上がった。


「いいえ、私も今来たところですわ。結城様」


 またその嘘だ。彼女は少なくとも三十分前から待っていたはずだ。本のページが進んでいる。

 でも、指摘はしない。それが彼女の「完璧な令嬢」としての演技なら、尊重すべきだ。


「それで、お話とは?」


 アリシアは僕を見つめた。

 碧眼が、真っ直ぐに僕を見る。


「昨日、あなたは私の野望を手伝うと言いましたわね」

「はい」

「では、まず証明していただきたいのです。あなたが本当に有能かどうか」


 当然の要求だ。

 口だけなら誰でも言える。実力を示さなければ、信用されない。


「どのような証明を?」

「学院には、派閥があります」


 アリシアは、周囲を見渡してから続けた。


「ヴァンクレール派、グレイヴス派、ローゼンバーグ派。主にこの三つです」

「存じております」


 原作ゲームでも、この三派閥が学院の権力を握っていた。

 ヴァンクレール派は、アリシアを中心とした最大派閥。

 グレイヴス派は、侯爵家の嫡男ダミアン・グレイヴスを中心とした、武闘派の集団。

 ローゼンバーグ派は、伯爵家の令嬢シルヴィア・ローゼンバーグを中心とした、中立的な派閥。


「では、問題です」


 アリシアが、鋭い視線を向けてくる。


「今週末に開かれる生徒会主催の茶会。そこで、私はグレイヴス派の貴族たちを、こちら側に引き込みたいと考えています」

「しかし、グレイヴス派は独自の結束が強い。簡単には動きません」

「あなたなら、どう攻略しますか?」


 試験だ。

 僕の実力を測るための、具体的な課題。

 面白い。アリシアは、本当に有能な人材を求めている。


「まず、グレイヴス派の構造を分析しましょう」


 僕は、用意していた答えを口にする。


「グレイヴス派の中心は、ダミアン・グレイヴス。彼は武勲を重んじる武闘派です」

「しかし、派閥内には穏健派もいる。特に、エドワード・ブレイクとルシアン・フォスターの二人」

「この二人は、ダミアンの幼馴染ですが、考え方は異なります」


 アリシアの目が、少し輝いた。

 興味を持ってくれている。


「続けて」

「エドワードは商家出身の準男爵。実利を重視するタイプです」

「ルシアンは学者肌で、政治的な駆け引きを嫌います」

「この二人を、まず味方につけるんです」


「どうやって?」


 アリシアが身を乗り出した。

 完全に、僕の話に集中している。


「エドワードには、商取引の情報を提供します」

「ヴァンクレール公爵家は、広大な領地と貿易ルートを持っている。その一部を、ブレイク家に開放すると約束すれば、彼は動きます」

「ルシアンには、学院図書館の特別閲覧権を提供します」

「アリシア様の推薦状があれば、彼は貴重な古文書にアクセスできる。これは学者にとって、何よりの報酬です」


 アリシアは、しばらく黙っていた。

 考えている。僕の提案を、精査している。


「……見事ですわ」


 ようやく、アリシアが口を開いた。


「エドワードとルシアンの性格を、完璧に把握している」

「しかも、提案内容が現実的。実行可能な範囲です」

「結城様、あなたは本当に――有能な方ですわね」


 アリシアの目に、信頼の色が浮かんだ。

 第一段階、クリアだ。


「ありがとうございます」

「では、早速動いていただけますか?」

「もちろんです」


 僕は深く頭を下げた。

 心の中で、冷静に分析する。

 今のは、原作ゲームの知識と、創造神から学んだ政治学の応用だ。

 エドワードとルシアンの性格は、ゲームで何度も見た。

 彼らを味方につける方法も、すでに頭に入っている。


「ただし、一つだけ」


 アリシアが、真剣な表情で言った。


「誰も傷つけないでくださいね」

「……傷つける?」

「ええ。政治的な駆け引きは必要です。でも、誰かの人生を壊すようなことは、避けたいのです」


 僕は、少し驚いた。

 アリシアは、本当に優しい。

 原作ゲームでも、彼女は最終的に「悪役」として描かれるが、その本質は善人だった。

 だからこそ、プレイヤーたちは彼女に同情した。


「承知しました。誰も傷つけません」


 僕は約束した。

 でも、心の中では思う。

 「誰も傷つけない悪役」なんて、存在するのか?

 悪役とは、誰かを傷つける存在だ。

 それが役割だ。


 でも、今はまだ言わない。

 アリシアが、自分で気づくまで待つ。

 完璧な悪役になるためには、優しさを捨てなければならないと。


 その日の夕方、僕はエドワード・ブレイクに接触した。

 彼は図書館で、商業関係の本を読んでいた。


「失礼します。エドワード・ブレイク様ですね?」

「ん? ああ、君は特例入学の平民か」


 エドワードは、気さくな笑顔を見せた。

 彼は貴族の中では珍しく、階級に拘らない性格だ。

 商人の血が流れているからだろう。


「結城蒼と申します。少しお時間をいただけますか?」

「構わないよ。何の用だい?」


 僕は、用意していた話を始めた。

 ヴァンクレール公爵家の貿易ルート、ブレイク家の商業展開、互いの利益について。

 エドワードの目が、徐々に輝き始める。


「つまり、ヴァンクレール家の東方貿易ルートを、うちに開放してくれると?」

「アリシア様の推薦があれば、可能です」

「その代わり、俺はヴァンクレール派に協力する、と」


「正確には、グレイヴス派とヴァンクレール派の架け橋になっていただきたいのです」

「なるほどね」


 エドワードは、腕を組んで考え込んだ。


「確かに魅力的な話だ。でも、ダミアンを裏切ることになる」

「裏切りではありません。両派閥の協力関係を築くんです」

「ダミアン様も、学院全体の安定を望んでいるはず。それに貢献することになります」


「うまいこと言うね、君」


 エドワードが、笑った。


「分かった。アリシア様に会わせてくれ。直接話がしたい」

「承知しました」


 第一目標、達成だ。


 次の日、僕はルシアン・フォスターを訪ねた。

 彼は研究室で、古文書と格闘していた。


「失礼します」

「ん? 誰だ、こんな時間に――」


 ルシアンは、苛立った様子で振り返った。

 でも、僕を見て、少し表情を和らげた。


「ああ、君は確か特例入学の。何か用か?」

「ルシアン様にお願いがあります」


 僕は、図書館の特別閲覧権について説明した。

 アリシア様の推薦状があれば、王家が所蔵する古文書にアクセスできると。


「本当か? あの『失われた魔法陣の書』も?」

「はい。アリシア様は、王家と深い繋がりがあります」


 ルシアンの目が、輝いた。

 学者特有の、知識への渇望が溢れている。


「それは……素晴らしい」

「その代わり、アリシア様の活動に協力していただきたいのです」

「政治的な駆け引きは苦手なんだが」

「大丈夫です。ルシアン様には、学術的な助言をいただくだけで十分です」


「なら、問題ない」


 ルシアンは、すぐに頷いた。


「アリシア様に会わせてくれ。詳しく話を聞きたい」

「承知しました」


 第二目標も、達成だ。


 週末の茶会。

 学院の大広間に、貴族たちが集まっている。

 華やかな衣装、優雅な会話、社交界の縮図。


 アリシアは、会場の中心にいた。

 金髪が光を反射して輝いている。完璧な令嬢として、周囲に微笑みかけている。


 そして、エドワードとルシアンが、アリシアのもとに近づいた。

 二人は、アリシアと親しげに会話している。

 他の貴族たちが、驚きの表情を浮かべている。

 グレイヴス派の重要人物が、ヴァンクレール派の中心人物と親しくしている。

 これは、大きな変化の兆しだ。


「結城様」


 アリシアが、僕を呼んだ。

 彼女の隣に立つ。


「見事ですわ。エドワード様もルシアン様も、完全に心を開いてくださいました」

「お役に立てて光栄です」

「あなたは本当に……頼りになる方ですわね」


 アリシアが、優しく微笑んだ。

 その笑顔は――演技じゃなかった。

 本心からの、感謝の笑顔だった。


 僕の心が、少しだけ揺れた。

 いや、駄目だ。

 感情移入してはいけない。

 彼女は「役割」だ。僕を断罪するための「完璧な悪役」だ。


「アリシア様の信頼に応えられるよう、これからも尽力します」


 僕は、冷静に答えた。

 感情を押し殺して、役割を演じる。

 それが、僕の仕事だ。


「ええ、期待していますわ」


 アリシアは、また微笑んだ。

 その笑顔が、少しだけ――心に残った。


 茶会が終わった後、僕は一人で廊下を歩いていた。

 成功だ。エドワードとルシアンを味方につけた。

 アリシアの信頼も得た。

 計画は順調に進んでいる。


 でも――

 心のどこかで、違和感があった。


「誰も傷つけないでくださいね」


 アリシアの言葉が、脳裏に蘇る。

 彼女は、優しい。

 本当に、人を思いやる優しさを持っている。


「こんな人が、悪役になれるのか?」


 小さく呟く。

 でも、すぐに首を横に振る。

 いや、ならなければならない。

 そうでなければ、僕の計画が崩れる。


「彼女は、変わらなければならない」

「完璧な悪役に、ならなければならない」


 自分に言い聞かせる。

 でも、心の奥底で――

 小さな疑問が、芽生え始めていた。


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