最終決戦 終
黒い魔力が、さらに膨れ上がった。
僕は、全身に創造神の力を巡らせる。これが、最後だ。彼らに――全力で、攻撃させる。そして、僕は――それを受ける。防がない。避けない。ただ、受け入れる。
それが――僕の望む終わり方だから。
「来てくれ――」
僕は言った。
「全力で。本気で」
アリシアが、涙を流しながら杖を構える。エリカが、剣を握りしめる。セレスティアが、魔法書を開く。リディアが、風を纏う。ダミアンが、雷を放つ。シルヴィアが、花の精霊を呼ぶ。オズワルドが、大地を揺らす。
みんなが――僕に向かって、構えた。
「結城さん――」
アリシアが震える声で呼びかける。
「本当に――これでいいのですか」
「ああ」
僕は答える。
「これが――僕の選んだ道だ」
その言葉に、アリシアの目から涙が溢れた。でも――彼女は、杖を下ろさなかった。
「分かりました――」
アリシアが言う。
「ならば――わたくしが、あなたを終わらせます」
その声が、決意に満ちていた。苦しみに満ちていた。でも――揺るがなかった。
「ありがとう」
僕は、小さく笑った。
「アリシア――君に倒されるなら、本望だ」
その言葉が、最後の言葉になるかもしれない。でも――僕は、それでよかった。
「行きます――!」
アリシアが叫んだ。
光が放たれる。眩しい光。アリシアの想いが込められた、光の精霊ルミナスの力。それが、まっすぐに僕に向かってくる。
同時に――他のみんなも、攻撃を放った。
エリカの炎。セレスティアの氷。リディアの風。ダミアンの雷。シルヴィアの花。オズワルドの大地。
すべての攻撃が――僕に向かって、迫ってくる。
僕は――黒い障壁を、解いた。
防御を、捨てた。
ただ――そこに立っていた。
「これで――いい」
僕は呟いた。
光が、僕を包み込む。炎が、僕を焼く。氷が、僕を刺す。風が、僕を切り裂く。雷が、僕を貫く。花が、僕を縛る。大地が、僕を砕く。
痛い――
すごく、痛い。
体が悲鳴を上げている。魔力が乱れている。創造神の力が、制御できなくなっている。でも――
「これが――」
僕は呟いた。
「これが、僕の望んだ――終わりだ」
意識が、遠のいていく。視界が、霞んでいく。体が、動かなくなっていく。
そして――僕は、倒れた。
地面に。冷たい地面に。もう、立ち上がることはできなかった。
*
視界が、ぼやけている。
でも――聞こえる。誰かの声が。泣いている声が。
「結城さん――!」
アリシアの声だ。彼女が、僕のそばに駆け寄ってくる。杖を投げ捨てて、膝をついて。
「どうして――どうして――!」
彼女が叫んでいる。涙を流しながら。僕の体を抱き起こしながら。
「蒼――!」
エリカの声も聞こえる。
「蒼さん――!」
セレスティアの声も。
「結城さん――!」
リディアの声も。
みんなが、僕の周りに集まってくる。みんなが、泣いている。僕のために。僕を殺した――いや、僕を救おうとして、結果的に僕を倒した自分たちを責めながら。
「ごめん――」
僕は、かすれた声で言った。
「これが――僕の、選んだ――」
言葉が、続かない。血が、口から溢れる。体が、どんどん冷たくなっていく。
「話さないでください――!」
アリシアが叫ぶ。
「助けます――今すぐ、治療を――!」
「無理だよ――」
僕は、小さく笑った。
「もう――終わりなんだ」
創造神の力が、暴走している。僕の体を、内側から蝕んでいる。もう、助からない。これは――僕が望んだことだ。
「結城さん――」
アリシアが、僕の手を握る。温かい手。震えている手。
「どうして――どうして、こんなことを――」
「君たちに――」
僕は言った。
「倒されたかったんだ」
その言葉に、アリシアの顔が歪む。
「そんな――」
「悪役として――」
僕は続ける。
「君たちのような――善人に、倒されて――」
息が、苦しい。
「それが――僕の、望んだ――結末――」
アリシアが、首を横に振る。涙が、僕の顔に落ちてくる。
「違います――そんなの、間違ってます――!」
「でも――」
僕は、小さく笑った。
「もう――遅いよ」
体が、光り始めた。
創造神の力が――僕を、消そうとしている。契約者である僕が死ねば、その力も消える。そういう――契約だった。
「待って――!」
アリシアが叫ぶ。
「まだ――まだ、話したいことが――!」
「ごめん――」
僕は、もう一度謝った。
「アリシア――君を、苦しめて――」
「違います――!」
アリシアが泣き叫ぶ。
「あなたは――わたくしを、苦しめてなんか――!」
でも、僕の体は――もう、半分消えかけていた。
光の粒子になって、消えていく。これが――本当の、終わりだ。
「みんな――」
僕は、最後の力を振り絞って言った。
「ありがとう――」
エリカが、泣きながら叫ぶ。
「ふざけんな――! あんた、死ぬな――!」
セレスティアも、涙を流している。
「蒼さん――お願い――!」
リディアも、王女らしくない顔で泣いている。
「結城さん――行かないで――!」
ダミアンが、拳を地面に叩きつける。
「結城――お前――!」
シルヴィアが、膝をついている。
「結城さん――」
オズワルドが、杖を握りしめている。
「結城蒼――」
みんなが、僕を呼んでいる。でも――もう、届かない。
「ごめん――」
僕は、もう一度謝った。
「これが――僕の――」
言葉が、途切れる。
視界が、真っ白になる。
もう、何も見えない。何も聞こえない。
ただ――温かさだけが、残っていた。
アリシアの手の温もり。みんなの声の温もり。それが――最後に感じたもの。
「ありがとう――」
僕は、心の中で呟いた。
「さようなら――」
そして――僕の意識は、闇に沈んだ。
*
森に、静寂が戻った。
そこには――もう、結城蒼の姿はなかった。
ただ、アリシアが膝をついて、何もない空間を抱きしめていた。涙を流しながら。止まらない涙を流しながら。
「結城さん――」
彼女が、名前を呼ぶ。でも、もう答えはない。
「結城さん――!」
もう一度、叫ぶ。でも、やはり答えはない。
彼は――消えた。
光の粒子となって、消えてしまった。
「嘘――」
アリシアが呟く。
「嘘だと――言ってください――」
でも、現実は変わらない。
結城蒼は――死んだ。
自ら望んで、死を選んだ。
「わたくしは――」
アリシアが、震える声で言う。
「わたくしは――彼を、救えなかった――」
その言葉が、森に響く。
エリカが、地面に座り込んでいる。剣を握りしめたまま、動かない。
セレスティアが、魔法書を抱きしめて泣いている。
リディアが、空を見上げている。涙を流しながら。
ダミアンが、拳を震わせている。
シルヴィアが、花の精霊に話しかけている。「彼を――連れ戻して」と。
オズワルドが、杖を支えに立っている。ただ、静かに。
みんなが――絶望に沈んでいた。
救おうとした少年は、救われることを拒んだ。
愛そうとした少年は、愛されることを信じなかった。
そして――死んだ。
自ら望んで、消えていった。
残されたのは――彼を救えなかった者たちの、後悔だけだった。




