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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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学院入学へ


 ―――この世界に転生して、すでに九年がたった。


 王都の門をくぐる。

 九年ぶりの人間社会だった。

 氷原での生活は、孤独そのものだった。創造神と二人きり。会話はするが、相手は神だ。人間らしい交流とは、少し違う。

 だから今、こうして人々が行き交う街を見ると、不思議な感覚に襲われた。


「賑やかだな」


 小さく呟く。

 前世では、人混みが嫌いだった。孤児院でも、街でも、人が多いところは避けていた。

 でも今は――何も感じない。

 嫌いでもなく、好きでもなく。ただ、そこにあるものとして認識するだけ。

 九年間の修行で、感情が更に薄れてしまったのかもしれない。


「結城蒼様ですね?」


 声をかけられた。

 振り返ると、学院の制服を着た青年が立っている。生徒会の腕章をつけている。


「はい、そうです」

「お待ちしておりました。私は生徒会の者です。特例入学生のご案内を仰せつかっております」


 特例入学。

 平民が貴族学院に入るための、唯一の方法。

 実力を認められた平民だけが、王国の推薦で入学を許される。原作ゲームでも、主人公はこの制度で入学していた。

 僕も同じだ。ただし、少しだけ違う。


「創造神との契約のことは?」

「存じ上げておりません。書類上は『実力試験で最高得点を獲得した平民』とだけ記されております」


 そうか。創造神が配慮してくれたんだ。

 契約のことが知られれば、面倒なことになる。貴族たちは騒ぐだろうし、王国も動くだろう。

 でも僕が求めるのは、そんな大きな舞台じゃない。

 もっと個人的な、美しい物語だ。


「案内、お願いします」

「かしこまりました」


 生徒会の青年に導かれ、学院へ向かう。

 王都の中心にそびえる、白亜の建物。尖塔が空に向かって伸びている。

 原作ゲームで何度も見た場所。でも実際に見ると、想像以上に荘厳だった。


「立派な学院ですね」

「王国最古にして最高峰の学府ですから。ここを卒業すれば、どんな道も開けます」


 どんな道も、か。

 僕に開ける道は、一つしかない。

 美しく散る道だけだ。


 学院の門をくぐる。

 広大な中庭、整備された花壇、噴水。

 そして――そこにいた。


 金髪の少女。

 碧眼が、こちらを一瞬見た。

 気品に満ちた佇まい。背筋が伸びている。周囲に数人の取り巻きを従えている。


 アリシア・ヴァンクレール。

 原作ゲームの悪役令嬢。

 僕が探していた、完璧な悪役。


「あれは……」

「ああ、アリシア・ヴァンクレール様ですね。ヴァンクレール公爵家のご令嬢です」

「公爵家……」

「王国でも五本の指に入る名門です。アリシア様は次期公爵として期待されている方ですよ」


 次期公爵。つまり、将来は国を動かす立場になる。

 完璧だ。

 こんな高貴な人物に断罪されるなら、それはきっと美しい。


「興味がおありですか?」

「ええ、少し」

「まあ、無理もありません。アリシア様は学院一の美女ですから」


 美女、か。

 確かに美しい。でも僕が惹かれたのは、外見じゃない。

 あの気高さ、あの威厳。

 完璧な悪役令嬢としての風格。

 彼女こそが、僕を美しく終わらせてくれる存在だ。


 アリシアが、こちらに気づいた。

 碧眼が、僕を見る。

 一瞬の交錯。

 彼女の目には、疑問の色があった。「この平民は誰?」とでも思っているのだろう。

 僕は軽く会釈をした。


 アリシアは、小さく頷いた。

 礼儀正しい対応。さすが公爵令嬢だ。

 そして彼女は、取り巻きたちを従えて去っていった。


「では、入学手続きを進めましょう」


 生徒会の青年が、先を促す。

 僕はもう一度、アリシアの背中を見てから、青年についていった。


 手続きは滞りなく終わった。

 寮の部屋を案内され、制服を受け取り、時間割を確認する。

 すべてが原作ゲーム通りだ。いや、一つだけ違う。

 僕は創造神の力を隠している。それが最大の違いだ。


 寮の部屋は、質素だった。

 ベッド、机、椅子、本棚。最低限の家具しかない。

 まあ、特例入学の平民だ。こんなものだろう。

 氷原での生活を思えば、十分すぎるほど快適だ。


 窓の外を見る。

 学院の中庭が見える。夕日が、建物をオレンジに染めている。

 美しい景色だ。

 でも、僕の心は何も感じない。


「明日から、始まる」


 小さく呟く。

 明日から授業が始まる。貴族たちとの交流が始まる。

 そして――アリシア・ヴァンクレールとの接触が始まる。


 原作ゲームでは、主人公がアリシアに仕える展開がある。

 平民でありながら有能な主人公を、アリシアがスカウトするのだ。

 そして主人公は、アリシアの「悪事」を手伝わされる。

 最終的には、アリシアの悪行が暴かれ、主人公は彼女から離れてヒロインたちと結ばれる――そういうストーリーだ。


 でも僕は違う。

 僕は、アリシアから離れない。

 むしろ、彼女の「悪役」を完璧にする手伝いをする。

 そして最後には、彼女に断罪されて美しく散る。


「完璧な計画だ」


 自分でそう言いながら、どこか虚しい気持ちになった。

 計画は完璧だ。でも、それを実行する僕の心は、空っぽなままだ。

 九年間の修行でも、この虚無は消えなかった。

 きっと、最期まで消えないんだろう。


 それでいい。

 感情がないから、冷静に物事を進められる。

 目的のためには、最適な状態だ。


 ベッドに横になる。

 天井を見つめる。

 白い天井。何の装飾もない。

 前世の部屋の天井も、こんな感じだった。

 薄暗くて、狭くて、何もなくて。


「……また、始まるのか」


 呟きが、部屋に響く。

 また、生きる日々が始まる。

 終わりに向かって、歩く日々が。


 でも今度は違う。

 前世みたいに、無意味な日々じゃない。

 目的がある。終わりが見えている。

 美しく散るという、明確なゴールがある。


「アリシア・ヴァンクレール」


 彼女の名前を呟く。

 金髪碧眼の、気高い令嬢。

 原作ゲームでは、悪役として敗北する運命。

 でも僕が介入すれば、彼女は完璧な悪役になる。

 そして、僕を断罪する。


「君が、僕を終わらせてくれる」


 小さく笑った。

 どこか狂気じみた笑い方だったかもしれない。

 でも、僕はもう気にしなかった。

 どうせ歪んでいる。自分でも分かっている。

 死ぬために生きる。矛盾した生き方。


 それでも――

 それが、僕が選んだ道だ。


 窓の外で、鐘が鳴った。

 夕食の時間を知らせる鐘。

 僕は立ち上がって、部屋を出た。


 食堂は、賑やかだった。

 貴族たちが、楽しそうに会話をしている。笑い声が響いている。

 その輪の中心に、アリシアがいた。

 取り巻きたちが、彼女に話しかけている。彼女は優雅に微笑んで、答えている。


 完璧な令嬢だ。

 でも――僕には分かる。

 あの微笑みは、作られたものだ。

 原作ゲームで何度も見た。アリシアは「完璧な令嬢」を演じている。

 本当の彼女は、もっと優しくて、もっと人間らしい。


 でも今は、それでいい。

 完璧な悪役令嬢として、気高くあってほしい。

 その方が、断罪されるとき、より美しいから。


 僕は隅の席に座った。

 平民用の質素な食事を受け取る。貴族たちの豪華な食事とは、明らかに違う。

 でも、気にならなかった。

 前世では、もっと酷い食事をしていた。孤児院の残飯のような食事。

 それに比べれば、これは十分すぎる。


「ねえ、あれが特例入学の平民?」

「そうみたいよ。結城蒼っていうらしい」

「平民のくせに、よく入学できたわね」

「実力試験で満点だったらしいわよ。化け物みたいな才能らしい」


 周囲の貴族たちが、僕のことを噂している。

 視線を感じる。好奇の目、軽蔑の目、羨望の目。

 色々な感情が混じっている。


 でも、僕は何も感じない。

 彼らがどう思おうと、関係ない。

 僕の目的は、一つだけだ。


 食事を終えて、部屋に戻る。

 明日から、本格的に動き始める。

 アリシアに接触して、彼女の補佐役になる。

 そして、彼女を完璧な悪役に育て上げる。


「さあ、始めよう」


 窓の外には、満月が浮かんでいた。

 あの日、五歳の僕が見上げた月と同じ。

 あの時決めた。美しく終わると。


 その決意は、今も変わらない。

 むしろ、九年間の修行で、より強固になった。


 結城蒼の物語が、今夜から動き出す。

 歪んだ、悲しい、でも彼にとっては「美しい」物語が。


あとがき――――

序章終了です!

明日から第一章です

楽しみにしておいてね☆

星もください☆


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