表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/33

n回目の説得


 黒い霧が濃くなっていく中、アリシアたちは北の森の奥深くへと進んでいた。視界が悪い。足元がおぼつかない。でも、止まるわけにはいかなかった。光の魔法で道を照らしながら、一歩ずつ確実に前へ。


「もうすぐ――」


 アリシアが呟く。心臓が激しく鼓動している。胸が苦しい。でも、それは恐怖ではなかった。会いたい。早く会いたい。結城蒼に。彼を止めるために。いや――彼を救うために。


 森が開けた。そこには、古い遺跡の残骸が広がっていた。崩れた石柱、苔むした壁、割れた床。かつて何かがあった場所。でも今は、ただ廃墟だけが残っている。


 そして――その中央に、一人の青年が立っていた。


 結城蒼。


 黒い魔力が彼の周りを渦巻いている。まるで闇そのものが、彼を包み込んでいるかのように。空は黒く染まり、大地は割れ、世界が悲鳴を上げている。その中心に――彼がいた。


「結城さん――」


 アリシアが声を震わせながら呼びかける。蒼がゆっくりと振り返った。その瞬間、アリシアの息が止まった。


 彼の目が――空虚だった。


 何の感情も映っていない。まるで、すべてを諦めたような目。生きることを、望むことを、すべてを捨てたような目。それを見た瞬間、アリシアの心が痛んだ。


「来たのか」


 蒼が静かに言う。その声に、感情は宿っていなかった。


「アリシア。そして――」


 彼の視線が、他の者たちへと移る。エリカ、セレスティア、リディア。ダミアン、シルヴィア、オズワルド。みんなが、彼を見つめていた。


「みんな、揃ったね」


 蒼が小さく笑った。でも、その笑顔は悲しかった。まるで、別れを告げるような笑顔。


「蒼――」


 エリカが一歩前に出る。彼女の手が震えていた。


「あんた――どうして、こんなことを」


「どうして?」


 蒼が首を傾げる。


「僕は――悪役になりたかったんだ」


「悪役――」


 セレスティアが呟く。蒼が頷いた。


「そうだよ。世界を脅かす存在になって、誰かに倒される。それが――僕の望みだった」


「そんなの――」


 リディアが声を震わせる。


「そんなの、おかしいです」


「おかしい?」


 蒼が静かに笑う。


「でも、これが僕の選んだ道なんだ」


 彼が手を広げる。黒い魔力が膨れ上がり、周囲の空気が歪んだ。圧倒的な力。それが、彼の中にあった。創造神の力。世界を創造し、そして破壊する力。


「結城さん――」


 アリシアが震える声で呼びかける。


「お願いです。力を、解いてください」


「無理だよ」


 蒼が首を横に振った。


「もう、止められない。この力は――世界を飲み込むまで、止まらない」


「そんな――」


 アリシアの目から涙が溢れた。蒼は、その涙を見ていた。ただ、静かに。何の感情も見せずに。


「だから――」


 蒼が全員を見渡した。


「僕を止めてくれ。全力で。本気で」


 その言葉が、宣戦布告だった。もう、話し合いの余地はない。戦うしかない。そう、蒼は言っているのだ。


「待ってください!」


 アリシアが叫ぶ。


「まだ――まだ、話は終わっていません!」


「話すことなんて、もう何もないよ」


 蒼が静かに言った。


「僕は決めたんだ。これが、僕の終わり方だって」


「そんなの――認めません!」


 アリシアが杖を握りしめる。


「わたくしは――あなたを救います。絶対に」


「救う?」


 蒼が首を傾げた。


「君には、僕を救えない」


「どうして――」


「君は優しすぎるから」


 蒼が答える。


「だから――僕を裁けない」


 その言葉の意味を、アリシアは理解できなかった。でも、彼の目に浮かぶ悲しみだけは、はっきりと見えた。


   *


 四つの魔法が、蒼に向かって放たれた。光、炎、氷、風。精霊の力を宿した強力な攻撃が、黒い魔力の渦に飲み込まれていく。爆発。閃光。轟音。森全体が揺れ、大地が悲鳴を上げる。


 でも――蒼は、立っていた。


 無傷で。黒い障壁が彼を守り、すべての攻撃を弾いていた。その姿を見て、アリシアたちは息を呑む。圧倒的な力の差。それを、まざまざと見せつけられた。


「やっぱり――」


 蒼が静かに言う。


「君たちの攻撃じゃ、僕には届かない」


 その言葉が、悲しげに響いた。まるで、それを望んでいないかのように。でも、彼の目には諦めが宿っていた。もう何も期待していない。そんな空虚な目。


「結城さん――」


 アリシアが震える声で呼びかける。


「どうして、そんな目をするんですか」


「どんな目?」


 蒼が問い返す。


「死んだような目、ですよ」


 アリシアが涙を堪えながら言った。


「まるで――もう何も望んでいないような」


「その通りだよ」


 蒼が答える。


「僕は、もう何も望んでいない。ただ――終わりたいだけだ」


「どうして!」


 エリカが叫ぶ。


「どうして、そこまで死にたがるのよ! あんたには、まだやれることがあるでしょう!」


「やれること?」


 蒼が首を傾げた。


「それは何だい、エリカ」


「あたしたちを――」


 エリカが言葉を詰まらせる。


「あたしたちを、助けることよ。あんたは、いつもそうしてきたじゃない」


「それは――」


 蒼が静かに笑った。


「僕の自己満足だったんだよ。誰かを助けることで、自分の価値を確認したかっただけ」


「違う!」


 セレスティアが声を上げる。いつもは大人しい彼女が、必死に叫んでいた。


「蒼さんは――わたしの光でした。あなたがいてくれたから、わたしは変われたんです」


「それは、君が自分で選んだ道だ」


 蒼が答える。


「僕は、きっかけを与えただけ」


「きっかけで十分です!」


 セレスティアが涙を流しながら叫ぶ。


「あなたがいなければ、わたしはまだ――図書館の隅で、誰とも関わらずに生きていました!」


 蒼の表情が、わずかに揺れた。でも、すぐに元の空虚な表情に戻る。


「それでも――僕は、もう決めたんだ」


 リディアが一歩前に出た。


「あなたは――わたくしにとって、特別な人です」


 その言葉に、蒼が目を見開く。


「リディア――」


「王女として生きることしか知らなかったわたくしに、あなたは教えてくれました」


 リディアが続ける。


「一人の人間として生きることの意味を。だから――」


 彼女の声が震える。


「だから、あなたを失いたくありません」


 蒼は何も言わなかった。ただ、リディアを見つめていた。その目に、わずかな迷いが浮かんでいる。でも――


「ごめん」


 蒼が首を横に振った。


「僕は――もう、戻れないんだ」


 彼が手を上げる。黒い魔力が膨れ上がり、周囲の木々が倒れていく。地面が割れ、空気が歪む。創造神の力が、世界を侵食していく。


「止めてください!」


 アリシアが叫んだ。


「このままでは、世界が――」


「それが目的だから」


 蒼が答える。


「世界を脅かす悪役になって、誰かに倒される。それが、僕の望む終わり方なんだ」


「おかしい!」


 エリカが剣を抜いた。炎が刃に纏わりつく。


「そんなの、おかしいわ! 悪役になりたいなんて、誰が望むのよ!」


「僕が望んでいる」


 蒼が静かに言った。


「悪役として死ねば――僕の存在には、意味が生まれる」


「意味なんて――」


 エリカが涙を流しながら叫ぶ。


「意味なんて、最初からあったのよ! あんたは、あたしたちにとって大切な人なの!」


「大切――」


 蒼が呟く。


「それは、君たちの優しさだよ」


 彼が首を横に振った。


「僕は――誰かにとって大切な存在になんて、なれない」


「どうして、そう思うんですか」


 アリシアが問う。蒼がゆっくりと彼女を見た。


「アリシア――君は、優しすぎる」


 蒼が言う。


「だから、僕を救おうとする。でも――」


 彼の声が震える。


「僕が本当に望んでいるのは、救済じゃないんだ」


「では、何を――」


「断罪だよ」


 蒼がはっきりと言った。


「僕は裁かれたい。罰を受けたい。そうして初めて――僕の存在に意味が生まれる」


「そんな――」


 アリシアが言葉を失う。蒼が小さく笑った。


「でも、君は僕を愛している。だから、裁けない。その矛盾が――僕を苦しめるんだ」


 その言葉に、アリシアの目から涙が溢れた。彼は知っていた。すべて知っていた。自分の想いを。そして――それが彼を苦しめていることを。


「結城さん――」


 アリシアが震える声で呼びかける。


「わたくしは――」


「知ってるよ」


 蒼が優しく言った。


「君の気持ちは、ずっと前から知っていた。でも――それを受け入れることができない」


「どうして――」


「信じられないからだ」


 蒼が答える。


「誰かが僕を愛してくれるなんて。誰かが僕を必要としてくれるなんて。そんなこと――信じられない」


 その言葉が、深い闇から発せられたものだと分かった。アリシアは理解した。彼の苦しみを。彼の孤独を。そして――それがどれほど深いものなのかを。


   *


 ダミアンが一歩前に出た。彼は剣を構え、蒼を睨みつける。


「結城――お前は間違っている」


「ダミアン――」


「お前が何を考えているか、俺には分からない」


 ダミアンが言う。


「でも、一つだけ言える。お前は――逃げているだけだ」


 その言葉に、蒼の表情が変わった。


「逃げている?」


「そうだ」


 ダミアンがきっぱりと言った。


「生きることから逃げている。幸せになることから逃げている。だから――死を選んでいるんだろう」


「それは――」


 蒼が言葉を詰まらせる。ダミアンが続ける。


「俺は、お前のことが好きじゃなかった」


 ダミアンが正直に言う。


「アリシアに近づくお前が、気に入らなかった。でも――今は違う」


 彼の目が真っ直ぐに蒼を見る。


「お前は、アリシアを救った。いや、学院のみんなを救った。だから俺は――お前を認める」


 その言葉に、蒼が目を見開く。


「認める――」


「そうだ」


 ダミアンが力強く言った。


「お前は価値がある。お前は必要とされている。それを――自分で否定するな」


 蒼は何も言えなかった。ただ、ダミアンを見つめていた。


 シルヴィアも前に出る。


「結城さん――わたしも、同じです」


 彼女が優しく微笑む。


「あなたは、アリシアを支えてくれました。彼女が笑顔になれたのは、あなたのおかげです」


「シルヴィア――」


「だから――」


 シルヴィアが涙を浮かべた。


「だから、お願いです。自分を大切にしてください」


 オズワルドも杖をつきながら前に出た。


「結城蒼――」


 学院長の声が、重く響く。


「私は長く生きてきた。多くの生徒を見てきた。だが――」


 オズワルドが蒼を見つめる。


「お前ほど、自分を粗末に扱う者は見たことがない」


 その言葉に、蒼が俯く。


「自分を愛せない者は、他人からの愛も受け入れられない」


 オズワルドが続ける。


「だが、それは間違っている。愛とは――受け入れることから始まるのだ」


「受け入れる――」


 蒼が呟く。オズワルドが頷いた。


「そうだ。まずは自分を。そして、他人からの想いを」


 蒼は何も言わなかった。ただ、黙って立っていた。周囲の黒い魔力が、わずかに揺らいでいる。彼の心が、揺れているのだ。


 アリシアが、もう一度呼びかけた。


「結城さん――わたくしは、諦めません」


 その声が、力強く響く。


「あなたが自分を見捨てても、わたくしは見捨てません」


 蒼がアリシアを見る。


「どうして――」


「あなたを愛しているからです」


 アリシアがはっきりと言った。


「わたくしは、あなたを愛しています。だから――あなたに生きてほしい」


 その言葉が、森に響き渡る。蒼の目が、わずかに潤んでいた。でも――


「ごめん」


 蒼が首を横に振った。


「僕は――それを受け入れられない」


 彼が手を上げる。黒い魔力が再び膨れ上がった。


「もう、遅いんだ。僕は――創造神の力を解放した」


 蒼が静かに言う。


「この力は、もう止められない。世界を飲み込み、すべてを終わらせる」


「そんな――」


「だから――」


 蒼が全員を見渡した。


「僕を止めてくれ。倒してくれ。それが――僕の最後の願いだ」


 その言葉が、最後通告だった。もう、言葉は届かない。戦うしかない。彼を止めるために。いや――彼を救うために。


「分かりました」


 アリシアが杖を構えた。


「ならば――力ずくでも、あなたを止めてみせます」


 エリカが剣を構える。セレスティアが魔法書を開く。リディアが風を纏う。ダミアンが雷を放つ。シルヴィアが花の精霊を呼ぶ。オズワルドが大地を揺らす。


 全員が、蒼に向かって構えた。


「行きます――結城さん」


 アリシアが叫ぶ。


「あなたを救うために!」


 光が放たれた。炎が燃え上がる。氷が舞う。風が吹き荒れる。雷が轟く。花が咲き誇る。大地が唸る。


 すべての力が、蒼に向かって放たれた。世界を救うために。そして――一人の少年を救うために。


 戦いは、激しさを増していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ