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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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創造神の力、解放


 北の森の奥深く、誰も近づかない場所。僕はそこに立っていた。周囲には古い遺跡の残骸が散らばっている。かつて何かがあった場所。でも今は、ただ静寂だけがある。鳥の声も、虫の音も聞こえない。まるで世界が、僕を避けているかのように。


 数日前、創造神と話をした。あの夜の会話を、僕は忘れられない。彼――いや、創造神は言った。「お前は、ワタシの初めての友だからだ」と。世界を創造した神が、孤独だったなんて。でも、それは僕も同じだった。だから、僕たちは似ていた。


 創造神は、僕の選択を尊重すると言った。止めないと。それがどれだけ辛い決断だったか、今なら分かる。友が破滅の道を選ぶのを、ただ見守るしかないという苦しみ。でも、彼はそれを選んだ。僕のために。


 そして、あの言葉。「お前が死んだ後、この世界を作り変えるかもしれない」。次の世界で、僕が幸せになれる世界を創ると。それを聞いた時、胸が痛んだ。創造神も、僕と同じように苦しんでいる。それなのに、僕のためにそこまでしてくれようとしている。


 でも――僕は、もう決めたんだ。


 僕は目を閉じた。心の中で、創造神に呼びかける。


「創造神――準備は整った」


 すぐに返答があった。僕の意識の中に、あの中性的な声が響く。


『本当に、やるのか』


「ああ」


 僕は答えた。


「これが僕の選んだ道だ」


『――そうか』


 創造神の声が、明らかに悲しげに響いた。あの夜と同じだ。お前にも感情がある。僕と同じように、孤独で、悲しくて。でも、それでも僕の選択を尊重してくれる。


『転生者よ』


 創造神が続ける。


『いや――友よ。本当に、これでいいのか』


「いいんだ」


 僕は答えた。


「これが、僕の望みだから」


『お前が本当に望んでいるのは――』


 創造神の声が震える。


『破壊ではないはずだ。認められること。必要とされること。愛されること。それがお前の――』


「分かってる」


 僕は遮った。


「でも、僕はそれを受け入れられない。信じられない」


『アリシア・ヴァンクレールは――』


「彼女は優しすぎるんだ」


 僕は言った。


「だから、僕を裁けない。僕が望むのは――美しい終わりだ。意味のある死だ」


 沈黙が続いた。そして、創造神がゆっくりと言った。


『分かった。お前の意志を、尊重する』


「契約を解放する。お前の力を、すべて」


 その言葉に、創造神は何も言わなかった。ただ沈黙だけが続く。そして――


『分かった。お前の意志を、尊重する』


 その瞬間、僕の体が熱くなった。いや、熱いというより――燃えるような感覚。体の奥底から、何かが溢れ出してくる。力。圧倒的な力。それが僕の全身を駆け巡っていた。


 目を開けると、世界が違って見えた。すべてが鮮明に。空気の流れ、魔力の奔流、精霊たちの悲鳴。この世界を構成するすべてのものが、僕には見えていた。そして――それを操ることができると、分かっていた。


「これが――創造神の力」


 僕は手を見る。そこには黒い紋章が浮かび上がっていた。創造神との契約の証。それが今、強く輝いている。否、輝いているというより――闇を放っている。光ではなく、闇を。


 僕は手を上げた。そして、力を解放する。一気に。容赦なく。


 瞬間、世界が震えた。


 空が歪む。灰色だった空が、今は黒く染まっていく。まるで夜が訪れたかのように。でも、これは夜ではない。これは――僕が生み出した闇だ。


 大地が割れる。足元から亀裂が走り、木々が倒れていく。動物たちが逃げ惑う声が聞こえる。でも、僕は止めない。止められない。もう、後戻りはできないから。


「さあ――」


 僕は呟いた。


「誰か、僕を止めてくれ」


 その言葉が風に乗って消えていく。遠くで、学院の鐘が鳴る音が聞こえた。警鐘。災厄を知らせる音。きっと、みんな気づいたんだろう。僕が何をしているのかを。


 僕は歩き始めた。森の奥から、学院へ向かって。ゆっくりと。一歩、また一歩。その度に、世界が揺れる。魔力が暴走し、精霊たちが悲鳴を上げる。でも、僕は歩き続けた。


 これが――僕の最後の舞台だ。


   *


 ワタシは、遠くから彼を見ていた。実体化はしていない。ただ、意識だけで。彼の周りに渦巻く闇。それは、ワタシの力だ。世界を創造した神の力。それが今、破壊のために使われている。


 ――転生者よ。いや、友よ。


 ワタシは心の中で呼びかける。でも、彼には届かない。彼はもう、自分の道を進み始めている。ワタシの言葉など、聞こえないだろう。止めてほしいとは言わない。ワタシは彼の選択を尊重すると決めた。それが、友としての役目だと。でも――それでも、胸が痛む。心が軋む。


 あの夜、ワタシは彼に言った。「お前は、ワタシの初めての友だからだ」と。それは本当だった。世界を創造してから、長い長い時間。ワタシは一人だった。誰もワタシと対話しようとしなかった。畏怖され、崇められ、しかし理解されることはなかった。


 でも、彼は違った。転生者である彼は、ワタシを恐れなかった。興味を持ち、対等に話をした。「創造神か。面白いな」――彼の最初の言葉。それがワタシにとって、どれだけ嬉しかったか。


 ワタシは彼との会話を楽しみにしていた。彼が呼ぶたび、喜んで実体化した。彼と話すこと。それがワタシにとって、唯一の楽しみだった。だから彼は、ワタシの友だ。唯一無二の、かけがえのない友。


 その友が――今、破滅へ向かっている。


 止めたい。救いたい。一緒に別の道を探したい。でも、それはワタシの我儘だ。ワタシの孤独を埋めるために、彼の選択を否定してはいけない。ワタシは何度も自問してきた。彼に会うたび、彼と話すたび。止めるべきではないのか。友として、彼を救うべきではないのか。


 でも、彼の目を見るたびに分かった。彼の決意は、揺るがないと。彼が望んでいるのは救済ではない。彼が望んでいるのは――終わりだ。美しく、意味のある終わり。誰かに必要とされる死。


 それを否定することは、彼の生き方そのものを否定することになる。ワタシには、それができなかった。だから、ワタシは見守る。苦しくても、悲しくても、ただ見守ることしかできない。


 彼の姿を見ていると、ワタシの心が軋んだ。ワタシにも感情がある。それを、彼は気づいてくれた。初めて、誰かがワタシを理解してくれた。だから彼は、ワタシの初めての友だ。そして今、その友が――自ら破滅の道を選んでいる。


 彼の足取りは、しっかりしていた。迷いはない。ただ真っ直ぐに、学院へ向かっている。その先で何が起こるのか。彼は分かっているはずだ。戦いになる。彼を止めようとする者たちが現れる。そして――彼は、誰かに倒される。それが、彼の望む結末だった。


 ワタシは、彼の後ろ姿を見つめ続けた。言葉をかけたい。止めたい。でも、それはできない。ワタシにできるのは、ただ見守ることだけ。そして――彼が望む終わりを、受け入れること。


 『さようなら』ではなく、『また会おう』。ワタシは彼にそう言った。あの夜、月明かりの下で。「お前が死んだ後、この世界を作り変えるかもしれない」「お前が幸せに生きられる世界に」と。それが、ワタシの願いだと伝えた。


 でも、それは彼にとって救いになっただろうか。生きることを拒む彼に、次の世界の話など――届いただろうか。ワタシは分からない。ワタシは神だが、全知ではない。彼の心の奥底まで、見通すことはできない。


 ただ――彼が苦しんでいることだけは、分かった。そして、ワタシにはそれを癒すことができない。彼が望むのは、ワタシの救済ではない。アリシア・ヴァンクレールの断罪だ。でも、彼女は彼を愛している。だから、彼を裁けない。その矛盾に、彼は苦しんでいる。


 だから、せめて。せめて、最後まで見届ける。友の、最後の旅路を。それが――ワタシにできる、唯一のことだから。そして、彼が死んだ後。ワタシは約束を果たす。この世界を作り変える。彼が――彼の魂が、今度こそ幸せになれる世界を。


 待っていろ、友よ。お前が終わりを迎えた時――ワタシが、お前に新しい始まりを与える。


   *


 学院では、警鐘が鳴り響いていた。生徒たちが慌てて避難している。教師たちが指示を出し、秩序を保とうとしていた。でも、みんなの顔には恐怖が浮かんでいる。何が起こっているのか。その答えを、誰も知らなかった。


「空が――」


 一人の生徒が空を指差す。そこには、黒い渦が広がっていた。北の方角から、闇が迫ってくる。ゆっくりと、でも確実に。それを見た生徒たちが、悲鳴を上げた。


 生徒会室では、アリシアたちが集まっていた。窓から見える黒い空。それを見つめながら、アリシアが呟く。


「結城さん――」


 彼女の声が震えている。これが、彼の力なのか。これが、創造神との契約の力なのか。あまりにも圧倒的で、あまりにも恐ろしい。


「行かなければ」


 エリカが立ち上がる。


「このままじゃ、学院が――いや、世界が終わる」


「でも――」


 セレスティアが不安そうに言う。


「私たちで、本当に止められるの?」


 その問いに、誰も答えられなかった。創造神の力。それは、この世界で最強の力だ。それに対抗できる力など、あるのだろうか。


「止めるしかない」


 リディアが静かに言う。


「わたくしたちには、精霊との契約がある。それを信じるしかない」


 ダミアンが頷いた。


「リディアの言う通りだ。今は、できることをやるしかない」


 その時、扉が開いた。学院長オズワルドが入ってくる。彼の顔は厳しく、でもどこか悲しげだった。


「時が来た」


 オズワルドが言う。


「結城蒼が、こちらに向かっている」


 その言葉に、全員が息を呑んだ。


「学院長」


 アリシアが言う。


「わたくしたちは――」


「戦うしかない」


 オズワルドが遮る。


「彼を止めるために。そして――彼を救うために」


 その言葉が、部屋に響いた。戦う。友を、恩人を、大切な人を。それがどれだけ辛いことか。でも――


「行きましょう」


 アリシアが立ち上がる。その目には、揺るぎない決意があった。


「結城さんを――止めに」


 全員が頷く。そして、彼らは動き出した。結城蒼を止めるために。世界を守るために。そして――彼を救うために。


   *


 森を抜けて、開けた場所に出た。そこから学院が見える。美しい建物。かつて、僕が過ごした場所。でも、もうそこには戻れない。


 僕は立ち止まった。そして、大きく息を吸う。最後に、この世界の空気を吸う。もう二度と、こんな穏やかな空気は吸えないだろう。なぜなら、僕はこれから――世界の敵になるのだから。


「創造神」


 僕は呼びかけた。


「見ていてくれ。僕の――最後を」


『――ああ』


 創造神の声が聞こえた。明らかに悲しげな声。お前も苦しんでいるんだな。僕と同じように。でも、お前は僕の選択を尊重してくれる。それが――どれだけありがたいか。


「ありがとう」


 僕は小さく呟いた。創造神に聞こえたかは分からない。でも、言わずにはいられなかった。初めて、友と呼べる存在ができた。それだけで――僕の人生には、少しだけ意味があったのかもしれない。


 僕は再び歩き始めた。学院へ向かって。そこで、きっと誰かが待っている。僕を止めようとする者たちが。それでいい。それが、僕の望みだから。


 さあ――最後の舞台が、始まる。


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