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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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終わりの始まり


 学院の中庭で、生徒たちが不安そうに空を見上げていた。いつもなら青く澄んでいるはずの空が、今日は灰色の雲に覆われている。重苦しい空気。風も止まり、まるで世界が息を潜めているようだった。


「なんだか、変な感じだな」


 一人の生徒が呟く。周囲の生徒たちも頷いた。


「昨日からずっとこうだよ。魔法の授業でも、魔力がうまく制御できないって先生が言ってた」


「結城先輩、どこ行っちゃったんだろうね」


 その名前を聞いて、生徒たちの表情が曇る。結城蒼。彼が学院から姿を消して、もう三日が経っていた。最初は誰も気にしていなかった。彼は平民だし、生徒会の手伝いをしている程度の存在だと思われていたから。でも、彼がいなくなってから、学院の雰囲気が変わった。


 ――何かが、おかしい。


 生徒たちはそれを感じ取っていた。具体的に何がとは言えない。でも、空気が重い。息苦しい。まるで、何か悪いことが起ころうとしているような。


   *


 学院長室で、オズワルド・クロンウェルは窓の外を見つめていた。長い白髭を撫でながら、深いため息をつく。彼の目には、生徒たちには見えないものが見えていた。世界を流れる魔力の乱れ。精霊たちの不安。そして――どこか遠くから押し寄せてくる、巨大な闇。


「始まったか――」


 オズワルドが小さく呟く。執務机の上には、各地から届いた報告書が積み上げられていた。辺境の村での異変。突然現れた黒い霧。作物が枯れ、家畜が倒れる。住民たちが原因不明の体調不良を訴える。そして、魔物の出現頻度が異常に上がっている。


 すべての報告に共通していること。それは――結城蒼が姿を消した方向と、災厄が発生している場所が一致していることだった。


「結城蒼――お前は、本当にそれを選んだのか」


 オズワルドの声が重い。彼は知っていた。結城蒼が抱える闇を。彼が転生者であることを。そして、彼が創造神と契約していることを。学院長として、そしてこの世界最高峰の精霊と契約し――すべてを見通す力を持つ彼には、蒼の本質が見えていた。


 ――孤独な魂。誰にも救われず、誰にも必要とされず、ただ死を望む悲しき少年。


 オズワルドは何度か、蒼に声をかけようとしたことがある。でも、できなかった。彼の目を見た時、そこに映る絶望があまりにも深すぎて。言葉が、届かないと分かっていたから。


「すまない――」


 オズワルドが呟く。救えなかった。一人の少年を。そして今、その少年は世界を脅かす存在となろうとしている。


 扉がノックされた。


「入りたまえ」


 オズワルドが言うと、扉が開いた。入ってきたのは、アリシア・ヴァンクレールだった。彼女の顔は疲労で青白く、目の下には隈ができている。それでも、その目には強い意志が宿っていた。


「学院長」


 アリシアが言う。


「結城さんの行方について、何かご存知ではありませんか」


 オズワルドは少し考えてから、頷いた。


「――おそらく、彼は北の森にいる」


 その言葉にアリシアが目を見開く。


「北の森――」


「そこから、災厄が始まっている」


 オズワルドが報告書をアリシアに見せる。彼女が内容を読むにつれ、顔色がさらに悪くなった。


「これが――結城さんの?」


「おそらく」


 オズワルドが答える。


「彼は創造神と契約している。その力を解放すれば、世界そのものを脅かすことができる」


 アリシアの手が震えた。


「どうして――」


 彼女の声が震える。


「どうして、そこまで――」


「彼は死を望んでいる」


 オズワルドが静かに言う。


「美しく、意味のある死を。だから彼は、自分が悪役となり、誰かに倒されることを選んだのだろう」


 その言葉に、アリシアが唇を噛む。涙が溢れそうになるのを、必死にこらえていた。


「止めなければ――」


 アリシアが言う。


「わたくしが、彼を止めます」


「アリシア様」


 オズワルドが彼女を見る。


「それは、大変な覚悟が必要になる」


「分かっています」


 アリシアが真っ直ぐに学院長を見た。


「でも――諦めません。絶対に、彼を救ってみせます」


 その目に迷いはなかった。オズワルドは小さく笑った。


「そうか――では、私も協力しよう」


 アリシアが驚いた顔をする。


「学院長が?」


「彼は、私の教え子でもある。見捨てるわけにはいかん」


 オズワルドが立ち上がった。


「生徒たちを守りつつ、結城蒼を止める。それが我々の使命だ」


 ―――これまで動いてこなかったのに、ようやく今になって、か。

 そんな、自嘲ともいえる笑いをこぼしながら、オズワルドは歩き始めた。


   *


 生徒会室では、ダミアンとシルヴィアが地図を広げていた。北の森周辺の地図。赤いペンで、災厄が報告された場所に印がつけられている。


「ここ、ここ、そしてここ――」


 ダミアンが指差す。


「すべて北の森を中心に、同心円状に広がっている」


「つまり、震源地は――」


 シルヴィアが言いかける。その時、扉が開いた。エリカ、セレスティア、リディアの三人が入ってきた。彼女たちの手には、精霊との契約の証である紋章が光っていた。


「話は聞いたわ」


 エリカが言う。


「蒼は北の森にいるんでしょ?」


「ええ」


 ダミアンが頷く。


「おそらく、そこで創造神の力を解放し始めている」


「なら、行くしかない」


 リディアが静かに言う。


「わたくしたちが、彼を止めなければ」


「でも――」


 セレスティアが不安そうに言う。


「蒼さんは、本当に止められるのでしょうか」


 その問いに、誰も答えられなかった。創造神の力。それがどれほど強大なものか、彼女たちには想像もつかない。でも――


「止めるしかない」


 部屋の入り口に、アリシアが立っていた。彼女の後ろには、学院長オズワルドの姿もある。


「学院長まで――」


 ダミアンが驚く。オズワルドが頷いた。


「これは学院全体の問題だ。いや、世界全体の問題だろう」


 老学院長の声が響く。


「結城蒼を止めるため、学院の総力を挙げて動く。生徒諸君、教師陣、そして私も――共に戦おう」


 その言葉に、生徒会室にいた全員が頷いた。彼らの目には、同じ決意が宿っている。結城蒼を止める。そして、彼を救う。それが――彼らの使命だった。


   *


 その頃、学院の外では、街の人々も異変に気づき始めていた。商店街で買い物をしていた主婦が、突然空を見上げる。


「あれ、何かしら――」


 空が、さらに暗くなっていた。まるで夜が近づいているかのように。でも、まだ昼過ぎのはずだ。周囲の人々も、不安そうに空を見上げている。


「魔力が――乱れてる」


 魔法使いの商人が呟く。彼の手から、制御できない魔力が漏れ出していた。


「これは、まずい――」


 彼が慌てて店を閉める。周囲の店主たちも、同じように店を閉め始めた。何かが起ころうとしている。それを、本能で感じ取っていた。


 街の教会では、神官たちが祈りを捧げていた。


「神よ、この世界をお守りください」


 彼らの祈りが響く。でも、その声は震えていた。恐怖で。何か巨大な闇が、世界を覆おうとしている。それを、感じていたから。


 そして――北の森の奥深くで、結城蒼は立っていた。彼の周りを、黒い霧が渦巻いている。創造神の力。それが、ゆっくりと解放されつつあった。


 世界が――震え始めていた。


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