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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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真実の告白


 扉が開く音がした。わたくしは凍りつきました。手には結城さんの日記、目には涙。振り返ると、そこに彼が立っていました。結城蒼。彼はわたくしを見ています。そして床に落ちているノートを見ています。わたくしが彼の日記を読んだことに、気づいて。


「アリシア様」


 彼の声が静かに響きました。


「それは――」


 言葉が途切れます。わたくしは何も言えませんでした。ただ涙が止まりません。


「読んだのですね」


 彼が小さく言います。その声は驚いているようでもなく、怒っているようでもなく、ただ諦めているような。


「結城、さん――」


 わたくしは震える声で言います。


「これは――」


 言葉が出てきません。何を言えばいいのでしょう。彼の部屋に無断で入ったこと、彼の日記を読んだこと、すべて間違っていることは分かっています。でもそれ以上に、日記の内容がわたくしの心を押し潰していました。


「すみません」


 結城さんが静かに言いました。


「見られたくないものを、見せてしまって」


 その言葉にわたくしは顔を上げました。


「謝るのは――わたくしの方ですわ」


 涙を拭います。


「勝手に、あなたの部屋に――」

「いえ」


 結城さんが首を振ります。


「アリシア様は、何も悪くありません」


 彼が部屋に入ってきます。そしてわたくしの前に立ちました。


「心配を、かけてすみません」


 その言葉が胸に突き刺さります。


「心配、ですって――?」


 わたくしは声を荒げてしまいました。


「あなたは――」


 涙が溢れます。


「あなたは、死にたかったのですか?」


 その問いに結城さんは何も答えませんでした。ただ静かにわたくしを見ています。


「わたくしに――」


 わたくしは続けます。


「断罪されることを、望んでいたのですか?」


 その言葉に結城さんは小さく頷きました。


「はい」


 静かな肯定。その一言がわたくしの心を砕きました。


「どうして――」


 膝が崩れます。


「どうして、そんなこと――」


 結城さんがわたくしを支えてくれました。その手が冷たくて。


「すみません」


 彼が小さく言います。


「アリシア様を、利用しようとして」


 その言葉にわたくしは首を振りました。


「利用、ではありませんわ」


 涙を拭いながら言います。


「あなたは――ずっと、わたくしを支えてくれました」


 結城さんがわたくしを見下ろします。


「それは――」


 彼の声が震えます。


「アリシア様を、悪役にするためでした」


 その告白にわたくしは息を呑みました。でもわたくしは知っていました。日記に書いてありました。


「わたくしを――」


 小さく言います。


「悪役に、育てるために?」


 結城さんが頷きました。


「はい」


 その言葉が痛くて。でもわたくしは立ち上がります。結城さんの手を振り払って。


「結城さん」


 わたくしは彼を見ます。真っ直ぐに。


「わたくしは――」


 涙が止まりません。でも言わなければなりません。


「わたくしは、あなたを断罪しません」


   *


 アリシアの言葉が僕の耳に届いた。


「わたくしは、あなたを断罪しません」


 その言葉が何を意味するのか、僕には分かっていた。彼女は僕を拒絶した。僕の願いを、僕の望みを、僕の唯一の救いを。


「アリシア様」


 僕は静かに言った。


「それは、困ります」


 アリシアが顔を上げた。


「困る、ですって?」


 彼女の声が震えている。


「あなたは――」


 涙を流しながら言う。


「死にたいと、言うのですか?」


 その問いに僕は頷いた。


「はい」


 短く肯定する。アリシアが息を呑んだ。


「どうして――」


 彼女が小さく呟く。


「どうして、生きていたくないのですか?」


 その問いに僕は少し考えた。どう答えればいいのか。


「生きる意味が、ないからです」


 僕は静かに答えた。アリシアが目を見開いた。


「生きる意味が、ない?」

「はい」


 僕は続ける。


「僕は――転生者です」

「転生者――」


 アリシアが呟く。


「前世の記憶がある、ということですか?」

「ええ」


 僕は頷いた。


「前世で――僕は、孤独に死にました」


 アリシアがじっと僕を見ている。


「誰にも看取られず、誰にも惜しまれず、ただ――消えていきました」


 その言葉が口から溢れる。


「それは――醜い死でした」


 アリシアが何か言おうとして、止めた。


「だから、今度は」


 僕は続ける。


「美しく、終わりたかったんです」


 その言葉にアリシアが首を振った。


「それが――」


 彼女の声が震える。


「わたくしに、断罪されることなのですか?」


 僕は頷いた。


「はい」

「どうして――」


 アリシアが泣いている。


「どうして、わたくしなのですか?」


 その問いに僕は静かに答えた。


「アリシア様は――完璧だからです」


 彼女が目を見開く。


「気高く、誇り高く、正義を貫く」


 僕は続ける。


「そんなアリシア様に断罪されるなら、僕の死にも意味が生まれる」


 その言葉にアリシアが激しく首を振った。


「違います!」


 彼女が叫ぶ。


「わたくしは、完璧ではありません!」


 涙が溢れている。


「わたくしは――」


 彼女の声が震える。


「ただの、人間です」


 その言葉に僕は何も言えなかった。


「結城さん」


 アリシアが僕を見る。涙を流しながら。


「お願いです」


 彼女が小さく言う。


「生きてください」


 その言葉が胸に響いた。


「わたくしは――」


 アリシアが続ける。


「あなたを、断罪しません。あなたを、殺しません」


 涙が止まらない。


「だから――」


 彼女が僕の手を握る。


「生きてください」


 その手が温かくて。


「アリシア様」


 僕は静かに言った。


「でも、僕は――」


 言葉が続かない。アリシアの目が真っ直ぐに僕を見ている。


「あなたには――」


 彼女が言う。


「生きる価値があります」


 その言葉に僕は首を振った。


「ありません」

「あります!」


 アリシアが強く言った。


「あなたは――」


 彼女の声が震える。


「わたくしを支えてくれました。生徒会の仕事を助けてくれました。いつもそばにいてくれました」


 涙が溢れる。


「それは――」


 僕は言った。


「アリシア様を、悪役にするためでした」

「違います!」


 アリシアが叫ぶ。


「あなたの優しさは、本物でした」


 その言葉に僕は何も言えなかった。


「エリカさんも、セレスティアさんも、リディア様も」


 アリシアが続ける。


「みんな――あなたに救われました」


 その言葉が嘘のように聞こえた。


「僕は――」


 小さく言う。


「誰も、救っていません」


 アリシアが首を振った。


「救いました」


 彼女が僕の目を見る。


「あなたは、みんなを救ったんです」


 その言葉が理解できなかった。


「でも――」

「結城さん」


 アリシアが僕の手を強く握る。


「お願いです」


 涙が落ちる。


「生きてください。わたくしは――」


 彼女の声が震える。


「あなたに、生きていてほしいんです」


 その言葉が胸に響いた。初めて誰かが、僕の命を必死に守ろうとしてくれた。でも僕は。


「すみません」


 僕は静かに言った。


「僕には――」


 アリシアの手を外す。


「生きる理由が、ありません」


 その言葉にアリシアが崩れ落ちた。


「どうして――」


 彼女が泣いている。


「どうして、わたくしの言葉では――」


 その言葉が僕の心を締め付けた。でも僕には無理だった。生きること、希望を持つこと、誰かの優しさを受け入れること。それがどうしてもできなかった。前世で誰も僕を見てくれなかった。孤独なアパートの一室で、誰にも気づかれずに死んだ時も、誰も僕の命を惜しんでくれなかった。でも今、目の前にいる彼女は。アリシア・ヴァンクレールは涙を流しながら、僕の命を守ろうとしている。その温かさが痛い。その優しさが苦しい。なぜなら、僕はそれに応えられないから。


「すみません、アリシア様」


 僕は背を向けた。彼女の嗚咽が背中に聞こえる。


「でも、もう決めたことなんです」


 足を動かす。一歩、また一歩。扉に近づいていく。その時――


「待ってください!」


 アリシアの声が響いた。強い声だった。涙を押し殺した、強い声。振り返ると、彼女が立ち上がっていた。涙で濡れた顔。でも、その目には強い光があった。


「わたくしは――」


 彼女が宣言する。


「諦めません」


 涙を流しながらも、その声は揺るがない。


「あなたを――」


 アリシアが一歩、近づく。


「絶対に、救ってみせます」


 その目が揺るがない意志を宿している。


「たとえ――」


 アリシアが続ける。


「あなたが拒んでも」


 また一歩、近づく。


「あなたが逃げても」


 また一歩。


「あなたが――」


 彼女が僕の目の前に立つ。


「死にたいと願っても」


 その目が僕を射抜く。


「わたくしは、諦めません」


 その宣言が部屋に響いた。僕は何も言えなかった。アリシアの目に映っているもの。それは僕への決意。僕を救うという確固たる意志。


「結城さん」


 アリシアが静かに言う。


「わたくしは――」


 涙がまた溢れる。


「あなたに、生きていてほしいんです」


 その言葉が胸に突き刺さった。でも、僕は首を振った。


「無理です」


 小さく答える。アリシアが首を振る。


「遅くなんて、ありません」

「遅いんです」


 僕は言った。


「僕は――もう、決めてしまったから」


 その言葉の意味を、アリシアは理解しただろうか。僕がもう引き返せないところまで来ていることを。


「結城さん――」


 アリシアの声が震えている。でも、僕はもう聞けない。


 扉を開けた。廊下の冷たい空気が部屋に流れ込む。


「結城さん!」


 アリシアの声が響く。でも僕は部屋を出た。扉を閉める。アリシアの声が遠ざかっていく。


 僕は廊下を歩き始めた。月明かりが窓から差し込んでいる。静かな夜だった。誰もいない廊下に、僕の足音だけが響いている。心が空っぽだった。アリシアの優しさは本物だった。彼女の涙も、彼女の言葉も、彼女の想いも、すべて本物だった。でも、それは僕には届かない。なぜなら、僕はもう壊れているから。


 廊下の先に階段が見える。僕はそこを降りていく。一段、また一段。アリシアの声がまだ耳に残っている。


「わたくしは、諦めません」


 その言葉が頭の中で繰り返される。僕は小さく笑った。空っぽな笑顔で。


「無駄なのに」


 小さく呟く。アリシアがどれだけ頑張っても、どれだけ僕を救おうとしても、僕はもう救われない。なぜなら、僕自身がそれを拒んでいるから。


 外に出ると夜風が頬を撫でた。冷たい風。でも心地よくない。何も感じられない。空を見上げる。星が綺麗に輝いていた。でもその光も僕には届かない。すべてが遠くて、すべてが空虚だった。僕はただ歩き続けた。どこへ行くのかも分からないまま。ただアリシアから遠ざかるために。彼女の優しさから逃げるために。なぜなら、それを受け入れてしまえば、僕の決意が崩れてしまうから。


 月が僕を照らしていた。冷たい光で。その光が僕の影を伸ばしている。長く、暗い影。それが僕の心を表しているようだった。僕は夜の学院をさまよい続けた。アリシアの言葉がずっと頭の中で響いている。


「わたくしは、諦めません」


 その言葉が僕を苦しめる。なぜなら、僕はそれに応えられないから。彼女の想いを受け入れられないから。


 風がまた吹いた。冷たい夜風。僕はその風に吹かれながら、ただ歩き続けた。暗い夜の中を。一人で。そして心の中で呟いた。


 ごめんなさい、アリシア様。僕はあなたの優しさに応えられない。あなたの想いを受け入れられない。なぜなら、僕はもう決めてしまったから。自分の終わり方を。


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