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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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セレスティア編 後編


 セレスティアの母親が訪れたのは、その三日後だった。


 僕は――約束通り、セレスティアの隣にいた。

 学院の応接室。

 セレスティアは、僕の手を握りしめている。

 その手は、冷たく震えていた。


「大丈夫です」


 小さく囁く。

 セレスティアは、不安そうに頷いた。


 扉が開く。


 そこに立っていたのは――

 厳格そうな、中年の貴婦人だった。


「セレスティア」


 冷たい声。

 母親の目には、愛情のかけらもない。


「母、様」


 セレスティアの声が、震える。


「成績はどうなの? 一位を維持しているの?」

「……はい」

「社交は? 学院の令嬢たちと交流を深めているの?」


 セレスティアは、答えられなかった。

 黙って、俯く。


「返事をしなさい、セレスティア」


 母親の声が、厳しくなる。

 セレスティアは――ビクッと震えた。


「失礼します」


 僕が、口を開いた。


「初めまして。結城蒼と申します」


 母親が、僕を睨む。


「あなたは?」

「セレスティアさんの友人です」


 その言葉に――

 母親の顔が、驚きに染まった。


「友人? この子に友人ができたの?」


 まるで、信じられないという口調だった。


「ええ。セレスティアさんは、とても優秀な方です」

「知識も豊富で、心も優しい」

「僕は、彼女と友人になれて光栄です」


 僕の言葉に――

 セレスティアが、小さく泣いた。


 母親は、しばらく僕を睨んでいた。

 そして――小さく鼻を鳴らした。


「結城、と言いましたね」

「はい」

「あなた、この子を甘やかさないでくださいね」


 母親が、冷たく言った。


「この子は弱い。人と話すことすらできない」

「だから厳しく育てなければ――」

「母親として、躾けなければ――」


「違います」


 僕が、遮った。


「セレスティアさんは、弱くありません」


 母親が、僕を睨む。

 でも、僕は引かなかった。


「確かに、人と話すのは苦手かもしれません」

「でも、それは弱さではありません」

「彼女には、彼女の良さがあります」


 僕は、セレスティアの手を握った。


「知識を愛し、物語を愛し、真実を追求する心」

「そういう素晴らしい部分があります」

「それを、誰かと比べる必要はないんです」


 母親は、黙っていた。

 そして――小さく溜息をついた。


「分かりました」


 母親が、立ち上がる。


「今日のところは帰ります」

「でも、セレスティア――」


 母親が、娘を見た。


「あなたは、この学院で結果を出しなさい」

「私の期待に、応えなさい」


 その言葉を残して――

 母親は、去っていった。


 扉が閉まる。


「うぅ……」


 セレスティアが、泣き崩れた。

 僕は、そっと彼女の頭を撫でた。


「もう大丈夫です」

「結城、さん……」


 セレスティアが、僕を見た。

 その目は――涙で濡れていた。


「ありがとう、ございます」

「守ってくれて……」

「味方になってくれて……」


 セレスティアは、僕にしがみついて泣いた。

 その姿は――あまりにも弱々しかった。


 僕は――

 そんなセレスティアを抱きしめた。


 罪悪感が、胸を押し潰す。

 僕は、この少女を利用している。

 計画のために。アリシアと対立させるために。


 でも――

 彼女の涙を見ると、心が痛んだ。


「このままでいいのか?」


 心の中で、自問する。

 でも――もう止められない。

 計画は、進めなければならない。


 数日後。

 僕は、セレスティアをアリシアに引き合わせた。


 生徒会室。

 アリシアは、いつものように優雅に微笑んでいた。


「セレスティアさん、ですか」


 アリシアが、セレスティアを見る。


「は、はい……」


 セレスティアは、緊張して俯いていた。


「初めまして。私はアリシア・ヴァンクレールと申します」


 アリシアが、優しく微笑む。

 セレスティアは――その笑顔に、戸惑っていた。


「結城から、あなたのことを聞きました」

「本が、お好きなのですね」


 その言葉に――

 セレスティアが、小さく頷いた。


「はい……」

「私も、本は好きですよ」


 アリシアが、嬉しそうに言った。


「特に、歴史書や伝記が好きです」

「あなたは、どんな本が好きなのですか?」


 アリシアの優しい問いかけに――

 セレスティアが、少しだけ心を開いた。


「ファンタジー、が……好きです」

「まあ、素敵ですね」


 アリシアが、目を輝かせた。


「私も昔、よく冒険物語を読みました」

「竜が出てくる話とか、魔法使いの話とか」


 二人は――自然に、本の話を始めた。


 僕は――その様子を見ていた。


 違う。

 これは、計画と違う。


 二人は、対立するはずだった。

 セレスティアが僕に依存して、アリシアが嫉妬して――

 そういう展開になるはずだった。


 でも――

 アリシアは、セレスティアを受け入れている。

 優しく、温かく。


「あの、アリシア様……」


 セレスティアが、小さく言った。


「私、人と話すのが、苦手で……」

「いつも、一人で本を読んでいて……」

「でも、結城さんが――」


 セレスティアの目に、涙が浮かぶ。


「友達になってくれて」

「初めて、誰かと話せるようになって……」


 その言葉に――

 アリシアが、優しく微笑んだ。


「それは、良かったですね」


 アリシアが、セレスティアの手を取った。


「でも、セレスティアさん」

「あなたには、もっとたくさんの可能性があります」


 アリシアの声が、温かい。


「本を愛するあなたは、きっと素晴らしい学者になれます」

「その知識を、世界のために使えます」

「だから――」


 アリシアが、セレスティアを見た。


「自分を、もっと信じてあげてください」


 その言葉に――

 セレスティアが、大粒の涙を流した。


「ありがとう、ございます」

「アリシア、様……」


 セレスティアは――

 アリシアに、心を開いていた。


 僕は――

 その光景を、ただ見ていることしかできなかった。


 また、失敗した。

 計画は、また崩れた。


 アリシアは――悪役にならない。

 誰に対しても、優しい。

 それが――彼女の本質なのだ。


 その日の夕方。

 図書館で、セレスティアと二人きりになった。


「結城さん」


 セレスティアが、僕を見た。

 その目は――真っ直ぐだった。


「私、気づいてしまいました」


 セレスティアが、小さく言った。


「結城さんは、何かを企んでいます」

「私を使って、アリシア様と――」

「何か、しようとしていました」


 その言葉に――

 僕の心臓が、止まりそうになった。


「でも、分かったんです」


 セレスティアが、涙を流した。


「アリシア様は、悪い人じゃない」

「すごく優しくて、温かい人」

「そして、結城さんは――」


 セレスティアが、僕の手を握った。


「とても、苦しんでいる」


 その言葉に――

 僕は、何も言えなかった。


「結城さんは、いつも笑顔です」

「でも、その笑顔は――悲しい」


 セレスティアの涙が、止まらない。


「私、本ばかり読んでいたから」

「人の気持ちは、分からないと思っていました」

「でも、結城さんといて――」


 セレスティアが、震える声で言った。


「分かってしまったんです」

「結城さんの笑顔が、嘘だって」

「本当は、苦しんでいるって」


 セレスティアは、僕を見た。


「結城さん」

「あなたは、なぜそんなに――」

「自分を傷つけるんですか?」


 その問いに――

 僕は、答えられなかった。


 セレスティアは、小さく微笑んだ。

 それは――悲しい笑顔だった。


「私、決めました」


 セレスティアが、立ち上がる。


「学院を、辞めます」


 その言葉に――

 僕は、驚いた。


「王都の図書館で、学者として働きます」

「母の期待ではなく、自分の道を歩きます」


 セレスティアは、僕を見た。


「アリシア様が、言ってくれたんです」

「自分を信じなさいって」

「だから――私、頑張ってみます」


 セレスティアが、涙を拭った。


「結城さん、ありがとうございました」

「あなたのおかげで、私は変われました」


 そして――


「結城さんも、光を見つけてください」


 セレスティアが、最後に言った。


「本の中だけじゃなく」

「現実の中にも、光はあります」

「アリシア様も、エリカ様も――」

「みんな、結城さんを心配しています」


 セレスティアは、微笑んだ。


「だから、どうか――」

「自分を、大切にしてください」


 その言葉を残して――

 セレスティアは、図書館を去っていった。


 僕は――

 一人、椅子に座ったまま動けなかった。


 また、失敗した。

 セレスティアも、悪役にならなかった。

 アリシアと対立することもなかった。

 むしろ――アリシアに救われた。


「なぜだ」


 小さく呟く。


 エリカも。

 セレスティアも。

 みんな――僕を見抜いた。


 僕の計画を。

 僕の歪みを。

 僕の――死への渇望を。


 そして、みんな――

 僕を否定した。


「それは、間違っている」


 エリカの言葉が、響く。


「あなたも、光を見つけてください」


 セレスティアの言葉が、響く。


 みんな――

 僕に、生きろと言う。


 でも――

 僕には、分からない。


 どうやって生きればいいのか。

 何のために生きればいいのか。


 美しく終わる。

 それが、僕の唯一の目標だった。


 でも――

 その道は、どんどん遠ざかっている。


 アリシアは、悪役にならない。

 ヒロインたちは、アリシアを認める。

 みんな――優しすぎる。


「次だ」


 小さく呟く。

 まだ、諦めない。

 諦められない。


 リディア・アストレア。

 第二王女。

 最後のヒロインだ。


 彼女なら――

 計画通りにいくかもしれない。


 でも――

 胸の奥の違和感は、消えなかった。


 エリカの笑顔が、浮かぶ。

 セレスティアの涙が、浮かぶ。

 アリシアの優しさが、浮かぶ。


 みんな――

 僕を、心配してくれている。


 でも、僕は――

 その優しさに、応えられない。


 応えてしまったら――

 僕は、生きてしまう。


 生きてしまったら――

 前世と同じように、孤独に死んでいく。


 だから――

 僕は、美しく終わらなければならない。


 それが――

 僕の、唯一の救いだから。


あとがき――――

主人公が狂うのが楽しみだぁ


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