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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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原作のヒロインたち


■エリカ・フォルテシア視点


 あたしの名前は、エリカ・フォルテシア。

 男爵家の三女で、騎士を目指している。


 兄が二人、姉が一人いる。

 みんな優秀で、特に長兄は若くして騎士団に入団した。

 次兄も学院を首席で卒業して、今は王都の警備隊にいる。

 姉は魔法の才能があって、宮廷魔術師として王都で働いている。


 あたしは――末っ子だ。

 家族からは可愛がられている。

 でも、それが時々重い。


「エリカも頑張らないとな」

「お前ならできる。フォルテシアの血を引いているんだから」


 父がそう言うたびに、胸が苦しくなる。

 嬉しい。期待されているのは、嬉しい。

 でも――怖い。


 期待に応えられなかったら?

 兄たちのようになれなかったら?

 あたしは、認めてもらえるのだろうか。


 五歳の時だった。

 兄たちが訓練している姿を見て、あたしは叫んだ。


「あたしも騎士になりたい!」


 家族は笑った。

 可愛らしい妹の夢物語だと思ったんだろう。

 でも、あたしは本気だった。


 こっそり兄の剣を持ち出して、一人で振ってみた。

 重くて、うまく扱えなくて。

 それでも、諦めなかった。


 十歳の時、村で盗賊に遭遇した。

 村人が襲われているのを見て、あたしは剣を抜いた。

 震える手で、それでも――

 誰かを守りたくて。


 結果的に、盗賊は追い払えた。

 村人は感謝してくれた。

 家族も、ようやくあたしの本気を認めてくれた。


 でも、それからが地獄だった。


「女騎士は珍しい。期待しているぞ」

「フォルテシア家の名に恥じないように」

「お前なら、姉や兄を超えられる」


 期待、期待、期待。

 重い。苦しい。

 でも――嬉しい。


 矛盾している。

 あたし自身が、矛盾している。


 訓練場で剣を振る。

 一人で、黙々と。

 周りには男子生徒ばかり。女子で剣術を専攻しているのは、あたしだけだ。


「ほら、女騎士様だぞ」

「珍しいよな」

「でも、大した実力じゃないって聞いたぞ」


 そんな声が聞こえる。

 陰口。嘲笑。

 でも、負けられない。


 あたしは、騎士になるんだ。

 兄たちのように。

 家族の期待に応えるために。

 そして――自分自身のために。


 剣を振る。振る。振り続ける。

 汗が流れる。手が痛い。マメができて、血が滲む。

 でも、止まれない。


 止まったら――

 あたしは、あたしでいられなくなる気がするから。


 夜、寮の部屋で一人になる。

 鏡に映る自分を見る。

 赤毛のショートヘア。日焼けした肌。傷だらけの手。


「これが、あたし」


 小さく呟く。

 女の子らしくない。

 クラスメイトの女子たちは、あたしを避ける。


「変わってるよね、エリカさん」

「なんで剣なんてやってるんだろう」


 そんな言葉も聞こえる。

 でも、いい。

 あたしは、あたしの道を行く。


 たとえ、孤独でも。

 たとえ、理解されなくても。


 ただ――

 時々、思う。


 誰か、あたしを認めてくれないかな。

 家族の期待としてじゃなく。

 騎士志望の女子としてじゃなく。

 ただの、エリカ・フォルテシアとして。


 認めてほしい。

 褒めてほしい。

 そばにいてほしい。


 でも、そんな人は――

 いるはずがない。


 あたしは、強くならなきゃいけない。

 一人でも、やっていけるように。


 明日も、訓練場に行く。

 一人で、剣を振る。

 それが、あたしの生き方だから。


■セレスティア・ノワール視点


 私の名前は、セレスティア・ノワール。

 伯爵家の一人娘として育ちました。


 私は――本が好きです。

 物語が好き。

 活字を追っている時だけ、私は自由になれる。


 人と話すのは苦手です。

 何を話せばいいのか分からない。

 どう接すればいいのか分からない。

 だから、いつも黙っている。


 でも、本の中では違います。

 主人公と一緒に冒険して、時には泣いて、時には笑う。

 登場人物たちと友達になって、彼らの喜びや悲しみを感じる。


 図書館が、私の居場所。

 静かで、落ち着いていて、誰にも邪魔されない。

 本棚に囲まれて、物語に埋もれている時――

 私は、本当の自分でいられる。


 でも――

 母は、それが気に入らないみたい。


「セレスティア、もっと社交界に出なさい」

「そんなに本ばかり読んで、お嫁に行けると思っているの?」

「あなたは伯爵家の娘なのよ。もっと貴族らしく振る舞いなさい」


 母の言葉が、鋭く突き刺さる。

 私は、何か間違っているのだろうか。

 本を読むことが、そんなに悪いことなのだろうか。


 七歳の時だった。

 母が主催する茶会に、無理やり参加させられた。

 周りは、同年代の貴族の子女たち。


「セレスティア様って、いつも本を読んでいますわね」

「お話しても、反応が薄いのよね」

「変わった方ですわ」


 そんな声が聞こえた。

 私は、何も言えなかった。

 ただ、紅茶を飲むふりをして、俯いていた。


 それから、社交界には出なくなった。

 母は怒った。

 でも、私は――耐えられなかった。


 人の輪の中にいると、息が詰まる。

 何を話せばいいのか分からなくて、パニックになる。

 だから、逃げた。

 本の世界へ。


 友達は――いない。

 クラスメイトは、私を「変わり者」だと思っている。

 いつも一人で本を読んでいる、暗い女の子。


「セレスティアさんって、何考えてるか分からないよね」

「話しかけても、ちゃんと返事してくれないし」

「あの子、本当に友達いないよね」


 廊下で、そんな会話を聞いた。

 胸が痛かった。

 でも、反論できなかった。


 だって、本当のことだから。


 私には、友達がいない。

 人と話すのが苦手で、いつも一人ぼっち。

 それでも、いいと思っていた。


 本があれば、寂しくない。

 物語の中の友達がいれば、十分だと。


 でも――

 本当は、寂しかった。


 誰かと、話したい。

 誰かに、理解されたい。

 本の話を、共有したい。


「この物語、すごく感動したの」

「主人公の気持ち、分かる気がする」

「ラストシーン、泣いちゃった」


 そんな話を、誰かとしたい。

 でも、その勇気がない。


 人と話すのが、怖い。

 拒絶されるのが、怖い。

 「やっぱり変わってる」って言われるのが、怖い。


 だから私は、今日も図書館にいる。

 一人で、本を読んでいる。

 それが、私の居場所だから。


 窓の外を見る。

 生徒たちが、楽しそうに話している。

 笑い合って、肩を組んで。


 羨ましい。

 でも、手が届かない。


 私は、ここにいる。

 本に囲まれた、静かな世界に。

 一人で。


 ページをめくる。

 物語の中では、主人公に友達がいる。

 信頼できる仲間がいる。

 大切な人がいる。


「いいな」


 小さく呟く。

 物語の中では、みんな幸せになる。

 でも、私は――


 本を閉じる。

 また明日、続きを読もう。

 今日は、もう疲れた。


 人と話すことに疲れて。

 いや、話せないことに疲れて。

 一人でいることに――疲れた。


■リディア・フォン・アストレア視点


 私は、リディア・フォン・アストレア。

 隣国フェルディア王国の第二王女です。


 姉が一人、弟が一人。

 姉は次期女王として、国で政務を学んでいます。

 聡明で、気品があって、完璧な女王候補。

 弟はまだ幼いですが、魔法の才能があると期待されています。

 わずか七歳で、高位の魔法を使いこなすとか。


 そして私は――

 「外交のために」この学院に留学しています。


 表向きは、友好の証。

 二国の架け橋として、文化交流のために。

 綺麗な言葉で飾られた、派遣理由。


 でも本当は――

 居場所がなかっただけ。


 姉ほど優秀じゃない。

 弟ほど才能もない。

 中途半端な、第二王女。


「リディアは愛想がいいから、外交に向いている」


 父がそう言った時、私は笑顔で頷きました。

 「はい、お任せください」と。

 完璧な王女の笑顔で。


 でも、心の中では泣いていました。


 私には、何もないんだ。

 政治の才能も、魔法の才能も。

 ただ「愛想がいい」というだけ。


 それが、私の価値。

 それだけが、私の存在意義。


 十歳の時だった。

 姉が初めて外国の使節団と交渉した。

 完璧な立ち居振る舞いで、見事に交渉を成功させた。


「さすがアンナ王女だ」

「次期女王にふさわしい」


 周りは、姉を称賛した。

 私も、拍手をした。

 笑顔で。


 でも、父が私を見る目は――

 「お前も姉のようになれ」と言っていた。


 無理だ。

 姉には、なれない。

 私は、私でしかない。


 学院では、王女として振る舞っています。

 優雅に、上品に、完璧に。

 誰にも本心を見せずに。


「リディア様、さすが王女様ですわ」

「品格が違いますわね」

「お美しい方ですこと」


 そんな言葉を聞くたびに、胸が痛みます。

 これは、本当の私じゃない。

 演じているだけ。


 仮面をかぶった、人形。

 それが、私。


 本当の私は――

 もっと普通の女の子でいたかった。

 友達と笑い合って、くだらない話をして。

 王女としてじゃなく、一人の人間として。


 寮の部屋に戻ると、鏡を見る。

 金色の髪。青い瞳。整った顔立ち。

 「王女らしい」と言われる容姿。


 でも、それは私じゃない。

 これは、リディア・フォン・アストレアという「役割」だ。


 仮面を外したい。

 本当の自分を見せたい。

 でも――


「王女が弱音を吐くな」


 父の言葉が、脳裏に響く。

 私は、完璧でなければならない。

 いつも、笑顔でいなければならない。


 それが、王族の責任。

 それが、私の役目。


 でも、時々思う。

 私は、何のために生まれてきたのだろう。


 姉の代わり?

 父の期待に応えるため?

 国の外交カード?


 私自身の、価値って何?


 答えは、出ない。

 ただ――

 疲れた。


 演じることに、疲れた。

 完璧でいることに、疲れた。

 笑顔を作ることに、疲れた。


 窓の外を見る。

 星が、綺麗に輝いている。

 あの星たちは、自由だ。

 誰にも縛られずに、輝いている。


 私も――

 自由になりたい。


 でも、それは許されない。

 私は王女だから。

 いつも完璧でいなければならないから。


 だから私は、今日も演じ続ける。

 「完璧な王女」を。

 それが、私の役割だから。


 たとえ、心が壊れそうでも。

 たとえ、本当の自分を見失っても。


 私は、リディア・フォン・アストレア。

 第二王女。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 ただの、人形。


■結城蒼視点


 舞踏会が終わって、数日が経った。


 生徒会の仕事は、相変わらず忙しい。

 でも、アリシアは楽しそうだ。

 多くの生徒たちに感謝されて、笑顔で応えている。


 僕は――その様子を、遠くから見ていた。


「完全に、聖女だな」


 小さく呟く。

 アリシアは、悪役にならなかった。

 計画は、崩壊した。


 でも――

 まだ、諦めるわけにはいかない。

 美しく終わる。それが、僕の唯一の目的だから。


「ならば――」


 別の方法を考えなければならない。

 アリシアが悪役になれないのなら――

 他の誰かを、悪役にすればいい。


 原作ゲームには、複数のヒロインがいた。

 騎士志望の快活な少女、エリカ・フォルテシア。

 図書館の優等生、セレスティア・ノワール。

 隣国の王女、リディア・フォン・アストレア。


 彼女たちは、原作では主人公と恋に落ちるヒロインたちだ。

 でも、今は――

 ただの学院の生徒に過ぎない。


「彼女たちを、悪役にする」


 小さく呟く。

 方法は、いくつかある。


 彼女たちの問題を解決して、僕に依存させる。

 そして、アリシアと対立させる。

 嫉妬、誤解、すれ違い――

 そうすれば、彼女たちは僕を奪い合う。


 そして最後に――

 誰かが、僕を断罪する。


「それでいい」


 アリシアを傷つけることなく、美しく終われる。

 完璧な計画だ。


 でも――

 胸の奥に、違和感がある。


 アリシアとの舞踏会を思い出す。

 彼女の笑顔を思い出す。

 「そばにいてくださいね」という言葉を思い出す。


「これでいいのか?」


 自問する。

 でも、答えは決まっている。


「これでいい」


 僕には、死が必要だ。

 美しく終わることが、必要だ。

 そのためなら――

 ヒロインたちを利用することも、厭わない。


 翌日、僕は訓練場に向かった。

 エリカが、一人で剣を振っている。

 必死に、何かから逃げるように。


「あれが、最初のターゲットか」


 小さく呟く。

 エリカ・フォルテシア。

 原作では、家族のプレッシャーに苦しむ少女。

 主人公が問題を解決して、彼女は自分の道を見つける。


 ならば――

 僕が、その主人公の役割を演じればいい。


「こんにちは」


 声をかけると、エリカが驚いて振り返った。


「え? あ、結城さん!」


 エリカは、慌てて剣を下ろす。

 汗だくで、息も荒い。


「一人で訓練していたんですか?」

「う、うん。そうだけど……」


 エリカは、少し恥ずかしそうに視線を逸らす。


「良ければ、お手合わせしませんか?」


 その提案に、エリカの目が輝いた。


「本当!? 結城さんって、すごく強いって噂だよね!」

「噂ほどじゃありませんよ」


 僕は、微笑んだ。

 空っぽな笑顔で。


 これが、始まりだ。

 ヒロインたちを利用する、計画の始まり。

 彼女たちを僕に依存させて、最後は――

 誰かに断罪される。


「それでいい」


 心の中で、自分に言い聞かせる。

 これが、唯一の道だ。


 でも――

 胸の奥の違和感は、消えなかった。


 アリシアの笑顔が、脳裏に浮かぶ。

 「そばにいてくださいね」という言葉が、響く。


「ごめん、アリシア」


 心の中で謝る。

 君の信頼を、裏切ることになる。

 でも――これしか、方法がないんだ。


 美しく終わるために。

 それが、僕の存在意義だから。


 エリカが、嬉しそうに剣を構える。

 その笑顔は――純粋で、無垢だった。


 僕は、この少女を利用する。

 計画のために。

 死ぬために。


「それでいい」


 もう一度、自分に言い聞かせる。

 でも――

 罪悪感だけは、消せなかった。


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