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ギャルゲーの主人公に転生したので悪役令嬢の補佐してみた  作者: tanahiro2010


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Prologue 転生と覚醒


 目が覚めた。

 最初に感じたのは、柔らかな布団の感触と、窓から差し込む朝日の暖かさだった。

 僕は――いや、「僕」? 奇妙な違和感が全身を包む。体が軽い。いや、小さい。そして何より、この視界の低さは一体なんだ。

 ゆっくりと体を起こす。小さな手。短い腕。目の前に広がるのは、見覚えのない木造の部屋。質素だが清潔で、温かみのある空間。

 そして――記憶が、雪崩のように流れ込んできた。


 前世の記憶。東京の片隅にある孤児院。冷たいコンクリートの床。満足に与えられなかった食事。誰も信じられなかった日々。唯一の救いだった、古いゲーム機。

 画面の向こうだけが、僕を受け入れてくれた。

 十二歳でオンラインゲームと出会い、才能が開花した。あらゆるゲームで頂点を取った。プロの誘いも断って、配信だけで生きていた。誰とも会わず、誰とも話さず、画面越しにだけ存在していた。

 そして十八歳の冬。配信中の突然の心臓発作。薄れゆく意識の中で思ったこと。

 『ああ、やっぱり僕の人生は何の意味もなかったんだ』

 誰にも看取られず、発見されたのは数日後だったらしい。そんな情報すら、僕は死んでから知った。


 なのに、どうして。

 どうして、また生きているんだ。


「蒼、起きた? 朝ごはんできてるわよ」


 扉の向こうから、優しい女性の声が聞こえた。母親――この体の母親だ。記憶がそう告げている。この世界に生まれて五年。優しい両親に育てられた、幸せな子供時代。

 でも、それは「この体」の記憶であって、「僕」の記憶じゃない。

 僕は前世の記憶を持つ、十八歳の青年なのだから。


「……はい、今行きます」


 小さな声が、口から出た。五歳児の声だ。違和感しかない。

 ベッドから降りて、部屋を出る。廊下には木の温もりがある。リビングからは、焼きたてのパンの香りと、母親の鼻歌が聞こえてくる。

 こんな温かな日常、前世では一度も経験したことがなかった。

 なのに、胸が締め付けられるように苦しい。


「おはよう、蒼」


 髪を一つに結んだ優しそうな女性――母親が、笑顔で迎えてくれた。テーブルには焼きたてのパンと、野菜のスープ。贅沢ではないが、愛情がこもった朝食。

 父親は農家で、既に畑に出ているらしい。平民の家庭だが、家族は仲が良い。前世の僕からすれば、信じられないほど恵まれた環境だ。


「ありがとう、お母さん」


 そう言って席に着く。母親は嬉しそうに微笑んで、僕の頭を撫でた。

 温かい手のひら。前世では、一度も感じたことのなかった感触。

 なのに、僕の心は冷たいままだった。


 食事を終えて、自室に戻る。小さな窓から外を眺める。青い空、緑の草原、遠くに見える山々。美しい景色だ。ゲームの中で見た、あの世界そのもの。

 そう――僕は気づいていた。

 ここが『エターナル・クロニクル』の世界だということに。


 あの超難関ゲーム。ギャルゲーの皮を被った、恐ろしく作り込まれたRPG。世界中のトッププレイヤーが挑戦し、誰一人として裏ボス「創造神」を倒せなかった、あのゲーム。

 僕も数百回挑戦して、一度も勝てなかった。完璧主義の僕にとって、それは大きな心の傷だった。

 そのゲームの世界に、転生してしまった。


 最初は思った。『今度こそ攻略してやる』と。

 この世界の仕組みを知っている。イベントの発生条件も、キャラクターたちの過去も、すべて知っている。なら、今度こそクリアできるはずだ。


 でも――それから数日が経って、僕はふと気づいてしまった。


 また、生きなければならないのか。


 前世で十八年間、僕は何をしていた? 孤児院で惨めに過ごし、誰も信じられず、画面の向こうだけに生きて、誰にも看取られずに死んだ。

 何の意味もない人生だった。

 転生したからといって、それが変わるわけじゃない。結局、また孤独に生きるだけだ。そしてまた、意味のない死を迎える。

 それなら――


「せめて、意味のある終わり方をしたい」


 小さな声で、呟いた。

 ゲームの中だ。物語の中だ。なら、僕の死にも意味を持たせられるんじゃないか。

 前世みたいに、誰にも気づかれずに朽ちていくんじゃなく。誰かに覚えてもらえる、物語の一部として終われるんじゃないか。

 そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった気がした。


 窓の外を見る。青い空。美しい世界。

 でも、僕の心は相変わらず灰色のままだった。


 それから、僕は考え始めた。

 どうすれば、美しく終われるだろう。どうすれば、物語の中で意味のある死を迎えられるだろう。

 答えは意外とすぐに見つかった。


 ゲーム『エターナル・クロニクル』には、悪役令嬢がいる。アリシア・ヴァンクレール。主人公に嫌がらせをし、最終的に断罪される彼女。

 そうだ。彼女に、僕を断罪してもらえばいい。

 完璧な悪役令嬢に、完璧に裁かれる。それなら、僕の死にも意味が生まれる。物語の一部として、美しく終われる。


「それが、僕の生きる意味になる」


 小さな拳を握りしめる。五歳児の体では、力なんてほとんど入らない。

 でも、不思議と決意だけは固まっていた。


 その日から、僕は動き始めた。

 まず必要なのは、力だ。アリシアを完璧な悪役令嬢に育て上げるためには、僕自身が彼女を導けるだけの力を持たなければならない。

 そして、僕はゲーム知識から、ある存在のことを知っていた。

 世界の創造神。誰も辿り着けなかった、裏ボスの存在。

 あの存在と契約できれば、圧倒的な力を手に入れられる。


 五歳児の体で、世界の果てにいる神と契約する。

 無謀だ。狂気の沙汰だ。

 でも、僕には恐怖がなかった。死ぬことが怖くないからだ。むしろ、死んでも構わないと思っていた。

 それなら、挑戦してみる価値はある。


「来年、六歳になったら」


 窓の外を見ながら、呟く。

 六歳になったら、家を出よう。創造神の元へ向かおう。

 そして、僕の物語を始めよう。美しく終わるための、物語を。


 母親が階下で呼んでいる。「蒼、お昼ごはんよ」という優しい声。

 僕は小さく息を吐いて、部屋を出た。

 この温かな日常も、あと一年だけだ。深く関わっても、苦しいだけだから。


 その夜、僕は一人でベッドに横たわっていた。

 窓の外には満月が浮かんでいる。この世界の月は、前世の地球のそれとよく似ていた。丸くて、白くて、どこか寂しげで。

 前世の部屋には、窓なんてなかった。孤児院の相部屋は、換気口しかない閉鎖的な空間だった。月を見上げるなんて、何年ぶりだろう。いや、もしかしたら初めてかもしれない。


「綺麗だな」


 そう呟いてから、自分の言葉に驚く。

 綺麗? 僕が、何かを綺麗だと思った?

 前世では、すべてが灰色だった。空も、街も、人々の笑顔も。すべてが色褪せて見えた。生きることに意味を見出せなかった僕には、世界は無彩色だった。

 なのに、今この月は確かに美しいと感じる。

 転生したから? 五歳の体になったから?

 いや、違う。きっと――


「死ぬことを決めたからかな」


 小さく笑う。皮肉だ。生きることを諦めたら、世界が少し美しく見えるようになった。

 でも、それでいい。どうせ僕は、美しく終わるために生きるのだから。終わりを見据えているから、今この瞬間が少しだけ輝いて見える。


 階下から、両親の話し声が聞こえてくる。父親が畑の話をしている。母親が笑っている。平和な夫婦の会話。

 前世では、親の顔すら知らなかった。両親というものが、どんな存在なのかすら分からなかった。

 今、初めて知った。親というのは、こんなにも温かいものなのかと。


「ごめんね、お父さん、お母さん」


 小さく謝る。声は誰にも届かない。

 来年、僕は家を出る。危険な旅に出る。もしかしたら、二度と帰ってこられないかもしれない。

 でも、それでいい。僕は既に決めた。この人生に、意味を持たせると。


 ゲーム『エターナル・クロニクル』の知識が、頭の中を巡る。

 創造神の住処は、世界の最北端。「終焉の氷原」と呼ばれる、人を寄せ付けない極寒の地。そこに辿り着くだけでも、並大抵のことではない。

 ましてや五歳児の体で。

 でも、僕には前世のゲーム知識がある。最短ルート、危険地帯の回避方法、必要な装備。すべて頭に入っている。

 準備期間は一年。この一年で、できる限りの準備をする。


 そして何より――僕には、恐怖がない。

 死ぬことが怖くない。いや、むしろ死を望んでいる。ただし、意味のある死を。

 その覚悟があれば、どんな危険も乗り越えられる気がした。


「エターナル・クロニクル、か」


 ゲームのタイトルを呟く。永遠の年代記。

 皮肉なタイトルだ。僕は永遠を望んでいない。終わりを望んでいる。

 でも、物語の一部として刻まれるなら、それは確かに「永遠」なのかもしれない。


 月が、雲に隠れた。部屋が暗くなる。

 僕は目を閉じて、明日のことを考えた。

 まずは村の図書館に行こう。この世界の地理を学ぼう。創造神への道のりを、もっと詳しく調べよう。

 そして体力をつけよう。五歳児の体は、あまりにも脆弱だ。

 やることはたくさんある。時間は限られている。


 でも、不思議と焦りは感じなかった。

 目的がある。目標がある。それだけで、前世とは違う気がした。

 前世の僕は、ただ生きていた。目的もなく、意味もなく、ただ日々をやり過ごしていた。

 でも今は違う。僕には「美しく終わる」という目的がある。

 それが歪んでいるとしても、少なくとも前世よりは、生きている実感がある。


「結城蒼」


 自分の名前を呟く。

 前世と同じ名前。でも、今度の人生は違う。

 前世みたいに、意味のない人生にはしない。


 五歳の結城蒼は、既に死を見つめていた。

 前世の虚無感を引きずったまま、彼は「美しく終わる」という歪んだ希望だけを胸に、この世界で生きていくことを決めた。

 まだ誰も、彼の心の闇に気づいていない。

 優しい両親も、この平和な村の人々も。

 ただ一人、彼自身だけが知っている。

 自分が生きることを、既に諦めていることを。


 窓の外では、鳥が楽しそうに鳴いていた。

 その声が、どこか遠くに聞こえた。

 そして五歳の少年は、静かに眠りについた。

 明日から始まる、終わりへの準備のために。


あとがき――――

新作です

とにかく完結することを考えて書いたので至らないところもあると思いますが、気に入らないなと思ったら即ブラウザバックしてもらえればうれしいです()

自分的にも「あれ? これ展開早すぎね...?」ってなってます...

一応完結までは投稿予約してありますのでそれでもいいよという方は読んでいただければ嬉しいです


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