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4.


 銀色の髪をなびかせて、彼女は蛍たちの元へと飛んでくる。文字通り飛んで来たのだ。


「え、浮いて……」


 歌い手であるという、クオン。


 アバター、そのままの姿だ。どう見ても蛍と瑠依より背が低いのにも関わらず、目線が上にある。どうなっているのか、髪が無重力のようにふよふよと浮いていた。浮いた状態で完全に二人を見下ろしていたのだ。


「へー。良く出来たホログラム。どこから」


 瑠依は映像装置を探して右と左に首を巡らせた。しかし、光源はどこにも見当たらない。


「私はホログラムじゃない」


 クオンは腕をぶんと振って来た。間違いなく蛍の顔に当たったにも関わらず、痛みを感じるどころか触れた感触もない。これでホログラムじゃないという主張は無理があった。


「やっぱり何かの企画で」


 蛍も周りに視線を動かす。


「企画もなにも現実だから。私、幽霊になっちゃったみたいなんだ。それを証拠に、あんた達以外見えないでしょ」


 確かにまばらに人が通るが、誰も足を止めるどころか視線も向けない。これだけ目立つ風貌をしているというのに。誰もが終電を逃さまいと、駆け足で広場を去っていった。


「本当だ……」


 認めるしかない。彼女が幽体である以外、この状況の説明がつかなかった。


 ポカンと口を開けて、瑠依が疑問を口にする。


「どうして、俺と蛍くんにだけ」


「私だって知らない」


 胸の前で腕を組んで、そっぽを向くクオン。なぜだか怒っているようだ。だが、怒っている理由が思いつかない。誰にも見られなかったことに、いら立っていたのだろうか。


「確か、クオンって……」


 蛍は記憶を手繰り寄せた。つい一時間ほど前にネットニュースで目にした。


「自殺したはず。幽体だけが、……ここに居るってこと?」


 思わず指をさすと目線だけが蛍を刺した。


「クオンが? 炎上はしていたけれど」


 瑠依はどうやら知らなかったようだ。慌てたようにズボンからスマホを取り出して、触り始める。そして、液晶画面を見つめて「本当だ」と呆然とつぶやいた。


「病院にいる身体に戻らないのか?」


「えー? 戻った所でどうすんの?」


 確かに現実から逃げ出したのなら、身体から抜け出していた方が本人にとっても都合が良いだろう。戻った所で地獄のような日々が戻って来るに違いない。


 炎上したのなら、相当厳しい言葉が次々と襲って来たはずだ。


「あ! 蛍くん、終電!」


 瑠依がスマホの画面を差し出してくる。調べていた終電の時刻の一分前が表示されていた。その数字も、一瞬まばたきしている間に一つ進む。プォンと汽笛が一つ鳴った。駅から車両の連なった光の列が滑り出て行く。


「あー……」


 蛍と瑠衣は顔を見上げて、ただ見送ることしか出来なかった。


「あら。この寒空であなたたち野宿? かわいそ」


 ほんの少し口角を上げて、愉快そうに言うクオン。憎たらしいという思いを押さえつつ、瑠依を促す。どうやら、心配はしてやる必要はなさそうだ。


「ファミレス行こうか」


 周りは目ぼしい施設もなく殺風景な駅だが、近くにファミレスがある。たまに終電を逃したときには、始発までの時間をつぶしていた。


 凍えるような外から暖かい店内に入ると、さすがにほっと息がつけた。ほとんど客の姿は見えない。店員もやる気なく、案内もないので適当な席に着いた。




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