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プロローグ
それは、自分以外には細すぎて決して見えない。
ほんの一筋、一本の糸にも満たない。ピンと張りつめた針金だった。
「――って、おかしくない? 変だよね」
雑談の中の何気ない一言だった。
だけど、気づくと自分の喉元に横たわっている。
「私だったら生きていけない」
「いやー、無理っしょ」
「その人、もう死んでるんじゃない?」
賛同する声にワイヤーは何重にも喉元に巻き付いてくる。
「だよね。じゃあ、次は――」
話題に上ったのは、ほんの二、三分だっただろう。
次の話題に移っていく。
本当は分かっている。これぐらいのことで傷ついていたら、世の中渡っていけない。
それでも見えないワイヤーは喉元に絡みついて、いつまでも解けなかった。
苦しくてしょうがない。逃れることは出来ない。
だから、かもしれない。
張りつめた針金を引っ張り、自らの首を跳ねるしか選択肢は存在しなかったのだ。