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ニューメイボード  作者: Ridge
悪魔

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64/64

64話

「久遠さんが大船先輩を避けていた理由は分かりました。しかし、僕が大船先輩に言うと話がこじれそうなので久遠さんと直接話してください」

「察するに星月の仕事という訳ではなかったのか」

「そうやって絞りこもうとしたって教えませんよ…。機密事項の類ではないため話はできます。教室の中でも。よほど機嫌を損ねなければ教えてくれることでしょう」

「そうか…。ありがとう」

「うまくやってください。僕は逆転要素のあるゲームが嫌いです、逆転負けなど期待してませんからね」


 逆転負け?ここまで順調に行って話し合いでしくじって台無しにするということか。それは避けたい。


「下手を打たないようにするよ」

「お願いします」

「ところで、どうして逆転要素が嫌いなんだ?それを売りにする話やゲームはよくあるじゃないか」


 綾瀬は電話越しでもわかる大きな溜息をついた。


「何を言うんです?いいですか?逆転とは、それまでの積み上げを全てフイにするのです、酷い。逆転のあるゲームでは、お互いにヘロヘロのしょぼい泥仕合に時間を費やすことになり、タイムパフォーマンスが悪くなります。一番楽しい勝負所を過ぎてもまだ気を抜けないんですよ。多くの時間を隙の少ない地味な攻防がずっと続くのです。つまらないまま気を張ってなきゃいけません。逆に逆転要素のない勝っている側が更に有利になるシステムというのは良いものです。最初の元気なうちに有利を取ろうと繰り広げられる小技の応酬、そして訪れる勝負所、その勝負所で勝ったら堰を切ったように圧倒的有利になり、我慢していた大技を叩きこんで勝利!緊張からの解放とカタルシス!タイムパフォーマンスに優れたゲームです!」

「お、おう…。元気そうで良かった」


 将棋みたいなゲームが好みかな。強い駒を取って自分のものとすれば差が大きく開くから。いや、1ゲーム長いから好きではないかも。

 真剣での斬り合いなども好みそうだ。相手の腕を斬れば圧倒的に優位になるだろうから。でも現実じゃできないからゲームに限るが。実際に斬れずに一時的な麻痺で済んだら現実でもできるかもしれないけど。


「失礼、つい熱くなりました…」

「いいよ、興味深い話だったから。不確実性を嫌う考え方がゲーマー…いや、ゲーマーに限らないか、慣れている人っぽいね。初心者受けは悪いかもしれない」

「確かに…運要素が無くなるほど技量の比重が上がりますから一方的になって初心者が楽しめなくなりそうですね。再現性が低く運要素の強いカジュアル向けのフォーマットもあった方がいいか…」


 綾瀬は黙って考え始めた。


「それじゃ、連絡ありがとう。もう切るよ」

「あ、はい。おやすみなさい」


 大河は電話を切ってベッドに横になり、深刻なことでは無さそうでひとまず安心した。



 学校の休み時間、大河は教室前の廊下で久遠と話をした。


「綾瀬君から聞いた限りでは教室で話してもいいと」

「それはちょっと恥ずかしいかな。廊下はまあセーフか…。この階に一年生はほとんど来ないし」


 なぜ一年生?まあ聞けばそれも分かるか。


「最近、君に避けられていたのはどうして?」

「…今のままじゃ良くないと思って」

「と言うと?」

「大河くんには彼女がいるのに他の女と親しくしてたら良くないよね。私ちょっと距離が近すぎたね。だから距離を取ることにしたの」

「彼女…?誰のことだ?」

「此方ちゃんのこと。あ、ごめん、秘密だった?」


 久遠は手を合わせて頭を下げて謝り、上目遣いで大河を覗き見た。


「此方はただの後輩だけど…?どうしてそう思った?」

「大河くんが此方ちゃんと抱き合っているところ見たと聞いて…。その前には2人で一緒にいたし」

「此方と一緒にいたのは相談に乗っていたから。でも抱き合ってたことなんてあったか…?」


 身に覚えが無い。フェイク画像でも見たのか?


「だって張戸さんの家から一緒に出て来て、別れる間際に抱き合っていたって…」


 張戸さんの家から出て来た時…?此方の部屋で話を聞いていた時のことか。別れる前は確か此方がこけて…。

 久遠は顔を上げて大河の不思議そうな様子に疑問を抱いた。


「ああ、あれは此方が転んだのを支えただけだ。それだけだ」

「本当に?」

「本当」


 久遠はありうると思いながらも隠している可能性を捨てきれずにいてまだ疑っていた。


「あーあ、これだから恋愛は面倒くさい。そこがいいって人もいるけど俺は遠慮するよ。俺は自由が好きだ。俺が誰かと付き合うと思うか?」

「でも此方ちゃんによく関わるじゃん。心惹かれているんじゃないの?」


 久遠は意地悪っぽい声色で尋ねた。


「俺は末っ子で兄や姉に頼ることが多く頼られることは少なかった。だから年下に頼られるのは気分が良かった。それによく関わるのは手がかかるから、それだけだ」

「手がかかる人ほどかわいいと言うものね」


 程度によるだろうけど、それはあるかもしれない。それに彼女の母の死の真相が気になっているのもある。思い込みの強い此方が知ったらショックを受けたり復讐に走ったりしそうで危うさを感じている。


「でも俺は自立していて手のかからない人の方が好きだ。面倒見るって不自由じゃないか」

「言われてみれば…大河くんの性格ならそうかも…」

「納得してくれたか」

「うん。なーんだ、私の勘違いか」


 久遠は両手を組み、上から後ろに回して胸を張って伸びをした。


「しかしそんなしょうもない理由だったのか。俺は最悪のパターンでは、これから始末するから情が湧かないようにしているのかと思った」

「そんなことしないよ。それにしょうもなくもないよ、大事なことだよ」


 それで仕事の時は仕事だからと一緒にいても平気だったけど、プライベートでは避けていたのか。確かに久遠に恋人ができた後も俺が仲良くしてたらそいつは気分良くないだろう。複数人で遊ぶならともかく2人きりで行動するのは良くないかもしれないな。仕事で組むのは例外として。


「まあ…確かに大事だな」

「でしょ?」


 仲良くするのを維持したければ恋愛して恋人にならないといけないのだろうか?本来それくらい頑張らないといけないことを俺は怠けていたのか?仲良くしていたことで他の人と付き合えたかもしれない時間を俺が奪っていたのだから悪いこと?それはお互い様か?俺ごときのために時間を消費させたなんて考えは、その気になれば何に対しても誰に対しても言えて何にもできなくなってしまう。…難しく考えすぎか?


「…平気だと思っていたけど、君に避けられるのは結構寂しい」

「私も。でも誤解は解けたしもう心配ないね」


 それを聞いたら何とかなる、そんな気がする。全く俺たちは楽観的だな。


「そうだな」


 人付き合いは千差万別。楽観的な俺たちは難しく考えて恐る恐る探るような関係は似つかわしくないのかもしれない。

 誤解は解かれ、2人は再び良好な関係に戻った。

-------

-------------


 張戸邸。療養中の張戸はリビングでお粥を食べていた。部屋にはガミジンがいて棚の中の備品を確認していた。


「ガミジン、君は星野君たちを止めなかった。どうしてだい?バエルは私たちより君の方が近い存在だろう?」

「精霊同士でも仲がいいとは限らないということだ。同じ会社出身だからと九賜庵と仲がいいかね?」

「そうだな…。言っておくが、九賜庵とは良くも無いが悪くもないよ」

「分かっている、ものの例えだ。とにかく、あいつの支配から解放されたようで良かった」

「大船君たちに謝らなければな…」


 ドアを開ける音が聞こえ、張戸が目を遣ると此方が部屋に入って来るのが見えた。


「おはよう。調子はどうじゃ?」


 ガミジンは此方に声をかけた。


「ありがとうございます。だいぶ良くなりました。でも食事はまた後で…」


 此方は張戸の横にやって来た。


「どうした?」

「伯父さん、疑っていてごめんなさい。私は伯父さんがお母さんを殺したんだと思って疑って…」


 此方は深々と頭を下げた。張戸はスプーンを置いて椅子はそのままに体の向きを変えて此方の正面を向いて頭をポンポンとした後に軽く押して起こした。


「気にしてないよ。君の立場ならそう思うだろう、彼方から聞いていた。それよりも大丈夫なのか?知ってしまって…」

「意外と大丈夫…。思い出した直後はともかくもう落ち着いた。もう3年くらい経って冷静になれたみたい…」

「そうか…。あれは正当防衛だ、君が気に病むことはない」

「でも私が都合よく曲げた記憶かもしれない。深夜の出来事ではっきり覚えていないし…」

「そんなことは無いと思う。あの時、君は顔に怪我をしていた。襲われたのだろう」

「私の方から襲い掛かって反撃されたのかもしれない」

「それは考えにくい。考えすぎだ」

「そうかもしれない…」


 此方は信じたいが確証が持てずにいた。しかし確かめようがない。不確かな中で生きていくのはよくあることだ。

 張戸は此方が考えすぎないように話題を変えることにした。


「彼方の様子はどうだ?」

「彼方とはまだ統合できていないけど、もう記憶も感情も共有してる。消えないと駄目かな?」

「消さずとも一つの面であればいいと思うよ。私も大人としての面や子供心の面、男心の面などいくつかある。そういうものだ」

「うん。私を守ってくれた彼方を消すなんてしたくない。お母さんだって色んな面があった。お母さんは私を13まで育ててくれた。いざという時は伯父さんに私のことを頼むようにも言っていた。私に対して憎しみだけじゃなくて愛情もあった。皆色んな面を持っている」

「そうだね。」

「ありがとう伯父さん」


 此方はお礼を言い、小走りで部屋を出て行った。彼方の感情に引っ張られ、張戸に甘えて体を預けて頭をこすりつけたくなり、恥ずかしくなって部屋を出た。いくら父親を求めているとはいえ此方にとってそれは彼方と異なり16歳でやるのは恥ずかしかった。



 大河はおよそ一週間ぶりに学校に登校した。その途中、学校に続く坂で久遠に会い、声をかけられた。


「大河くん、体はもう大丈夫なの?」

「体育は見学するがそれ以外なら大丈夫だ。障害も残ってないし」


 張戸さんのところに行くのは今度の休みかな。現状の話は聞いてて焦る必要は無いようだし。


「良かった…授業は間が開いちゃったけど大丈夫?」

「昨日の夜、青木と赤城に連絡して教えてくれと頼んだ。2人とも快諾してくれし多分大丈夫」

「そうなんだ。必要なら私も力になるよ」

「ありがとう。でも久遠は仕事があるだろうし、できる限りあいつらを頼るよ」

「そう…だね…」


 久遠は立ち止まり、大河は不思議に思って立ち止まって後ろを見た。


「大怪我した人に言うのも気が引けるけど…また私たちの仕事を続けて欲しい」

「え?」

「ごめん、嫌だよね。またあんなことがあるんじゃ…」

「いや、続いてるつもりだったから、あれ?と思って…」

「え?いいの?また一緒にやってくれるの?」

「そのつもりだ。やらなきゃ抜け殻みたいになっちまう」


 驚いて放心している久遠を前に大河は手を差し出した。


「改めてよろしく」

「…うん!」


 久遠は前に進み、大河の手を取って満面の笑みを浮かべた。


 終わり

ひとまず完結。楽しんでいただけたなら幸いです。

ネタが貯まれば第二部をやるかもしれません。

今は違う雰囲気の作品を作りたいのですぐにはできませんが。

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