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ニューメイボード  作者: Ridge
悪魔

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59話

 ある日の夕方、大河は張戸から紹介された依頼で芹産六セリウム神社に向かって登っていた。案内役として綾瀬がついて行き、途中から喋る余裕もなく無言で斜面や階段を上っていた。


 神社は山の中にあり、観光地として普通の靴で歩けるように整備されていた。それでも神社までは45分程上るのでそれなりの負荷がかかる。道中の集会所の掲示板には登山会の案内や、活動写真が貼られていた。


「ちょっと休憩しませんか?」


 綾瀬は立ち止まって広場を指さした。


「そうだね。学校の坂よりきついや」


 綾瀬の提案で集会所近くの広場のベンチに座って休憩することにした。猫たちが近くにおり、最初のうちは2人を警戒して見ていたが何もしてこなくて安心したのか、猫なで声を出して近づいてきて大河の膝の上に乗って体を丸めた。


「どうしよう、動けない」

「どかしてください。って、僕の方にも来た…。いつまでも動かないようなら持ち上げるまでです」


 綾瀬は猫の頭や背中を撫でながら言った。


「それに先輩ならその気になれば浮かせられるでしょう」

「そうなんだけど、小さい動物相手だと力加減間違えないか不安になる」

「じゃあ手で直接運ぶのがいいですね」


 綾瀬は右手を猫の胸に回して抱え、左手を猫の後ろ脚に回して持ち上げ、地面に降ろして立ち上がった。


「綾瀬君、こっちも頼む」

「仕方ないですね…」


 綾瀬は大河の膝の上に乗っていた猫を抱え上げて地面にそっと置いた。


「ありがとう」

「じゃ、行きましょうか」



 さらに登ると道中で石碑や祠が至るところにあり、落ち葉が屋根に積もったままのお堂、そこに萎びた榊の枝がおいてあった。他にも割れた石碑、崩れた祠などが見られた。いくつも並ぶ赤い鳥居は一部がひび割れ、剥がれて傾いており、草がぼうぼうに茂っていて手前には立ち入り禁止の紐が引かれていた。


 快晴にも関わらず葉が生い茂って薄暗いエリアもあり、異臭が漂っていた。横道の先には石の大きな鳥居は苔や落ち葉が積もり、神の名の書かれた木の板は文字が読めなくなっていた。その鳥居の先の石の階段は枯れ葉が積もっていて、大河は足を踏み入れれば滑って落ちそうな危険を感じ、気にはなったが寄り道ということもあり、見るだけで通り過ぎた。体を浮かべればいいが、そこまでして見たいわけでもなかった。



 最後に綺麗に手入れされた赤い鳥居をくぐりながら階段を上り、芹産六神社にたどり着いた。

 登ってすぐのところに椅子があり、辺りが展望台となっていた。


 芹産六神社からは街と内湾が見渡せる。綺麗な景色が見られるのだが、この島の山には他にも同様のことができ、長時間歩かずとも交通システムを使えば行ける場所があるので、それらの方が人気がある。


 2人は神社敷地の奥へ進み、石碑や石造りの祠が並ぶ崖の前で立ち止まった。綾瀬はタブレットで写真を出して現在の状態と比較して見せた。


「これです」


 写真にはコンクリートがひび割れて傾いている石造りの社があったが、目の前にはがけ崩れが起きて無くなっていた。


「それがあれか」


 崖下を見ると石やコンクリート破片が散乱していた。写真に写っていた鋭い牙の狐の像も2体とも落ちていてこちらを見ていた。


「ここまで登って来て分かった通り、ここには徒歩でしか来れませんし、重機の類は持ち込めません。ご神体の石の回収したいのですがあの社や土砂の下敷きになっていると思われます」

「成程、それで俺の出番か。しかし、俺を呼ばずとも綾瀬君も物を浮かべたりできるのでは?」

「不可能では無いですが僕がやったら10倍以上時間がかかりそうです」

「そうなのか…」


 俺を始末するための罠じゃないかとも疑ったが、綾瀬君からはそんな危険な雰囲気を感じない。始末するか有益か判断するためのテストだろうか。それとも俺の考えすぎなのか?


「とりあえずこの辺りに持って来てください。後は僕が綺麗に端っこに整えておきますから」


 綾瀬は開けた場所を指し示し、札を飛ばして近くに人が来ないようにして準備を整えた。


「分かった」


 大河は崖下を見てまとめて浮かべ上げ、そのまま目の高さまで浮かべた。狐の像2つを先に手前に寄せて近くの石の上に置き、石材やコンクリートらしきものは綾瀬の示した場所へ、土砂や岩、木の枝などは横にずらして下に降ろした。

 それを何度か繰り返していくと大きい石材やコンクリートは無くなり、模様の彫られた大きな石を見つけた。石は半分に割れており、もう片割れも見つけて組み合わせると、小さく欠けた部分もあり元通りとはいかないまでもそれらしい形になった。


「これがご神体か?」


 綾瀬は杖を動かして石材を浮かべて並べていた手を止め、大河に近づいて目の前に浮かぶ石を見た。


「そのようですね。写真はありませんが、説明文とは一致します」

「少し欠けているが、後は細かいものばかりで見つけられる気がしない」


 大河が崖の方を示し、宙に浮いている破片たちを綾瀬は見回し崖下を覗き見た。


「そのようですね。これで十分でしょう」


 綾瀬は崖から離れて石材積みに戻った。


「後は整えて終わりです」


 今回は崖下に落ちたものを引き揚げるだけで、社を再建するのかはまだ未定だ。回収は早く行いたいため、大河たちが頼られた次第だ。


「了解。手伝うよ」

「いえ、後少しですし一人の方がやりやすいので休んでてください」

「そう?じゃ、お言葉に甘えて」


 そういえばこの能力、昔はもう少し弱かった気がする。使っているうちに強くなったのか?島の外で能力が著しく弱体化しても小さな子くらいなら浮かべられるかもな。あ、そうだった、泥や砂埃を払うために小さい箒を持って来てたんだった。


 大河は待っている間に狐像を持ってきた小さな箒で汚れを払い、綾瀬が積み終えた石材の上に置いた。最後に綾瀬はタブレットで写真を撮った。


「以上ですね。戻って神社の人に報告して帰りましょう」

「ああ」


 その後、綾瀬は事務所にいる依頼者に写真を見せて説明して依頼を完了し、2人は下山を始めた。



「綾瀬君、案内ありがとう」

「ども…」

「……」

「……」

「ゲーム好きなんだって?今日も帰ってやるの?」

「当然です。やっていない時間は、試したい戦略が脳裏に浮かんできます」

「そ、そうか、程々にな」

「ご心配なく。星月の仕事もちゃんとやってます。魔術の練習も」

「それなら大丈夫か…よく知らないけど」

「……」


 再び沈黙して黙々と歩いて下って行った。


 はっきり覚えていないが綾瀬君の態度は以前とそう変わらないような気がする。表に出ないだけか、何も知らされていないのか、それとも俺の考えすぎなのか。


「僕は思うんです」

「え?」

「最近のゲームは快適です。それはいいことです。しかし僕は快適性が高いばかりなのも駄目だと思うんです」

「ああ、ゲームの話ね。操作しづらいという苦しみを乗り越えた感動ってことか?そんなのあるのかな?」

「いえ、そういう話ではないです。そうですね…」


 綾瀬は腕を組んで考え、何かを思いついて視線を上げた。


「…そうだ、例えば洗濯。手で洗濯すると大変ですが、洗濯機ならボタンを押すだけです。簡単ですね。快適ですね」

「ああ、そうだけど…?」

「しかし、ボタンを押すだけで簡単にできるから同じ時間でもっと洗濯できると何十もの洗濯機のボタンを押していく作業は面倒で面白くないのです。ゲームで命令ボタンを押して後は自動でやる、となれば簡単です、快適です。しかし、それを前提に大量に命令ボタンを押して回ることになれば、それは面倒で面白くないものになります」

「成程。そういう意味か」


 好きでボウリングの玉投げているのに、自動で点数稼いでくれる装置があったとしたら、簡単だけどボタンを押して回るのは面倒でつまらないといった感じか。それは確かに。


「つまり楽しい反応が返ってくるのが一番です。極論、反応がつまらなければ全てが作業になりうるし、反応が面白ければ面白いゲームになると思います。まあ僕はゲーマーですから、普通の人は面倒で投げてしまうことにも耐性があって平気だからかもしれませんが」

「そうかもな。楽しめていいじゃないか」

「そうでしょうか?ライトなものが物足りなくなることもありますよ」

「あー、そういうこともあるんだな」


 大河は「でも、」と言おうとしたが、その先が思いつかずに黙ったままでいると綾瀬が口を開いた。


「…僕が目指す魔術は生活を楽しくする魔術です。快適にする魔術ではありませんし、真理の探究をする魔術でもありません。僕、この島での仕事の任期が終わったら故郷に帰ってそんな魔術の開発をするつもりです」

「そうか。応援してるよ」


 そして2人は山を下り、参道への入口へ戻って来た。

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