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ニューメイボード  作者: Ridge
水辺の危険

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58話

 ある日の朝、河口で女の死体が見つかった。飲み会の後から行方不明になっていたことや川の中でできた擦り傷ばかりで刺し傷や打撲の跡もないことから、酔って川に転落したのだと警察は考えた。冬の冷えた川で水を吸った服では、訓練していなければ溺れ死ぬだろうという考えだ。


 そして川での調査が行われるともう一人、男の死体が見つかった。こちらはランニング中のジャージ姿で、傷の付き方は先述の女と同様だった。知り合いからの聞き込みと合わせてランニング中に川に転落したのだと考えられた。しかし、こちらは酔っていたわけではなく、運動していて筋力もあり、服は水を吸って重くなるとはいえ、そこまで重くならないことから疑問が残った。彼は泳げるはずだが、パニックになって本来の力が出せずに溺れたのではないかと考えられた。それでも何か不自然なものを感じ、超能力犯罪対策室に調査が回って来た。


 

 数日後、大河は手伝いを頼まれて星月寮にやってきた。久遠は客間に案内してお茶と事件資料を出した。ここに来るまでの道中はよそよそしかったが、星月寮に着いてからはこれから仕事の話で私情を挟まないようにと考えてか、これまで通りの態度に戻ったように感じられた。


「そうだ、セイさんはいる?」

「今出ているけど、どうかしたの?」

「男同士で話したいことがあったけど、いないならまあいいか」


 こんな感じの誤魔化しが通じるかどうか。何だろうと考えてそっちに意識が行くなら誤魔化し成功。


「そうなんだ…悪いけど今度ね」

「了解」


 大河は事件資料を開いて久遠から説明を受けた。河口で死体が見つかった事件だ。上流の川の監視カメラや川付近の店にある監視カメラの映像を集めて調べた結果、そこには事件の瞬間そのものは映っていなかったが、川の水が変形している様子が映っていた。映像の輝度を上げてギリギリ見えたものではっきりしていないが、水が生物のように動いていた。


「これは一体…?」

「超能力による操作か、あるいは謎の生物」


 久遠は杖を振って湯呑のお茶を浮かべて紐のように上に伸ばして見せた。


「私は大したことできないけど、水の魔術は一介くんが得意で色々できる」


 久遠は杖を下げてお茶をゆっくりと下に戻し、杖を置いた。


「あ、でも一介くんが犯人とは思っていないよ。被害者たちと何の関係もなくて動機もない」


 確かに綾瀬君が殺人をするようには思えないし、俺も疑いたくない。とはいえそれは個人的な理由だ。


「2人の被害者に共通するのはどちらも幼少期を入潤島で育ったということ。ずっと入潤島にいたわけじゃなくて、進学や就職で外に出ている。事件当時は2人とも入冥島の会社に勤めていてこの島で暮らしていた」


 入潤島…入冥島の隣にある島。そう離れていないから向こうに家があってフェリーで通学や通勤する人もいる。


「保育園や小学校低学年の頃に他の子も含めて一緒に遊んでいたみたい。でもそれっきりで、小学校高学年からはそれぞれ別のことをして離れていった。入冥島に来ていたことは互いに知らなかった様子。まあ人がいっぱいいるもの、気づかなくても無理ないね」

「…それを聞いていると、被害者は偶々同じ出身だっただけの気がするな」

「そうかもね。でももしかしたら当時一緒に遊んでいた人たちがターゲットかもしれない。恨みか何かがあるのかも」

「その場合は、彼らが容疑者でありターゲット候補でもあるわけか」

「あくまで可能性だけどね。住所はバラバラで入冥島に住んでいる人に限って見張っていれば、犯人が出てくるかもしれない。現状、それくらいしか手掛りがないし、ダメ元でやるしかない」

「成程。で、こっちのファイルが入冥島にいる人たちか。ん?」


 大河は写真を見ながら、一段離れた場所に一人だけいるのを不思議に思うと、久遠が次のページをめくるように促した。


「その人は今年死んでいるから」


 ページをめくると説明があった。卦箱けばこじゅん、男性。中学に上がってからこの島に一家で移り住んでいたが中三の今年の夏に病気で死亡したようだ。家族構成は一人っ子で両親と3人で暮らしていた。


「段が分かれているのはそういうことか」


 大河はページをめくって容疑者たちの情報を読んでいった。


「それで手伝って欲しいのは夜の見回り。あ、深夜じゃないよ。調査によると被害者2人とも夜8時か9時頃に消えたと考えられているからその辺りで行う」

「8時か9時くらいか…分かった。やろう」

「じゃあ明日からよろしく。まだターゲットが残っているならしびれをきらしてそろそろ動くかもしれない」

「ああ。気を付けるよ」


 翌日の夜、大河たちは手分けして川沿いを見回りした。

 大河が河川敷を歩いていると堤防の上を歩いている男を見つけた。男が橋の横を通りすぎると、川の水が触手のように変形し、堤防を登って男の背後から迫った。しかし、水は大河のテレキネシスによって宙で停止し、見えない力で弾けて地面に水飛沫が散った。


 パシャッと水の落ちる音がし、男が振り返るとそこには川の水があり、魚や水草が落ちていた。男は不気味になってその場を離れて行き、背後から再び触手が現れるも大河が手を伸ばしてテレキネシスで押しのけて崩し、男は逃げきって見えなくなった。


 大河が橋の上を見て指を手前に動かすと、橋の上から女が引っ張られて端の下へ落下した。女は手を前に突き出し、水を動かしてゼリーのように変形させて落下の衝撃を和らげ、地面に滑り降りた。


「ぐっ…」

「お前が犯人か」


 川の底じゃなくて橋の上にいてよかった。じゃなきゃ探し出すのは困難だっただろう。


「邪魔するならお前から!」


 先端が鎗のように鋭い形となった水は大河を取り囲み、大河めがけて勢いよく突いた。しかし、テレキネシスで押し返されて鎗の形が崩れて水が周囲に雨のように降った。


「うああっ…!」


 女は想定外の事態に取り乱し、直後にテレキネシスによる見えない衝撃を受けて気絶した。



 大河は電話で久遠に連絡すると、彼女はすぐにやってきた。女の首の後ろに霊力分散印を付けて仰向けにした。


「このおばさん資料で見たことがある。誰だったか…」

「卦箱殉の母親、卦箱けばこ雷名らいな

「そう、それだ。流石の記憶力だな」

「ありがと。もう少ししたら車が来るから待ってて」

「ああ」


 卦箱は目を覚まし、2人の顔を見た。


「もう少しやりたかったのに…ここまでか…」

「人殺しのことか?なぜこんなことを?」

「あの子が死ぬなんて間違いよ…」

「あの子とは息子の殉のこと?」


 卦箱は黙って頷いた。


「自分の子は死んだのに、他の子は生きているのがずるいと思って殺したのか?」

「違うわ」

「なに?」

「彼らは殉くんの友達だからよ。あの子が一人で寂しくないように友達を送ってあげたのよ。あの子のいる死後の世界へ…」

「何を言っている…?」

「この島の川は死後の世界に繋がっている。そんな話を聞いたことはない?」

「作り話だ。海に繋がっていて死体が出て来ただろうが」

「肉体はそう。でも魂は死後の世界へ旅立ったはずよ」

「都合のいい解釈ね」

「でもあり得ないとも言えないわ」


 恨みがあって殺したのではなく、友達を死後の世界へ送ろうとしてやったわけか。

 母親なら誰と遊んでいたか大体は知っているか。現在どこで何しているかなんて雑談で聞き出せることだろう。詳細は調べれば分かるかもしれない。


「送ろうとしたのは幼少期の友達、なぜだ?」

「小さいころの友達以外も送るつもりだったわ。私はあの子が死んでから川によく来ていた。そして偶々彼らを見かけた、だからできるところから順にやったらこうなっただけ」

「あんた…人の命を奪っておいて何をそんな他人事みたいに…」

「最後は私自身死んであの子のもとへ行くつもりだった」

「いつまで経ってもまだ足りないって言ってそう」

「落ち着け、気分よく喋らせた方がいい」

「く…」


 その時、車のライトが近くを照らした。超能力犯罪対策室の車がやって来て、大河たちが説明を受けて卦箱を連れて行った。久遠は星月のメンバーに連絡をして電話を切った。


「あの人は死後の世界に繋がると信じていたとしても、自分が死のうとは思わなかった。自分は死にたくないから人の命でやったんでしょ?」

「そうかもな。仮に犯行がずっとバレなかったとしても死ぬのが怖くてまだ自分の番じゃないと思って先延ばし続けていたかもしれない」


 色々な母がいるものだな…。とにかく、これ以上被害者が出るのを防ぐことができた。良かった…。

次の章で一区切りつく予定です。次の更新は大体一週間後くらいを予定してます。

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