54話
「その事件の後の鳥居と折井の関係はどうなった?」
「お互いに避けるようになっていて、主だった衝突はありません。余香は折井のやることに口出ししなくなりました。代わりに不機嫌そうに呟くことがあります」
「そうか。折井と狩虎は?」
「あの2人は変わっていませんね。折井が面倒事を狩虎さんに押し付けたり、狩虎さんが折井を諫めようとしたり」
「ふうん…」
鳥居の目的は叶わず現状維持、口出しも減って折井にとって得な状況か。
「此方は折井が怪しいと思っていたようだが、話を聞く限りだと俺には怪しいと思えないな。狩虎を子分のままにできて、鳥居の口出しも無くなったんだろ?鳥居を怪我させる理由が無いように思うが…」
「損得だけならそうでしょう。しかし、感情的には違うと思います。殴り返せずに終わりましたし、生徒指導では筋力の勝る男であることや普段の素行から厳しく指導されてその日はイラついていました」
確かに損得じゃなく感情的なところが見られる。しかしそんなネチネチと覚えているものだろうか。性格的にひと暴れしてスッキリして終わりそうに思えるが…。まあ此方から聞いた部分しか知らないからそう思うのかもしれないが…。
「普段の素行と言ったが、鳥居の方はいいのか?いきなり殴るなんて俺には素行がいいように思えないが…」
「滅多に殴ることはないんですよ。他に殴るのを見たのは喧嘩の時くらいですね。曲がったことが嫌いで正そうとする人です。普通は力強い声と腰に手を当てて胸を張った態度で威圧することが多く、殴りかかることはありません。しかし折井とは度々衝突して威圧が効かないことが分かってますから、実力行使に出たのでしょう。結果、返り討ちに遭いましたが」
「成程。何度か衝突してると言ってたものな」
俺はこの事件から聞いたからいきなりに感じたが、そうではなかったらしい。それでも殴るのはどうなんだって話だが。危うい奴だな。暴力で解決しようとするなら、暴力でやり返されても文句は言えない。取り返しがつかなくなる前に締め上げるだけで済んだのはある意味良かったのかもしれない。
「鳥居と狩虎の関係は何だ?友人?ただのクラスメイト?」
「そうですね…。友達というほどではないですね。ただのクラスメイトというのが近いでしょう。友達ではなくとも目の前で虐げていたら余香は止めようとしますから」
「成程。その後の2人の関係に変化はあったか?」
「大きな変化はありません。狩虎さんが余香に謝りに来て、「あんたが謝ることない。助けてくれてありがとう」と言っていました。その後は特に関わることはありませんでした。余香はばつが悪そうに狩虎さんを避け気味です」
「助けるつもりが助けられてプライドが傷ついたわけか」
「そんなの…いや、確かに…余香はプライドが高くて弱者を守らないといけないという責任感もあります。あの表情はそういうことだったのかも…。いや、きっと助けられなかったことへの申し訳なさですよ」
「そうかもしれないな。うーん…」
大河は目を閉じて脳内で情報を整理した。
考えている途中、此方が口を開いた。
「結城篝火。狩虎さんと同じ合唱部員で、狩虎さんの友人。狩虎さん同様に大人しい女の子です」
「え?その子がどうかしたのか?」
「事件の後で余香に相談…いや相談と言うよりは同意を伝えに話しに来ました」
自分も狩虎と折井の関係について、いくら幼馴染とはいえ言いなりは良くないと思っていた。しかし、断りなよと言っても狩虎は笑って誤魔化すだけで聞かず、折井には怖くて言えなかったから、鳥居が言ってくれてよかったと思っていると伝えたそうだ。それと、自分が友人のために積極的に動かなかったのは薄情だからという訳ではなく、クラスが変わったり卒業したりで2人が離れればそれまでだから時間が解決すると思っているからだという。
結城から見て狩虎は折井のことが好きのようだな。それが男としてなのか、幼馴染で兄のようなものとして好きなのかまでは分からないが、好意的なのに変わりはないか。
「まあそんな気はしてたが、やはり好きなのか」
「好きだからついつい言うことを聞いてしまうのかもしれませんね」
「厄介だな。しかし結局、その友人がどう関係するんだ?」
「それっきりです。関係を説明するために役立つかなと思いまして」
「狩虎の友人視点での狩虎と折井の関係ということか。確かに参考になった」
狩虎と鳥居を足して2で割るとちょうどいいんじゃないだろうか。いや、色んな人がいるから面白いのか。それじゃ普通ばかりでつまらないか。
しかしこれを聞く限りでは…。
「ちょっと休憩。一旦離れよう」
大河は両手を後ろについて顔を上にして天井を見て息を吐き、座り直してチョコレートを口にした。
「鳥居の好きなタイプは知っているか?」
「どうしたんですか?先輩、余香に気があるんですか?」
「いいや、ふと気になっただけ。好きって話が出て来たから他の人も気になってな」
「本当に?」
「本当だ。知ってたら教えてくれ」
「あの子はですね、強い男が好きです。弱い男は興味ないを通り越して嫌いです」
「ふうん、成程」
「あの子は男には強くあって欲しいと思っていて、外面的には背が高くて筋肉質な男が好みです。内面的には我の強さや自信がある男が好みです。先輩は外面が条件クリアできないから、内面はいい線行くかもしれませんが選択肢に入りませんね」
「成程ね。その好みを聞く限り、折井は好みに入りそうだけどどうなんだ?」
「曲がったことが嫌いですから折井に好意を持ってなかったですよ。気にするのも好きだからではなく、正義感で許せなくてという感じでした」
「そうか、ありがとう。何となく人となりが掴めて来た」
こうなったら本人たちに直接聞いてみたい。
「ちなみに私の好みも知りたいですか?」
「いいよ、事件に関係無さそうだし」
「あっ、さっきの一旦離れてというのは嘘ですね。なぜそんなことを?」
「あの流れで聞いたら君の友人を疑っているんじゃないかと思われそうだったから。一旦流れを切る必要があった」
「まあ、確かにそう思ったかもしれませんが…」
「やはり彼らと直接会って話がしたい。電話などでは見抜けないだろうし」
「余香には紹介できるとして他は話せるかどうか。特に折井は無理だと思います。私の言うこと聞くとは思えません」
「できる限りでいいや。狩虎はどうだ?」
「できると思います」
「とりあえずその2人でいい。月曜日の放課後に出来るか?あ、月曜日は6限か7限か?2年は6限だが」
「私たちも6限です」
「ならちょうどいい。校庭の隅でいいから話そう」
「分かりました」
大河はお茶を飲み、一呼吸置いた。
「確認しよう。此方は折井が怪しいと思っている。鳥居に恨みがあるから、バレないように超能力でやったと」
「そうです」
「しかしもう証拠は残っていないだろう。本人が否定したらどうする?」
「疑わしいままですが…もし先輩も犯人じゃないと言うのなら、そうだと信じましょう」
「そうか。じゃあその場合は他に犯人がいると考えるか?それとも偶然だったと考えるか?」
「他にですか…いないとは限りませんが、折井ほどの因縁が思いつきません。その場合は偶然だったと思います」
「分かった」
謎を明らかにするというよりは、此方の不安を解消するのが目的だ。もし犯人が分からなくともそれで十分か。
「では続きは月曜に。そろそろ帰るよ。ごちそうさま」
大河は湯呑を傾けてお茶を飲み干し、机に置いた。
「もう?あ、いや、いい時間ですね。ありがとうございました」
「まだ不安解消できなくて悪いね」
「いえ、話したことでだいぶ楽になりました。それに説明して少し引いて見ると私の考えすぎだったのではという気もしてきました」
「力になれたようなら良かった」
その後、玄関で大河は靴を履き、此方の方へ振り向いた。
「お邪魔しました」
「門まで送りますよ」
此方は玄関の靴箱裏に吊るされた鍵を手に持ち、サンダルを履き、大河の横を抜けてサムターンを指で回して鍵を開けて扉を開いた。先に外に出て扉を押さえ、どうぞと手のひらを示した。大河が玄関を通ると此方は扉を閉め、門の前までついていった。
「先輩、今日はありがとうございました」
「それじゃ月曜日にまた学校で」
「はい。また…あっ」
此方は足を滑らせて大河に向かって倒れ、大河は抱えて受け止めた。此方の手に持っていた鍵が大河に突き刺さりそうになったが、テレキネシスで浮かべて静止し、手元が緩んで地面に滑り落ちた。
「す、すみません…」
此方は離れて謝り、しゃがんで鍵を拾い上げた。
「怪我はないか?」
「先輩のおかげで無事です。ありがとうございます」
「じゃ、気を付けて。また今度」
大河は手を振って張戸邸を後にした。
少し離れたところでは何者かが大河と此方の一連のやり取りを黙って見ていた。




