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ニューメイボード  作者: Ridge
下敷き事件
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5話

 翌朝、大河が登校中に人が集まっているのが見え、交差点の前でもバス停前でもないのに妙だと思い、近づいて様子を伺った。場所は川沿いの遊歩道だ。遊歩道にはモミジの並木があり、大雨で川の増水時にはここに水が流れ込んで街に雨水が留まらないようにする役割もある。

 そこには大きなコンクリートブロックが無造作に積まれて山になっていた。コンクリートは乾いているが、コケや水草が付いていた。まるで上から落としたように下の部分が欠けて割れた部分から汚れのない綺麗な断面が見えていた。

「誰がこんなことを…?」

「アートか何か?」

「どこかにタイトル書いてあるかな?」

 多くの人は崩れたら危険な雰囲気を察知して遠巻きに見ていたが、数人はすぐ近くまで近づいて隙間をのぞき込んだりしていた。

 これは一体…?近くの川のコンクリートブロックがいくつか抜けているし、あれを移動させたのか?改修工事か何かだろうか?だとしたら立ち入り禁止じゃないのは変だし、こんな乱雑に積むのは移動させるにも大変だろうから違うか。じゃあ別の目的で…。

「キャアアー!」

 ブロックの近くで見ていた女が叫び、尻餅をついて後ずさった。顔面蒼白で倒れそうなところを近くにいた人たちが支えた。

「ひ、人が…」

 女は声を絞り出して震える指でブロックの隙間を示した。近くの人々は隙間を覗き込んだ。

「うっ…」

「人が下敷きになってる!」

「早く救急車を!」

 人々はざわつき、その中には前に向かって歩き出す老人がいた。

「や、奴だ、奴が現れたんだ…」

 !?

 震える老人が杖を手放し、アスファルトの上に木の棒の倒れる音が響いた。

「この島民皆…悟空に殺される…」

 老人は気を失って倒れた。

「悟空…?」

「おい、しっかりしろ!爺さん!」

 近くの男が老人を抱え上げて声をかけた。


「…で、その後はどうなった?」

 大河は学校で青木と赤城と今朝目撃したことの話をした。愉快な話ではないためあまり話す気はなかったが、学校でもちょっとした騒ぎになっていて、目撃時のことを聞かれて遠巻きに見ていただけということを伝えるべく、説明をすることになったのだ。

「警察が来て、締め出されてからは分からない。多分、コンクリートブロックをどけて調べていると思う。お爺さんは気絶してたけど生きてたよ」

「人が下敷きか。不気味な話だね」

「見間違いで人が潰されたわけじゃないかもしれない」

「いやあ、それはどうだろう…」

「そのお爺さんが言っていた悟空というと、孫悟空のことかな?」

「確か西遊記に出てくる妖怪で主人公の仲間だろ?関係あるのか?」

 大河の西遊記知識は、三蔵法師が3人の妖怪を連れて天竺に行く話ということくらいしかない。何のために行くのか、結局天竺に着いたのか着いてないのかすら知らない。

「岩の下に封じられていた妖怪だから、それで連想したんじゃないか?自分がされたように岩の下敷きにすると」

「へー。でも外国の妖怪だろ?関係あるのか?」

「忌み名じゃないか?この島の岩に封じた妖怪を本名で呼ぶのは怖いから、同じように岩に封じた妖怪繋がりで悟空と呼んでいるとか」

「そんなのあるかな?」

「ネット検索で出てこないな。孫悟空がポピュラーで、この島のは出てこない」

 赤城はスマホで調べたがこの島の悟空はヒットしなかった。

「ローカルな情報だから自分の足で、年配の人から聞かないと分からないかも」

「めんどくさ。まあ忘れかけた頃に犯人分かるだろう」

 赤城は面倒になって急速に興味が薄れていった。

「仮にそういう伝承があったとしても、今回と関係あるとは限らないし、爺さんの思い込みじゃないか?」

「かもね」

 青木も調べるのが面倒になって投げやりに返事した。

 思い当たる節はある。張戸さんの依頼で動かした岩。もし接地している限り封じていたのに浮かべたことで封印が解けて何かが逃げ出したのなら…。でも妖怪だぞ。実在するかさえ怪しい。考えすぎか?少し時間を置いて冷静になろう。

 その日の夜、ニュースでは人が一人圧死している事件と報道されていた。


 それから3日後、また人が一人圧死した事件が発生した。今度は複数の廃車が積み上げられていた。そしてその翌日、さらに圧死事件が発生し、屑鉄が積み上げられていた。

 大河は久遠にチャットで連絡を取った。

『一連の下敷き事件、何か知っているか?』

『ノーコメント。仮に知ってても部外者には言えない』

『俺のせいかもしれない。俺が妖怪の封印を解いてしまって』

『噂でしょう?大河くんは気にしなくていいよ』

『気にするなと言われても無理だ。俺にできることはしたい』

 すると久遠から電話がかかって来た。

「気にしないで。岩はあれから何も変わってないし大丈夫だから」

「そうは言っても…」

「じゃあ…手伝って欲しいことがある。大河くん、今夜…深夜に出られる?」

「ああ。大丈夫だ」

「一緒に見回りしよう。それで分かるかもしれない」

「それで分かる…か」


 夜2時、大河は家を出て待ち合わせの公園に向かった。道路には街灯の明かりこそあるが人の気配はなく、車もほとんど通らず信号機が点滅していた。

 公園に着くと、杖を手にベンチに座っている久遠がいた。

「久遠?」

「来たね。ここに座って。結界の外にいると一般人にも見えちゃうから」

「え?ああ」

 大河は戸惑いながらも久遠の横に座った。初日に会った時のワンピースのような上品でクラシカルな服装と違い、細身のパーカーにミニスカートとスニーカーのスポーティーな恰好をしていた。

「そういう恰好もするんだな」

「…?あ、そっか。初対面の日は挨拶があったからあのお堅いの着てたからね。私はラフな方が好き」

「よく似合ってる」

「ありがと。でも雑談はこの辺で。捜査協力してもらうよ、そしてそのためにある程度教えないとね」

 もしかして喋っても大丈夫なようにするために関係者にしたいのか。

「頼む」

 久遠から事件について話を聞いた。 

 事件はいずれも住宅街付近で起きている。オフィス街は深夜も明るく店も開いているが、住宅街は静まり返っている。犯人は人気のない場所で殺人を行っている可能性が高い。被害者の死亡時刻は夜間だが、最初の事件の被害者は夜9時くらいだが他2人は深夜と少し開きがある。不可解なことに死因は圧死も考えられるが、高いところから落下したような痕跡もあった。被害者たちは一言で言うと不良で、問題を起こしている人たちだった。ヤクザとの繋がりも疑われるものもいた。これは偶然なのか狙ってやったのか。夜間しか活動できない妖怪の仕業の可能性もあるし、人目を避けて犯行している人間の仕業の可能性もある。

「誰か来る」

 大河は久遠に手を引かれて近くの木の後ろにしゃがんで隠れた。

「姿は見えないんだろ?」

「声や匂いは分かるし、座られたら困るから念のため」

 酔っ払いの男2人が公園内に入って来た。方向からしてショートカットするために横切ろうと入ったのだろう。

「アニキ、早く帰りましょうよ。イカレ殺人鬼はまだ捕まってないんですから危ないですよ」

「そんなのにビビッて不自由な思いは御免だ。次行こうぜ次」

「でもア」

 男2人は突然、上空へ放り出され、何が何だかわからないまま地面に落下していった。

 久遠は立ち上がって上を見て杖を振り、2人を浮かべつつ斜めに動かして植栽の間の地面に降ろした。2人は横になって気を失っていた。

 久遠の背後に若い男が突然現れ、杖を持つ腕を掴み上げ、胸の下に腕を回して抱えこんだ。

「誰だ?僕の邪魔をするな」

「テレポートできるのに逃げずに出てくるなんて。相当の自信家ね」

「生意気なのは嫌いだ」

「いっ…」

 男は久遠の腕を捻り、久遠は痛みで顔をしかめた。

「誰だお前は?彼女を離せ」

「彼は神尾かみお正道せいどう…容疑者の一人。でもどうやら彼が当たりだったみたいね…」

「そこまで知っているのか。ますます気になる」

 犯人は妖怪ではなく人間。しかもテレポート使いだった。上から落として積んでいたのか。さっきの動きから察するに相手が逃げられないようにまず動けなくなるように相手を高所から落とし、その後に積んでいたと思われる。しかし、殺すだけなら叩き落とすだけで十分なはず。一体何のために?

 久遠は自身の周囲に衝撃波を起こして神尾の拘束を解き、大河の近くに戻って神尾と対峙した。

「別に杖を向けなくたって色々使えるから。捕まえようとしたって無駄だよ。どう?怖くなっちゃった?」

 久遠は逃げ出さないように煽りつつ拘束の隙を伺い、大河は構えて次の行動を伺った。

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