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ニューメイボード  作者: Ridge
消失列車

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47/64

47話

 入冥島環状線は今日も運行していた。島を時計回りと反時計回りに回る市営の鉄道で、島民の主要な公共交通機関の一つである。終電は駅によって異なるが概ね23時~0時頃になっている。


 23時半、電車内は空いていて一車両に10人もいない程度の客数だった。最後尾の車両の最奥には2人の客がシートに座ってスマホを操作していた。


 風を切る音と共に電車がトンネルに入った。

 島の東側にある脱兎(だっと)山を通る際はトンネルの中を約10分間に渡って走行する。

 電車がトンネルを出ると最後尾車両にいた2人の客は姿を消し、スマホ1台だけがシートの上に残っていた。



「おはよー…」


 休み明け、登校して教室に入った大河は朝の挨拶をして自席に着いた。いつもの習慣でやったが、その声はテンションの低いことが丸わかりで何か尋ねられそうな気配を感じた。


「大船、お疲れのようだね」

「どうした?」


 青木と赤城がやって来て様子を尋ねた。


「昼寝し過ぎて夜に目が覚めてな…今は眠い」


 ホテルでの事件後、土日は疲れて昼寝をしたが寝すぎて夜に目が覚めてしまった。


「生活リズムを正す必要があるな。今から寝るとまた夜眠れなくなるぜ」

「頑張って起きるよ。あ、でも昼食後の昼寝はする。昨日一昨日は長すぎたのが問題なんだ、30分程度なら大丈夫なはず」

「いいじゃねえの?昼寝は起こさないから安心しな」

「じゃあ怪談をしよう」


 青木は突拍子もなくそう言い出した。


「何で?」

「心を動かす刺激は元気になるよ。恐怖もいい、目が覚める」

「お前が話したいだけだろ」

「まあまあ、新しい噂…いや怪談があるんだ」

「噂か…多分9割はすぐ忘れられるんじゃねえの?」

「人が消えたり物が浮いたりとかそんなんだろ?何か勘違いだって」

「人が消えるのは合ってるよ。マジっぽいよ」

「本当かなあ。まあ一応聞くけど」

「タイトルは環状線の消失列車」

「ふうん…電車ね」

「列車だよ」

「はい」


 青木の説明によると入冥島環状線において電車に乗ったまま人が消えるという噂があるらしい。それもスマホなどのGPS機能があり居場所が分かる端末は電車の中に残り、足取りが追えないという。条件は夜遅くの人が少ない時間帯に最後尾車両に1人で乗ること。いつの間にか消えているらしい。


「噂好きが押し寄せて人が多くなったらどうなるんだろう?」

「誰か1人が消える?それとも全員消えるのか?」

「人が多いと犯人も動けなくて消えないんじゃないか?」

「犯人って人の仕業なのか?」

「言葉のあやだよ。幽霊でも妖怪でもとりあえず犯人ってことで」

「しかし、何か目的があって噂を流布しているとしたらなんだろう…」

「最後尾の車両には乗せたくないということか?」

「逆に噂に流されない人を呼び寄せるためかも」

「早く帰れって脅しかもよ」

「うーん…」


 予鈴が鳴り、青木と赤城は自席に戻っていった。


 噂に流されない人を呼ぶためという可能性は低いと思う。噂の浸透度がどれくらいか知らないが、ほとんどの人が知っているレベルじゃないと成立しないだろう。もしかしたら最初に出来た噂は夜間の電車という条件だけで、最後尾車両というのは後で足されたものかもしれない。

 いずれにせよ所詮は噂。本当の事件ならそのうち報道があるはず。いや、失踪は報道されないか。まあ何かしら動きがあるだろう。何事もなく、そういえばそんな話もあったねとなるかもしれない。



 それから数日後、大河の生活リズムはすっかり元に戻っていた。大河が夕食後に自室に戻るとスマホにメッセージが入っていたことに気づいた。久遠からの連絡で話があるから明日寮に来てほしいとのこと。カレンダーを見た後、了承の返信を送り、宿題に取り掛かった。


 そして翌日、教室で久遠に会って確認をとった。


「おはよう久遠、今日でいいんだよな?」

「おはよう。うん、来てくれると助かる」

「話はその時だな」

「その前に確認。大河くん、入冥島環状線の噂は聞いたことある?」

「どの噂だ?」

「人が消えるという噂」

「…以前聞いたことがあるけど、情報が古いかもしれない」

「それなら話が早い。詳細は放課後にね」

「分かった」



 その放課後、大河は星月寮に招かれて東屋で久遠から話を聞くことになった。すぐ横のローズマリーの生垣から爽やかな香りが漂ってきていた。


「終電に近い時間帯の最後尾車両で人が消えるという噂が立ち、気味悪がって営業に悪影響が出て来たので市が調査することになった。監視カメラを付けて撮影しているとこんなものが映った」


 久遠はタブレットで動画を再生した。映像は電車内の様子で、後ろ寄りのドアとドアの中間あたりの天井から撮影した映像で、端には運転室に続く扉や窓が見えた。最後尾かつワンマン運転のためそこには誰もいなかった。客は少なく皆シートに座っていて、スマホを見る者や寝ている者など様々だった。画面の切れた向こう側にも車両は続いていたがこのカメラには映っていないようだった。久遠は木の棒でシートに並んで座る2人の女性客を指し示した。運転室横の一番後ろの席で窓には優先席のステッカーが貼られており、周囲に他の人はいなかった。


 並んで何か喋っているようで一人はスマホを取り出し、シートの上に置いた。その後、また何か喋っていて手を繋いだと思った次の瞬間に2人の姿が消えた。


 その時の時間は22時11分か…。まだ終電ではないが夜遅い電車に違いはない。終電時間を切り上げたい人が流した噂かもと疑ったこともあったが、どうやら目的は別のようだ。


「残ったのはスマホだけ。この後、この席の向かい側に座った者はいたけど、この席に座った人はいなかった。まあ、他に席が空いているなら物が置いてあるところには座らないよね。基地に戻った車両は係員が清掃中に見つけて忘れ物として駅の忘れ物担当に届けられた」

「テレポーターの仕業か…?」

「その可能性はあるね。透明化した可能性もある」

「そうか、そっちもありうるのか。幻術系の可能性もあるか」

「そうね。とにかく、人が消えたことで超能力犯罪の可能性が出て来て私たちが調査をすることになった」

「成程。放置するのは危険だな、俺にも手伝わせてくれ」

「ありがとう、助かるよ。それじゃ早速」


 久遠は動画を巻き戻して2人の女性客が映っているところで停止させた。


「2人の客の内、こっちのスマホを出さなかった方はまだ分かっていない。彼女が最有力容疑者」


 もしかしたら変装かもしれないな。眼鏡やウィッグで顔を隠しているのかもしれない。


「もう1人の方は森(もり)杉菜(すぎな)。コンサル会社の社員、マンションで一人暮らし中。友人や社員の話によると、失踪する少し前から調子を崩しがちだったという。完璧主義な傾向があり、仕事の失敗が尾を引いて体調も崩していたみたい」

「体調を崩していたのにそんな遅い電車に?その日は調子が良かったのか?それとも始業も終業も遅いのか?」

「始業8時40分、終業17時30分で昼休みが50分、まあ普通ね。帰りが遅いのは会社が忙しかったみたい。その日は社員によると体調が別に悪く無さそうとも悪そうとも両方の意見があった。失踪した翌日にすぐに聞いたわけではなく、5日後のことだから記憶違いもあるかもね。失踪するんだからきっと何か悪かったに違いないと思い込んでいる可能性もあるし、逆に明らかに調子悪そうでもないと気づかず問題なさそうだったと判断した可能性もある」

「人の記憶だから曖昧なのは仕方ないか…。それに体調を崩しがちで仕事が溜まっていたからその日は遅くなったということもありうるか」


 自分で出した疑問をすぐ後に自分で出した答えで納得するとは…。いや、久遠の説明で思いついたのだからいいだろう。


「気になる報告としては、部屋が綺麗に片付いていて家の中には食べ物もほとんど残ってなかったこと。友人によるとそれは彼女らしくないという」


 妙だな。忙しい上に体調を崩していたのに片付ける?まさか自殺?いや、これから死ぬと分かっていて残業するだろうか?どういうことだ?


「謎が多いな」

「まだ調査中だからね。せめて事件の発生条件がもう少し絞れたら囮になるのに。電車の候補が多すぎて現実的じゃない」

「そうだな…」


 まあそれが有効な調査方法だろう。しかし、犯人の正体が分からない以上、俺や久遠の防御を突破して命を落とす可能性も十分ある。もう少し分かればいいのだが…。

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