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ニューメイボード  作者: Ridge
下敷き事件
4/34

4話

 念のため全てを話すつもりはないが、信用を得るためにそれなりに開示しないといけない。

「俺は中学入学前にこの島に引っ越してきた。能力が目覚めたのは中一の夏くらい。能力分類は分からないがサイコキネシスの類だろう。見えない無数の手で運ぶ感じだ。意識を移したり射出したりといった感じではない」

「浮かせる段階を経てから運ぶ?それとも直接掴んで運ぶように?」

「そういえば浮かせてからだ」

「ふむふむ。運べないものはある?重い物は駄目とか?」

「大きすぎるものは運べないし、目をつむってもできるが目視じゃないと正確に運べない。水のような流体は容器ごとじゃないと少ししか持ち上げられない。押しのけるだけならできるが。重さの上限まで試したことは無いが、少なくともバスを10台は同時に持ち上げられた」

 久遠は真剣な表情で考えを巡らせながら聞いていた。

「あと喋ることなんてあったか?」

「銃弾を空中で止めたよね?どうやったの?」

「無意識に行われてる。日光に対して髪や肌が体の奥を自動で守るようなもの。よく分かっていないが、多分一定以上のエネルギーを遮断する体表面にできた膜だ。軽く小突かれたくらいなら伝わるが、バットで殴られるようなら俺に触れる前に停止する。ドライヤー程度の熱風なら通るが、爆風や衝撃波は届かない。気づいたらそうなっていた」

「なるほど。素敵なバリアね」

「どうも」

 大河はお茶を飲み、湯呑を置いた。

「あまり考えたくなかったと言っていたけど、どういうこと?」

「そのままの意味。この力のことは意識したくない。何もしないのが悪いことをしているようで」

「どういうこと?」

「俺はこの力を得てから、何か人の役に立つことをしないといけないと思った。こんな力を持ちながら何もしないでいることに申し訳なさを感じている。力があることを意識すると責任や使命といったものを果たしていないようで居心地の悪さを感じる。考えの外に置いていれば気楽なものだ」

「そういうことね」

「俺は怒るのが好きじゃない。怒りに任せて行動するのは不自由に感じるから。失言や失敗の炎上も関りあいになりたくないと思っている。そもそも怒りは不快な感情だから一緒になって怒ろうとはならず、不快なことからは距離を取ろうとしている。一言言わないと収まらないなんてことはなく黙って離れるタイプだ」

「別にいいんじゃない?」

「いや。力を持っているなら力ない者のために怒って戦うべきだと思う。他人のことでも怒れるようにならないといけない。だけど俺は自分が責任や使命を果たして安心したいだけで、人のためにできそうにない」

「うーん、やっぱり…別にいいんじゃない?」

「どうして?」

「要するに社会的欲求を満たしたいんだよね。人の役に立って自身が人間社会に存在する意義を得ることで。今は満たせてないと感じて居心地悪いと。悪と戦うだけがその力を活かす方法じゃないし、悪と戦うのに怒らないといけないなんてことはないと思うよ。恵まれた体格や頭脳を持つ人みんながみんな警察や検事になるわけじゃないでしょ?」

「それは…確かに」

 ああ、そうか。俺は固執していたのか。不安を払拭したくて、これさえ解決できれば全部上手くいくのにと思い込んでいた。怒ることさえできればと思い込んで単純に考えて楽をしていたんだな。

「力があることを気にしていたけど、結局のところ自分は何のために生まれて来たのか?というよくある悩みなんじゃない?私も分かんないんだけどね」

「結局はそういう悩みなのかもしれない」

「そうだ!ねえ大河くん、頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「うん。張戸はりどさんというスポンサーが言ってた話でね…」

 久遠は頼みたい内容を説明した。話を聞いて大河が引き受けると、久遠は張戸と連絡を取って折り返しかかって来た電話に出た。

根尾持六ネオジム神社はここから近いの?」

 久遠は電話から一時離れて大河に訪ねた。

「歩いて10分くらいかな」

「ありがと」

 久遠は電話に戻り、張戸たちと現地集合することを決めて通話を終えた。

「私たちも行きましょう」

「ん」

 2人は湯呑を片付けて制服のまま家を出て、大河の案内で神社に向かって歩いた。

「超能力のこと、大河くんも人にはあまり知られたくないだろうに聞き入れてくれてありがとう。張戸さんは私たちの協力者で秘密を守るから大丈夫」

「君が魔術結社の一員と聞いた時に、君の仲間に知られるのは避けらないと思った。それより多くの人には知られたくないが」

「分かってる。大丈夫、秘密は守るよ。それにしても近くてラッキー。でも遠かったとしても張戸さんが車で送ってくれたかも。優しい人だから」

「それは不安だから徒歩で良かった」

「不安?どうして?」

「捕まって変な場所に連れて行かれるかもしれないから。超能力者を手駒にしようと」

「そういえば私たちの寮が嫌な理由はもしかしてそれ?」

「…ああ」

「私、そんな風に思われていたんだ…」

「あ、いや、君のことはいい人だとは思うけど、君の仲間は知らない。強引な人がいるかもしれなくて…」

「ふふっ、冗談だよ。本気にしちゃった?」

 久遠は笑ってからかった後、前に踏み出して大河から顔が見えないようにして少し寂しそうにした。

 緑に覆われた山を背に神社の入り口の鳥居が見えた。鳥居の先には階段が上へと続いていた。近くの駐車場には車が疎らに停まっていた。

「まだ来てないみたい。ちょっと待ってよう」

 久遠は鳥居横にある看板を読んで待っていた。

 根尾持六ネオジム神社。チョロチョロと流れる滝があり、滝の上から伸びる草の根が水によって何本かごとにまとまり、尻尾のように見える。この滝は季節や天気で変わる6つの顔を持つという。たった6つなのか?ここからここまでは1つ目の顔の分類という感じに分けているのかもしれない。

 車が駐車場に停まり、高貴な雰囲気の中年の男と白髪混じりの壮年の男が出て来た。どちらも体つきがしっかりしており、動作に老いや運動不足といったものが感じられない。

「あっ、来た」

 大河は久遠に手招きされて一緒に車の前に来た。

「待たせてしまったかな」

「いえ、少し前に来たばかりですから。紹介します。こちらが大船大河くんです」

「はじめまして」

「はじめまして。私は張戸はりど区切くぎり。会えて光栄だよ。こちらは山上やまがみ迅雷じんらい。私の助手だ」

 中年の男は自己紹介し、助手と呼ばれた壮年の男は軽く会釈した。

「星野君から話は聞いているね?」

「はい」

「強力なテレキネシスが使えるのは心強い。それじゃ行こうか」

 階段を上って境内に入り、張戸たちが事務所で鍵を借りて裏山の階段に繋がる道の鍵を開けて先へ進んだ。

 聞いた説明では2年ほど前、地震が起きてこの浦山にある大岩が動いた。このままでは転がって神社の建物の上に落ちかねない。元の場所に戻したいところだが、山の斜面で道も細くて重機が持ち込めない、そこで超能力で運んで欲しいという訳だ。割るなり削るなりして小さくすればいいと思うがそれは駄目なようだ。

「岩には妖怪が封じられているらしく、結界のある裏山から出したくないらしい。道があるのも、それを鎮めるための神事で近づくためみたいだしね。できるなら壊さず元の場所に戻したい」

「封印が動いたんじゃもう手遅れなのでは?」

「あくまで伝承さ。そこに存在感のある大岩があって、人間が意味を求めて作られた話かもしれない。本当は意味なんてないのかもしれないけど、人間は意味を求めるものだから」

 階段を上り終え、大岩の前に着いた。苔むしたしめ縄が巻かれていて幅は5mくらい、高さは7,8mくらいはある。張戸と山上は話をして移動した。

「大船君、その岩をここまで運んで欲しい。できれば動かないようにめり込ませるとなおいい」

 張戸は自身の足元に地面に木の枝で×印を大きく書いて離れた。今の岩の位置よりも高い場所だ。

「分かりました」

 大河は位置を確認して手を前に出して大岩を浮かべた。岩の下から土がポロポロと零れ、岩の下には草の生えていない湿った土が見えた。浮かせたまま横に動かし、×印の上に下ろし、ぐりぐりと地面に押し付けてから横に軽く突いて動かないことを確認して力を解いた。

「これでどうでしょうか?」

「すごいな。もう終わったのか」

 張戸は岩に近づいて手で押してみて動かないことを確認した。

「すばらしい。大助かりだよ大船君!」

 張戸は大河の手を取って両手で包むように握手した。大河は大仰な感謝に照れ臭くなって目を背けた。

「ね?怒りがなくても大丈夫だよ」

「ああ、そうみたいだ」

 こういう関わり方もあるのか。当たり前といえば当たり前だけど盲点だった。

「ありがとう久遠」

「どういたしまして」


 しかし、そんなことをよそに、翌日から街で奇妙な事件が見られるようになった。

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