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ニューメイボード  作者: Ridge
不忘

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33/64

33話

 大河は放課後に、久遠、綾瀬と分担して工業地帯を見回りをしていた。前の時間帯を見回りしていた超能力犯罪対策室の記録では不審人物どころか、人通り自体少なかった。この辺りは車は通るが、通勤時間と昼食の時間以外に人はほとんど歩かない。


 ターゲットの可能性のある春句はるく検査の社屋が見えて来た。ビルの上にグレーの円柱があり、「非破壊検査承ります」と書いてあった。この会社は船や工場などの検査を行う会社で、あのグレーの円柱は超音波探傷に使う道具を模しているらしい。いわゆるBtoB企業で一般消費者向けの宣伝はしておらず、工業地帯に立つこの社屋が宣伝の一つとなっていた。


 大河がその会社の横を通りすぎようとすると、円柱近くの壁に炎が突如発生した。大河はテレキネシスで炎を壁の表面ごと引き剝がし、炎は空中でかき消された。


 すると道路脇を歩いていた男は立ち止まり、社屋に向けて手を前に出した。そしてより強い炎が出て建物を燃やし始めた。テレキネシスで再び火を消そうとするも、大河の周囲に炎が発生して身を包まれ、視界が塞がれた。

 大河はテレキネシスで炎を周囲に吹き飛ばし、辺りを見ると走って逃げる男の後ろ姿と燃えている建物が見えた。


 くそっ…どちらを選べば…。犯人らしき者を逃せばまた事件が起きかねない。追うのは後でもできると言いたいところだが、顔を見たのは一瞬でしっかり覚えていない。しかしこっちの消火をしないと大変なことに…。


 一瞬迷い、建物の方を見ると雨のようにどこからともなく宙に現れた水滴が壁に向けて降って火を消していた。下には駆け付けた綾瀬が杖を手に魔術で雨を降らせていた。


「ここは任せてください」

「分かった」


 良かった。これなら…。


 消火は任せて大河は犯人を追いかけた。倉庫前で犯人が停めていた車に乗り込もうとしていたところをテレキネシスで車を浮かべてひっくり返し、物陰に逃げようとする犯人を宙に浮かべ、衝撃を加えた。犯人は大河の胴体に炎を発生させ、大河が反射で後ろに下がって炎を振り払っている隙に地上に降りて壁にもたれかかって呼吸を整えた。


「お前は確か平田さんの弟子…いかり残光ざんこう。独立して自分の事務所を持っている大物」

「いや、弟子ではなく元弟子ね」


 駆けつけて来た久遠は大河の勘違いを訂正した。その片手間で札を自分たちの周囲に投げ、逃げられないように封鎖した。


「元?今は違ったっけ?」

「確か破門させられたと」

「はっ、あんなところ俺の方から辞めたんだ」


 碇は壁から体を起こして自身の周囲に火花を散らしながら2人を見た。


「何があったんだ?何か事情があってこんなことを…?」


 1軒だけではなく3軒、いや今回の未遂も入れれば4軒か。放火して回るほどの何か…。


「あいつは俺の才能に嫉妬して嫌がらせをしたんだ」


 碇は拳に力を入れて震え、大きく息を吐いて落ち着いて話を続けた。


「ある日、俺は作品の予想図をあいつに見せた。渾身の出来だったよ。しかしその評価は散々だった。何が駄目だったのか聞いても教えてくれなかった。そしてこうも言われた。これの何が駄目なのかも分からないようではここにいる価値はないと。考えても考えても分からなかった」


 碇はそう言って目を閉じて首を横に振った後に下を向き、ククッと笑い出した。


「そして気づいたんだ。あいつは抽象的なことを言って嫌がらせをしているのだと。算数のように明確な答えがなく、コンテストのように複数の審査員がいるわけでもないことをいいことにあいつは不当に低い評価を下したのだ」

「他の人には聞いたのか?自分で分からなくても他の人なら…」

「あいつは他の弟子たちに自分で気づかなければ駄目だから教えるなと言った。それから少しして俺は辞めて別の会社に移った。そしておよそ10年後その会社でその作品を作り上げた。整備性や材料の変更からいくらか形を変えることにはなったが、建物は完成した」

「完成したならいいじゃないか。10年前のことを今になって復讐なんて…」

「いいや、良くない。むしろ怒りは増した。本当なら10年前に実現出来ていたんだぞ!」


 碇は怒りに燃え、それに呼応するように身の回りに火の粉が舞っていた。


 もしかして駄目だった部分というのは、その修整した部分のことなんじゃないだろうか。あるいはその10年前のは顧客の求めているものが違っていたが、今回は求めていたものと一致したとか。家庭用の車を買いに来たらバスを紹介されたみたいな不一致。そこまで分かりやすいズレではなかったのだろうけど。


 …平田木目本人に直接聞いた調査資料には違和感があった。思い当たる節が被害者としてのものが多かった。その時に思ったのは、もしかしたら加害者になっているが気づいていないのではないということ。弟子にきつく当たったのが恨みの原因かもしれないと考えなかったのだ。言った側は忘れていても、言われた側が覚えているというやつか。だからって放火なんて許せない。


「なぜ今なんだ?最近能力に目覚めたのか?」

「違う。奴の引退が近いからだ」

「どういう…ことだ?」

「生涯現役と言っていたが、方針転換して引退を考えているそうじゃないか。引退してしまえばもう過去のことだと、作ったものを壊されても悔しがらなくなるかもしれない。いや、全く悔しがらないということはないにしても現役時よりも悔しく感じなくなるだろう。だから今、現役のうちにやる必要があった!」

「2人の問題に見えるが無関係の人たちを巻き込む必要は?」

「ああ…逆に配慮する必要もないんじゃないか?慣れたら大したことじゃないと思ったよ」


 駄目だ…。


「…私は散々な評価をされたその場にいたわけじゃないから分からないけど…」

「ん?」

「どう考えてもこの犯行は割に合わない。あなたの仕業と判明すれば何もかも失う。そうせざるをえないほど切羽詰まっているわけじゃない。むしろ繁盛している事務所を持つ成功者じゃない。どうしてそこまで…」

「俺の立場なんて関係ない。どうしてもやりたかった。他人は忘れなよと言う。でも俺は忘れることはできなかった、他人には分からない」

「……」

「大体さあ、立場が立場なんだから我慢しなよなんて窮屈な思いをしながら生きていけないよ。俺らしさを抑え込み続けていたら、俺の作品作りにも影響して個性を失って存在価値を無くす」

「極端すぎやしないか?それに苦悩を作品に昇華するというじゃないか?我慢が原動力になることだって…」

「破滅して楽しみを失わないように我慢できることだって…まさか…」

「もういい。お前たちには分からないだろう。この段階で分からないようならこれ以上話すことは無い」


 碇は元師匠と同じように、答えを話すのを拒否した。


 確かに聞いたら必ず答えてくれるなんて都合のいいことはそう無いけど…。


 碇は手を前に出し、大河と久遠の体表面を発火させ、駄目押しに自分の手の前で猛火を作り出して2人に向けて放った。その熱でアスファルトの床が溶けて焦げ、周囲の物は焼き焦げ、看板やガードレールは曲がった。そして2人に直撃して火柱が上がった。


「ありゃ、目立ち過ぎたな」


 碇はその場を離れようとしたが、テレキネシスで体を吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。突風が発生して炎が消え、中から久遠が杖を碇に向けて電撃を放ち、怒りは電撃を浴びて気絶して地面に倒れた。


 大河が構えた能力膜に熱エネルギーは通用しない。そして久遠の魔術で紙片を二酸化炭素に変換して突風と共に消火した。無論、自分の能力で吹き飛ばないように防御魔法も施してあった。


 久遠は熱された地面に触れないように浮かび上がって碇に近づき、首の後ろに霊力分散の印を付けて仲間に連絡した。まず最初に綾瀬が来て水と冷気の魔術で周囲を冷やし、他の仲間たちが来て車に碇を乗せて連れて行った。


「まさか、と言ってたけど何だったんだ?」

「あれ?ただの想像だよ」

「気になるな。教えてくれよ」

「いいけど…。私が思うに彼は楽しみのために我慢ができていた。その楽しみとは元師匠への怒り。でもそれは引退したら別物となって無くなってしまうと考えた。だからもう我慢することをやめたんじゃないかなと」

「怒りが楽しみ?苦しみじゃないのか?」

「大河くんは全然怒らないものね。分からないかもしれないけど、そういうのもあるんだよ」

「ふうん…」


 その後、大河たちは各々家に帰り、風呂に入って焦げ臭い体を洗い流した。


 それから平田木目の建築物への放火は見られなくなった。学校のすぐ近くにも彼の作った家があったが、何事もなく済んだ。


 放課後、大河が学校の並木通りからその家を見ていると誰かが近づいてきた。


「先輩、そこから何か見えますか?」


 張戸此方がやってきてにこやかに尋ねた。


「ああ、いや、ここは火事にならずよかったなと。木が多いし」

「先輩、生きている木は基本的に水分が多いから意外と燃えないんですよ。木材になると乾いてますし、ユーカリみたいなよく燃える木も中にはありますけどね」

「へー、そういえば防火林と聞いたことがあった、今思い出した」

「簡単に思い出せて羨ましいです」

「そういや此方は忘れっぽいと言ってたな」

「自分の嫌いなところです。直したくて記憶力鍛えてますが効果はどれくらいあるやら…」

「此方は偉いな。…まあ直せる方がいいよな」

「歯切れが悪いですね。どうしたんですか?」

「でも嫌なことを忘れられるのも大切だと思うんだ。それで馬鹿な事起こすくらいなら」

「何かあったんですか?」

「いや、もう終わったことだ。それに俺自身の話じゃないから心配は要らない」

「勝手に忘れるんじゃなくて、自発的に選んで忘れられたらいいですね」

「そうだな、それがいい。そんなことできるのか?」

「私は出来ますが、友人はみんなできないと言ってます」


 ちょっといいなと思ったけど、多分忘れっぽいデメリット付きだな…。

 きっと此方は嫌なことを忘れているのだろう。母の死に張戸さんの関与を疑っているが、ひょっとしたら忘れている中に真相に迫る何かがあるんじゃないのか?もし自発的に選んで忘れたのなら無理に思い出すこともない。あくまで可能性の話だ、きっと何もない。


 此方は沈黙した大河を不思議そうに見た。

次から投稿ペースを少し落とします

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