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ニューメイボード  作者: Ridge
不忘

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32/64

32話

 その後、期末試験が終わって答案が返却されるまでの大河の一安心も束の間、久遠に寮に来て欲しいと連絡があった。どうも事件があったようだ。

 大河は星月の寮の客間でいつも通り説明を受けた。


「最近、入冥島で起きた火事のうち、超能力が使われた可能性のある火事が3件。それも全て同じ建築家の建物だった」

「同じ建築家…狙われたのか?」

「偶然かもしれないけどその線もありうる。調査中」


 久遠は資料を見せた。

 平田ひらた木目ぼくもく、77歳男性。生涯建築家を続けたいと言っているが、最近は体力の衰えを理由に仕事を減らしている。弟子たちも建築家として名のある者が多数。中には師匠よりも有名になった者もいるが、師匠への尊敬を忘れていない。弟子たちからの評価は厳しくも優しい人というもの。弟子をやめたりやめさせられたりした人たちからは感情的で理不尽な人という評価。

 どちらが正しい評価なのか。あるいは両方正しい評価なのか。いずれにせよ、会う場合は失礼のないようにしないといけなそうだな。


「こっちが火事のあった場所」

「ん?この鳥は…」


 建物の一つは鳥の像がある雑貨屋だった。青木の言っていた建築家とはこの人のことだったのか。


「知ってるの?」

「少しだけ。試験前に青木がこの火事の記事を見せてな。最終的にどうなったのかまでは知らない」


 資料を読むと損傷が激しく一から建て直しが必要なようだ。他2つの建物については、1つは家屋で全焼ではないが角の部屋が崩れていた。もう1つは公民館で屋根で発火して天井が一部崩れたようだ。いずれも死者や重傷者はいない。店はすぐに逃げだしたことで軽傷で済み、家は誰もいない時で、公民館は人がほとんどいない時間だった。なるべく人は巻き込まないようにしているのだろうか。それでも放火は重罪に変わりないが。


「建物の種類はバラバラで、建築家が同じという共通点くらいか」

「もう一つ、個性的な建物ということ」

「そうなのか?店と家はともかく、公民館は普通のものに見えるけど…」

「よく見るとちょっと低いでしょ?実は竪穴住居のように地面を掘って作ってあるんだ。地上階の下に地下室があるんじゃなくて地下部分含めて1つ」

「ほんとだ…なぜそんなことを?」

「さあ、そこまでは…。避難所になる場所だから省エネや防御性能を考えてかな?地下は温度変化が緩やかというし、塹壕みたいになるし、地震に強いし」

「成程。まあ事件の本筋とは関係無さそうか」

「そうだね。そして発火箇所が外部で突然燃え出したというのが特徴。表立っては漏電が原因と考えられると発表されているけど、超能力の疑いが濃い。例えばこの屋敷は屋根下の部分から燃え出したんだけど、こんな高いところに火種や燃料を超能力を使わずに投げ込むのは困難」


 発火箇所は全て燃え尽きていないのなら痕跡を調べれば分かるのだったな。建物の内ではなく外からということは放火の疑いが濃厚か。


「平田さんの関わった建物は多くあるけど、その中でも個性的な建物となると数はそう多くない。私たち星月は見回りを手伝うことになった。大河くんも手伝って欲しい」

「分かった。イカレ放火魔を放置はできない」


 大河は巡回の資料を見た。社屋や家、図書館や病院など様々だ。


「犯人の能力はパイロキネシスか?」

「おそらくね。犯人が魔術師なら火だけに限らないし、火種と燃料をサイコキネシスや弓矢か何かで飛ばすという可能性もあるけど。まあとにかく狙いを定められるのだから視界に頼った能力ね」

「直接触れてないにせよ、ある程度近くまで来ているわけか」

「そう、どれくらい近くかは能力次第だけど」

「成程…」


 これまでの傾向からして人が多いところは狙われにくいかもしれない。火事の大体の時刻について調査資料によると、いずれも平日の昼間に行われた。人の多い平日の夕方や休日ではなく、人の少ない平日に犯行が行われたように思える。しかし深夜ではないのは人通りが少なすぎて犯人として絞られるのを避けるためだろうか。だとすると人目を気にしなくていいようにモーションは必要ない可能性が高そうだ。火矢のついた弓を引いていたり、灯油をテレポートしたりの場合は人目につくから人通りの少ない深夜に行われたはずだから可能性は低い。


 動機は何か。同じ建築家の建物を狙っている。人殺しや金銭が目的ではなく、狙いは建物の方に見える。そういえば…。


「この鳥の像、予定と変わって建築家は不満足だという噂を聞いたけど何か知ってるか?」

「そのことなんだけど、調査資料に本人に聞いたものがある。それによるとどの建物も当初の予定通りに行かないことが普通だからそういうものだと割り切っていると。不満が無い訳ではないけどもう気にしていないらしいよ」

「つまりどういうことだ?結局、不満は無いのか?」

「合ってるか分かんないけど…例えるなら海は楽しいけど潮風で髪がべたつく。それが不満だけど海だもの仕方のないことだと考えてそれ以上気にしないって感じだと思ってる」

「そういうことか。ところで久遠は海好きなのか?」

「うーん、どうだろう…。プールの方が好きかな。でも実際に行くと楽しいんだよね。まあどちらかと言うと好きかな」

「ふーん」

「まあその話は置いといて。本当に割り切れるものかな」

「というと?」

「例えばこの建物、シンメトリーにしたかったんだけどコストや設備の都合でできなかったみたい」


 久遠はタブレットで写真を出して見せた。左右対称になりきらず何だか歯痒い。最初から左右非対称でデザインされていれば歯痒さは無かっただろう。


「なんだかモヤっとしない?」

「するね」

「私でそうなんだから、作った本人はそれ以上かもしれない」

「確かに…」


 本人の考えは分からないが、許容値を超えるものが中にはあるかもしれない。


「調査資料に本人に聞いたものがあると言ってたけど、どれだ?」

「この資料の後ろの方」


 久遠はファイルの一つを大河に渡し、大河はパラパラとページをめくってそのページを探して読んだ。そこには先ほどの話がより詳細に書かれていた。その他、恨まれるような理由について思い当たるものは、依頼主とのトラブル、隣家とのトラブル、親戚とのトラブルなどが挙げられていた。とある依頼主と詳細は機密のために言えないが方針を巡ってトラブルになったことが数件ある。なお、それらは既に和解済み。実際はどう思っているか分からないが…。隣家とのトラブルは隣家が野良猫に餌をやり、平田の家の敷地内でフンをすることから餌やりをやめるように言ったものの聞き入れられず険悪なままだという。とはいえ、これで本人の家ではなく別の建物を燃やすのは回りくどいから犯人の可能性は低そうだ。できない何らかの事情があるのなら別だが。親戚に関しては姉と仲が悪いらしい。それ以上は語られていない。別の情報源から得た情報では、孫の結婚に他所に嫁いだ姉が平田家に釣り合わないと口を出して揉めたとのこと。なお、孫夫婦は無事結婚した。恨むにしても孫夫婦に対してであり、関係無さそうだが本人が恨まれるような理由に挙げたということは、揉めた時に修復不可能な喧嘩でもしたのだろう。とはいえ、親戚が犯人だとしたら建物を狙うのは釈然としない。どうも親戚のような身内よりも、よく知らない外部の者が狙った結果があれらの建物に思える。


 あまり聞けなかったようで情報は少ない。最近は病気がちで長時間は聞けなかったようだ。もうすぐ80だから何かしらの病気にもなるか。本人は生涯現役を目指していたが、最近は近いうちに引退しようと考えていると書いてあった。もう遊んで暮らせばいいと思うのだが、この年でも続けようなんて建築がよっぽど好きなのかもしれないな。


「大体頭に入ったかな?次は見回りの計画について」


 久遠が計画を説明し、大河は星月メンバーと交代で組んで見回りをすることになった。

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