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ニューメイボード  作者: Ridge
切り裂き魔

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21/59

21話

 大河は見回りを日替わりで久遠や綾瀬と組んで行った。レストランなどの近くという広すぎる条件で、何も見つからなかった。綾瀬は、イチャつくカップルなんて見て見ぬふりをしたいものをこっちから探し出して見守るなんて…とぼやいていたが、それでもちゃんとやるあたりなんだかんだ真面目な少年である。



 3日目に再び久遠と組んで歩き、日没直後のレストランやカフェの多い通りの石像の前に来た。2人は石像の台にもたれかかって、周囲を見渡した。人通りが少なく、見てもらえないポップな看板や黒板が随所に見られ、寂しげな雰囲気が街に漂っていた。


「なんだか静かね。ここは前に来た時は賑やかな通りだったのに…」

「皆家に直行しててこの通りには寄らないのかもな」

「もしかしたらこういう事態を引き起こすことが目的なのかもしれない。理由まではまだ分からないけど」

「だとしたら目的は達成してもう現れず勝ち逃げされたか?」

「…考えたくないね」


 久遠は右手を髪に入れてくしゃっと掴んで髪を引っ張り、溜息をついた。


「罠を張ろうか」

「罠?」

「イチャついているカップルがいれば犯人も現れると思っていたけどもう見られない。私たち自身でイチャつくカップルを演じて犯人を誘い出す」

「犯人がちょうど近くにいなかったら恥ずかしいだけだな」

「大河くんが嫌なら他の人に頼もうかな…?」

「それは…」


 問題は無いはずだが何か嫌だ。こう思うのも身勝手な話だな。第一、犯人を見つけ出すために久遠が他の人と組む日に同様に演技するだろうし何ら特別なことじゃない。


「演技なんだよな?」

「うん」

「お前の彼氏は怒らないか?」

「いないから安心してよ」

「俺に彼女がいたらどうするつもりだった?」

「え?いたの?」

「いや、いないけど…。…分かった、やろう。とりあえずキスのフリでも」

「まあ…そこまでしないと罠にかからないよね。いいよ」


 大河が久遠の手を取ると久遠は指を絡め、向き合って顔を近づけた。互いの匂いや体温が感じられるほど近づき、唇が触れそうになった時、外から鞭打ちを受けて弾かれる音がした。

 透明な鞭は空中で防御魔法に弾かれて地面に落ちて気配も消えた。2人が周囲を見渡すとその様子を見て逃げ出そうとする女がいた。


「待て!」


 その時点では犯人なのか危険を察知して逃げ出した第三者か区別がつかなかった。しかし、その後すぐに前者だと分かった。女は振り返り際に腕を振ると、防御魔法に鞭状の物が当たり、鞭の勢いで地面が裂かれた。これは犯人のものと同じだった。


 久遠は杖を手に電撃を放った。電撃は女に当たるが多くは霧散し、少しよろけながらも逃げて建物の角を曲がって見えなくなった。


「凌がれた…」


 大河たちは女の後を追ったが既に見えなくなっていた。暗いのもあってどこかに隠れているのか遠くへ行ったのか分からない。


 女はよろけた際にバッグから財布を落としていて、久遠はそれを拾い上げた。その中にあったマイナンバーカードや免許証を見ると、名前が判明した。十桐ときり砂霧さきり。これが人斬り、斬り裂き魔の正体。


「正体は分かった。このまま追うか?一度戻るか?家を調べ上げて踏み込むこともできると思うが」

「バレたと思って家には帰らないかもしれない。まだ遠くには行っていないはず。仲間には連絡しておくけど、私たちは引き続き追う。電話するから防御お願い」

「分かった」


 久遠は仲間と電話して状況を伝えた。大河は周囲に能力の膜を張って警戒しながら電話が終わるのを待った。


「…清水さんに伝えてきた。向こうでも調べるみたい。私たちはこのまま追う許可も得た」

「ん」

「彼女は能力で防御ができるようね。あの術で気絶すると思ってたけど逃してしまった。もう少し出力上げても大丈夫みたい」


 ガンと何かを蹴ったような音がして路地裏を見ると十桐が走っていくのが一瞬見えた。大河はその路地裏は事前に見た地図では出入口は2つで後は袋小路になっていたことを思い出した。


「挟み撃ちにしよう、俺は向こう側から回り込む、久遠はここから」

「了解」


 2人は双方向から囲い込み、十桐は逃げた先が袋小路に気づき、戻ろうとしたが時既に遅く2人が目の前に立って塞いでいた。


「そこまでだ。十桐砂霧、斬り裂き魔」

「あなたを捕まえる。大人しくしなさい」


 十桐は両手を前に突き出して全力で透明な鞭を振るったが大河のテレキネシスの膜で宙に浮いて止まって消滅した。


「観念しろ。お前の力では俺たちには傷一つつけられない」

「く…動くな!それ以上近づけば自刃する!」


 十桐は透明な鞭で壁を切って切れ味を見せた。


「逃がすくらいなら止むを得ない…」


 久遠は構わず歩み寄り、大河が肩を掴んで止めた。


「せめて話を聞こう」


 久遠は大河の方を向いて大河だけにほっとした顔を見せた。


 久遠に人を殺す気はない。これは相手に主導権を渡さないための演技だったのだろう。だとすれば俺の行動は相手に迷いを生じさせて決断を揺さぶることに繋がったはず。これから隙を見つけて無力化する。


「どうして殺人をしてきた?」

「……」

「言えないのならもう用はない」

「答えてくれ」

「…私は男が憎い。男の支配する世界を終わらせるためだ」

「…?憎んでいたのは恋人持ちではなく男?」


 どういうことだ?事件の被害者に男もいたが、女の方が多かった。


「そうだ。あの欠陥生物が大嫌いだ、もちろんお前も」


 十桐は大河を指さした。


「男を憎んでいるのならなぜ男ではなく女まで殺した?いや、女を優先的に殺していて、男の方は一緒にいたから巻き込まれたかのような様子だった」

「女を殺しているわけではない。男に媚びる女を殺しているのだ」

「どういうことだ…?」

「男と付き合い、取り入ろうとするなど女としてのプライドの無い腐った奴ら、女の裏切り者だ。彼女らがこの世から排除されることが世直しの第一歩」

「本気か?」

「やはりお前たち欠陥生物には理解できないか…」


 十桐はやれやれと額に指を当てて目を伏せた。


 媚びるとか取り入ろうとするとか、この人の想像だよな。普通のカップルは互いに好きだから付き合っているだけなんじゃないのか。


「私は目覚めたんだ。この世界の不幸はこの世界をこれまで支配して来た者のせい。すなわち男が悪い。私たち女は被害者だ。私たちの怒りを思い知らせる」

「もしや男を絶滅させる気か?」

「男を消し去りたいのは山々だが男は全人口の約半分、いきなり全て殺すなんて現実的じゃない。私たちの作る新たな世界では贖罪に励むものは生かしておいてやる。男は男に生まれたという罪を背負っているんだ。それを自覚して贖罪に励むのだ」


 質問してるのに聞けば聞くほど分からなくなってきた。


「あなたは世直しの第一歩と言っていた。どこかに声明でも出した?」

「私のSNSやブログに出している」

「そうなんだ…後で調べておくね」


 久遠は冷静に淡々と話を聞いていた。それは怒りの感情を押し殺しているようにも見えた。


「そこでの反応を見るに女の裏切り者を殺して皆喜んでくれているよ」

「皆とは誰のこと?」

「皆は世界中の皆のことよ。現実世界じゃ本音は言えないけどネットの匿名の世界では本音を言い合える、そうでしょう?本音の世界では私はよくやった!と賞賛されている」

「少なくとも私の周囲とは反応が異なる。死神の噂の方がよっぽど目立っている。だから世界中じゃない」

「どうせ名前を出しているから言えないだけでしょ?本音は違う」

「時に建前を使うことがあっても現実世界は嘘だけの世界じゃない。ましてやネット世界が嘘をつかない本音だけの世界でもない」

「確かにネット世界は嘘も多い。でも私は慣れているから嘘と本音を見分けられる」

「そんなことできるなんて思い込みよ」

「どうしてそう必死に否定する?あっ…そうか成程…」

「お前の賞賛されているというのも、本当は同じ考えの仲間から賞賛されているだけで他の人は引いて離れたり黙ったりしてるだけなんじゃないのか?100人の一言ずつの発言じゃなくて2,3人の100回の発言だったりしてな。匿名なんだろ?」


 炎上事件は多くの人に知られていても発言者は実はごく少数なんてことがある。


「そんなのあんたの想像に過ぎない」

「そうだな。でも世界中の皆の意見だというのも想像に過ぎない。どちらも確実なものじゃない」

「それでも私の方が真実に近い」

「駄目か…」


 混乱してきたがまとめると、犯人は恋人がいる人を恨んで殺していた訳ではなかった。世界に不満があり、その世界を作ったと思っている男を憎んでいる。そんな男と恋人の女は女の裏切り者と思い、見つけては殺していた。その殺人は彼女の周囲では賞賛されているらしい。殺害現場が人気のないところではなかったのは人が多い方が殺すターゲットを見つけやすいからか。


「時間稼ぎはもう十分」


 十桐が腕を上げると大河と久遠は見えない縄に縛られた。2人が満足に動けない隙に十桐は走って逃げ出した。十桐は鞭の攻撃力では2人の防御を抜けないと考え、見えない縄としてひっそりと包むように仕掛けていた。鞭を振るだけじゃなく縄として操ることもできた。


「くそっ…何が自刃だ、あいつ死ぬ気なんて絶対ないだろ」


 大河はテレキネシスで縄を上空に浮かべて抜けた。久遠は杖の上に星のようなものを浮かべて指で動かして縄に光線を当て、砂に変えて縄を抜けた。


「まだ近くにいるはず。捕まえよう」

「ああ」


 2人は駆け出して十桐を探した。


 十桐は橋の上へ走って逃げ、上がった息を整えながら歩いた。


「ここまで来れば…」

「…見つけた」


 十桐のすぐ後ろに門宅彼方が現れて肩を掴んだ。十桐はとっさいに払いのけて鞭で斬りつけた。鞭は彼方を素通りして地面を切りつけ、彼方の姿が靄となって消えた。


「幽霊…?」


 突如、彼方が十桐の目の前に浮いて現れて手を伸ばすと、十桐の足元の影から無数のムカデが出て体を這い回りあちこちを噛みながら登って行った。


「ひっ…」


 十桐は離れようとするが足が麻痺して動かず、すぐに全身が痺れて動けなくなり、首にまで登ってきたところで過呼吸を起こして気を失って倒れた。


 彼方が橋の柱の裏から出て近づくとそこには倒れた十桐だけがいてムカデの影も形もなかった。

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