20話
その後、彼方が他の噂話を話しては大河にどう解釈するか聞き、それなりに楽しく過ごした。
「あ、私そろそろ帰らないと」
「じゃあお開きにしよう」
「付き合ってくれてありがとうございます」
「こちらこそ、色々聞けてよかった。ありがとう」
その後、2人は店を出てそれぞれ違う方向へ歩いて行った。
何か違和感があったな。一見して友好的なようで俺のことを嫌っているようにも感じた。あえて暗い話題を選んでいるような…嫌がらせか?いや、考えすぎか?ちょっと変わってるだけかもしれない。俺に伝えたいことが暗い話題になってしまったのかもしれない。
彼方は此方の妹だけどそれを本人には明かせないようだ。しかしこれは妙じゃないか?秘密なら黙っていればいいじゃないか。あんな誰が聞いてるかもしれないところで俺に話すのは変だ。本当は姉に自分の存在を知られたいのか?だったら俺から此方に喋るべきか?しかしただ口を滑らせてしまっただけかもしれない。話すかは彼方に確認してからでいい。大体、頼まれてもないのに俺が2人の仲を取り持つなんてそこまですることはない。面倒だし…。それに此方のことを快く思っていないようにも見えた。無理に近づけることも無いか。
そういえば彼方は張戸さん経由で俺の能力のことを知っているようだが、彼女に何か能力があるのか場所が場所だし聞けなかった。それはまた今度にでも聞くとしよう。あっ、連絡先交換していない。まあそのうちまた会えるか。
大河は家に戻り、夕飯まで勉強をした。夕飯の少し前にキッチンに来て母の調理を手伝い、2人で完成した夕飯を食べた。夕食時に母はテレビをつけてニュースを流した。日本や世界のニュースが流れた後に入冥島のローカルなニュースが流れていった。
白螺山工業の入冥島支社が工業地区から中心街の方へ移転するというニュースが流れた。白螺山工業…入冥島で弾薬を作っている企業の一つ。他にも様々な部品を製造している。
「部品の会社か…お兄ちゃんもこっちで就職したらいいのに」
「一人暮らしはいいものだから」
「気持ちは分かるけどねえ」
母は一人自由に趣味のドラマやアニメを楽しみたくて長期出張の仕事の父を結婚相手に選んだ人だ。だから気持ちが分かるのだろう。というか子供全員に遺伝している気がする。父の方は毎日会えなくても平気な人を結婚相手に選んだ。そんなドライな関係だが夫婦仲は良好で子供は3人いる。俺は妹がいるというのに憧れて、実は父が出張先で作った隠し子の妹がいないかなと期待したことがあるが、それは無いだろう。
入冥島で起きた殺人事件のニュースが流れた。体や周囲の地面を鋭い鞭のようなもので斬りつけたような跡があり、犯人はまだ見つかっていないとのことだ。
「お母さんまた出張で週末まで離れるから心配。お父さんが陸に戻ってくるのもだいぶ先だし」
「心配要らない、気を付ける」
「本当に気を付けてね」
「分かってる」
「まあ大河は運がいいから大丈夫だと思うけど」
大河の両親は長男の育児に過保護気味だった反動で長女と次男には放任気味である。
夕食を終えた後は大河は自室に戻り、母はリビングのテレビで映画を見て過ごした。
翌朝、大河は登校して廊下を歩いていると久遠に会った。
「おはよう」
「おはよう大河くん。ちょうどいいところに」
「?」
「今日の放課後時間あるかな?星月の寮で話したいことがあるんだけど…」
帰ってからやっておきたいことはあったが、まあ明日でもいいか。ここでは話せないことということは何か超能力絡みの話か。
「大丈夫」
「ありがとう。じゃあ今日は一緒に帰ろ」
その後、学校の朝のホームルームで1年生の生徒が殺人事件に巻き込まれて死亡したことが伝えられた。なるべく一人で行動せずに、夜間の外出は控えるようにと注意喚起がなされた。
授業はいつも通り何事もなく終わった。たとえ事件に巻き込まれた生徒がいたとしても、普段と変わらないのは少し寂しいような気もする。でも教職員は俺の知らないところで対応に追われていて、それでも普段通りの授業ができるように頑張っているのかもしれない。そう考えると普段と変わらなくて良かったと思える。
放課後、大河は久遠と一緒に下校し、前回と同じルートで星月の寮に来た。道中では話せないということで黙って過ごした。
そして星月の寮に着き、客間に通された。久遠は準備するから待っててと自室に上がっていった。
綾瀬一介がお茶の入った湯呑をお盆に乗せてやってきた。
「…ようこそ、大船さん」
「この前はありがとう」
「…どうも」
綾瀬は大河の前に湯呑を置き、机の反対側に2つ湯呑を置き、大河の斜め前に座って湯呑を1つ自分の前の寄せた。この話には綾瀬も同席ということか。
「お待たせ。一介くん、お茶ありがとう」
「あっ…いえ…」
久遠がタブレットを持ってやってきて大河の前に座った。
「来てもらったのは巷の殺人事件のこと」
「そんな気はしていた」
「カメラの映像から見て超能力者の仕業と考えられ、私たちに仕事が回って来た。犯人は相手に触れずに斬り裂いている」
久遠はタブレットで動画を再生した。川沿いのカフェやバーの集まったエリアの監視カメラの映像で、そこから見える対岸の遊歩道を拡大した映像だった。人がポツポツと歩いていた。
「ここの2人を見ていて」
ペンで指したところには木の下で抱き合ってキスをしていると思われるカップルが映っていた。拡大した映像で荒くてよく見えないが、顔近いし体寄せてるしキスしているのだろう。
少しすると顔を離して手を繋ぎ、歩き出すと女は突然後ろにのけぞり、血を噴き出して倒れた。女の前に回って抱えようとする男は背中を押されたように倒れ、背中から血を噴き出して2人は重なるように倒れた。
「これが事件時の映像。この時すぐ近くに人はおらず、飛び道具の痕跡も見つかっていない。地面には鋭い鞭で斬りつけたような跡が残っていた。しかし鞭もそんな鞭を持っていた人も見つかっていない。超能力者の疑い濃厚で調査することになった」
「鞭か…確かに被害者が押される動きが弾じゃなくて鞭っぽい。見えない鞭を振っているという感じか」
「そう予想してます。ただし、少なくとも普通に振る動作を取る必要は無さそうです。それなら目撃者がいるはずですから」
俺も手を伸ばしたり振ったりしなくても物を浮かせたりできるし、それと同じという訳か。手を使えば威力は増すが。見たところ切れ味は生身の人間に切り傷を与えるくらい。真っ二つにするほどではない。多分鉄の鎧だったら切れないのだろうがそんな物着て生活はできない。
「そこで大河くんに事件調査を手伝って欲しい。もちろん謝礼も出るよ」
「分かった。こんな危険な奴を野放しにできない」
「ありがとう」
「では次は僕から被害者たちの説明を…」
大河は綾瀬から説明を受けた。切り裂き魔の被害者はカップルや若い女性。その若い女性も恋人が離れていた隙に殺されている。職業や学校もバラバラで統一性はない。犯行時刻は18時から22時の間。場所はレストランや居酒屋、カフェ、バーなどの近く。
「妙だ。人気のない時間や場所じゃない。夜ではあるが…」
「私もそこが不思議。深夜の人気のない時を狙ったり、夕飯時だとしても人気のない場所を狙ったりするのが自然だと思うけど」
「特定の人物を狙うというよりは、条件を満たす人物を狙っているのか?人の少ないところでは見つけにくいから多い場所を選んでいる?流石に真昼間ではなく暗くなって闇に紛れられるようになってから。もしかして恋人がいるのが条件か?被害者は元カレの付き合った人とか?」
「いや、そういう繋がりは見られませんでした」
「じゃあ恋人持ち全員を恨んで?しかしそんなことで殺しはしないか」
「ありうる話だよ。モテない男が銃乱射事件を起こす事例が海外で見られる」
「ありうるのか…」
まあ今回も同じとは限らないが…。
「とにかくそんなわけで私たちは見回りをする。大河くんにはまた見回りを手伝って欲しい」
その後、大河は見回り計画の説明を受け、早ければ明後日に実行するということを聞き、一旦解散して帰宅した。
大河の帰った後、綾瀬は自分の湯呑を持って窓を開けて縁側に出た。湯呑を置いて杖を持ち、魔術で残った茶を浮かべ上げてウォーターカッターにして周囲の伸びた草を切り払った。そして杖をしまって湯呑を持って他2人の空の湯呑もお盆に乗せて給湯室へ運んで行った。




