18話
土曜日の朝、霊火亜誕高校の駐車場にはバスが停まっていた。チア部はこのバスに乗って会場へ行く。
全員乗り終え、バスは動き出した。敷地内から車道に出るべく左折したが、予想以上に動き壁に激突しそうになった。運転手はバックしようとするが動かず、前に進んで行った。
しかしバスは僅かに宙に浮いて位置を直した後に着地し、バックして仕切り直した。運転手は再起動して動きが正常に戻ったことを確認し、再びバスを動かして敷地の外へ出て会場へ向かった。
校舎側面の非常階段ではバスに向けて手を伸ばしていた女子生徒がおり、バスが行ってしまった後は冷や汗をかいていた。
「どうしよう…皐月さんになんて言えば…」
「そうか、あなたが犯人だったの」
階段の上に久遠が立って杖を構えていた。女子生徒は逃げようと下の階へ向かおうとすると、大河が飛び上がって階段に乗りこんできた。
「誰だ?私服じゃ学年も分からん。そもそも生徒なのか?」
「調べによれば彼女は華道花実、3年生。私たちと話をしましょう」
「どいて!」
華道はサイコキネシスで大河を横に押しのけて下へ逃げようとした。しかし、大河は微動だにせず腕を伸ばして壁に当てて進行を遮った。
「ば、馬鹿な…。これなら…」
華道は手加減なしでサイコキネシスで大河を突き飛ばした。しかし、力はかき消されて腕を掴まれた。
「そんな…」
「同系統の力みたいだけど、あなたでは彼には敵わないよ。それ以上はやめておきなさい」
「それじゃさっきのやガラス割った時に私の邪魔をしたのはあんた…?」
「その通り。それにしてもあっさり自白するとは…」
久遠は華道の首の後ろに杖を当てた。
「やめ…命だけは!」
杖先から霊力分散の印を後ろ首につけた。華道の能力は封じられた。最初から命を取る気はなかった。
「じゃあ、話してもらうわ」
大河たちは場所を変え、華道から情報を聞き出して次の行動に移った。
-------------
-------
約半年前。東京の大会会場で遠野は男に声をかけられて部屋で話をしていた。男は芸能事務所の所長を名乗り、名刺には皐月仁義と書かれていた。
「あなたの身のこなし、まだ荒いながらもまさに天才的です。何よりオーラがある、華がある。ぜひ私の事務所にダンサーになりませんか?番組にも出られますよ」
「すみませんが、私はそういったことに興味ありません」
「そう仰らず。あなたはまだ魅力を知らないだけなのです。一度体験すればきっと気に入りますよ」
「私は結構です」
「その才能を部活程度で遊ばせるなんて世界の損失です」
遠野はイラッとして部屋を出ようとしたがやめ、言い返すことにした。
「芸能人よりかわいい子やスポーツ選手より背の高い人、そこらにいますよね」
「あん?」
皐月もイラつき、不満の声が漏れた。
「才能があろうと全員がその世界に興味があるとは限らないのです」
「じゃああなたは何がしたいのですぅ?」
「私は化学の分野に進みたい。新素材開発を通じて今までできなかったことを可能にして人の夢を応援したい」
「はっ、あなたの学力は存じ上げませんが、やりたいことよりやれることをすべきですよ。不向きなことをして低いステージで留まるよりも向いていて高いステージにいた方が世のため人のため、そして自分のためになるのです」
「買い被りです。それに、できることを増やし世界を広げるのは大切でしょう?これで失礼します」
遠野は椅子から立ち上がり、部屋を出ていった。
いなくなった後、皐月は椅子の背もたれにもたれかかり溜息を吐いた。
「私の誘いを断るとはなんと愚かな…」
「全くです。もったいないことを…」
一緒にいた事務員はお茶を下げながら皐月に同意した。
「…ふふふ、まあいいでしょう。部活なんてお遊びが出来なければ暇になって気も変わることでしょう」
「不祥事でもでっち上げて活動休止させますか?学校宛に写真を送ります?」
「いや、今時フェイク写真は溢れていて効きが弱い。炎上なんて日常茶飯事、半月もしたら忘れ去られることでしょう。簡単に情報が手に入り、簡単に忘れ去られる世の中ですよ」
「ではどうするおつもりですか?」
「呪いの手紙でも演出しましょうか。部活を続けたら怪現象や不幸が続き、気味悪がって皆辞めるのです」
「では早速手下を集めて…」
「いえ、来年彼女たちの学校がある島に行く用事があります。その時に仕掛けましょう。向こうには不思議な力を持つ手下がいることですし。チケット1枚で釣れるのだからちょろいものです」
-------
-------------
皐月仁義は所属タレントのCMの撮影で約一月前に一度入冥島に来ていた。そして今日はテニスの島大会のゲストとして招かれたタレントの付き添いで大会会場に来ていた。スマホには華道からの連絡が入っており、チア部は計画通りバスの事故で来られなくなった。事故の程度は軽く、遠野時雨は無事と報告されていた。
皐月は上機嫌で廊下を歩き、試合を少し見て客席の方にも目をやった。そこには霊火亜誕高校チア部が応援している姿があった。
「はうああっ!」
皐月は幽霊でも見たように狼狽えて後ずさり、自分たちに貸し与えられた部屋へ隠れるように戻った。
「なぜ奴らがいるのですぅ。事故で来れないはず…」
「事故は未然に防がれました。あの子のスマホから偽の情報を送ったのですよ」
「誰だ!?」
「超能力犯罪専門の警察みたいなものです。皐月仁義、一緒に来てもらいます」
久遠は杖を手にして皐月に降伏を迫った。
「警察ぅ?何のことです?」
「事故に見せかけて傷害を与えようとしましたね?華道花実ともども拘束します」
「私を捕まえるとでも?こんな非科学的なこと、立証なんて不可能なのですよ」
「普通はそうですが対超能力犯罪相手には専用の方法があるのですよ」
「第一、私は何もしていない。彼女が私を陥れようと言っているだけですぅ」
「指示メールという証拠を残していながらそれは通らない」
「チッ…ガキが…調子に乗りやがって!」
皐月は手で机をバン!と叩いて威嚇し、卓上時計を掴んで投げようと手を伸ばしたが、久遠の杖の先から出た突風で時計は吹き飛ばされて空ぶった手で机を叩いた。
「このっ…があああ!」
皐月は机を倒そうとしたところを電撃を受けて気絶した。
その後、久遠の仲間たちが来て皐月を連れて行った。大河は久遠に合流して話を聞いた。
「これで終わりか」
「だと思う。時雨ちゃんたちはもう怯えなくていい」
犯人は遠野に部活をやめさせ、手に入れようと校内の協力者を使って呪いを演出したわけか。ライバル校の嫌がらせとか元カレが恨みを晴らすためとかじゃなかったか。
「しかし、遠野たちにはこのことは言えないし、彼女たちはまだ終わってないと思うんじゃないか?大会とは応援で出る今回みたいな大会ではなく、自分たちが競い合う大会のことだと思っているだろうし」
「そうね…。でも悪戯だと思って重視しないでもらうしかないと思う。不安なら神社にお参りでもしてもらって」
まあそこまでフォローすることもないか。超能力犯罪の犯人は捕まえたし、これ以上は超能力関係ない。それに芝居打つのは正直めんどくさい。
「しかし意外だな。ここまで来たら大会に出られるように不安を払拭するまでやるのかと」
「あの子たちはそんなにヤワじゃないと思うよ。それに…なんとなくだけど時雨ちゃんは大会に乗り気じゃなさそう。だから苦労してフォローするほどじゃないかなって。他の部員には悪いけど私は面識もあって友人の時雨ちゃん優先で」
「家族や友人を優先するのは自然なこと。しかしどうして乗り気じゃないと思った?」
「時雨ちゃんと過ごしていて感じたけど、あの子は人の応援をしたいのであって勝負がしたいわけではなさそう。あの子は人の喜びを自分の喜びにできる。誰でも大なり小なりできるだろうけど、彼女はそれが特に強いね」
成程、人の試合を応援するよりも自分で試合をした方が楽しいだろうにと思って不思議だったが、そういう理由だったのか。共感性が高いというやつか。立派だな。
「でも好きなことだけやっていればいいわけでもないと思う。私たち魔術結社は魔術を後世に残すためにお金稼ぎや術の改良も行っている。好きなことにだけ使っているだけで過ごせるわけじゃない。でもこれはそういう目的の組織だからかもしれない。これが料理部なら、料理コンテストに出なくても仲間たちと好きに料理作って楽しめば十分と思えるけど、やはりコンテストで勝てるように腕を磨くことも大切に思える。いや、たとえ野球やサッカーのような競技でも場合による?もう分からなくなった」
遠野本人も似たようなことを言っていたな。他言無用だから言えないけど。それにしても察せるとは大した観察眼だ。
「俺も分からない。まあ頂点目指そうと趣味で過ごそうと好きにしたらいいと思うよ。選ぶのは彼女ら次第ってことで」
「…ずるい答えかもしれないけど、そういうことにしとこう」
大河はスマホを見て帰りのバスの時刻表を見た。
「折角来たんだし、試合を見ていかない?」
「でも俺テニス分からない」
「まあまあ、雰囲気だけでも。知らない世界に触れるのは大切だよ」
「それじゃ折角だから…」
大河はスマホをしまい、久遠と試合を見に行った。大河の共感性が低いのか入れ込めるほど詳しくないからか、白熱した雰囲気や緊迫した雰囲気、勝利の喜びを応援している人たちみたいに一緒になって感じることは無かったが、傍観者として見るのも別に駄目なわけではなく結構面白いと感じた大河だった。
それから数日後、慈悲深い死神の噂が話題となり、対照的に脅迫の手紙で騙られた偽死神の存在感は薄まっていった。




