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ニューメイボード  作者: Ridge
人探し

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15/59

15話

「その様子だと知らないのか」


 セイは探るような目をやめ、大河から離れた。


「そっか、クーちゃんから聞いてないか」

「何の話です?」

「ちょっと耳貸して」


 セイは耳元で小声で話し始めた。シンが移動中に口封じに殺され、その犯人が不明なこと、その調査でセイがここに来ていること。


「そうだったんですね…」


 道路が通行止めになっていたのはその影響だったのか。知らなかったとはいえ、久遠にまたすぐに会えるなんて言ったのは不味かったか。明日謝ろう。


「そういう訳で俺はそろそろ行くよ。何か分かったら教えてちょ」

「はい、お気をつけて」


 滝川は去っていき、雲井が戻って来た。


「今の人は…?」

「バイトの知り合い。悪い人じゃない」

「良かった…。ごめん、あの人が怖くて出てこれなかった」

「いいよ。むしろ2人きりで話ができて良かった」

「それならいいけど…」

「じゃ、引き続き案内してくれ」

「うん」


 雲井の案内で歩き始めた。


 この駅が雲井家の最寄り駅。通勤で乗る駅を一つずらして歩いていた可能性があり、次の駅までの道を調べていく。

 暫くは家や店があったが途中で森林公園に繋がる坂道に入り、その中を進んで行った。都市の喧騒が聞こえず、青葉の香りに包まれていた。普段街の中にいるのならいつもと違う空気を味わおうと通ることが考えられる。


「車道沿いを通っても駅に行けるけど、この公園を横切っても行けるから、ここを通ることがあるみたい」

「もしかしたらここを雲井の父さんが通ったかもしれないわけか」


 大河たちは周囲を見渡しながら歩き、異変が無かったか見て回った。不自然に人が通った跡があったり、地面に穴が空いていたり、木が倒れていたり、置物が動いた跡があったりしないかを注意深く見た。


「気になっていたんだけど…」

「ん?」


 各々反対側を黙って調べていると雲井が口を開いた。


「雲井の父さんって、父も雲井だよ」

「そうだろうけど…」

「ややこしいし私のことは雲井じゃなくて雨夜と呼んで。それから父のことは雨夜の父、もしくは正午さんと…」

「君がそう言うなら…雨夜」

「はい、雨夜です」

「じゃあ俺だけ苗字もなんだし、俺のことは大河でいいよ」

「分かった…大河君。あ」

「どうした?」


 大河は雨夜の方を向いて目線の先を見た。そこには雉が草の上を啄んでいた。色鮮やかなオスで動くたびにツヤツヤの緑の毛並みが目に入った。


「ごめん、ただの雉」

「なんだ…用が無ければ眺めていたいが…」


 再び異変が無いか調べ、何も見つからないまま時間が過ぎていった。動物の通った跡はあったが他は無かった。


「大河君、一休みしよう。集中力はずっと続かないから」

「…分かった」


 大河はベンチに案内されて座り込んだ。


 こんなことで見つかるのか。とはいえ考えうる場所を地道に調べる他ないか。


「飲み物買ってくるから待ってて」

「いいよ俺も行く」

「手伝って貰っているんだから遠慮しないで」


 雨夜は返事を聞く前に小走りで自販機に向かい、大河は諦めて後ろにもたれた。


「大河君、ちょっと…」

「ん?」


 雨夜が飲み物を買う前に戻ってきて、何かを見つけて案内した。コンクリートブロックの道から出て、地面が土の高い木々の間にやってきて、途中で急に立ち止まった。


「どうかした?」

「何か変だよ」


 雨夜は近くの枝を拾って前へと投げると、土の上に落ちたはずなのにすり抜けるように消えた。


「これは…」


 大河はしゃがんで前の地面に手を伸ばすと地面をすり抜けた。まるで立体映像を素通りしたような感覚。


「まるでホログラム…」

「下に何かあるのか?ちょっと見てくる」

「危ないよ。私も行く」

「いや、俺だけで」

「きゃっ…」


 雨夜は足を滑らせた。大河は雨夜の手を引いたが一緒に滑り落ちて行った。

 大河は雨夜が斜面で怪我をしないように抱え、バレない程度にテレキネシスで浮かせて衝撃を和らげて姿勢を保ちながら下へと滑って行った。


 すぐに滑り止まり上を見ると、5mほど上にさっきまでいた場所の端が見えた。ここは地割れの間のようだが、極端に深い穴というわけではないようで日の光も入ってきていた。


「あ、ありがと…」


 雨夜は照れながら大河から離れて髪や服の乱れを直した。


「大河君、怪我なかった?」

「ああ、幸運にもない。靴はちょっと傷んだけど」

「うう…」


 向こうから人のうめき声が聞こえ、2人は駆け寄った。

 そこには中年の男が横たわっていた。襟付きシャツを着て、打撲や擦り傷があるものの出血はさほどなかった。


「お父さん!」

「これが雨夜の…」


 雨夜はしゃがみ込んで正午の背中に手を回して起こそうとした。


「いててて」


 雨夜は起こすのをやめ、そのまま横にした。


「雨夜か…すまんが怪我をして動けない、大きな声も出せない」

「生きてた…良かった…」


 雨夜は父の手を握って頬ずりした。


「雨夜、俺は登って助けを呼んでくる。そこは任せていいか?」

「うん。でもその前にあれ…」

「?」


 雨夜は地面に刺さっている木の板を指さした。大河がそれを引き抜くと上に薄っすらとかかっていた靄が消えて日光が強くなったように感じられた。


「不自然にあったから何かあるのかなと」

「分からん、なんかのお呪いかな。とにかく行ってくる」

「気を付けて」


 大河は地割れの狭い場所から両手両足をつけて登っていき、地上に出た。もう地割れは普通に見えるようになっていた。そこで救急車を電話で呼び、公園管理事務所にも問い合わせて説明をした。



 大河が歩道に出て救援の案内をしようと待っていると、予想外の人がやってきた。


「ティガちん、また会ったね」

「セイさん」


 滝川が仕事仲間らしき人達と来ていた。


「どした?何かあった?」

「多分昨日から地割れに落ちていた人がいて、救急車を待っているところです」

「怪我の程度は?」


 滝川は一転して真剣な表情で大河に尋ねた。


「詳細は分かりませんが、打撲や擦り傷が見られますが大出血は見られません。体を起こそうとすると痛がるので見えない部分で怪我をしていると思います」

「意識はあるのか?」

「はい」

「はっきりしている?」

「はっきりしています」

「なら救急隊に任せよう。意識がないなら出ようかと思ったけど必要ないっしょ」


 滝川は険しい表情を解いて朗らかな表情をし、大河の緊張を解こうと微笑んだ。

 サイレンの音がして救急隊がやってきた。管理事務所の人も来て梯子を下ろして雲井さんを担架に乗せて運び出し、病院へと連れて行った。雨夜は同行していき、大河はセイに呼び止められて残った。


「悪いねティガちん、聞きたいことがあるんだ」

「いえ、俺もセイさんに聞きたいことがあって」

「土砂崩れの現場から魔術の痕跡を見つけて、それを辿ってここに来たんだよ。下で何か見なかった?」

「変な板を見つけました」


 大河はさっき引き抜いた板を滝川に渡した。


「これだけ?そんなはずは…。察するにこれは隠すための仕掛けで本命は別か。下を調べよう」


 滝川たちは地割れの下に降りて調べ、別の木の板を見つけた。何か呪文らしきものが書かれていた。


「これは何ですか?」

「例えるなら…落石トラップを支えるロープの端っこ。ロープは見えないけどね。これを引っ張ると支えを失った石が落ちてくる。霊力の流れに沿ってできた川を上るようにロープを走らせ、前の方は崩れやすくなるように周囲を変質させて、支えに変えておいて仕込む。そして引っ張るのは遠隔操作で、おそらく現場の車道近くにいたのだろう。シンさんを乗せた車が見えたことを確認してスイッチオン、土砂崩れっと」

「成程…しかし、足止めにしたって回りくどくないですか?多分一回きりで成功するとも限らないのに」

「逆に言えば、そこくらいしか仕込めなかったのかもしれないよ。道路には監視の目があって仕掛けられずやむなく。それに入潤島の監獄へ移送するまでの間に襲撃のチャンスはまだあった。外したところで脅しにはなったってことっしょ」

「そういうことですか…」

「ま、想像だけどね。実は単に仕掛けを作るのが好きってだけかもしれない。誰の仕業かも現状では見当つかないしね」


 滝川は仲間に木の板を渡し、仲間はそれを袋に入れた。


「つまり、雲井さん…あのおじさんは偶然巻き込まれたということですか?」

「そうなる。魔術師が隠していた場所へ運悪く踏み込んでしまった。穴があるのに気づかなかったんじゃね」


 なんだ、陰謀は無かったのか。良かった…。それにしても雨夜はよく異変に気付けたな。俺なら気づかずに通り過ぎていたと思う。大した観察力だ。



 雲井正午は病院の個室でベッドに横になり、椅子に座っている雨夜と話をしていた。


「一週間くらいで退院できるみたい。良かった…」

「不幸中の幸いだな。雨夜、父さんを探すのに能力を使ったのか?」

「はい。どうしても…」

「今回は助かった。ありがとう。遅かったら死んでたかもしれない。しかし、暫くは使ってはならない、怪しまれる」

「はい」

「お前の力は強い残留思念を検知して読み取るもの。あの穴に近づいたことで検知できたのだろう。あんな仕掛けをしたのが誰かお前なら読み取って分かっているかもしれない」

「…全く知らない人だったよ」

「そうか、忘れるといい。危ないから役立てようと思うな。お前は火を出したり物を飛ばしたりできない。その力を悪用しようとする者に捕まってもその力では抵抗できない。能力を知られては危険だ」

「分かってる、今回は特別…」

「すまないな、危険に晒して。父さんも気を付けるよ」

「うん…」


 雲井は手を雨夜に両手で包むように握られ、幸福感と安心感で張っていた気が緩み、激しい疲労から眠りに就いた。

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