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ニューメイボード  作者: Ridge
人探し

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14/60

14話

 大河は帰宅し、着替えてベッドに座りこみ、タブレットでニュースを読んだ。


 入冥島のニュースで目に留まったのは、昼間に土砂崩れで海岸沿いの道が通行止めになり、明日には復旧するというものがあった。それから散水パイプの今年の点検が始まったというニュースだ。


 土砂崩れのあった道は交通量がそこまで多くなく、時間はかかるが迂回路でカバー可能だ。交通量がそこまで多くないとはいえ、迂回で渋滞が発生する可能性はある。原因の調査は現在行っている。雨や地震の影響が遅れて出て来たのではないかと考えられているが不明だ。


 入冥島の大通りを含む一部道路では消雪パイプのように専用の用水から散水するパイプが地下を走っている。入冥島では雪はほとんど降らず消雪のためではない。夏の打ち水用のものだ。夏の期間中、センサーが日没を検知すると散水される仕組みとなっている。これによって夜間は少し涼しくなる。夏が来る前の春、車の通りの少ない夜間に交通規制をして点検が行われる。



 翌日、大河は登校して教室に入り、久遠の様子を確認しようと見渡したがまだ来ていなかった。戸の近くで見渡していると雲井が近づいてきた。


「大船君…ちょっとお願いがあるんだけど…」

「何?」

「お父さんと昨日から連絡が取れない。探すのを手伝って欲しい…」

「えっ?俺に?」


 雲井は頷いた。


「警察は?」

「今探して貰ってる。でも待ってるだけじゃなくて自分でも探したい。じゃないと気が済まない」

「でも俺、人探しなんてしたことなくて力になれるかどうか…」

「大船君、力持ちだし冷静だし、一緒に来てくれると心強いな…」


 超能力のことを知っているのか?いや、腕力の話だろう。俺が力になれるかどうか分からないが、それでも探すには少しでも人手が多いほどいいだろう。


「分かった。あまり力になれないかもしれないけど…」

「ありがとう大船君。早速だけど今日は大丈夫?」

「ああ、別に用事はない」

「じゃあ放課後よろしくね。説明もその時するから」


 雲井は一礼して自席へと戻っていった。

 大河が自席に行こうとすると久遠が登校して横切った。


「おはよう…大河くん」

「おはよう」


 見るからに元気がない。昨日は大丈夫そうだったから此方と話していたがミスったか?


「元気ないが大丈夫か?」

「ありがとう。シンさんが遠くに行ってしまって…」

「そう落ち込むなよ、またすぐに会えるさ」

「それは無いかな…」


 久遠は掌を広げて大河の追及を遮り、自席に向かってトボトボと歩いた。


 超能力犯罪対策本部の牢屋に連れて行かれたんじゃないのか?確かに明日明後日に会えるとは思えないが、反応が久遠らしくない。例え1か月後だったとしても「そうね、1か月なんてあっという間ね」みたいなことを言いそうなものだが…。もしや遠くというのは…、…今度聞くとしよう。魔術師なら人探しに役立つ術が無いか気になるが、随分参っているようだし今日は久遠には頼らずにやろう。



 その放課後、大河は荷物を持って雲井の席へやって来た。


「あれ?他にはいないのか?」

「唱歌と千古が手伝ってくれるけど、二手に分かれて探そうともう出発しちゃった」


 内田うちだ唱歌しょうか田中たなか千古せんこ、雲井の仲の良い友人たちだ。

 急な話で初日だし手が空いている人はこんなものか。


「俺たちはどこを探す?」

「会社への普通の通勤路や仕事で訪れる場所、点検が始まった用水路は警察が調べているからそれ以外がいいと思う。海岸沿いの道で土砂崩れがあったの知ってる?」

「ああ、ニュースで見た」


 そういや予想ではもう復旧しているか。詳細な情報は知らないが巻き込まれた人もいるかもしれないし、雲井の父親がそこにいたかもしれないのか。しかしそれなら何らかの連絡があるだろうから、まだ調査中かそこにはいないかだろう。


「その近くの森に行こうと思う。気づかれないところで地滑りがあって巻き込まれたのかも」

「その森に行くことあるのか?」

「普段の通勤では通らないけど、時々気分転換に乗る駅や降りる駅を変えて通勤することがあって、そこの森の近くを通ることもあるって言ってたからもしかしたら…」

「ああ成程。いつも同じじゃ飽きるもんな」

「行こう。続きは移動中に…」

「分かった」


 大河たちは学校を出て駅に行き、電車に乗り、その道中で話を聞いた。

 雲井雨夜の父は雲井くもい正午しょうご。失踪の原因は不明。望堂院ぼうどういんグループの一つ、望堂院食品で部長をしているという。なお、このグループの望堂院重工は入冥島に弾薬製造工場を持つ企業の一つ。

 前日の夜は19時頃に帰宅。家族で夕食を取り、風呂に入って、その後は家族で勉強して就寝に就いた。


「すまん、家族で勉強って何だ?」

「リビングに集まって各々自分の勉強をするの。一人でやるよりも効果的だからって。父や母は資格の勉強、姉さんや私は学校の勉強。私の家は小さい頃からそうだったから普通だと思ってたけど、人に話すと珍しがられることが多かったな」

「大人になっても勉強があるのか…」

「そりゃそうでしょう。でも父のところはまだ緩いほうで、グループでも重工や電機の方だと激務の後に飲み会、家に帰ってからも資格勉強と超人ばかりの世界だとか」

「うへえ、俺には無理だ」

「私も…。もっと話していたいけど話戻すね」


 雲井は再び説明を始めた。昨日の朝はいつも通り朝食を取って、8時頃に家を出た。始業時間過ぎても会社に現れないため、会社の人が連絡をしたが連絡がつかなかった。昼過ぎまで待ったが相変わらず連絡が取れないので事件に巻き込まれたのではと警察に知らせた。つまり、前日の夜も当日の朝も異変は無く、いきなり行方不明になったという。少なくとも家族と喧嘩したといった原因ではないと見られる。尤も、家族なら口裏合わせが可能だろうが、雲井が嘘をついているようには見えない。家の外の考えられる理由としてある話が出た。


 雲井父の部下の人が言っていた話らしい。社内は今、あるヒット商品の扱いについて大きく2つの派閥に分かれているという。1つは現在の生産ライン強化に投資してもっと多く売り出そうというもの、もう1つは新商品の開発に投資しようというもの。前者はこの商品は定着して作れば売れるから生産強化に予算を回そうという考えで、後者は珍しさから一時的な流行に過ぎないから新商品作りに予算を回そうという考えだ。どちらの理論もそうだと思える根拠を用意して議論され、現在は状況が拮抗しているという。予算配分が0か100ではないとはいえ、その配分も揉めている。待って凌げば状況が改善するものもあるが、この件は時間をかけるほど効果が薄れる。そんなタイミングで前者の一員である雲井父が欠席すると後者の方に議論が傾く可能性が高いらしい。


「流石に陰謀論じゃないか?そこまでするか?」

「普通はしないけど、怪しいものがそれくらいしか無くて…」

「うーん…」


 もし超能力者がこの件に関わっているとしたら、普通なら証拠が残って簡単に気づかれるようなことでも、超能力で気づかれずにできてしまうなら引き金が甘くなることはありうるか。こういう事情とは全く関係ない泥棒に襲われただけとか全て放り出したくなってどこかへ出たとかの可能性もあるが。


 間もなく駅に着くというアナウンスが流れた。


「次の駅で降りるよ」

「ああ」


 大河たちは駅に着いて電車を降りて改札を出た。


「ごめん、ちょっとお手洗いに…」

「俺も行っとくか」


 その後、大河がトイレから出て雲井を待っていると黒い服を着た男が近づいてきた。


「おっ、ティガちんじゃん。はろー」

「滝川さん…こんにちは」


 星月の魔術師の一人。しかし前に寮で見た派手さよりも幾分か抑えられている気がする。テンションも低い。


「俺のことはセイでいいって」

「…セイさん、どうしてここに?」

 滝川は答えず黙って大河の顔を探るように覗き見た。2人の間の空気が張り詰めていた。

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