逃避行
深い緑の葉が風に揺れて、加胡の上空でざわめく。
全身の血管がどくどくと音を立てているようだ。肩で大きく息をつきながら行先を見上げた。越えなければならない山はあといくつだろう。
阿南の家を出てから二日。見知らぬ土地、おまけに山道を歩くとなるとなかなか足が遅くなる。そして日ノ入村の者たちを警戒して道を迂回しているため、時間がかかっているのは当然とも言えた。焦って再び捕まるわけにはいかない。阿南からもらった小刀はあるが、今は弓を持っておらず、野盗に出くわした場合対抗する術がない。女一人で旅をするのに心もとないのは事実だが、のんびりしているうちに太月たちが手遅れになってしまっては元も子もない。加胡は野宿を繰り返しながら、少しずつ尾野村へと向かっていた。
一人山道を歩く中で、加胡は考えていた。母によって隠されていた記憶のことだ。
お母さんは、どうして私から記憶を奪ったのだろう。
そして、失われた記憶はまだ完全に取り戻せていない。何の目的で、何の記憶を隠したのか。母と交わした約束についての夢はもはや朧気で、時間が経つにつれてどんどんと薄れていく。例の札を探していることさえ忘れてしまいそうな恐怖に駆られ、加胡は焦っていた。
こうなってくると、火事で両親が死んだ記憶すら真実かどうか怪しい。どれが現実で、どれが虚構なのか境界線が曖昧になる。
そんな考え事に気を取られていて、人の気配に気がつくのが遅れた。なにか話し声のようなざわめきが耳に入り、加胡ははっと足を止めた。静まり返った山の中で音を聞き逃すなど迂闊すぎる。加胡は反省しつつ姿勢を低く保ち、耳を澄ませる。
「山道をそんな軽装で、一人で歩いてるやつなんているわけないんだよ、兄ちゃん」
「君たちに用はない。ぼくは通りがかっただけだ」
「そんな言い訳はいいからさあ、近くにいるんだろ? 商売用の荷物かなんか持った仲間がさ。案内してくれれば命はとらないって」
話を聞くに、どうやら一人の青年が山賊に目をつけられたらしかった。木の影からそっと様子を伺うと、ぼろぼろの黒い着物を着た男性が、賊に取り囲まれているのが見える。賊は四人で、ここを通る商人に狙いをつけていたのは間違いなさそうだった。
加胡は迷っていた。こちらは丸腰の上、先を急いでいる。余計なことに首を突っ込んでいる時間はないが、それでも目の前で襲われている人を捨て置けるほど割り切ってもいない。しかし、加胡一人が乱入したところで事態が好転するとも思えなかった。
「にしても、こいつ妙ですよ。裸足で、こんな細っこくて白くて……とても商人には見えねえなあ。どっかの坊ちゃんじゃねえですか?」
山賊の一人が言う。それに同意するのは癪だが、実際彼の言う通りだった。加胡の位置からでは背中しか見えないが、それでもその線の細さ、肌の白さは際立っていた。深窓の姫君と言われても違和感はあるまい。
ふと、青年が振り向いた。まるで加胡がそこにいることが分かっていたかのように、目線を彷徨わせることもなくすっと加胡を見た。
瞬間、背筋を電流が走る。青年の声に、どこか聞き覚えがあると思っていたが、まさか。
「緑端……」
祭りの晩の暗闇。埃っぽい地下牢の、蝋燭に照らされた冷たい横顔。宵闇の中でしか出会ったことがなかったが、彼の色の白さは陽の光の元でも変わらなかった。漆黒の瞳、髪、衣。そこから突き出した素肌だけが真白く輝いているかのように見えた。きゅっとつり上がった眦が、加胡を捉えた途端柔らかく綻び頬笑みを浮かべた。
「加胡」
山賊たちを退屈そうに眺めていた先程までとは打って変わって、人好きのする笑みで加胡へ向けて首を傾げた。動物のようなその素直な仕草に、思わず胃の底がぎゅっと締めあげられる。
緑端が名前を呼んだことで、山賊たちも加胡の存在に気がついた。突然現れた加胡に仰天しながらも、彼らは警戒して武器を構える。
山賊たちの武器は見るからになまくらだが、それでも殴られれば骨折くらいはするかもしれない。加胡は腹の底にじっとりとした恐怖を感じながら唇をちらりと舐める。
「なんだこの女……こいつの商売仲間か?」
「加胡のことを馴れ馴れしく呼ぶな」
緑端は気分を害したようで、端正な顔立ちを歪めている。加胡は中途半端な中腰のまま、現状を打破するべくあちこちへ目線を走らせた。
どうにか、緑端を連れてこの場から逃げ出さなくては。彼の手足は折れそうなほど細い上、とても荒事向きとは思えない。緑端に比べたらまだ加胡のほうがましと言えるだろう。
この人のことはよく知らないけれど、一応日ノ入村では助けてもらったし、悪い人ではないはず。それに、彼を一人置き去りにしたらあとで後悔しそう。
そう決めると草木をかけ分けて緑端たちのいる奥へ踏み込んだ。近寄ってきた加胡を山賊たちが警戒するものの、まだ攻撃はされていない。加胡は深呼吸をしてから、前方の上空を指さして大きな声を上げた。
「あー!」
それにつられて山賊はいっせいに後ろを振り向く。その一瞬の隙を逃さず、加胡は緑端の腕を引っつかみ元来た道を走り出した。
「あ、おい、あの女!」
馬鹿馬鹿しい作戦だと思ったけれど、相手は見事に引っかかってくれた。
緑端は加胡が腕を引くと、なんの抵抗もせず着いてくる。まるで加胡の作戦が分かっていたかのようで戸惑う様子も一切なかった。何故なのか気にはなるが、とりあえず今はその疑問は置いておき、素直に着いてきてくれたと感謝しておく。
とはいえ山賊との距離は離れていない。加胡が山道に慣れているといっても、向こうだって伊達に「山の賊」はやっていない。軽い足取りで追いかけてくる彼らが加胡に追いつくのは時間の問題だった。
焦る加胡とは裏腹に、緑端は酷く涼しい顔をしていた。眉ひとつ動かさずに山道を駆け下りていく様はこの状況に不釣り合いだ。加胡が怪訝な表情を浮かべると、それに対して緑端は再び微笑んだ。心の表面がざわりと粟立つ。
「どこへ行く?」
「どこって……とにかく逃げなくちゃ!」
「それなら、こっち」
手を引かれるがままだった緑端は、不意に加胡を呼び止めて崖を指さした。岩が切れ落ちたそこは山道が途切れており、向こう側へ飛び移るのは難しそうだ。崖下まではかなりの距離があり、その壁面はほぼ垂直のため降りるのは不可能だろう。降りれば下で死体になるのは避けられない。
「どういうこと? そっちは行き止まりだよ」
「大丈夫」
緑端は前触れもなく屈み込み、細い両腕で加胡をすくい上げた。背中と膝裏に腕を差し込まれてひょいと持ち上げられた加胡は、反射的に緑端へしがみつく。
なにをするの、と問いかける前に緑端は飛び降りた。
「ひ、ぃ……!」
高い悲鳴を上げて加胡は強く目をつぶった。内臓がぶわりと持ち上がり独特の浮遊感をもたらす。
終わった。ここまでだ。おじいちゃん、阿南、お母さん、みんなごめん。
心の中で別れを告げるべく、知り合いの顔を次々思い浮かべる。その相手はどんどんと移り変わり、そのうち村の面々へ変化した。
隣の家の馬宮、その隣の家の寒露と美弥……あとは、お別れを言うなら誰がいたっけ。
それがほとんど会話したことのない相手になっても、地面と激突する衝撃は訪れない。崖下で潰れた果実になるならばもうとっくにそうなっているはずだ。加胡はうっすらと目を開けた。
「加胡、もう平気だ」
緑端は薄い体で加胡をしっかりと抱え、石の上に着地していた。見上げると、崖の上から山賊たちが覗き驚愕に顔を染めている。流石にここを降りようとは考えないらしく、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。恐らく、加胡も同じ顔をしている。
「どうやって、こんな……」
「降りただけ。次はどこに行く?」
緑端は純朴な動物のような目をしていた。黒い瞳が光を抱いてくるりと輝いている。加胡は彼に抱えられたまましばらく呆然としていた。心臓は未だにばくばくと激しく鼓動を打っているし、緊張から一気に解放された影響か、冷や汗が止まらない。すぐには動けそうになかった。
「とりあえず、北東へ……」
やっとの思いでそう告げると、緑端は頷いて歩き出した。加胡を抱いたままで、しかし山道を滑らかに降りていく。彼の細腕のどこにそんな力があるのかと疑問に思うが、たった今崖を飛び降りたことと比べれば些細な問題にも感じた。
加胡たちがその場を離れる間も、山賊は目の前で起きた出来事を受け入れることが出来ず、ただこちらを見送っていた。緑の葉をつけた木々の隙間からは、他人事の如く晴れ渡った青空がすこんと広がっていた。
現状についての理解が追いつかず、思考が絡まり始める。人の腕に抱かれて歩くなど、幼い頃に両親や太月にしてもらって以来であり、年齢の近い男性にされるなど経験がない。羞恥にも似た緊張を感じながら、沈黙が場を支配していた。
緑端が何者かは不明だ。なぜ加胡の行く先々に現れるのか、敵なのか味方なのか、異様な身体能力はどこから来ているのか、聞きたいことは山ほどある。しかし、以前も尋ねた時緑端は「何者でもない」と答えた。教える気がないのだろう。
尾野村で危険を知らせてきたり、牢屋から出してくれたりと何かと助けはしてくれるため敵ではないのだろうが、如何せん身元が不明だ。不信感と好奇心が綯い交ぜになった複雑な心境を持て余して加胡は黙りこくった。
「加胡、髪を切った」
「え……うん、切ったよ」
唐突に話題を振られてはっとする。緑端は透き通るような純黒の瞳に加胡を映しているが、その感情までは読み取れない。言葉の通じない野生動物と同じ目だ、と先程と同じ感想を抱く。無垢な鳥や兎と同類の何かを感じる。
狩りで射抜いた動物が倒れて息絶える寸前など、水分を含んだ黒い目が独特の光を放つことがある。人間の感受性が、動物に対して無理矢理何かを感じ取ろうとしているこじつけなのかもしれないが、命あるものの最後の輝きというべきその光景が加胡は好きだった。
緑端はそれと一緒。吸い込まれてしまいそうな深い黒。
「短くても綺麗だ」
精巧な作りをした目に釘付けになっていたところへ不意に言葉が降り、耳から首にかけてカッと熱を持つ。は、と言葉を失った加胡を放ったらかしに、彼はその話題には満足したらしく次の言葉が続くことはなかった。
尾野村の面々から好意のこもった目で見られることは慣れていた。可児などはその代表であり、直接的に好意を伝えることは出来ないくせに目線が感情をあらわにしているのが、妙に加胡の神経に触った。子供らや滝波からの信頼は心地よく思っていたため、なぜ色恋が絡むと途端に拒絶してしまうのか自分でも分からない。自分の奥底に沈む孤独に気安く触れられたくなかったのか、相手を恋愛対象として見ることが出来なかったからか。どちらにせよ人口の少ない辺境の村でそんなわがままは許されない。それならばせめて鈍感でいたいと思いながらも、自意識過剰気味の年頃の娘は異性からの好意に敏感だった。
しかし、緑端からのそれは可児たちとは少し違った。確かに加胡に対して親しげな様子を見せるが、単純に加胡を異性として好いているのとは異なる。本人に直接尋ねたわけではないため憶測に過ぎないが、それでも加胡は自分の直感を信頼していた。
緑端は非常に整った外見をしている。切れ長の目は俯くと長いまつ毛が頬に影を落とし憂いを帯びた怪しさがある。鼻筋はすっと通っておりその下の薄い唇を含め造形が美しい。肌の色はそこらの女よりも白く、きめが細かく、自分の容姿に特段関心のない加胡でさえなんとも複雑な気分になる。
もしや、自分は彼の麗しい見目を好ましく思っているのだろうか。こういっては失礼だが、村の男たちはどちらかといえば精悍ないでたちをしており、美青年の括りに入る者はいなかった。狩りや畑仕事を生活の主軸としている以上仕方のないことで、そして村娘たちに男性の免疫がつかないのも仕方ない。逆も然りであるが。
だからこそ、初めて見る美しさの緑端に動揺しているのかもしれない。骨格や顔つき、声質は男性のものに見えるが、浮世離れした雰囲気はどこか中性的で、加胡が初めて見る種類の人間だった。
──そんな人間の空気にあてられて、私は舞い上がっているの?
浮かれた自分に腹が立ちながら、しかし許されたいと胸の内で言い訳を重ねていく。
加胡は烏梅の祭りで望まぬ結婚をするところだった。乱入者もとい日ノ入村の面々に阻まれたが、それがなければ加胡はつつがなく舞を終え、誰かの求婚を受けることになっていただろう。そんな結末が嫌で、麒麟のことを考えるという現実逃避さえしてみせたのだ。新しく現れた村の外の男性は、村が壊滅してからも結婚から逃れたい加胡にとって格好の言い訳なのだ。
これは非常に不誠実な考えだと自覚している。加胡自身、誰かを逃げ場にして生きていくわけにはいかないと分かっていた。それでも、緑端の瞳や細い腕やその声の響きに心がざわめく理由が、今の加胡には分からなかった。
「また、索冥に怒られる」
緑端はぽつりと言った。話しかけたのではなく、独り言がうっかり零れたのだろう。落ちていく夕日を木々の隙間から見下ろせば、山の輪郭が対角の斜面に影として映し出されている。太陽が山の向こうへ隠れきってしまえば、あたりは見通しのきかない闇に覆われるだろう。
「索冥って?」
「ぼくの同胞。とても厳しい」
貴重な彼についての情報だ。どうやら索冥という名の仲間がいるらしい。他にもなにか聞けないかと気になったが、それよりも先に一晩を明かせる場所を探さなければならない、と山育ちの本能が気を取り直した。
「詳しく聞きたいけど……もう日が落ちるね。そろそろ寝る場所を探さないと」
「そうなのか」
「そうなのかって……夜は危なくて山なんて歩けないでしょ?」
「ぼくは問題ないけれど」
首を傾げた緑端にぎょっとする。夜の山道を、装備も明かりもなしに歩くなど危険極まりない。山の近くで暮らすものならば子供でも知っている常識だが、彼は初耳らしくぼうっと立ち尽くしている。山道の歩き方からして慣れている者だろうと思っていたが、それはどうやら外れらしい。
「夜は見通しがきかないからすごく危ないの。崖から落ちたり、転んだりしたら大変だから」
「うん」
彼は素直に頷く。まるで村の子供たちに言い含めるような言い方になってしまった。加胡よりも背丈だって大きいが、態度はものを知らぬ子供のようでおかしい。くす、と小さく笑みを零した加胡を、彼はまだ不思議そうに見ていた。
「さっきの山賊たちも、日が落ちたらそう簡単には動けないはず。それにあなたのおかげで距離は稼げたと思うし……今日はこの辺りでじっとして夜を明かして、早朝にここから離れよう」
体をよじると、降りようとした加胡の動きを察したのかそっと地面に下ろされる。沓が柔らかな落ち葉の中に沈んでかさついた音を立てた。ありがとう、と礼を言うと彼はぱっと顔を背けてしまった。気に触ることをしてしまったのだろうか。
「じゃあ、ぼくはもう行くから」
「え……?」
緑端はその勢いのまま立ち去ろうとして、度肝を抜かれた。慌てて飛びつくように彼の腕に掴まると、彼も驚いたように目を見開いていた。
「ど、どうして? 今の私の話、聞いていた?」
「聞いていた。でもぼくは行かなくては」
緑端は相変わらず詳細を話そうとしない。彼の言葉は途切れ途切れで、説明が不十分だ。要領を得ない説明にやきもきとした加胡が詰め寄るが、彼は困った様子で首を振るばかりだった。
「夜の山は本当に危ないの。怪我だけじゃ済まないかもしれない。そんな場所へ、命の恩人をみすみす行かせると思う?」
「命の恩人……」
「そうでしょう? 日ノ入村でも、さっきも……私のことを何度も助けてくれた。あなたは詳しく話してくれないけれど」
加胡は必死で食い下がる。山賊たちがいる山に留まっている今、どちらかが休む間片方が見張りとして起きていれば多少は気が休まる。それが顔見知りであれば尚更だ。しかし、そういった単なる利害の一致だけではなく、加胡は緑端を引き止めたかった。
緑端の容姿は美しいが、その雰囲気が都会的かというと怪しい。世間知らずで間の抜けた部分はどこぞの御屋敷の息子のようにも見えるが、そんな人間が伴も付けず山の中をうろついたりはしない。
身元不明の神出鬼没な青年。
素直になろう、加胡。御託を並べても彼には伝わらない。
「お願い……私があなたに居てほしい。せめて朝までここに居て」
緑端は心底戸惑っていた。瞳を左右に躍らせ、落ち着きなくあたりを見渡している。加胡が黙っていると、鳥の高いさえずりだけが響き、静寂を強調する。当然人の気配はなく、どちらかが沈黙を破らなければ永遠に時が止まったままなのではと錯覚させる。加胡が羞恥にじっと耐えて彼を見つめていると、やがて緑端は折れたように微笑んだ。
「恩人は加胡の方だ」
緑端の深い瞳に、怪訝な顔をした自分が移っていた。
恩人は私? それはいつ、なぜ──発言の真意を確認する前に、彼は加胡の手を引いて歩き出した。ぐい、と加胡を掴んだ彼の手はかさついていて冷たい。男性らしく筋張った指をしているが、非常に滑らかな手触りをしていた。畑仕事や狩りをする加胡の手はあちこちに擦り傷があり、ささくれや豆だらけだ。再び複雑な気持ちを抱えながら、後頭部へ問いかける。
「どこへ……」
「少し先に洞穴がある。雨風をしのげるし、見つかりにくい」
それは、加胡の願いに対する了解と捉えていいのだろうか?
日が沈み、薄闇が漂う。その半透明な闇の先、手を引いて先導する背中に見覚えがあるように思えて加胡は首を捻った。
「あなたはこの山の近くに住んでいるの?」
「いいや」
「それなら、どうして道が分かるの」
緑端はたっぷりと間をあけてから苦虫を噛み潰したような声で答えた。
「……索冥に怒られる……」
「これも話せないんだ」
面白くない気持ちになり、つい拗ねた声色になる。緑端は小さく呻いたが、弁解も言い訳もしなかった。
でも、それが逆に緑端に不思議な魅力を与えている。謎を着飾った女は美しいと言うが、男性にも当てはまるようだ。彼の持つ独特の空気と謎は加胡の気を引いた。
「あなた、変わった人だね」
「それは……すまない」
緑端の的はずれな回答に、加胡は再び忍び笑いを漏らした。