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幼馴染みは厨二病

幼馴染みのコスプレに期待してハロウィンパーティーを開いてみたら、とんでもない格好で来た。

作者: 砂臥 環

作中に間違いがありますので、是非『後書き』のところまでお読みいただけると有難いです。


今日は10月31日──ハロウィンだ。


「まあ……これでいっか」


テーブルの上には盛り付けた菓子と、葡萄ジュース。サラダとカボチャプリン。あとは宅配ピザ待ち。


今日は我が家でハロウィンパーティーを行うことにした。『飲食物のラインナップがちょっとそれっぽい』というだけのささやかなモノだが、主催が俺なので仕方ない。



昨年のハロウィンは、母が自分の若い頃好きだったセーラー服のツインテ戦士コスプレをした挙句、父にもそのヒーローのコスプレをさせてイチャイチャする様を見せられるという、地獄のような一日だった。


親とて他人、他人の趣味嗜好に口を出す気はないし、折角のイベントに『年甲斐もない』とか『似合わない』とか野暮なことを言うつもりもないけれど、なにが悲しくて思春期男子たる高校生の息子がただでさえ見たくない両親のイチャイチャを見せつけられなければならん、という。しかもコスプレとか。

大体にしてセーラー。しかも超ミニ。

完全にドン引きで「せめてもう少し脚出ない衣装とかなかったの……」と力無く言う俺に、父はコスチュームのマントを翻し「息子とはいえ、これ以上愛する者の美脚を男の視線には晒せん!」などと宣い、カッコよく隠していた。

俺の両親が愉快すぎる……っていうか息子が変な性癖の扉を開けたみたいなこと言うのやめて欲しい、切実に。


両親は愉快だが、それはそれ。俺の感性が両親のコスプレイチャイチャを受け付けないので『今年もやるなら出掛ける』と言ったところ、ふたりが出掛けてくれた。


『コレでハロウィンパーティーでもして、圭介も楽しく過ごしてね♪』という手紙と、渋沢栄一先生(一万円札)をテーブルに残して。

流石「近代日本経済の父」……素晴らしい。

なんとこれ一枚にゼロが4つもある。強い。


なので勿論俺は、澄香を誘ってみることにした。



澄香とは、隣家のお嬢さん。

所謂幼馴染みでちょっと厨二な美少女。

高校生になった今でも仲が良く、友達以上恋人未満と言ったところ。(※シリーズ参照)


「何ッ?! ハロウィンパーティー……だと?!」


アレな感じの溜めで『……だと?』と言う澄香は可愛い。ちょっとこう、小物臭漂う雑魚敵みたいな愛らしさがある。

というか、澄香は普通に可愛い。

着ているのは中学の時のジャージだけど、芋ジャー萌え袖も可愛い。『萌え袖』と名乗るだけのことはある。


「いやパーティーっても家でピザとるだけだし、ハロウィンさはカボチャと菓子くらいだけど。 まあ折角だし、なんか仮装してきてよ」


パーティー好きでもない俺の目的はコレ。

両親のコスプレなど見たくはないが、澄香のは見たい。滅茶苦茶見たい。


家は今両親が不在。だからといって不埒な真似に及ぼうとかそこまで考えてはいないが、これくらいはいいだろうと思う。


実は澄香はパーティーとか好きだし。内弁慶なので知らない人がいるとか、大々的な催しは嫌がるけど。

仮装も、TVで観たハロウィンの仮装軍団に舌打ちしながら「陽の者共らの分際でかような扮装をしようとは、滑稽極まりない……我がこのオーラを見よッ! 真に闇から生まれし者とは、なにもせずとも常にハロウィンなのだ!!」とか後半よくわからないことを吐かしていたが、多分アレはやってみたいんだと思う。


つまり、需要と供給の完全一致。

まさにwin-win。


「し、仕方ないな! 付き合ってやろうではないか!」

「うん、用意しとくから夕方仮装して来てね」

「応ッ!」


そう元気よく返事した澄香は超速で着替えたらしく、俺がまだ玄関で靴を履いている横をすり抜け、颯爽と自転車に跨った。


「フン……圭介、覚悟しておけ? 目に物見せてくれる……!!」


そう言ってニヤリと笑う。

きっと『度胆を抜いてやる』よりカッコイイと思ったんだろうな。基準が謎。


すっとぼけて「え、なんか酷い目に遭わす気なの?」と返すと、いつものように「笑止!!」と一言告げて高笑いしながら去っていった。『笑止』なだけに。

だが楽しそうでなにより。俺も楽しみ。


澄香の向かった先など方向でわかる。

おそらく『♪なんでも揃って激安迷宮(ダンジョン)』でお馴染みの、ディスカウントストア『サンチョ・パンサ』に違いない。

仮装並のパーティーグッズなど、近場じゃあそこくらいでしか売ってないしね。


(俺は……なに着ようかな?)


正直どうでもいいので、あんまり考えてなかった。去年父が着てたタキシードとマントは多分納戸にあるんだろうけど、どうせサイズが合わないに決まっている。それに息子の前ですらイチャイチャしていたことを考えると、その後の両親が偲びたくないのに偲ばれる。仮にサイズが合ったところで、嫌だ。絶対着たくない。


とりあえず、中学の部活で使ったバスケ部のユニフォームを着とくことにした。

もうこれで『ス〇ダン』のモブ学校バスケ部生徒の仮装ってことにする。

当時、背が高いってだけで無理矢理入部させられ勿論万年補欠だった俺だけに、中古だがとても美品。試合で活躍せず、よもやこんなところで活躍しようとは思わなんだ。


「……寒い!」


ユニフォーム寒すぎんか。袖ないし。

仕方ないのでベンチコートも出す。別に普段のパーカーでもいいんだけど、コスプレコーデ的チョイス。設定は大事だ。


あとなんか去年のパーティーグッズの残りの、クラッカーとかトンガリ帽とか鼻メガネとかが仕舞ってあったので、一応それも出しとく。

トンガリ帽と鼻メガネはどうせだから付けることにした。だって、勿体ないし……俺は案外貧乏症なのだ。設定は大事だが、『試合に勝った打ち上げ時のモブ』という設定でイケるので問題ない。


まさか俺がこんな気合いの入ったコスプレをすることになろうとは。(※個人の見解です)

ハロウィン、恐るべし。


しかしこうなると俄然楽しみなのが、澄香の仮装。


俺的にはベタにメイドさんとかがいい。そこまで衣装が必要な物ではなく普段着でも、猫耳とかつけてたら可愛いだろうな。

だがあの調子ならば、きっと澄香は意表を突いてくる。厨二なだけに、男装かもしれない。だが……アリよりのアリだ。



そして夕方。


♪ピンポーン


(来た!)


「はーい」


勢いよく飛び出し、玄関を開けた俺が見たモノは──



「わるいごはいねが~!!」



なんと、なまはげだった。



ので、一旦閉めた。

で、また開けた。


「わるいごはいねが~!!」


やっぱりなまはげである。

顔はなまはげの面。身体は多分、中学の時の剣道部の道着。手には玩具のナタ(※作注)。

中学の部活のユニフォームを流用したあたりは俺と同じだが……流石澄香、俺の想像の斜め上を超えていく。目に物見せられた。

だが──


「……澄香」


なんでなまはげなんだ。(素)


「そこは『トリックオアトリート』って言うところじゃ」

「トリッグオアトリートぉぉ~」


微妙に秋田訛り風。

秋田の方々に謝罪せねばならん案件。



曰く、澄香は予てから『なまはげとハロウィンは似ている』と思っていたのだそう。


「『悪い子はいないか(わるいごはいねが)』『菓子をくれねば(トリックオア)悪戯するぞ(トリート)』などと脅しながら、なんか恐ろしい者が押し入ってくるあたりとか似ておるだろう!(ドヤァ)」

「う、うーん……」


文化になんて言い草。方々(ほうぼう)に土下座すべきだが、確かにそこだけ切り取ればちょっと似ていないこともない……あ、すみませんすみません。(土下座)


だからと言って最初からなまはげで来るつもりではなかったらしい。


だが……奴は見つけてしまったのだ。

『なまはげセット』を。(倒置法)


『なまはげセット』はなまはげの面と、見るからにチープな玩具のナタのセット。『サンチョ・パンサ』で1980円で売られていたそう。

脳内に過ぎりし、どこかで聞いた事ある声は滑舌良くこう言ったという。


『 まあ! セットでこの価格?! なんてリーズナブル!』

『まさに驚きのお値段! コレは買うしかないですよ!!』


「こうなると最早抗えぬ……というか宣言通り目に物見せてやったであろう!」

「それは確かに」


しかし『サンチョ・パンサ』。まさか彼の迷宮で揃えし装備がなまはげとは。『なんでも揃う』と銘打つだけのことはある。

着ぐるみ等のネタ系でも可愛いと思えるが、流石にコレは無い。『サンチョ・パンサ』に罪はないが、許さん。


「げに恐ろしきは人の世……尽きぬ欲望……」


遠い目をしてなんか宣う澄香。

顔にはなまはげの面。

俺の可愛らしい欲望はへし折られた。


「というか圭介、他人のことばかりを言うが貴様のも大分酷い! なんだその仮装は! 【『ス〇ダン』のモブ学校バスケ部の、試合に勝った打ち上げでのモブ生徒】とでも吐かすつもりか?!」

「まさかの大当り」


折角なので、大当り記念にいつかの残りクラッカーを打ち鳴らすことにした。ようやくなんとなくパーティーっぽい。ハロウィンってなんだったっけ、とか言ってはいけない。

しかし……


「つかないな……」

「しけっているのか……」


ガッカリオチだった。


でも菓子とか食べて、それなりに楽しく過ごした。ハロウィンって(以下略)





それでもこの夜のことはきっと、忘れられない思い出になるだろう──


仮装のまま受け取りに出たら、ピザ屋の兄さんが明らかにドン引きしていたのも。




ハッピーハロウィン♪

(間に合わなかった)


※なまはげの装備はナタでなく出刃包丁のようです。秋田県男鹿の皆様、申し訳ございません。(土下座)

イメージのみなんだなって感じがリアルなので、本文は敢えてそのままにしますが、注釈ととして追記させていただきました。


【補足:なまはげの正しい装備】

★お面

・『なまはげ』は秋田県男鹿市の伝統行事ですが、地域によって面は大分違うようです。

★ケラミノ(他にケデなどとも、呼び名多数)

・藁製の衣装

★ハバキ

・藁製の脛当て、ズボン

★ワラウズ

・藁製の靴

★出刃包丁

・作者は勘違いしてましたが、ナタではありません。すみませんすみません(土下座)


もし補足も間違ってたら教えてくださいね!

都度訂正していきます!!

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― 新着の感想 ―
Xで「すぎモンさんと父が似ている」って言うから、読みにきてみれば…… 砂臥さんの中で、私ってこういうキャラwww でも、同じようなことリアルでやらかしそうな自分が怖い ((((;゜Д゜))))ガク…
最初から最後まで実に楽しそうなハロウィンですね。 私は結局何もしませんでしたが、何かやればよかった…!という気持ちになりました。
なまはげセット売ってあるんだ・・・。
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