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オニワさんとかくれんぼ  作者: aqri
十月十六日
6/46

3 怪事件の概要

 近づけばすぐに気づいたように顔をあげてタブレットをしまった。そして持っていた小さな紙を手渡してくる。琴音が受け取ってみれば、それは名刺だった。大学名と肩書、名前が書かれている。


「名刺?」

「身分証明だよ、怪しい奴じゃないってことで。さっきすぐそこの飲み屋の個室を予約したからそこで話そう。何で君に会いに来たのかを含めて、少し込み入った事情になる」


 説明はしているが有無を言わさない雰囲気はある。視線がどうする、と問いかけているかのようにじっと見つめられた。予約した店の名前を聞けば、そこは少しおしゃれなバーで有名なところだった。半年前までこの辺りで働いていた為周辺の店には詳しい。このバーにも客に付き合って何度か行った事がある。


「こちらからの譲歩だ。店主と顔見知りくらいではあるかと思ってね」


 危害を加えるかもしれない相手の選んだ店など行きたくない、と言わせないための予防措置ということか。それだけ慎重な相手だとかなり手ごわいかもしれない、と緊張したがここまで来たら帰るというわけにもいかない。あくまで交渉の余地をにおわせているのだから。


「先に聞くけど、要件は? ざっくりでもいいから」


 あからさまに警戒をあらわにした表情で言えば、笹木はあっさりと答えた。


「十年前に起きた事件の真相を知りたい、これに尽きる。他にあるか」


 捕食動物が獲物を見つめるかのような雰囲気で言われ、琴音は返事をしなかった。今まで見てきた保護者達とは少し違う雰囲気を感じ取ったからだ。悲しみから相手に憎しみを向ける連中とは違い、冷静な中に少しだけ怖さがある。


「ただ」


 笹木は琴音から視線を逸らした。少し考えているような仕草だ。


「君が事件を何も覚えていないと証言しているのは知っている。今思い出して話せとは言わない」

「え? じゃあ、何で私に会いに」

「店で言っただろ、君の為でもあるって。正確には君も巻き込まれてると言った方がいいかな。さっき言ったオニワさんの話が関わるんだが、あれからさらにおかしな事件が起きて被害者が出てるは知ってるか」

「知らない」

「だろうな。十年前何かが起きた。だが、その何かはまだ終わっていない。正直君の行方調査を依頼するとき君が生きているかは賭けだった」


 賭け、という単語に嫌な予感がした。


「新たな被害者っていうのは、まさか」

「ああ。死んでるよ。かれこれ四人だ」


 それだけ言うと笹木は歩き出した。琴音がついて来るかどうか見向きもしない、一人ずんずんと進んで行く。来ないなら来ないでも構わない、という事だろう。

 死人が出ているという事実と、昨日から起き始めた奇妙な体験もあり琴音は迷うことなくついて行った。店に入り個室へと案内され、てきとうに飲み物を注文する。店員が飲み物を持ってくるまではお互い無言だった。注文した品が届き店員がもう来ないという状況になって初めて笹木が鞄から荷物を出しタブレットを見せてくる。


「俺の職業や目的はさっき言った事にウソ偽りはない。息子の拓真が殺され、生存者は君だけ。一体何があったのかずっと知りたいと思っていた。保護者からのギャンギャン騒ぐ声に君の家は家庭崩壊を起こしていなくなっちまったがね」

「……貴方は、その時いた? 私よく覚えてない」

「いや、そういった事はしてない。当時俺はその村には住んでない。もともと他県に住んでて離婚調停中だった。拓真は元嫁が実家に連れてったから、俺は直接絡んでいないんだ。マスコミが過剰に報道したせいで村には交通規制がかかって入れなくなって、結局俺が現地に行けたのは君がいなくなった後だ。だから詳細は当時わからなかった」


 そういえば拓真は途中から引っ越してきた気がする。琴音の家が離散したことまで調べているということか、と思っているとパサっと目の前に紙が置かれた。それは興信所の調査結果だ、内容は琴音の身辺調査。


「わからないから調べた。何か違う内容があったら訂正してくれ」


 本来は黙っているだろう調査内容を簡単に晒してくる。笹木という男の性格というか、人間性がいまいちわからない。琴音も接客をしていたので人間観察は得意な方だ。頭が良いのか馬鹿なのか、腹黒いのか裏表がないのか。だいたい少し話せばわかるのだが笹木の事はまったく予想がつかない。


「俺を雰囲気で探るのは無駄だ。昔心理学をやっていたしマルチ商法で二千万を稼ぐくらいには人を操ることに長けていると自分でも思ってる。警戒してくれて構わないが、知りたいことは直接聞いてくれ。その方が早い」


 出会ってすぐの怪しい男をどう思うかなど、手に取るようにわかるということだ。どうやら腹の探り合いは時間の無駄だ、と言いたいらしい。無言のまま調査報告書を見れば、本当に良く調べてある。村にいた時の村人から受けた嫌がらせから噂話、何年何月にどうしていたか、いつ琴音がいつ施設に出されて店で働き始めた年月日と辞めたの日、今の住所も交友関係もざっくりと書かれていた。ついでに今日ヘルプに入ることも書かれている。興信所の人間が客として入り、琴音と仲が良かった女性にさりげなく聞き取りしたのだろう。


「間違ってない、合ってる」


 ぽいっと報告書を投げ返すと笹木はそれをしまった。仲良くなれる間柄ではないので敬語は使わない。あくまでもお前を信用していないという現れだ。それは笹木も百も承知の様でため口を使う琴音に注意をしなかった。琴音の思考など手に取るようにわかるのだろう、かなり手ごわい。先ほど本人が言っていた通り、わからないことは聞いた方が早そうだ。


「普通こういうのって私にわかならにようにするものじゃない? 何でわざわざ見せるの?」

「この先会話していく中で調査結果から知ってることをいちいち話してもらうのは手間だ。君が話してくれない可能性もあるからな。どうせ初対面で名前から過去から知ってるなら調べたんだろうってのはわかるだろう」


 警戒されるのはもはや気にしていないらしい。先ほどマルチで稼いだ話もしていた事から、相手を信用させて手の平の上で転がすのは得意なはずだ。しかし琴音相手に演技で優しくしたり信用を得るための小細工をしてこない。


「俺を信用するかどう考えるかは好きにしろ、興味ない。そんな事より話を進めるぞ」


 笹木は他の資料を琴音に差し出す。新聞の切り抜きの他に「児童連続殺人事件概要」と書かれた資料だ。


「資料の方は事件の概要を俺がまとめた。覚えていないだろうが一応目を通してほしい。新聞は見たまんまだな」


 言われて資料を見ると琴音が知っている事件内容が書かれている。ざっくりとした概要から細かいところまで、良く調べたものだと思うくらい詳細が書かれていた。特に誰がどこで見つかって、どんな殺され方をしていたかは初めて知る物だ。当時警察から話されていたかもしれないが意識がぼんやりしていたころなので事件概要はほとんど覚えていなかった。


「私は事件の事覚えてないからこの内容が合ってるかどうかはわからない。でも、事件が起きるまでの内容はもう少し修正できるかな」

「それはありがたいな。何せド田舎で遊んでた子供の様子を覚えてる奴なんていなくてね、全部推測だ」


 資料に簡単に当時の様子を書き足していく。だいたい何時くらいに集まり何をして遊んでいたか。と言ってもかくれんぼをしていた事自体忘れていたのであまり書けることもないのだが、「おそらくこうだった」と書かれている部分に関しては間違いない部分はおそらく、をペンで消していく。

 改めて見ていくと皆ひどい状態で発見されたことがわかる。全身を何か所も刃物で刺されて失血死、首を切断されたもの、手足の骨が鈍器のようなもので砕かれたのか複雑骨折していたもの。どれも生活反応があり、生きているうちに危害を加えられたのだろうと書かれている。


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