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オニワさんとかくれんぼ  作者: aqri
十月二十日
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3 興信所の調査結果

「君の目しか頼りがないのは正直きついな。他に今はどうしようもないが、絶対に顔出さないようにしてくれよ。かくれんぼは顔が見えなくても姿を見られたら見つかる」

「わかってる。それでこの後はどうするの」

「加賀の家に行ってみよう。どのみち君は神社に用事もあるだろう。行き先は一緒だ」


 かくれんぼは移動しているものの中に隠れると言うのはあまりルールに合っているとは言えない。車に乗って移動している限りは恐らく問題ないだろうと背もたれを元に戻した。その時笹木の電話が鳴った。チラリと画面を見て琴音に渡してくる。


「興信所だ、スピーカーにしてほしい」


 画面のロックを解いた状態で手渡してきたのでそのまま通話を押す。


「はい、笹木さんの携帯です。今手が離せないので代理で喋っています」

「佐藤探偵事務所のものです、声質の状態から察するにスピーカーですね、笹木さん聞いてますか」


 電話をかけてきたのは予想していたよりもだいぶ若い男の声だった。探偵と言うからてっきり中年男性かと思っていた。


「聞いている、悪いねサト君」

「急ぎでしょうから手短に話します。加賀の息子、名前は清春。村を出て都心に出たようですが定職につかず詐欺まがいのことを繰り返していて何回か逮捕されています。しかしすぐに釈放されている。おそらく父親が裏で手を回しているのでしょう。違う地方の案件まで手を回せるとなると警察内部でもそれなりに力が強いのかもしれません」


 興信所に過去の息子について追加調査を頼んだと言っていた、その報告がようやくまとまったようだ。スピーカーにしてくれと言ったのは琴音に聞かせるためだった。


「加賀清春を知っている人物からの情報ですが彼は頭の回転も速いようです。協調性がなくいつも一人、協力していたと思ったら平気で裏切り見捨てるため、小金を稼ぎたいワル連中の間では手を組まないほうがいいとちょっとした有名人でした。俺の個人的な見解ですが彼は自分より弱いものに関しては気が大きくなりますが馬鹿じゃない、巧妙にリスク回避をしているあたり後先の事は考えているみたいです」

「つまり派手な殺人事件を起こすのは考えにくいってことか」

「考えにくいというよりないと思いますよ。彼は自分の父親が警察内でどの程度権力があるのかを見て、どこまでのものなら揉み消してもらえるのか分かってやっている節があります。教えていただいた変死事件、仲間のいない彼が一人でやるにはリスクが大きすぎる。詐欺では捕まっていますが傷害罪では捕まっていませんから」

「親子の仲は」

「さすがにそこまでは。すみません。もう少しお時間をいただければ調べられますが、期限が今日までとなるとこれが限界です。普通に考えれば良くはないでしょうね、警察内で証拠隠滅などは父親にしてみれば身を滅ぼしかねない。加賀清春は特定の住まいはなく女の家を転々としているようです。今はホステスをやっている女の家にいるのが確認できました」


 たった一日や二日でこれだけのことを調べてくれたのだから相当優秀だと思う。それにもう村には来てしまっている。加賀とは直接話をするしかない。


「加賀について追加情報が一つ。警察の内部調査があったらしく加賀には謹慎処分が下ったようです。うちの所長の話では大きな組織改革があって役職者がだいぶ変わったようで、加賀のやりたい放題に歯止めがかかったみたいです」

「謹慎処分ってことは、今加賀は自宅にいるってことか」

「処分が下ったのは一週間前のようです。おそらくは」

「なんだかタイミングが良い話だね」


 二人の会話に何気なく琴音がつぶやくと、電話越しに聞こえたらしくサトと呼ばれた興信所の人間は話を続ける。


「笹木さんが言っていた結城という男の詳細はわかりませんでしたが、どうもこの件が発端のようですね。長崎、小谷は加賀に使われるのを不満に思っていて、息子の不祥事をもみ消していることを内部告発したと考えるのが今のところ自然です。十月二十一日付近に自宅に戻るよう仕組んだのでしょう。表沙汰にできない理由ならGPSを持たされ定期連絡などの監視体制があってもおかしくありません、加賀は絶対に自宅に居なければならなくなる。要は計画された謹慎処分ってことです。何故この時期に合わせたのか知りませんが、彼らなりの何らかの意味があると考えるのが妥当です。嫌がらせでしょうね」

「警察は内部の犯罪に容赦ないからな。ありがとうサト君、短期間でここまでやってもらえて本当に感謝している」

「仕事ですからお気になさらず。それにコネを使い倒して人員こき使いまくりましたからね。俺一人の成果じゃありません。所長からの伝言です。“やりすぎるなよ”だそうです。では」


 通話を終わりにしてスマホを笹木に返した。笹木の車は神社の方向に向かっているのでこのまま加賀の家に向かうようだ。


「そういえば加賀は現役の警察だった、謹慎処分なければ家にいない可能性あったの忘れてた」

「それでも夜には家に帰るだろう。俺は家の窓叩き割って十年前の事件もみ消したクソ野郎証拠があるから神社まで来いって貼り紙するつもりだったけどな」

「……笹木さんってちょいちょいヤクザなところあるよね」

「ヤクザより地味だ。言っただろ、手の込んだ嫌がらせよりシンプルな嫌がらせの方が効く。村の連中は事件もみ消したのが加賀だとうっすら気づいているだろうが真正面からは言わない。言われないことを叩きつけられると頭に血が上るもんだ」

「警察相手に器物破損と名誉棄損したらどうなるか……わかってるか」

「今更前科つくのなんざ気にならないな。それより、君は加賀とは会うのか」

「一応車で待機してる」


 警察である加賀に自分の存在を知られるのはリスクが大きすぎる。謹慎処分ということはいつか復帰するはずだ。警察内部の一般では知ることができない情報を使って住所など調べるなど簡単にできる。生存者である琴音に何をしてくるかわからない。それにオニワさんから隠れ続けなければいけないことを考えれば悠長に話し込んでいる暇があるかどうか。


「君は今から事件現場に行くんだ。精神面を気にかけてた方がいい」

「……うん。わかってる」


 一番衝撃の記憶がある場所。そしてオニワさんと日和がかくれんぼを始めた場所。一番記憶が曖昧な場所。見慣れた道を進み一旦神社を通り過ぎる。鬱蒼と木が生い茂り、神社だというのに厳かな雰囲気はなく不気味な様子だ。雑草の手入れはしていても木々の間引きなどは行っていないらしく伸び放題だ。鳥居や神社名を完全に隠してしまっている。

 加賀の家は事前に調べていたようで迷うことなく笹木は運転し、人目につきにくい林道に逸れて車を止めた。


「今こっちに来る前にあった家が加賀の家だ」


 神社の真裏だ。神社は神主がおらず無人だったのでよく遊んでいた。子供の声はよく響く、琴音たちが神社で遊んでいたことを加賀清春は知っていたはずだ。引きこもって常に自宅にいたならなおさら。笹木は車からでると一度窓から覗き込んだ。


「ここはオニワさんの、文字通り庭だ。気を付けろ」


 琴音は緊張した面持ちで小さく頷く。笹木はそのまま加賀の家に向かった。シートベルトを外していつでも逃げられるように準備をする。何故なら今、琴音は「車の中に隠れている」状態だ。かくれんぼが成立する。それを考えて林道に停めてくれたようだ。車から出れば雑木林にはいくらでも隠れられる場所がある。

 持ってきた鏡とスマホの自撮り棒を組み合わせ、なるべく体勢を低くして外の様子を監視していると笹木から電話がきた。


「加賀はいない、居留守って感じでもない」

「まさか家に帰ってない?」

「いやそれはない、洗濯ものが干してある。知人か親戚の家にでも行ってるんだろう、自尊心が高いなら大人しく自宅にこもるタイプじゃない。少し仕掛けをしたら戻る」


 笹木と通話を終えて鏡を見た琴音は目を見開いた。十数メートル先黒い影が映っているのが見えたのだ。しかも助手席側、琴音がいる方に。鏡を下ろして運転座席に移動するとドアを音が鳴らないよう注意しながらそっと開けた。トカゲのように這いながら外に出る。車の下の隙間から今影がどこにいるか見ようと覗き込む。


「っ!」


 悲鳴をあげなかったのは奇跡だ。影は、助手席の目の前に立っていた。もし一瞬判断が遅れていたら見つかっていた。影は背伸びをして覗き込んでいるらしい。


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