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オニワさんとかくれんぼ  作者: aqri
十月二十日
28/46

1 元妻

 笹木が運転する車は琴音を乗せ高速道路を走っている。早朝に出発したといっても到着予定は昼過ぎ、あまり余裕があるスケジュールとは言えない。

 これといって特に話が弾んでいたわけではないが琴音はどうしても昨夜の電話で笹木が何に気づいたのか知りたくなって話しかけた。


「昨日の夜話してる時、一瞬止まった時があったけど何か思いついたことでもあった?」

「よく気がついたな、俺がわかりやすすぎたか。君が言っただろ、望月日和が見つかっていないと言った時食べられてなければいいけど、って。もうここまできたら白黒決着法をしている場合じゃないからはっきり言うが、俺もオニワさんと言う得体の知れないモノが関わっているとは思ってる。そして新たに被害者が出てきている件、これはオニワさんの仕業じゃないかとも思っているんだ」


 意外な言葉に琴音は目を丸くする。笹木はリアリストなイメージだったのでそう考えているとは思っていなかった。


「どうしてそう思ったの」

「十年前の事件の被害者の様子と今回の被害者の様子が明らかに違う。子供たちは酷い殺され方をしたがその殺され方には一貫性がない。でも今回ははっきりと腕がなくなっているという共通点がある。オニワさんの腕を封印していると言う伝説になぞっている」


 淡々と語る笹木の話を琴音は黙って聞いていた。チラリと横に笹木の顔を見たがその顔にも目にも何も感情が灯っていない。


「診療所を出た後気になって山上に連絡をした。オニワさんの伝説は本来他の子供たちに気づかれないようにそっと紛れているはずだ。鬼の役割の子を殺して食べてしまい何食わぬ顔で自分が鬼になり変わる。だが君が会ったオニワさんはペラペラとよくしゃべるし、言うことを聞かせようとまでしてくる。個性的だと思ってね」


 言われてみればそうだ。抜き取る鬼と書いて抜鬼、正体がばれてしまったら鬼ごっこやかくれんぼどころではない。


「山上さんは何て言ってた?」

「全て推測になるという前提だったが、今祀られている抜鬼は特別なものじゃないかということだった。つまり口減らしで殺された子供ではなく、見える家系の子供だったんじゃないか。村の中で見える家系の苗字をあいつは全員知っていてね」

「全員……」


 本当に山上は一体何者なのだろうと気になってしまう。今はそれどころではないしそれをしたところで何かあるわけではないが。


「その苗字の中には当然元嫁の苗字もあった。そして望月家もだ」

「ヒヨちゃん? そっか、あの日ヒヨちゃんは確かにオニワさんと会話をしていた。加賀の家に引き取られたのなら望月家はもともとあの村の出身者だったってこと」

「山上の推測では、今のオニワさんは望月家の人間なんじゃないかってことだ。望月日和が村に来たことで同じ望月家のオニワさんが何らかの影響を受け、十月になって力が増した可能性があるんじゃないかってことだった」


 確かにその話なら辻褄が合う。なぜ口減らしの目的ではなく何らかの力を持っている望月家の人間がオニワさんとして祀られているのか。それを知っているのはおそらくオニワさんの伝説を頑なに信じている見える家系の人間だけだ。


「その理由を探して供養みたいなことをしてあげれば、もしかして」

「その考えは俺も山上に言ったよ。否定されたけどな」

「なんで」

「あいつが言うにはそう簡単に丸く収まるものではないらしい。化け物や神を相手にお祈りして謝ったから許してね、なんてそれで終わりになるほど簡単なことじゃないそうだ。その気持ち俺もよくわかる」


 それは事件のことを言っている。たとえ犯人がいて逮捕されたとしても拓真は戻ってこないし笹木の心が晴れるわけでもない。


「ちょっと話が逸れたが俺が思ったのは、なぜ拓真の骨が持ち出されたのか。いろいろ考えていたら胸糞悪い事を思いついたから腹が立っただけだ」


 そこまで言うと笹木は黙り込んだ。今それを言う気は無いと言う事みたいだ。どのみち村に着いたら最初に行くのは笹木の元嫁の実家だ。琴音は立ち会わないが会話が聞こえるようにはしてもらって内容確認することはできる。

 高速道路を降りて国道を走る。渋滞にはまり予定よりだいぶ時間がかかってしまった。

 どんどん田舎特有の風景になり車や人の数も減り、無駄に広い道路がずっと続いている。近づくにつれ見覚えのある風景になってきた。嫌な記憶しか蘇らないので琴音の表情が険しい。


「再確認だが君はオニワさんから隠れなきゃいけない。村の人間にも顔を見られると面倒だからなるべく人に見られないようにしてくれ。成長した君の顔を見ても当時の君と結びつける人はいないだろうけどな」

「だろうね。あそこの人たち他人にやたら干渉するくせに、本当は他人のことなんてどうでもいいみたいだから」


 琴音もその準備をしてきている。きつめにならない程度の印象変えるメイクをし、いざと言う時のために顔隠せる位のつばが大きめの帽子とフード付きのパーカー。印象を変えられるように上着を3種類持ってきた。


「じゃあ今から元嫁の実家に向かう。当然アポを取ってない、君とは電話をつないでおくからそこで聞いてくれ。君なりに何か気になった情報があったら後で教えてほしい」

「もう白黒決着法やってないんだし、笹木さんの方がいろいろ気がつくんじゃない?」

「いや、あの家の連中と話すと割と本気でイライラするから重要なキーワードを聞き逃しそうだ」


 そういえば揉めに揉めた離婚だったと思い出す。村出身の琴音は慣れてしまっていたが、行きすぎたお節介とやや上から目線の物言いは人間関係が希薄な都会の人には鬱陶しいだろう。琴音でさえ鬱陶しいと思っていたくらいだ。

 そろそろ人の姿が見え始めるだろうと琴音はパーカーを着てフードをかぶった。だれか乗っているのはわかるだろうが顔までは見えないはずだ。そしてオニワさんは笹木には見えない。自分で気をつけるしかない。

 笹木は空き地に車を停めた。見れば村の中でもそこそこ大きな家と広い敷地だ。拓磨の家に遊びに行ったことはないので初めて見た。家族が厳しく家で遊ぶなと言われていたそうだ。オニワさんを家に呼び寄せないための措置だったのだろう。

 笹木は車を降りて家に入っていく。琴音は念のためシートを倒し一応外からは見えにくい体勢をとった。

 電話がつながり笹木たちの会話が聞こえてくる。女性の声も刺々しいが笹木の声はいつもよりもワントーン低い。

 話の内容は拓真の遺骨に関してだ。女性は知らないと強い口調で言っているが、笹木の声には感情らしい感情が入っていない。聞いているこちらがヒヤヒヤする位だ。あの雰囲気は感情を押し殺している時なのだから。


「お前の話はどうでもいい、俺が勝手に話をするが俺もオニワさんについてだいぶ調べた。神社に腕を祀ってこの家含めていくつかの家が監視してたそうじゃないか」


 笹木の言葉に女性は返事をしない。おそらく核心をつかれたことを言われて反応できなかったのだろう。誰も知らないと思っていること、誰にも知られたくないと思っている事を指摘されると咄嗟には反応できないものだ。琴音が笹木と初めて会った時もそうだ、これは彼が使うテクニックなのだろう。


「ずいぶん酷い死に方をしているやつが出てるらしいな。腕がないんだって?」

「何で知って」

「今俺がしゃべってる、黙ってろ」


 まるでヤクザのような雰囲気に自分が言われているわけではないのに琴音の方が緊張してしまう。


「オニワさんにやたら詳しい人と知り合うことができた。その人が言うにはオニワさんは代替わりをしていると言うこと、そして今のオニワさんはかなり特別で食いしん坊らしいじゃないか」


 女性は焦った様子でなぜ知っているのか、誰に聞いたのか、そんなことを隠すことなく聞いてくる。オニワさんの事となると後回しにできない最重要事項のようだ。しかしそんな女性を無視して笹木は一方的に言葉を続ける。


「腕がないのは自分に合った手を探してるんだ。でも当然あうわけがない。じゃあ合わなかった腕はどうなるのか? 食べるに決まってる」


 笹木の言葉に琴音は思わず口を手で押さえる。十年前のあの凄惨な光景を思い出してしまったからだ。あの時みんなの体で欠損している部位はなかった、食べられてはいないはずだ。

 山上に会って話を聞いて自分なりに色々と考えてきた。しかしこの考えには至らなかった。笹木は琴音以上にオニワさんの存在を検証し、想像もつかないほどの時間をかけて推測を立ててきたのだろう。


「お前拓真の骨を一体何に使ったんだ」


 使った? 理解できない単語に琴音は呆然となる。骨は使うものでは無いはずだ。

 先ほどまで強気な態度だった女性はだんだん何かに怯えるような悲鳴に近いような声になってくる。


「お前は、お前らは最初に腕のない死体が見つかったとき真っ先にオニワさんの仕業だと気づいた。それをどうにかしようとせず、自分の身を守ることが考えた」

「ちが、私は」

「お前の言うことなんて信用しないし喋って欲しいと思わない。はいかいいえだけ答えろ」


 女性の小さな悲鳴と壁に押し付けられる音がした。がつんと言い固い音がしたので琴音の時のように胸ぐらを掴んで壁に押し付けたと言う感じではない。あれは壁にもっと硬いものをぶつけた音だ。何となく想像がついた。女性の頭を壁に叩きつけたのだろう。



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