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オニワさんとかくれんぼ  作者: aqri
十月十九日
27/46

7 村へ

「他に気になることはある?」

「本当は君がオニワさんと賭けのようなことをやりそうになったが、それを望月日和が肩代わりする形となった。何が何でも約束を果たさなきゃならない」

「わかってる。村に行かなきゃいけない。そっちは犯人が加賀の息子なのかと、拓真君の遺骨が何でなくなったのか調べなきゃいけないんだよね」

「ああ。本音を言えば今からでも行きたいが、追加調査を頼んでいる加賀の息子の詳細がわかってからにする。他人と関わりがなさすぎてまだ名前さえわかっていない状態だ」


 現時点では本人とオニワさんどちらが真相なのかわからない。笹木の最後の確認のため、琴音は約束を果たすために村には行かなければならない。


「二十一日、当日に行くのはさすがになしだ、行くのは明日にする。当然だがホテルなんてない、俺は車中泊だからいいが君はどうする」

「笹木さんがよければ私も車中泊させて欲しい。実家なんて行かない、もしかしたらもういないかもしれないし」

「わかった。オニワさんが本当にいるなら君の寿命はあと二日だ。二日間だけ必要な荷物をまとめておいてくれ。明日の早朝に車で出かける。わかってると思うがかなり遠いから行くだけで半日がかりだ」


 琴音はうなずき笹木は車を発進させた。琴音をマンションまで送ると後でまた連絡すると言ってそのままどこかに走っていった。

 自分の部屋に着いた琴音は着替えなどの荷物を準備しようとして動きを止めた。

 あと二日。本当に自分の人生はあと二日で終わってしまうのだろうか。自分の中では終わってしまうという可能性が高いと思っている。だったら今しかができない何かをやっておいた方が良いのではないだろうか。例えば身辺整理、そこまで考えたとき自分には必要ないのではないかと思った。身辺整理とは家族や親族に迷惑がかからないように主に財産や荷物の整理をしていくことだ。琴音に関わる親族は今のところいないのだから、適当に私が死んだら全て処分してくださいと言うメモでも残しておけばいいような気がした。

 行きたいところがあるわけでもない、今何か絶対に食べておきたいものがあるわけでもない、死ぬかもしれないと言うのに今の琴音は何も特別なことを思いつかなかった。

 生きるために金を稼いでいるが社会貢献などをして自分の生きる道を定めているわけではない。将来こうなりたいという夢がない。


「私、大きくなったら何になりたいって言ってたんだっけ」


 小学校卒業する前にあの村を出たので卒業アルバムの類は持っていない。拓真達と将来の夢を語り合った事は絶対にあるはずだ。拓真は野球かサッカー選手になりたいと言っていた、歩やめい達も芸能人になりたい、何でもいいから社長になりたいなど確かに自分の夢を持っていたと思う。でも自分は何だったんだろう、事件のショックで失ったのは当日の記憶だけなのでわかりそうなものだが何もわからない。


「何もないんだったら別にいいか」


 死にたいわけではないがこれがやりたいから死にたくないという思いがない。今あるのは何もわからないままただ殺されてたまるかという思いだけだ。

 日和の夢は何だっただろう。日和のことをずっと忘れていて、十年前のあの日の事だけを思い出したので日和の他の情報を一切思い出せない。催眠療法はもう受けることができないので一緒に遊んだこと、名前、着ていた服、それぐらいだ。日和のことをそれしか覚えていない。

 催眠療法の最後に見たあの悲鳴上がったところ、あそこはもう思い出そうとしても記憶がぐちゃぐちゃで徐々に薄れつつある。

 もしあの悲鳴が歩だったら、琴音は歩を見殺しにした。日和は一体どこに隠れてどうなってしまったのか。思いを馳せながら必要最低限の日用品などを準備したらあっという間に終わってしまった。

 部屋を見渡す。今回のことがきっかけとなった忘れないでねという声、十月二十一日だよという声、催眠療法を受けた今ならはっきりわかる。

 忘れないでねと言っていた声は二種類あった。「わすれないでね」と言っていた期日までに約束守れという声と、それとは別に独立して「忘れないでね」と言っている声。あれは日和とオニワさんだ。同じようなことを言っていたので二つの声が混ざってしまったが、日和にも確かに忘れないでと言われていた。

 思い出せないので推測だが、忘れないでと言われていた内容は間違いなく。


「私のことを、忘れないでねって言ってたんだよね、ヒヨちゃん」


 遠くに行ってしまうから、二度と会えないかもしれないから、私のことを忘れないで欲しい。そう言っていたのだ。それなのに自分は何か恐ろしいものだと勘違いをして怯えるばかりでこんなにも対応が遅れてしまった。辛い記憶だったから忘れることで自分が守ろうとしていた。日和が作ってくれた時間を自分は十年すべて使って無駄に生きていたのだ。そんな自分が輝かしい未来に向かって夢や希望を抱いて生きてくれるはずもなかった。無意識にわかっていたのだ、自分が友達の犠牲の上で生きているということを。そう思うと生前整理でやることなど何もない。欲しいものもないしやり残したこともない。


「ああ、一つあった」


 一人きりの静かなこの時間。今しかできないことがあった。それは死んでしまった友達のことを思い偲ぶこと。事件を思い出すことをひたすら避け続けていた、見向きをしないようにしていた。あんなに仲が良かったのに。

 琴音は拓真たちひとりひとりを思い浮かべ、思い出をなぞりながら静かに涙を流した。



 その日の夜笹木から連絡が入った。興信所の人が笹木の息子の詳細な情報を送ってくれたらしい。名前等には全く興味がわかなかったので要点だけをさらっと見てみると、今村には息子が住んでいないこと、家を出て五年以上経っているので新たな被害者たちの事件には関与している可能性は低いということだった。仕事をしておらず借金などもあるらしい。気性の荒い性格で近隣住民と何度かトラブルになっていると言うことだった。資料を読み終えて笹木に電話をかける。


「この息子の方には会いには行かないの」

「俺も色々と考えたんだが、間違いなく自分が殺人犯だなんて言わないだろうし証拠がない。それに事件を隠蔽したのは親父の方だ。こっちを暴かないと警察が動けない」


 確かに警察は内部の不祥事には敏感だ。必死にごまかして隠そうとするか、揺るぎようのない証拠があれば、世間へのパフォーマンスの意味も込めて厳しい処分が下るはずである。証拠がなければ前者になるのは必至だ。


「明日はまず元嫁の実家に行く。あいつは頭が悪いから話だけでボロを出すはずだ、君は車に乗っていてくれ。その後は別行動だ、もしもオニワさんとの約束が本物であるなら君には時間がない」

「私がやらなきゃいけないのはまずヒヨちゃんがオニワさんにみつかったかどうか知る事。見つかってたら私が最後のかくれんぼしてる立場だし、見つかってないなら私がヒヨちゃんを見つけてあげないと。……食べられてなければいいんだけど。オニワさんとの約束は果たさないといけない、村の外にいてもたぶん私は何らかの影響が出ると思うから」


 今琴音はオニワさんとかくれんぼをしている状態だ。そこら辺をフラフラと歩いていたらオニワさんに見つかってしまう。隠れながら最後の真相を確かめなければならない。それはとても難しいことだ、しかしやるしかない。

 二人の会話に一瞬沈黙が訪れた。今の言葉に対して笹木が何か言うかと琴音は黙ったのだが笹木も同時に黙ったのだ。


「……明日はあまり寄り道しないで村に直行する。買い物なんかは今日のうちに済ませておいてくれ」

「わかった」


 感情を押し殺したような声に今何か思いついたんだろうなと思った。しかし今それを琴音に言うつもりはないようだ。いい加減そろそろ慣れてきたが拓真に関して今の話から何か思いついたのだろう。そしてそれは笹木を怒らせるには十分な内容だったようだ。勘だが琴音の言葉に何か不愉快に感じさせるものがあったわけではなさそうだ。元嫁の実家について何か思いついたのだろう。

 あと二日。たった二日で全て解決するだろうか。額を軽く撫でて不安を解消する。できるかできないかじゃない、やらなければいけないことだ。

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