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オニワさんとかくれんぼ  作者: aqri
十月十七日
18/46

10 重要人物の手がかり

 非現実的な方法かもしれないが、一つだけできそうな心当たりがある。それは以前店に勤めていた時客として来たことがある占い師の男。女の子が大好きでお金を工面しては来ていた。店にいた時はわからなかったが、他の女の子たちの噂話によるとかなり有名な占い師ということだった。占い師など実際に占いをするというより人生相談やカウンセラーのような感じで、セールストークがうまいんだろうなと思っていた。しかし一度だけ真剣に言われたあの言葉。

 二十歳までに困難がある、逃げてはいけないという、まるで今回のことを予見していたかのような事を確かに言われていた。

 あの人がよく占いをしている場所を以前聞いたことがある。店を持たず道端に小さな机と椅子を広げているスタイルで場所はよく変わるようだが大体エリアがわかっている。占い師が活動するのは主に夜だったと思うのでこれからは活動時間のはずだ。昼寝で失ってしまった時間を取り戻すために、今はこれぐらいしか思い付かないからと琴音は支度を整えて家を出た。

 ある程度暗くなってくるまで適当に時間を潰す。もしこの間のようによくわからない影が見えたら、後ろに立たれたらと思うと少し心細い。なるべく明るい人の多い場所を選んで歩くようにした。幸いエリアとしている場所は琴音が働いていた店からは少し遠いので、常連客にうっかり鉢合わせるという事はなさそうだ。


 その後大通りから細い路地裏まで可能な限り探したが、あの占い師は見つからなかった。そう都合よくたった一日探した位で見つからないと思ったが、落胆してしまう。だんだん時間も遅くなってきてこれ以上は無理だろうと家に帰ることにしたが、同業者だったら何か知らないだろうかと他の占い師に話を聞いてみることにした。しかし探したい占い師の名前も知らないし特徴を言ったところで通じにくいだろう。それでもよく当たると評判だったのだから有名な人を教えてもらうくらいできるはずだ。

 なるべくベテランそうな年配の人を探して声をかけた。数人に声をかけ心当たりがないということだったが、何人目か忘れた頃に尋ねた人は、もしかして、と教えてくれた。


「結城さんの事かな。探してるの?」

「その人かどうかわかりませんけれど、あの私、一時期夜の店で働いていたことがあってその時お会いしたんです」

「なら、多分間違いないと思うよ。あの人きれいな女の人好きだったからね、よくどこの店に行った、こういう子が可愛かったって話をしていたから。夜の店に行く占い師ってこの辺じゃ結城さんぐらいだ」


 おそらくその人だ、間違いない。


「結城さんって今どこにいるんですか」


 琴音の言葉に占い師の男性は小さく首を振った。


「亡くなったよ」

「え」

「去年のいつだったかな、ちょうど今頃だと思うけどこの辺では警察が動く位すごいことが起きたんだ。多分ニュースにもなったと思うけど覚えてないかな」

「ごめんなさい、ちょっとわからないです」

「まぁこの辺り犯罪なんてしょっちゅうだしね。暴力を振るわれたらしくて結構ひどい状態で見つかったんだ。特に頭を何回も殴られたらしく頭蓋骨陥没してたらしい」


 頭蓋骨陥没というのが笹木から聞いた十年前の遺体の損傷の状態を思い出させ思わず顔をしかめてしまう。


「悪い人じゃないし、むしろみんなから慕われる性格だったから、お客さんと何かトラブルがあったとはちょっと思えないんだよね。酔っ払いか金欲しさのガキか、何にせよひどい話だ」


 違う、と咄嗟に思った。軽犯罪に巻き込まれたのなら頭が陥没するほど殴られはしない。何らかの目的を持った明らかに殺意のある犯行だ。それに亡くなったのが去年の今頃というのもなんだが引っかかった。


「結城さんって亡くなる前に何か言っていませんでしたか。変わったこととか」

「そこまで仲が良かったわけじゃないしいつも一緒にいたわけじゃないからな。それにもう一年も前のことだしちょっと覚えてないね」

「そうですか」

「なんか一年前を思い出すな、警察がしつこいくらいにいろいろ聞いてきたから面倒くさくなって何も知らないって言い続けてたんだけどね」

「警察も仕事ですからね、ただのトラブルなのか本当に運悪くおかしなのに絡まれただけなのか……」


 そこまで言って一瞬言葉が詰まった。警察、と言う単語になんだかとても嫌な予感がしたのだ。警察は調べるのが仕事なので何もおかしいことはないが、何だろうか。バラバラのジグソーパズルが立て続けに埋まっていくような、奇妙な感覚だ。


「何があったのか知らないけど、気になるなら警察に聞いてみたら? その時の刑事さんまだいるだろうから。ええっとなんて名前だったかな、確かどっかの地名みたいな名前だったような。茅ヶ崎じゃなくてえーっと」


 知らない名前でありますように、と何故かそんなことを考えてしまう。ああ思い出した、と言ったその名前は。


「確か長崎さん、だったかな。中年の人」

「そう、ですか。ありがとうございます」


 引き攣りそうになる顔に何とか笑みを浮かべて頭を下げた。占い師の男性は今度来ることがあったら占いしていってね、と営業トークを言うと丁度お客さんが来たらしく占いを始める。

 琴音は踵を返し足早にその場を後にした。歩きながらスマホで笹木からもらった資料を見返す。事件に関係していそうな刑事の名前に確かに長崎と書かれていた。珍しい苗字ではないが果たして偶然なのだろうか。偶然ではなかったとしたらなくなった占い師は一体何の事件に巻き込まれたのか。

 もしかして。まさかとは思うが亡くなった占い師、村の出身者で自分のことを知っていたのではないだろうか? 初めて店で会った時ニコニコとご機嫌だったのが琴音の顔を見た途端に目を見開いて驚いていたのを覚えている。そしてこれから大きな試練があるから逃げてはいけないと言っていた。

 あの占い師に何かそういう特殊な力があって警告をしてくれたと思うよりも、村の出身者で琴音の顔を知っていて、事件はまだ終わっていないから気をつけるようにと言う意味での忠告だったという方が自然だ。もしそうなら結城と言う人間は十年前の事件で何らかの事情を知っていたということだ。これが刑事ドラマなどだったら何かの情報を知りたくて痛め付けられてる最中死んだか、口封じで殺されたかのどちらかだ。


 去年の今頃、十月二十一日付近。被害者家族が亡くなったのもそのあたりだったはずた。全く何も関係ないとは最早言い切れない。

 これに関しては犯人説を考えている笹木に任せたほうがいいだろう。今から村の人間と会うのならなおさら、これに関しても聞いておいてもらいたい。家路へと急ぎながら笹木に情報を送った。笹木からはすぐに返事がきて調べてみる、という短い内容だった。

 そういえば、と資料の中に家族の不審死についての報告もあったことを思い出した。先ほどは焦って外に出てしまったが、不審死がどのようなものだったのか詳細を見ていない。電車の中で資料を見ると亡くなっていた場所に共通点はないが、仏壇の前で亡くなっていた人と墓の前で亡くなっていた人もいる。そして腕がない。腕はまだ見つかっていないようだ。巷ではオニワさんの仕業だと怯える人と、頭のおかしい殺人犯がまだ潜伏しているかもという恐怖で静まり返っているらしい。興信所の人は余所者の顔はすぐに割れてしまうので現地に行くことはせず、なんとか遠回りの調査でここまで調べたようだ。人手を割いてくれたのだろう。被害者家族という事以外に共通点がないのなら間違いなく十年前の事件がカギとなる。終わっていないのだ、自分の知らない「何か」が。


 家について自分なりに情報を整理してみるものの、やはり肝心なところがわからない以上全体像が見えない。確定事項として、拓真達以外にもう一人仲が良かった子は確かにいた。琴音をコッコと呼ぶ子。それが人間なのかオニワさんなのかは今のところ分からない。そして十年前何かを約束した。その約束を破ると食べられてしまう。


「何で忘れたんだろう。事件のショック?」


 考えてみれば不思議だった。事件当日の事を覚えていないのはおそらく殺されているところを見てしまったショックからだろうが約束は何故忘れたのか。


 ――忘れないでね


 この言葉を思い出すとやはり胸が苦しくなる気がする。食べられてしまうという焦りではない。何故忘れてしまっているのだろうという、そう、これは。悲しみだ。忘れている事への悲しみというより、それを言われた時悲しかったのではないか。


「その子の事、好きだったんだ、私」


 例えオニワさんだったとしても、絶対一緒に遊んだ。大切な友達だったはずだ。無意識に額を触っていた。軽く触れる程度の力でそっと触ると撫でる。忘れないでね。その言葉が、今も耳の奥に残る。


 ――オモイダサナクテイインダヨ


「うるさい!」


 癇癪を起した子供のように、近くにあったクッションを壁に向かって投げつけた。怒りに顏を歪め、ドン、と床を殴りつけた。思い出すなと言ってくる奴は敵だ、自分の大切な思い出を覆い隠してしまっている元凶。

 誰だ、邪魔する奴は。そんな敵意が胸に込み上げた。

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