シロサギと大きな一歩①
ダン君の樵を手伝って、大量の薪を手に入れた。
途中からコツを掴んだファルス様は、次々に大きな木を切り倒し、薪へと変えて行く。
「やりすぎたかな……」
ファルス様はちょっぴり後悔している様子だった。
明らかに一人では運べない量になっている。
楽しさで夢中になり、その後のことを考えていなかったようだ。
まるで子供みたいで、少し笑ってしまう。
「ふふっ」
「勇者のお兄ちゃん切りすぎだよ!」
「ごめん……」
「大丈夫です。私もお手伝いしますから」
魔法使いと呼ばれたことが嬉しくて、私もちょっぴりテンションが上がっていた。
こんなこともあろうかと、牛を折り紙で数匹作ってある。
牛には物を運ぶ力が付与されている。
「この子たちに持ってもらいましょう」
「牛だ!」
「助かるよ。さすがに僕一人じゃ運べそうにないからね」
私は笑顔で返す。
ファルス様のお役に立てたなら光栄だ。
倒した木はさらに切って、薪の状態にしてロープで結ぶ。
切る作業よりこの作業のほうが地道で大変だった。
結局帰りは夜になり、ダン君を馬車に乗せて、彼が暮らしているという村まで案内してもらった。
「ここが俺の村だよ!」
案内された村は、老夫婦が暮らしていた村より数倍大きかった。
街とまでば呼べないけど、建物も多く人通りもある。
老人ばかりというわけでもなくて、若い男女の姿も見受けられた。
建物は木造で新しい気がする。
村そのものの歴史が浅いのかもしれない。
「こっちこっち! もうすぐだよ!」
そのままダン君の家まで案内してもらうことに。
馬車を走らせ、その背後に薪が浮かんでいる。
注目を集めないはずもなく、道行く人たちに凝視された。
「な、なんだあれ?」
「どうなっているの? 薪が浮かんでいるわ」
「大注目だね」
「は、恥ずかしいですね……」
「慣れたほうがいい。これからもっと、いろんな人の目に映るんだ」
さすがの勇者様は堂々としている。
見られることに慣れている証拠だ。
私も勇者パーティーの一員になったのだから、これくらいは慣れないと。
「一緒にいるのダンじゃないか?」
「あの二人は誰だ? 知らない顔だ」
「……」
慣れるだろうか?
前世も含めて今まで、注目なんてされてこなかった人生だ。
こうして見つめられるだけでも恥ずかしい。
私は視線を下げていた。
「あそこだ!」
ダン君の声で視線を上げる。
指をさした先に建っている一軒の家。
二階建ての木造建築。
前世の世界での山荘に雰囲気が似ている。
森の外観とマッチしていて、ちょうどいい見た目だった。
明かりが一階部分についている。
家の横には、薪を蓄えておくための収納スペースがあった。
「ダン君、薪はこっちでいい?」
「うん! そこに重ねて置いておいてほしい!」
「わかった」
折り紙の牛に指示を出し、薪を重ねて詰んでいく。
スペースがいっぱいになるほどの薪だ。
ダン君もその光景に満足げな表情を見せる。
ファルス様がダン君に尋ねる。
「この薪はどうするんだい?」
「自分たちで使う用と、残りは他の家に売りに行くんだ!」
「そうか。偉いな」
「えへへ」
ファルス様に頭を撫でられて嬉しそうに笑うダン君。
微笑ましい光景だ。
勇者様に褒められるなんて、子供からすれば一生の思い出になるだろう。
ちょっぴり羨ましくさえ思う。
「それじゃ、俺たちも宿がないか探そう」
「そうですね」
これだけ広い村だ。
見る限りお店もあったし、宿屋も探せば見つかるだろう。
もうすっかり夜だ。
これから進むのは危険だし、私もファルス様も疲れている。
「なんで? うちに泊まっていってよ!」
宿の相談をしていた私たちを、ダン君が引き留める。
「部屋ならいっぱいあるよ!」
「いいのかい?」
「うん! 手伝ってくれたお礼!」
「ありがとう。そうだね。じゃあ、家の人に許可を貰えたら、お願いしようかな?」
ファスル様がそう言うと、ダン君は元気よく返事をした。
絶対大丈夫だからと彼の手を引き、玄関へと歩く。
「ただいまー!」
「ダン!」
ダン君の声を聞いて、玄関にかけこんできた一人の女性。
車いすに座っている。
この世界にも車いすがあることに驚いた。
見た目は一緒だけど木製だ。
女性はダン君を見て涙目で安堵する。
「よかった。遅かったから心配していたのよ?」
「ごめんね母ちゃん。心配かけちゃって」
車いすのままダン君を抱き寄せるお母さん。
よほど心配していたのだろう。
涙を流して安堵しながら、ダン君を力一杯抱きしめる。
もう離さないと言わんばかりに。
「ねぇ母ちゃん、お願いがあるんだけどいいかな?」
「何?」
「お兄ちゃんたちを泊めてあげたいんだ!」
「……あなた方は……」
ようやく私たちの存在に気が付いたようだ。
ダン君の心配で頭がいっぱいだったのだろう。
キョトンとした表情で私たちを見つめる。
「あのね。森で助けてもらったんだ!」
「初めまして、僕はファルスといいます」
「私はミモザです。こんばんは」
いきなり見知らぬ男女を連れてきて、お母さんも困っている様子だ。
ダン君が必死に何があったのか説明してくれている。
あまり説明は上手じゃなくて、ファスル様が助け舟を出してあげていた。
「勇者様!?」
「そうなんだよ! 魔物もずばっと一瞬だったんだ!」
説明が終わり、お母さんはファスル様の正体に一番驚いていた。
その気持ちは凄くわかる。
「泊めてあげたいんだ。いい?」
「も、もちろん! こんなところでよければ! 今すぐ準備しますね!」
「お気になさらず。いつも通りで構いませんから」
「そ、そうはいきません。ダンを助けてくださったお礼もさせてください」
お母さんは車いすをせっせと回し、私たちを家の中へと案内する。
所々に段差を板でカバーしてあったり、車いすが通れるように工夫されていた。
初めからそうだったわけじゃなさそうだ。
手作り感があって、言い方は悪いけど素人っぽい。
「ダン! 二階のお部屋を片付けて、お布団を用意してちょうだい。私はお夕飯の準備をするから」
「わかった!」
「僕たちも手伝わせてください」
「いえ! お二人はどうぞおくつろぎください」
「そうはいきません。僕は勇者なので、じっとしていられないんです」
そう言ってファルス様はダン君と一緒に二階へと昇っていく。
その途中で振り返り、私に言う。
「ミモザはお母様を手伝ってあげてほしい」
「はい」
「よろしいのですか……?」
「はい。料理は心得ていますから」
どうやら私も、じっとしていられない性格らしい。
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保護した猫は二日目にしてデレました!