キツツキと樵③
手当をしたことで痛みが和らいだのか。
ダン君は元気よく立ち上がった。
「もう大丈夫だ!」
「元気だね」
「男だからな! それに仕事もしなくちゃ」
そう言ってダン君は地面から斧を拾い上げる。
私が両手で持つのも大変だった斧を、片手で持ち上げて肩にかついだ。
見た目は子供でも、力は男の子だ。
私よりもよっぽど力持ちかもしれない。
それとも私がひ弱なだけ?
ちょっと心配になってきた。
今後のためにも筋トレとかしたほうがいいかな?
「助けてくれてありがとう! これで仕事ができる!」
「待った」
「え? 何?」
「君は怪我人だ。今は休まないとだめだよ」
働き始めようとしたダン君の肩を、ファルス様が掴んで止めた。
「大丈夫だって! もう平気だから!」
「ダメだ。ほら、血が滲んできている」
「え、あ……」
包帯の端っこから血がにじんでいた。
血止め薬は使っている。
痛みは和らいでも、傷が塞がったわけじゃない。
無理に動こうとすれば、また傷が開いて血が流れる。
「これくらいよくあることだって。魔物に襲われたの初めてだけどさ」
「小さな傷でも大きな病気に繋がるんだ。治るまでは安静にしていなさい」
「でも、仕事しないといけないし……」
シュンとするダン君。
そんな彼を見て、ファルス様が腕をまくる。
「貸して」
「え?」
「斧、僕が代わろう」
「お兄ちゃんが? やってくれるの?」
「うん。こう見えて僕、力仕事は得意なんだ」
ファルス様はダン君から斧を借りて、彼の代わりに木を切ることに。
斧を担いでファルス様が言う。
「すまないけど、少し待っていてくれるか」
「はい」
ファルス様なら、勇者ならそうするだろうと思っていた。
「今のうちに馬車を移動させておきます」
「助かるよ。ダン君、どの木を切ればいい?」
「あそこ! 切りかけなんだ!」
「よし」
ファルス様が樵をしている間に、私は街道で放置されている馬車を近くに移動させる。
まだファルス様のように走らせるのは無理だけど、馬を誘導することはできる。
ゆっくり、森の木々に引っかからないように近くへ。
街道の端に移動させて、他の通行人がきても邪魔にならないようにした。
一応、見張りとして折り紙の鶴を一羽置いておく。
急いで森に戻った。
「結構難しいな」
「へへっ、コツがいるんだ!」
意外にも、ファルス様は樵に苦戦しているようだった。
彼の力ならパワーで切り倒せそうだけど……。
「ダン君は凄いな。まだ子供なのに力持ちだ」
「凄いだろ! お兄ちゃんも勇者様ならもっと鍛えないとな!」
「ははっ、そうだな」
なるほど、わざとみたいだ。
ダン君の頑張りを、努力を褒めるために。
そういう見えない優しさに、ほっこりする。
「あ、お姉ちゃんおかえり」
「うん」
私はダン君の隣に座る。
「ねぇダン君、どうして樵をしているの?」
「それが俺の仕事だからだよ!」
「そうなんだ。歳は?」
「十三歳!」
思ったよりも子供だ。
この世界では、子供も働きに出ているのが普通?
私は長く王都で暮らしていたし、一応は貴族の出身だから一般家庭のことがよくわからない。
ファルス様がダン君に言う。
「その歳で働いているなんて、偉いね」
「へへっ、そうかな?」
「偉いよ。ご両親は何をされているのかな?」
「父ちゃんは小さい頃に事故で死んじゃった。母ちゃんはその時の事故で足が動かなくなったんだ。だから俺が働くんだ! 母ちゃんのために!」
「……そうか」
ファルス様の口ぶりから、彼の年齢で一人で働くことが普通じゃないのは感じていた。
予想はしていたけど、思ったよりも重い理由だ。
ダン君は明るく元気に答えているけど……。
「本当に偉いよ」
と、ファルス様が呟いた。
私もそう思う。
悲しい境遇にめげず、ひた向きに頑張るダン君の強さに感動した。
そしたら、いてもたってもいられなくなった。
「よーし! 私も樵を手伝います!」
「え? お姉ちゃんも?」
「うん」
「いいけど、無理じゃないかな? お姉ちゃん俺より力弱そうだし」
「それは……そうだね」
実際その通りだから何も言えない。
「いいじゃないか。何事も挑戦だ」
そう言って、ファルス様は斧を私に手渡した。
何事も挑戦……そうだ。
今までだってそうやって、自分できることを探してきた。
「よいしょっと!」
大きく斧を振りかぶって、木に当てる。
跳ね返って自分の手が震えた。
「あはっはっはっ! 木に負けてるよ!」
「ぅ……思った以上に難しいですね」
狙ったところに当てることも難しい。
当たっても私の力じゃ削れない。
これを小さな身体で、ずっと一人でやってきたのか。
心から尊敬する。
そして、強く思う。
何か、手助けはできないだろうか……。
「そうだ! ちょっと待っていてもらえますか?」
「何?」
「何かひらめいたんだな」
「はい!」
私は斧を地面に置いて、カバンから折り紙を取り出す。
しゃがみ込み、膝の上で折り始める。
「何々? 何してるの?」
「折り紙だよ」
「なんで折り紙?」
「見てればわかるよ。ミモザの魔法だ」
ファルス様と一緒に、ダン君が私の手元に注目する。
見られながらは緊張するけど、手順に滞りはない。
作っているのは鳥だ。
キセキレイでも鶴でもない。
今回作ったのは――
「完成!」
「わぁ、なにこれ? 鳥?」
「そうだよ。キツツキっていう名前の鳥をイメージしたんだ」
「キツツキ?」
キョトンと首を傾げるダン君。
キツツキも、私の前世で有名だった鳥の種類だ。
この世界には、たぶんいない。
キツツキはその名の通り、木をつつく。
穴をあけて巣を作ったり、冬に備えて餌を蓄えたりする。
「飛んでる! 折り紙なのに!」
「見ていて」
私は斧を拾う。
斧の手元に、キツツキが止まった。
そのまま一緒に、斧で木を叩く。
一回叩いただけで、ドドドンと音がして木が削れた。
「わっ! どうなったの?」
「この子が木を切るのを助けてくれたんだよ」
キツツキに込めた思いは、ダン君の助けになること。
具体的には樵の補助だ。
小さな力でも木が切れるように、キツツキのように連続で衝撃が伝わる。
その力のおかげで、私の非力な一撃でも、木が大きく削れた。
「何それ! やってみたい!」
「一回ならいいんじゃないか? 軽くだぞ?」
「うん!」
実演してワクワクしたのか、ダン君は目を輝かせていた。
ファルス様が支えながら、一回だけ試してみる。
たったの一撃で、木が綺麗に切れた。
「すっごい! 簡単に切れた」
「その子、ダン君に貰ってほしいな」
「いいの?」
「うん。頑張っているダン君へのプレゼントだよ」
キツツキの折り紙がダン君の肩に乗る。
「ありがとう! 魔法使いのお姉ちゃん!」
「――! どういたしまして」
屈託のない笑顔だ。
魔法使いと呼んでもらえたのは、生まれて初めてだった。
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