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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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05 ギーズゴオル殿下からのお喚び出し

「ライラに聞いてましたが、本当に神力をお持ちなんですね!」


 お兄様は色めき立ち、らしくなく声を上げる。

 そして、


「うちのご先祖にも神力持ちがいたんですが、かなり昔の方で」


 なんて言うから今度は私が色めき立った。


「え、うちの家系に神力持ちのご先祖がいたの?」


 知らなかった。


「この隠し部屋はその神力持ちのご先祖が神力で封印したのだと思わざるを得ませんね。封印解除は恐らく神力を持つ者による書庫への入室だったのではないかと」

「なるほどな。それなら封印としてはかなり簡略式ってぇわけだ」

「うちのご先祖は子孫に神力持ちが生まれる事を期待して封印したのかもしれません。まさかその後、何百年もの間、神力持ちどころか魔力持ちすら生まれないとは思いもせずに…」


 殿下は興味深げに金色の瞳を細め、件の扉を覗き込む。


「隠し部屋の発見は良いとして、その扉は開くのか?」

「そうですね。隠し部屋の場所が判っても開かなかったらつまらないですし。早速試してみましょう」


 お兄上はが恐る恐る扉のノブに手を触れると、なにやらピシッと空気が弾けるような音がした後、ノブはあっさりと廻り、扉はキィィと普通に開く。


「ラ、ラララライラ、父上を呼んでこい!」


 興奮気味のお兄様にそう命じられたので慌てて書庫を出、お父様の部屋へ走った。事情を話した上でお父様を伴って書庫に戻ると、なにやら不思議な事が起こっていた。


 まず、隠し部屋の中が明るい。


 窓ひとつない上に蝋燭に火が灯されているわけでもないのに部屋中が満遍なく明るかった。殿下が神力でなにやらして下さったのかなと思ったけど、お兄様が言うには扉の中に足を踏み入れたと同時に室内が昼日中のように明るくなったらしい。


「イライゼル。掃除でもしたのか?」


 お父様は不思議そうに問う。


 神力持ちだったご先祖は300年も昔の方だそうで、そのご先祖が本当にこの部屋を封印したというなら、この部屋は少なくとも300年近くは開かずの間だった筈だという。300年も閉ざされていた空間の割に埃ひとつなく空気も清浄で、まるでたった今念入りに掃除をし終えたかのようで。


「掃除なんかしてませんよ」


 お兄様、目がキラッキラだ。


「侯爵、サーレンシスの先祖の神力持ちの名はなんという?」


 殿下の問いにお父様が答える。


「はい、殿下。グランディル・サーレンシスと申します」


 隠し扉の中の机の引き出しには古い本や古文書のような書類、手紙の束が満載で、お兄様はひたすらに顔を輝かせていたけど、しばらくそれらを眺めた結果、首を傾げた。


「お兄様、どうかしたんですか?」

「使われているのはこれまで見た事もない文字だ」


 少なくとも我がレーダーゼノン帝国の公用語ではないし、帝国が統合している少数部族の文字でも無さそうだと言う。


「だからってデタラメな文字では無いと思う。文字の配列にも法則性があるようだし…。今度、学問所の先生に聞いてみようかな」


 そう言って本をパラパラ捲り、顔を埋めるが如き勢いで本や書類に没頭し始めた。

 殿下はお兄様の様子を見た後、私の方を見て、


「まさか一日で探検が終わるとは思わなかったぜ」


 そう苦笑する。


 目的物があっさり見つかってしまって"探検"をあまりお楽しみにはなれなかったという事だろう。私は慌てて頭を下げようとしたんだけど、殿下が手で制した。


「謝罪させようとしたんじゃねぇ。充分楽しめた。礼を言う」


 うーむ、意外とお優しい?

 なんだかますます好感度が上がっちゃうけど。


 けど。


 恋と命とどっちが大事か。

 大丈夫、勿論命だから。


「それより戦利品として一点、貸しちゃくれねぇか? 満足したら返すからよ」

「それは勿論。ねぇ?」


 お父様を見るとこくりと肯く。


「どうぞお好きな物をお持ち下さいませ、殿下」

「ああ、そうさせもらう」


 殿下は本や書類の束を眺めると、一番近くにあった本をひょいっと手に取る。


「これでいい」


 殿下が選んだのは他の本と比べても特段個性があるわけでもない本に見えた。











 その後、皇宮からは月1~2度の頻度でお茶会への誘いが来てたけど、私は予定通りに辞退。

 お父様の口から「うちの娘は人見知りで」と言ってもらえたお陰。

 以降皇宮からは『その気になったらいつでも来てね』的な簡単かつ儀礼的な招待状が届く程度になった。


 でもお茶会とは別件で皇宮へ行かざるを得なくなった件。


 すなわちギーズゴオル殿下からのお喚び出し。


 殿下からはあの日以降、特に音沙汰はなかったんだけど、二ヶ月ほど経った今朝になって、例の虹色の伝令鳥を飛ばしてきたのよね。



 ライラ サーレンシス

 アス ヒルスギ コウグウ ニ コラレタシ

 ムカエ ヲ オクル

 ギーズゴオル



 伝令鳥はこんな伝言を数度連呼した後、消えた。

 そうして翌日のお昼過ぎ、殿下の私人魔術師カルケイビタンさんが私を迎えに来た。そうなるとお断りもし辛いわけで。私はすごすごとカルケイビタンさんが地面に展開した魔方陣に入り、次の瞬間には皇宮の表門にいた。

 カルケイビタンさんと一緒に表門をくぐる。

 そのまま殿下の宮まで道案内してくれるのかと思ったら、


「おーい、ライラ。こっちだ」


 表門を通ってすぐの所に花壇があって、更にその向こうの広場から声を掛けられる。見ると少々遠い位置からぶんぶんと手を振るギーズゴオル殿下がいる。殿下はガーデンテーブルに座っていた。

 そして、その背後にはえらく豪華な金髪の少年が畏まった風に立っている。


(殿下の従者候補か見習いってトコかしら…)


 背格好は殿下と同じくらいだろうか。

 私はカルケイビタンさんにお礼を言ってから小走りで殿下の元へ向かった。


「よく来たな。急に喚び出したが問題無かったか?」


 問題大ありです

 私は恋より命を優先したいので

 ちょっと好きになりかかってる殿下とは

 これ以上仲良くなりたくないし

 皇宮にも極力来たくありません


 ―――なぁんて言える立場でもないのでにっこり微笑んで「なんの問題もありませんわ」と言うと、


「それは良かった」


 殿下は笑った。

 ニンマリと。


 なんだろう。

 何やら含みがあるような笑顔なんですけど。


「……それでその、殿下。御用というのは?」

「ああ。お前に頼みたい事があってだな」


 言いながら歩き出す。

 すると金髪少年は殿下の背後に付き従い、無言で歩き始める。


 こっそり盗み見。


 金髪少年は多分私達と同い年くらい?―――それにしてもずいぶんと整った顔立ちで驚いた。ギーズゴオル殿下とどちらが美形だろうかと脳内で比較してみたけど、方向性が違う―――という結論に落ち着く。

 殿下は黒髪金瞳で鋭利な刃物のような美貌。

 従者? らしきこの少年は、ことさら優しい顔立ちというわけではないものの、殿下と比べるといくらか柔和で愛嬌がある感じ。とても豪華な黄金の髪に爽やかなスカイブルーの瞳。


「ライラ?」

「―――あ、はい。えっと、私に頼み事、ですか」


 金髪少年に見入っていたせいで返答が遅れてしまった。


「そうだ。その為に先ずは俺の宮に来てもらう」

「殿下の宮というと紺碧宮ですよね。承知しました」


「用件はだな。お前んちから借りた例の本の件なんだが」

「はい。もうご堪能されましたか?」


 イライゼルお兄様はどこの文字だかわからないって言ってたけど、それはお兄様に知識が無いだけでは? と私なんかは思ってたのよね。ところがあの後、学問所の先生方に訊いても不明だったらしい。でも殿下ならばどんな学者でも喚び出して読ませる事が出来るだろうし、とっくに読了済みなのだとばかり思ってそう訊いたんだけど。


「それがよ。あの本、一行すら読めてねぇんだよ」


 殿下は両手を左右に広げて苦笑する。


「一行すら、とは」

「あの本、学者だのその筋に詳しいのだの、一応聞いて回ったんだが、何語なんだかさっぱりわからねぇ」


 あの日、隠し部屋の中から見つかった数々の本や書類、手紙の束。お兄様はデタラメな文字じゃないって言ってたけど、でも皇宮に出入りするような学者に訊いても判らないなら、結局デタラメか、そうじゃないにしてももうどうしようもないじゃない?


 なんて考えてて、


「あれ?」


 さっきまでいた金髪少年の姿がいつの間にか無い事に気付いた。

 きょろきょろ四方八方を見回したけどどこにも居ない。


 まさか、幽霊だった?

 そんな風には見えなかったけど。


 まぁでも、生きてる人と幽霊とでこれまで見間違えた事が実は無いわけではないし、絶対生きてる人だったとも言い切れないけど。


(でも、そういえば殿下に紹介もされなかったよね)


 やっぱり幽霊だったんだろうか。

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