表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
11/81

11 エクスノヴァ将軍は繰り返す

 エクスノヴァ将軍は若い頃から戦功を上げ続け、敗戦知らずのまま齢70代で円満に現役を退いたものの、80代で再び表舞台に返り咲いた方だ。だけど寄る年波には勝てなかったのか、致命的な戦略ミスをし、自軍に大損害を与え、帝国の領土を敵国に奪われる形となった。


「そのせいで斬首刑になっちゃったんですよね…」


 私がしみじみ呟くと、


「表向きはな。実際のとこ、ほとんど本人の希望だ」


 殿下が仰る。


「ええ?」


 吃驚した。


 あのお爺さん霊が斬首された方だというのは姿からして察していたし、メネルト・ワナティカ様の様子からしても、処刑された方々ってのは当たり前のようにこの世を恨んでいるものと。だからエクスノヴァ将軍も処刑された事が心残りでこの世に留まってるんだろうってなんとなく受け止めてたんだけど。


 殿下が仰る。


「将軍のミスは普通なら確かに処刑モノだったが、なんせあまりにも戦功のある将軍で帝国民の人気も高かったからな。そもそも軍の指揮官不足で引退済みの老将軍を担ぎ出したわけだし、まさか本気で将軍に命で償わせようなんてこたぁ、誰も思っちゃいなかったんだよ。

 だからまあ、軍法会議の一審は建前としての処刑判決。二審で執行猶予付の短い有期刑の予定だったと当時の俺んちのご先祖の日記にはある」

「殿下のご先祖っていうと、つまり」

「当時の皇帝。皇帝は若い頃からエクスノヴァ将軍を尊敬していたし弟子でもあった。だからこそ贔屓感を誤魔化す為にもと一審だけお茶を濁すつもりで処刑判決下したんだと」


 ところが、と殿下は仰る。


「ご当人のエクスノヴァ将軍が控訴せず、一審の処刑判決をあっさり受け入れちまった」

「ありゃあ…」

「皇帝自ら監獄にまで行って将軍を説得したけど駄目だったんだとよ」

「ありゃりゃあ…」


 すると、ふいに殿下が「あ」と呟いた。


「待てよ。エクスノヴァ将軍の時代って300年前だよな」

「そうですね。そのくらいかも」

「ハノイヴァ王国滅亡前後の頃に生きてたって事だよな?」


 私もハッとした。


「……そういえばそうですね」


 殿下が期待に頬を染める。


「ライラ。エクスノヴァ将軍と会話する段取りがついたら絶対訊ねろよ? ハノイヴァについてをな。ヤベェ、わくわくが止まらねぇんだけど」

「幽霊って死んだ直後はともかく、年月が過ぎるとだんだんちょっとづつアレな感じになってく方が多いし、あまり期待なさらない方がいい気がしますが」


 せっかくわくわくしている所、水を差すのは忍びなかったけどね。


「なんだよ、ちょっとアレって」

「よくある例として幽霊性連呼症とか」

「幽霊性? 連呼?」

「私が勝手に名付けたんですけどね。なんというか、年を経た幽霊って同じ事を何度も…」


 なんて話してたら、いつの間にかリグナスが戻って来てた。


「いつから居た?」


 殿下が訊くと、


「幽霊性連呼症の辺りからだねぇ」


 答えつつリグナスはなにやら渋い顔をして見せる。


「首尾はどうだった?」

「まさに連呼症―――」

「はあ?」


「―――今ライラちゃんが言ってたやつ。幽霊性連呼症、だったよ。あの霊がエクスノヴァ将軍である事は間違いないみたいだけどね。…とりあえず二人とも自分の目で確かめてみる?」


 そう言うとリグナスはまた指をパッチンし、

 次の瞬間には私達三人は英雄門の前に居た。


 殿下は戦力外なのでエクスノヴァ将軍との会話役は私だ。


 殿下とリグナスが見守る中、私は英雄門に向かって何やらブツブツ呟いている将軍の背中に恐る恐る近付く。

 将軍の霊には薔薇園の女官のような恐怖感や禍々しさが無いのは判ってる。そもそもここで初めてこの将軍の霊を見た時も悪寒的なものはほとんど感じなかったし。でも、やはりそれなりに緊張するわけで。

 将軍の霊の距離まであと3リメトルって辺りでチラリと背後を見ると、殿下とリグナスが「さっさと行け」とばかり、手の甲を前後に振る。ヒドイ。無意識に歩幅が狭くなったけど、所詮3リメトル。すぐに将軍の真後ろに立っちゃった。


 どうやって声をかけようかなって迷っていたら、


「おお、お嬢ちゃん、この皇宮では初めて見る顔だのう」


 将軍の方から話しかけてくれた。


 でも、話しているのは勿論、小脇に抱えられた首。しわくちゃな顔の中にキリリとした眉と優しそうな薄茶色の両目が並んでいるんだけど、大抵の幽霊と同様にその瞳に光はない。頭髪は真っ白で、鼻の下のふっさふさな白い髭は丁度真ん中のところで綺麗に左右に分けられていた。


「初めまして」


 平静を装いつつ挨拶すると、将軍は目を細める。


「お嬢ちゃんの歳はおいくつかな」

「12歳です」


 さて、どんな風に会話を続けるか―――と思う間もなく、


「儂は幼い頃から身体が頑丈に出来ておってのう。10代の頃なんぞ、儂なら大熊にだって勝てると思っておったわ」


 出し抜けに将軍の自分語りが始まった。

 とりあえず聞き役に徹する。


「まあ、実際に大熊を見たら、儂、尻尾巻いて逃げたがの」


「その頃の儂は暇さえ有れば愛馬に乗り、草原を駆けておった。うち捨てられた廃城に入って草むらに寝転び、青い空と白い雲を眺めておったなあ。とても幸せな日々であったよ」


「軍に入隊してからは戦戦(いくさいくさ)の繰り返しでのう。いつかは戦で儚くなるものと思うておったに、儂ときたら引退する最後の最後まで連戦連勝。小気味良き人生であったのう」


「沢山の武勲を立てて、若い内から英雄の名を欲しいままにしたものじゃ。今はこんなシワシワ爺さんだが、若い頃はなかなかの男前だったからの。女にモテてモテて困ったもんじゃよ」


「最後には大将軍と呼ばれたものじゃ」


「得難き奇蹟のような人生だとは思うておったが」


「それでも少年時代、愛馬と駆けたあの日々の輝きには勝てんのな。大熊にビビった想い出も含めて、私の宝はかつてのあの若き日々じゃった」


「なーんて悦に入っておったら最後の最後で大ヘマをやらかしてのう。自軍に大損害を与えた上に、領土まで奪われてしまったのだよ。結果、このザマじゃ」


 大笑いしながらご自分の首を両手で高く高く掲げてみせる。

 そうしてふいに真顔になって、


「お嬢ちゃん。儂は責任を取りたかったんじゃよ」


 将軍は遠い目をして言う。


「ああ、お嬢ちゃん。驚かせてすまんがのう、実は儂は幽霊でね。もうずいぶん長い事、未練たらしく皇宮を彷徨っておるんじゃが」


 私は何も言わずににっこり笑う。


「でも、お嬢ちゃんが儂の話を聞いて下さったから、ようやく冥府とやらに逝けそうだよ」


 そう言ってスウッと消えた。






 ほんの一瞬ね。






 将軍の霊は一瞬だけ消えたものの、数秒後には再び出現し、英雄門の壁に向かってブツブツ呟き始めちゃった。

 背後の殿下とリグナスを見返ると、また手の甲を振られたので、私はまた将軍の背後に立ち直す。

 すると将軍がまた私の存在に気付く。


「おお、お嬢ちゃん、この皇宮では初めて見る顔だのう」


 と言い始めて。

 ああ、うん。ハイ…。


 そしてそのまま私と将軍は同じ会話を合計5回ほど繰り返しましたよ…。


 6回目もやるのかなーと遠い目をしかけた所で、ようやく殿下は戻ってこいの合図をくれた。会話の内容は霊力ゴミの殿下には聞えてないと思ったけど、いちいちリグナスが実況で殿下に伝えていたらしい。






 私達は再びリグナスの指パッチンで紺碧宮に戻ったけど、殿下は苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。


「一見会話が可能に見えて、ぜんぜん会話にならねぇ件」


 リグナスも眉を八の字にしている。


「さっき僕が一人で偵察に行った時も全く同じだったんだよね。途中で質問を挟んでみても全く聞こえてないみたいでさ。ずうっと同じ内容の自分語りを続けて最後に『冥府に逝けそうだ』と言って消え、次の瞬間にはまたそこに居る―――の繰り返し。僕はループ3回目で音を上げた感じ」


 第一回幽霊狩りは非常にガッカリな結果で終わる―――のか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ