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陰陽師姫の宮中事件譚  作者: ふう
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第三章 陰陽師姫の失恋と最後の戦いの話 十一

いよいよ立太子の礼始まり



 伽羅が瑠璃姫とあんな形で出会い、翡翠の話の途中で淑景舎を飛び出してから数日経ったうららかな春の日、いよいよ今日は宗興親王の立太子の礼が行われる。


 本日の舞台となる大内裏の大極殿と、その前にある広大な南庭には黒い束帯姿の百官が左右に居並ぶ。

 その中を皇太子のみに許された色、鮮やかな黄丹袍(おうにのほう)を纏った一の皇子がゆるゆると進んで行く。

 濃い緑色の瞳には明るい光を湛え、整った面を上げた凛々しい姿を殿上の高御座(たかみくら)から望まれた帝は、心の中で今は亡き人達に歓喜をもって報告した。

 やがて帝の前まで進んだ皇子は軽く頭を垂れ帝の言葉を待つ。


「宗興親王を本日をもって日嗣の御子と為す。」


と、厳かに(みことのり)が下され、続いて粛々と、伽羅の父、源蔵人頭が一振りの美しい太刀を捧げ持ち、帝に渡す。

 昨年の秋の討伐でかるらより授かった青龍の(つるぎ)だ。

 新たに金の象嵌を施された美しい銀色の鞘が(こしら)えられ、腰に下げられるように作った足金物と柄頭には濃い藍色の飾紐も付けられてある。

 帝がその太刀を差し出すと、両手で受け取った東宮が深々と叩頭し御前を下がる。

 その太刀を後ろに控えていた新しく東宮蔵人になった橘蔵人に渡し、再び笏を構え、橘蔵人を従え南庭に居並ぶ百官の前に姿を現した。

 春の陽にキラキラと輝く伝説の青龍の剣を携え、正しくこの国の輝く未来を象徴するかのような、若く美しい皇太子の誕生にそこに居た全ての人々が万歳を繰り返した。



 午後からは同じ場所で祝いの饗宴が開かれた。

 高官の北の方や姫、子息、女官達も招かれ、春たけなわの麗らかな陽射しの中、華やかな宴が始まった。


 伽羅も正装である爽やかな若菜色の唐衣裳(からぎぬも)を纏い、末席にて今日のめでたい宴を楽しんでいた。

 遠く上席にいる艶やかな黄丹の袍を纏った光り輝くような東宮となった翡翠を、この一年間のさまざまな出来事を思い出しながら眩しく見ていた。

 そしてふと、近くにいた参議の男達の会話が耳に入る。


「東宮様は今夜の添臥を選ばれ無かったそうだぞ。」


「へえ、それはもったいないな。選ばれたい女達が大勢いただろうに。」


「ま、急がなくてもそのうち決まるさ。むしろ選ぶのが大変だぞ。」


 その話に聞き耳を立て、ホッとする自分がいた。

そういえば、先日翡翠様は何か添臥の事で話があったのではなかったか。

 瑠璃姫様がいらしたのでそのままになってしまったが。

 あの時瑠璃姫様が言っていたように、本日の饗宴で東宮様と瑠璃姫様が琵琶と筝の合奏をなさると兄から聞いていた。


「よお、何しけた顔してるんだ?」


 酒を飲んだのか、ほんのり赤い顔をした二の皇子が、伽羅のまえに腰を下ろした。


「しけてません!」


「まぁ、今日はめでたいんだろ。お前も飲め。」


ニヤッと笑って盃を差し出す。


 そうしているうちに、琵琶と筝の調子を合わせる音が聞こえる。


「おっ、始まったな。」


当代一の琵琶の名手といわれる東宮と同じく筝の名手と聞く瑠璃姫との祝いの合奏が始まった。

 曲は今日の宴に合わせて大変めでたい「歓春楽」だ。

 明るい曲調のゆったりとした曲で、息の合った見事な演奏が続く。

 艶やかな濃い紅と白い桜重ねの唐衣を纏った瑠璃姫は、豊かな黒髪と大きな潤んだ瞳、小さな桜色の唇の正しく桜の精のような可憐な面を少し桃色に染め、時折若く美しい東宮と見つめ合い微笑んでいる。

 その様はそこだけ光り輝くようで一幅の絵を見ているようなきらきらしさに、伽羅も多くの人々も思わず感嘆のため息を漏らした。

 宴が始まった頃、ちらちらと伽羅に流し目を送ってきていた貞行卿も、今は頬を染め瑠璃姫を凝視している。

 野辺にひっそりと咲く撫子よりも艶やかな桜の方が良いようだ。

 もう、誰もが認めるお似合いの二人であった。


 演奏が終わり大歓声が起こった。


 そんな中、冷めた声で二の皇子が伽羅にぽつんと言った。


「妬いているのか。お前…。」


「そんな事!」


「酷い顔してるぞ。だから俺の手を取れと言っただろう。」


「えっ…。」


 その時、うららかに晴れていた空が急に黒い雲に覆われ、辺りが暗くなる。

黒く厚い雲の合間に鋭い稲光が光り、ゴロゴロと低い音が響いた。


 伽羅は嫌な臭いを感じ思わず立ち上がった。


注 黄丹袍 赤っぽいオレンジ色の袍 


推し扇再び!

今回、瑠璃たん♡も出来た?

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